day94 同盟会議
「本日は朝早くから集まっていただきありがとうございます。
それでは、お祭りに向けて作戦会議を始めたいと思います!」
姿勢を正してシルトさんへ体を向ける。
シルトさんが中心に立って進行をしてくれるからありがたい。
「さて、まず最初に……秘密のライさん大作戦の最終作戦についてですが」
聞こえてきた単語に思わず挙手してしまう。
「あら? はい、ライさんどうぞ」
「秘密のライさん大作戦……?」
「気になりますよね! 説明させていただきます!
こちら、ライさんがキャベツさんである事を隠す為の作戦です。
顔合わせの日から着々と遂行されているのでご安心を」
「うん……?」
「まず、私達は情報操作を行いました」
「情報操作……?」
「幸い、詳細なメンバーについては知られていませんでしたので、生産頑張る隊にキャベツさんが加入するという噂を流させて頂きました」
「キャベツさんは既にクランに入ってるって知られてから、2週間経つか経たないかだったんで、近々入るって噂っすけどね。
今ではうちのクランにいるって言われてるんすよ」
色々と思うところはあるけれど、俺が何も出来ていないことに申し訳なさが募る。
「俺らはねぇ、おかしいなぁって思って、シルトに聞きに来たんだよね。
話聞いて、俺らクラン入ってなかったし、じゃあ手伝うよーって」
「上位を狙いたかったから、ライ君の動向を追ってたのよね。
ややークラン入るの我慢してて良かったよ」
「ど、動向を……」
「お二人はβ組、更には最前線プレイヤー、そして何より、生産スキルを持っています!」
やはり、生産頑張る隊の加入には生産スキルは絶対条件のようだ。
「みけねこさんとジャスパーさんが、一番のキャベツさん候補として見られることになるかと」
「……あの、有難いんだけど……でも、そこまでして貰うのは……」
「ほとんど自分の為だから、ライ君は気にしないで?」
「そーそー。俺らの為だね~。任せてよ」
「ん……よくわからないけど、それなら……うん、よろしくお願いします」
自分の為だと言われると、これ以上何かを言うのは憚られる。
「それで……ライさん。その事でお願いがあるのですが……。
魔道具スキルの取得方法を教えていただけないでしょうか?」
「うん、良いよ」
「良いんすか!? そんな簡単に!?」
「別に隠してたわけじゃ……魔道具職人さんの弟子になったら覚えられるよ」
「異世界人ってそんだけで覚えられんの……?」
俺の言葉にヤカさんが驚愕の滲む声で独り言のように呟いた。
「その、魔道具職人さんを紹介してもらうことは……?」
「俺の師匠なら」
「婆さんは無理だと思うけど」
「ガヴィンさんも知ってる人なんすか?」
「取引先。そっちの……ヤカ、だっけ? も、知り合いなんじゃない?
会ったことないけど」
「まぁ、基本引き籠ってるからね。取引先だよ。
僕も婆さんは無理だと思う」
エルムさんを紹介するのは難しいか。
空さんも最初はエルムさんに紹介したし、立て続けに何人も魔道具製造スキルの事で紹介するのは、あまり良い顔はされないだろう。
「トーラス街の魔道具工房に行ってみたらどうかな?
皆、良い人達だから、門前払いなんてことはないと思うよ」
「魔道具工房……どこにあるんですか?」
魔道具工房の場所を伝える。ここからだと少し遠いかもしれない。
ここも魔道具工房も海の近くだけど、街の端と端のようなものだ。
「教えていただき、ありがとうございます」
「ううん。シルトさん、魔道具製造スキル覚えるの?」
「いえいえ、私ではなく……ジャスパーさんが」
「そう、俺が覚えられたらなぁって。弟子かぁ~……なれるかなぁ」
「頑張ってくださいよ。ジャスパーさんが要なんすから」
「そうですよ! 大丈夫です! きっと仲良くなれますよ!」
ふとガヴィンさんとヤカさんが話している姿が目に入る。
前にエルムさんと取引がある相手は一緒に作業する事があるから大体知ってるって言ってたけど、ヤカさんはあまり一緒に作業することはないようだ。
「これで完璧っすね」
「そうですね。秘密のライさん大作戦も佳境に入りました」
「その作戦名はなんとかならないのか……」
カヴォロは眉間に皺を寄せてそう言って、溜息を吐いた。
それには同意するけど、俺がそれを言うのは憚られるので代わりにきゅっと口角を上げる。
「というわけで、次の議題。領地についてですね。
カヴォロさんどうでしたか?」
「何故俺がと思っていたが、確かにあんた達では分からないような内容もあったな。
まぁ、俺も分からない部分はあったが……ここにはライ達がいるから大丈夫だろう」
「うん?」
「ギルドで領地……次回の亜空間についてある程度聞けるんだ。
その様子じゃ聞いてないみたいだな」
次回のイベントもギルドが主催ということになっているのだろう。
「今回の亜空間はクラン毎に生成されるらしい。同盟を組んでいたら2つのクランで1つの亜空間。
準備期間にお互いの領地を移動することは出来ない。
中から俺達の世界に帰ることもこちらに戻ってくることもできるが、一度入ったら街には出れないそうだ」
ログインやログアウトは出来るけど、忘れ物があったからって亜空間の外に出ることは出来ない、と。
絶対に忘れ物しないようにしなければ。
「亜空間の中は全て領地ではあるが、拠点となるのは中心部。
城壁に囲まれた石造りの城にクリスタルがある。ほとんど廃墟のようだが。
ちなみに、城壁内では植物の成長スピードが上がるとのことだ」
「じゃあ、種持って行くねー」
「ああ、そうしてくれ。
城壁内にいる兵士の数は30。ゴブリン、オーク、スケルトン」
「30かー、結構少ないのな」
「あんまり多いと、僕達のような生産職が辿り着けませんしね」
「話を続けるぞ。城壁の外は主に素材集めの場所だ。
城壁の外には森、鉱山、平原、海……まぁ、弐ノ国にある地形が小規模に生成されているとか。
魔物も弐ノ国で出る魔物は全て出るらしいが、弱体化されているそうだ」
縮小版弐ノ国って感じなのだろうか。海があるなら銀と金も採れるのかな。
「テイマー、サモナー共にテイム可能。
テイマーはクラン人数の上限以上は出来ない。
終了後も契約は継続するそうだ」
同じ魔物がいるとは言え、堕ちた元亜人はいないだろうから、今回もテイムはできそうにない。
「全ての亜空間の魔物や素材の維持と発生は、古の技術とやらで管理されているそうだが……責任者を怒らせたとかで不安定な可能性があるそうだ。
もし枯渇なんて事になった時は、どこかにいるらしい妖精に相談するようにと」
「妖精を怒らせたってことっすか?
そんな相手に相談してなんとかなります?」
「俺もここの話はよくわからなかった。
素材には上限があるから程々にしてくれってことかと思ったが」
「……違うと思う……」
十中八九エルムさんが古の技術の手助けをしないという話だと思う。
「古の技術の術式って魔道具職人さんしか扱えないみたい。
それで、凄腕の魔道具職人さんが、今ちょっと怒ってて」
ガヴィンさんとヤカさんが大きく頷いている姿が視界の端で見える。
「妖精は……多分、お祭りのお手伝いをしてるんじゃないかな。
普通は探しても見つからないと思うけど、呼んだら姿を現してくれるのかも」
こちらは恐らく、妖精ちゃんの事だろう。
今回も人知れず本戦の撮影をするんじゃないかと思う。
「それは……責任者の方に相談しに行った方が良いのではないでしょうか?」
「ライが参加するのわかっててそれなら、無理だろうね。
婆さんの事だから暫く機嫌直んないよ」
「も、もしかして……ライさんの師匠……?」
「うん、そうだと思う。参加禁止令を出されちゃったみたいで……」
まさかそんな事になっていたとは。
お祭りが終わったら、エルムさんと遊びに行こう。
「話を戻すぞ。亜空間内では、まぁ、いつもの亜空間仕様と言うやつだな。
自分の領地だった場合は10分、敵の領地だった場合は20分でリスポーンだ。
リスポーン地点は城のクリスタル。デスペナルティはなし」
どこで死ぬかによって時間が違うのか。忘れないようにしないと。
「以上。ギルドで聞いたのはこんなところだな」
「なるほどなるほど……石造りのお城と言う事は、ガヴィンさんとフェルダさん、そしてうちの菖蒲さんで強化できそうですね」
「わ、私は……陶芸しかしないから……あ、でも、窓が壊れてるとかなら、窓作れると思う」
「兵士の強化は装備だよな? んじゃ、俺はアクセ?
あ、でもリーノさんいるから、俺いらなくない?」
「一緒に作ろうぜ! それに、武器の装飾とか、他にも装飾しなきゃだしなー」
「えっ、一緒に……!? 勉強させていただきます……!」
「防具は私といわいさんですかね。
武器はベルデさんとジオンさん、お願いします」
「ええ、お任せください」
「オークって何使うんすかねぇ」
これほど生産職の人達が揃っていると、隙がない。
もちろん実際に見てみないことには分からないこともあるけれど、なんでもござれと対応出来てしまいそうだ。
「俺とシア、レヴ、ヤカさんは魔道具だね」
「はい、お願いします。そのー……私達にとって魔道具は未知の存在でして……。
先程ベルデさんとお話されてましたが、罠を作るとか……現在作る予定の罠の詳細とかって教えていただけますか?」
「うん。電流が流れる罠、暗闇に包まれる罠、火が噴き出す罠、槍が飛び出てくる罠……かな。
他にも色々、毒が出てくる罠なんかもあったんだけど……水毒薬? が必要みたいで」
「私作れるよ~! まっかせてー!」
「本当? ミキさん、ありがとう」
「えげつないっすね……」
「ね、怖いよね。ただ……問題があって。完成させたら俺以外には見えなくなっちゃうみたい。
ジオン達は見えるかもしれないけど」
「ふむ……罠を設置したポイントを忘れなければ良いだけです。
味方にも関わらず罠に一番掛かった人は罰ゲームにしましょう」
「とか言って、いわちゃんが罰ゲーム受けることになっても知らないよ~?」
見えていなかったら間違いなく俺が罰ゲームだったと思う。
「罠以外の魔道具は私達で考えておく……と、お話されてましたよね?」
「うん、厳しいなら……」
「いえ! お任せください! カヴォロさんから連絡してもらうので、ご検討お願いしますね」
「ありがとう、凄く助かるよ」
俺達も生産頑張る隊の人達の助けになれるように、頑張らなければ。
まずは、準備期間。そして本戦でも。
「さて……会議はこんなところでしょうか。
何か皆さんからありますか?」
「……あ、あの……ライさん……ガラス細工の……炉、作ってもらえませんか?」
「もちろん。当日までに用意しておくね」
「い、いいの? ありがとう!」
フェルダに視線を向けたら大丈夫だと頷いてくれたので、鍛冶や細工の炉を参考に作れば良いだろう。
新しく1から魔道具を作るわけではないので、作るのに時間も掛からないはずだ。
「そっか……生産……。俺、生産道具作るよ!
シアとレヴもいるから、魔道具じゃない道具も作れるよ」
「ま、まじすか!? や、ありがたいっすけど、時間ないんすよね?」
「中で作るから大丈夫。2日もあるし。
ただ、必要な材料があるかもしれないから、お祭り前に教えてくれたほうが助かるかな」
「お、俺、研磨機欲しい!」
「大釜が欲しい!」
「大釜は作ったことないけど……うん、大丈夫。本に書いてあったと思う」
羊皮紙を取り出して、皆が欲しい生産道具と、スキルレベルを書いていく。
ジオン達が使っている道具のままでは使えそうにない。
鋳造品はシアとレヴが調整してくれるだろうけど、魔道具は少し魔法陣を弄らなきゃいけないだろう。
とは言え、一度作った事のある魔道具なら勝手が分かっているので、頭の中でぼんやりと魔法陣を描いておく。
「……あ、待って」
「さ、さすがにこんなに作って貰うのは図々しいっすよね……」
「ううん、それは良いんだけど、持ち込めないかも……」
「あ、なるほど。ライさん、1人で全員分の道具と素材持ち込まなきゃいけないのか」
家にある道具や素材を全てアイテムボックスに入れるのは無理だ。
抱えて移動するにも限度がある。
「全員で運びましょう。ですが……手に持っている姿を見られるわけにはいかないですね。
鉱石等の素材は1人が纏めて持ち込みましょうか」
「ライさん頼みになって申し訳ないんすけど……俺らの生産道具はライさんに中で作って貰うって事で良いすか?
生産道具の分、アイテムボックス空くんで。あ、カヴォロさんは別で」
「それはもちろん。寧ろ、俺の方が迷惑ばかりかけて……ごめんなさい。
本当にありがとう……お願いします」