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day94 再会

トーラス街のギルドから出て、辺りを見渡す。

余裕を持って出たので約束の時間まではまだ少しある。


ポストを確認するために家に寄ろうかなと考えていると、フェルダが辺りを見渡して、上を向いた。

俺達もつられて上に視線を向ける。


「……屋根の上に人がいますね……」

「本当だ」


ギルドの屋根の上に見える人影は、しゃがみ込んでいてよく見えない。

体調が悪いのかとよく目を凝らして見てみれば、どうやら探し物をしているようだ。


「ん……? あれ?

 ちょっと、リーノ、上に飛ばしてくれない?」

「お? 良いぜ」


リーノが盾を構える。

少し離れてから助走をつけて、盾から屋根へと飛び乗った。


「あ、やっぱり。ソウムだ」

「うへぇ!? だ、誰……って、ら、ライ?」

「おはよう。探し物?」

「おはよ……コインで遊んでたら飛んでちゃって」

「コイン……あ、あれは?」


きょろきょろと辺りを見渡せば、風見鶏の尾羽の上に小さなコインが見えた。


「そんな一瞬で見つける……?」

「運が良かったね」

「運かぁ……見つけてくれてありがと」


そう言って、手を上げて何かを指で挟むような仕草をしたかと思うと、いつの間にやら指の間にコインが挟まっていた。

今のも手品なのだろうか。


「そうだ。前のトランプ、返すね」

「え、持っててくれたんだ」


アイテムボックスから次に会った時に返そうと入れておいたスペードのAを取り出す。


「先日はお世話になりました」


改めてお礼を言いつつ、スペードのAを手渡す。

受け取ったカードをじっと見たソウムは、ぱっと手を離して俺に視線を向けた。

指から離れたカードは重力に逆らい、ふわりと浮いて消えた。

そう言えば、今日はカードが周りに浮いていない。常に浮いているわけではないようだ。


ぐっと口元に力を入れて、ソウムに顔を向ける。

運良く会えたのだ。ここで誘わなくていつ誘うのか。


「えっと、あの……聞きたい事があるんだけど……」

「聞きたい事?」


心臓が大きく動き出す。緊張する。

大丈夫、大丈夫。聞くだけだ。断られたって、こんなぎりぎりな時期だし。大丈夫。


「あ、あの! 俺のクラン、入ってくれませんか!」


決死の覚悟で放たれたその言葉は、予想外な反応で返されることとなる。

ぽかんと口を開いたソウムは、やがて目を見開き、わなわなと口を震わせて、糸が切れたかのようにぐしゃりと頽れた。


「なん……う゛ぅあ゛~……」

「え!? そ、ソウム……!?」

「……昨日クラン作っちゃったぁあ!」

「え、あ……そっか……残念……」

「友達もいないし……そんな、誘われるなんて思わないし……。

 だったらもう、ぼっちで参加するしかないかって……うぇえ……」

「……も、もしかして、1人……?」

「そう……僕だけ……むしゃくしゃしてクランなんて作るんじゃなかったぁああ!」


ガンガンと屋根を叩くソウムに、おろおろと手を彷徨わせる。


「ご、ごめん。もっと早く、誘えば良かった……」

「違う、僕のせい……僕のタイミングが悪すぎるせい……。

 そもそも僕がちゃんと、クランに入れてって言えたら良かったんだ……。

 ずっと、ライのクランに入りたいって、思ってたのに……」

「そんな感じはしなかったけど……」

「アピールのつもりで……手品した……」


それは気付けない。

クランのくの字も出てなかった気が……いや、くの字は出てたかもしれない。


「うっ……うぅぅ……今すぐ解体してももう間に合わないぃ……!

 なんでぇ……ぼっちはぼっちでやってろってぇ……? 運営のばかやろー!!」

「落ち着いて、落ち着いて……。

 お、俺も友達いないから! なんの慰めにもならないだろうけど!」

「……ライはぼっちじゃない……」

「いや、いや、友達全然いないから……」


最近は少しずつ人と話せるようになってきたとは思うけど、友達は結局カヴォロだけだ。

朝陽さん達はともかく、他の人達はなんだか分厚い壁を感じる。


「ライさーん! 大丈夫ですかー?」

「あ、ジオン、大丈夫だよー!」

「俺らもそっち行くかー?」

「大丈夫大丈夫! 待ってて!」

「ほらあああ! ぼっちじゃないじゃん!」

「え、えぇ……従魔……テイムモンスターは友達に入るの……?」


俺の質問にソウムは漸く顔を上げた。


「……サモンモンスターは友達に入る……?」

「俺は……仲間とか……かな、って思ってるけど……」

「仲間……そっか。僕ぼっちじゃないね。ダイヤとクラブいるし」

「うん、うん。仲間がいるからぼっちじゃないよ!」


2人で頷き合うと、ゆったりとソウムが立ち上がった。


「誘ってくれて、ありがと。

 もし、また次があったら、その時は……また手品するから」

「あはは。その時はよろしくお願いします。

 ……良かったら、フレンド登録……」

「したい、けど……良いの?」

「もちろん! ソウムさえ良ければ……」

「なる、なろう! 申請、する」


通知音と共にフレンドの申請を知らせる文字が浮かぶ。

早速承認して、新たに追加された名前に頬が緩む。

ゲーム内時間のday93にして漸く2人目のフレンドだ。兄ちゃんは抜いて。


「よろしくね、ソウム」

「こちらこそよろしく……そろそろ、降りようか……」

「……そうだね」

「降りれる?」

「このくらいなら、大丈夫」

「そう。それじゃ……僕、狩りに行くから……またね」


ソウムはそう言って、遠くへカードを投げたかと思うと、ぽんっという音と共に消えた。

代わりに現れた1枚のカードが、吸い寄せられるようにどこかへ飛んでいく。

飛んでいく先に視線を向ければ、隣の屋根に立つソウムの姿があった。

かと思えば、またどこかへ消えてしまう。

なるほど……見つからないはずだ。


ぴょんっと飛び降りて、くるりと回って地面に降り立つ。

登るのは一人じゃ厳しいけど、降りる分は大丈夫だ。


「おかえりなさい。ソウムさん……ですよね?」

「うん、クラン誘ってみたんだけど……タイミング悪かったみたい」

「そうですか……残念ですね」


屋根の上での出来事を話しながら、カヴォロの店に向かう。

フレンドが増えたことで、足取りは軽やかだ。


レストランの窓から中を覗く。皆揃っているようだ。

ガヴィンさんの姿も見える。それから……知らない人が2人いる。


カランコロンと音を鳴らしながら扉を開けば、皆の視線がこちらに向いた。

少しどきっとしたけど、前にも会った人達が多いから、そっと息を吐きつつ、中に入る。


「カヴォロ、おはよう」

「ああ、おはよう。適当に座ってくれ」


空いている椅子に腰かけると、カヴォロが飲み物を持ってきてくれた。

今回はリンゴジュースのようだ。お礼を告げて早速飲んでみると、爽やかな甘さが口の中に広がった。


「ライさん、紹介ありがとうございました。

 そちらの方が紹介してくださったヤカさんでしょうか?」

「うん、そうだよ」

「どうも。えーと……生産頑張る隊……? の、サポート枠に参加させてもらうよ」

「生産頑張る隊のクランマスター、シルトと言います。

 よろしくお願いします! 何かあったらすぐに教えてくださいね」


シルトさんに続くように生産頑張る隊の人達が次々にヤカさんに自己紹介を始める。


「ライ、おはよ」

「ガヴィンさん、おはよう。

 カヴォロに任せちゃってごめんね」

「良いよ。知らない仲でもないし」


カウンターに座っていたガヴィンさんがやって来て、フェルダの隣に腰掛けた。

並んでいるところを見ると、改めて似ていると感じる。


「ライさん、杖作って欲しいって言ってたっすよね。

 前回聞き忘れちゃって……申し訳ないっす。双子ちゃんの杖っすか?」

「そう、そう! 強い杖が作れる翡翠聖木っていう木があってね。

 魔力の濃い場所でしか取れないとか……それで、その丸太を貰ったから、これで作って欲しくて」

「そんな木があるんすか……!?

 ちなみにそれ……分けて貰う事って……」

「うん、そのつもりだよ。ただ……1本だけは残しておきたいんだけど」

「分けて貰えるだけで充分っすよ!」

「それじゃあ、4本渡しておくね」


エアさんに聞いた話から予想するに、精霊さんも恐らく魔法を使うんじゃないかと思うので、精霊さんの分は残しておきたい。

取引ウィンドウを開いて《翡翠聖木の丸太》を4個並べる。


「……いくらっすか?」

「お近づきの印です」

「さすがに無理っすね!

 強い杖が作れるんなら、買取価格で考えるより、出来た杖で考えた方が良いっすよ」

「木工出来ないから実際がどうなるのかは……」

「あー……作ってから考えるってのでも……や、信用できないって言うなら、全然……」

「大丈夫だよ。それじゃあそれで、よろしくお願いします」

「じゃ、それで……最高の杖作るんで!」

「楽しみにしてるね」


取引が完了すると同時に、先程窓から覗いた時に見えた、恐らく前回の顔合わせの後に加入したのであろう2人が、ベルデさんの後ろから顔を出した。


「ベルデ君、紹介よろしく!」

「あ、うちの新しいクラメンっす。あー……自己紹介よろしく」

「みけねこだよ。生産は……木工、鍛冶、細工……は、持ってるけど、ほとんどやってないんだよね。

 でも、採取系スキルは網羅してるから、素材集めに困ったら言ってね」


頭の上でぴょこぴょこと動く耳、そして背中で長い尻尾が揺れているのが見える。

どう見ても虎だけれど。ネコ科ではある。


「ジャスパーでーす。俺も同じく木工と細工は持ってるけど、狩りメイン。

 これからは生産頑張るつもりだよ~。よろしくね」


生産スキルを持っているかは絶対の条件なのだろうか。


「ライとは、クラーケンで俺ら同じ船だったけどー……覚えてる?」

「……んん……」

「あ、覚えてないかー……やや、気にしないでね。忙しそうだったから仕方ないよ」

「ごめんね。次は忘れないよ」


同じ船……ってことは、防衛戦の時だ。つまり最前線プレイヤーの人なのではないだろうか。


「お二方は、戦闘メインなんすよ。

 これには理由があるんすけど……それはさておき。

 新しく仲間……従魔が増えるかもって言ってたのは、どうなったんすか?」

「うーん……間に合いそうにないんだよね。時間がとにかく足りなくて……。

 一旦中断して、どんな魔道具を作るか考えようかなって」


そこまで話して、みけねこさんとジャスパーさんはシルトさん達から聞いているのかなと、視線を向ける。


「俺らも知ってるよぉ。入る前からそうじゃないかな~ってね。

 レン達と話す事もあるからなんとなーくね」

「正直に言うと、同じ船だった人は気付いてる人多いかも?

 魔道具の扱いに慣れてるっぽかったし、極めつけはカヴォロ君がエンジンの話をしてる時の反応かな」

「そ、そっかぁ……」


やっぱり隠し事は向いてないな。

とは言え、クラーケンの時は緊急事態だし、ノーカンで良いと思う。


「魔道具って作るのに時間かかるんすか?」

「んー物によるけど……あ、罠を作ろうと思ってるんだけど、罠は借りている本に載っているのをそのまま作るから、そこまで時間はかからないかな。

 元になる生産品はシアとレヴがいくつか作ってくれてるし、中で作るつもりだよ」

「罠……」

「そう、罠。対人型用の罠だよ。怖いよね。

 それ以外の必要そうな魔道具は全然考えられてなくて……それに合わせた魔法陣も考えなきゃいけないから、結構時間かかるね」

「それって、必要な魔道具を俺らが考えたら、時間短縮できます?

 実現可能か確認してもらう必要はあるけど」

「ん……うん、出来るとは思うけど……」


一番時間が掛かるのは魔法陣を考える時間ではあるけど、何を作るか考えるのも時間は掛かる。

色々な魔道具を作る予定なら尚更だ。


「だったら俺ら考えるんで、ライさんは魔法陣に集中してもらって良いっすよ。

 他にやる事も多いみたいだし」

「有難いけど、お祭り前で皆忙しいだろうから大丈夫だよ」

「こいつら暇だぞ。店に来てぺちゃくちゃ話してるだけだ」

「そ、そうなんだ……えっと……それじゃあ、お願いします……?」

「任せてください。俺らに仕事くれてありがたいっすね。

 ……ちなみに、魔道具って何が出来るんすか?」

「うーん……俺も勉強中だから何が出来るかって言われると困るんだけど……。

 生産に使う道具、炉とか研磨機みたいなのは、魔道具だね。

 他にも水中呼吸が出来るようになったり、魔除けだったり……こうなったら便利だなーってやつは結構出来る、かな」

「例えば、空飛ぶ箒とか作れたりします?」

「ん……うーん……」


そもそもこの世界で人が飛ぶことが出来るのか……あ、おもちさんが飛んでたな。

だったら、出来るんじゃないだろうか。これまでに見たことはないけど。

風属性……では足りないかな。風属性の進化属性に浮くようなシンボルや記号等を組み合わせたら出来そうではある。


「今の俺のスキルレベルでは出来ないだろうけど、空飛ぶ箒自体は出来るんじゃないかな?」

「なるほど……結構なんでもありなんすね。

 んー……あ、この先は会議始まってからにしましょ。

 シルトさんがそわそわし始めてるんで」

「あ、うん。了解」

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