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day91 解呪の方法

「エルムさん」

「おや? ライ、今日は早いんだな」

「うん、今日は狩りしてきたわけじゃないからね」


ログアウト前にトーラス街の家に戻ったけど、それ以外はエルフの集落の同じ家に滞在していたのになかなか時間が合わず、迷宮の欠片を貰った日以来話せていなかった。

俺達が狩りばかりしていたのもあるけど、エルムさんはエルムさんでエアさんの家で遺物について話し込んでいたようだ。


「エルムさんに聞きたい事があるんだ」

「ほう? なんだい? おっと、魔道具の事は答えられないぞ。

 まったく……あの阿呆共は……」

「違う、違う! 魔道具の事じゃないよ」


エルムさんの怒りが再燃しそうだったので、慌ててこれまでの出来事を話す。

この集落に来た目的、エアさんに聞いた堕ちた精霊さんの話。そして最後に、確認してきたばかりの呪いの話。


エルムさんはその全てを聞くと眉間に皺を寄せ、小さく唸り声を上げた。


「哀歌の森か。私はこの集落の出身でもなければ、この国の出身でもない。

 昔エアが話していたような気がするが、あまり覚えていない。

 しかし……それでも私は、精霊があまり好きではなくてね」


苦々しい顔をしてそう話したエルムさんは、ふんと鼻を鳴らした。


「まぁ、君の従魔になった精霊を嫌うような真似はしないがね。

 やつら、とにかく性質が悪い。特に精霊の王ってやつは、傲慢で可愛げの1つもない。

 君が行くのを止めたいがね……言っても無駄なんだろうな」

「うん……ちょっと、怖くなってきたけど……」

「くれぐれも気をつけなさい。呪いを貰わないようにな」


そんなにすぐ、呪いをかけてくる種族なのだろうか。

精霊にそんなイメージはないけれど。


「すまないが、精霊の呪いについては私にも分からない。

 精霊はエルフ以上に外部の者と関わろうとしないからな。

 精霊の呪いについても、その解呪についても、精霊以外知らないのさ」

「そっか……図書館で探しても見つからないのか」

「軽い呪いなら、魔力の濃い場所の湖にでもぶち込んでやれば解呪できるがね。

 精霊の呪いともなると、その程度じゃどうにもならない」


いきなり壁にぶち当たってしまった。どうしたものだろうか。

そもそも仮にその方法で解呪できたとしても、堕ちた元亜人を連れて行くのは無理だと思う。


「恐らく腐敗は君達にも害が及ぶ。周囲の森のようにな。

 まぁ、堕ちた元亜人となると、害が及ぶ前に攻撃されて終わりだろうがね」

「腐敗したくは、ないなぁ……」


生きたまま腐敗するなんて、想像しただけでも恐ろしい。

ゾンビとも違う。腐敗する様子をこの目で見ることになるのだから。


「そもそもだが、解呪する時間があるのかね?」

「そうなんだよねぇ」


解呪の方法が見つかったとして、ぽんっと一瞬で解呪できるわけでもないだろうし、解呪している間に飛び掛かられて終わりだ。

呪いの解き方なんて想像もできないけど、中断してしまったらやり直しだろうとは思う。


「奇跡的に解呪が出来たとして、君はまた何度も戻されながらテイムし続けるのかね?」

「そうなるね。でも、今回は《迷宮の欠片》があるから、転移陣で移動できないかな?

 鐘の場所で暫く過ごしたら、繋がるんだよね?」

「ああ、繋がるがね。霧がある状態では繋がらない。

 堕ちた元亜人と共に過ごせるとは思わんね」

「そっかぁ。霧があったら駄目か……」


霧がある状態なら、テントでも張ってそこで過ごしたのだけれど。


「ちなみに、暫くってどれくらい?」

「その場所の魔力の濃さによるな。濃い場所なら1日もあれば繋がる。

 堕ちた元亜人が放出する魔力は濃いと言われているが……酷く歪んでいるからな。

 歪んだ魔力でも繋がるのかはわからん」

「大丈夫だとしても、1日以上堕ちた元亜人と過ごせなきゃ繋がらないのか……さすがに厳しそう」


こちらに気付いた堕ちた元亜人が、すぐに襲い掛かってきたところを見るに、あの場所で1日過ごすのは無理だろう。

リーノの時のように、俺が湖に足を踏み入れるまで動かないとかだったら、出来ただろうけど。


「お手上げさ。諦めた方が良いと思うがね」

「八方塞がりで諦めざる得ない感じではあるけど……でも、まだ何もしてないから、諦めたくはないな」

「うぅん……いや、良い心掛けだとは思うがね。

 わかった。ならば私の家に帰るぞ」

「ん……カプリコーン街の?」

「ああ、そうさ。図書館に置いていないような解呪の本もうちにはある。

 解呪の本だけでなく様々な本を揃えているから……何かわかれば良いが」

「ありがとう、エルムさん」


早速俺達はエルフの集落のエルムさん宅から、カプリコーン街のエルムさん宅まで向かう。

集落の中心にある鐘の前で《迷宮の欠片》を鳴らし、現れたウィンドウからトーラス街を選択する。

先に移動していたエルムさんが転移陣部屋で俺達を迎えてくれた。


ギルドからエルムさんの家までは距離がある。

のんびりと皆で喋りながら、久しぶりのカプリコーン街を歩く。

カプリコーン街に最後に来たのは、カヴォロのお披露目会の話をしに来た時だったはずだ。


「ああ……書斎が一番足の踏み場がないかもしれん。

 君達が依頼を受けてくれた日から片付けていないんだ」

「そうなんだ? また依頼出してるの?」

「出してはいるが、掃除の依頼なんざ滅多に受ける者がいないからな」

「んー……じゃあ俺達、片付けながら調べるよ」

「それはありがたいが、いや、私が片付けてしまおう。祭りまで時間がないからな」

「生活魔法で?」

「ああ、そうさ」


ガチャリと開いた扉を潜り抜けると、初めてエルムさんの家に来た時と同じような光景が広がっていた。

あちこちにたくさんの本が散らばっている。

作業場に本が積み上げられているのは分かるけど、何故廊下にも無造作に置かれているのだろうか。

無造作に置かれている本を集めながら進み、書斎の中へと入る。


「さて、さっさと片付けてしまおう」


そう言って、エルムさんは片手を上げた。

辺りの本が本棚へと次々と吸い込まれていく。

最後に俺達が抱えていた本が本棚に収まり、片付けは終了だ。


あちこちの本棚にふわりふわりと、次々に本が収まって行く光景は、映画のワンシーンのようでわくわくする。

分類もされて収納されているようだし、本当に便利な魔法だ。

イーリックさんが使っていた生活魔法も、物を運べない俺にとって今すぐにでも覚えたい魔法だ。

イベントが終わったら、エルフの集落の図書館で生活魔法の魔導書を探してみようかな。


「解呪に関する本はあの辺りだ。

 呪いの本もあるが……まぁ、解呪だけでなく呪いを知ることも大切か。あの辺りだ。

 他は……まぁ、ジオンがわかるだろう」

「はい、大体の場所は把握していると思います」

「何が役に立つか分からない。色んな本を読んでみると良い。

 さて、私は仕事をするとするか。困った事があればなんでも聞きにきてくれ」

「ありがとう、エルムさん」


にっと口角を上げたエルムさんは、書斎から作業場へと向かって行った。


さて、読書の時間だ。

呪いや解呪について何も知らないので、知識を蓄えなければ。

精霊の呪いのことは分からなくても、少しでも知識があれば何かわかることがあるかもしれない。


「ジオン、どの本から読めば良いかな?」

「そうですね……呪いと解呪、どちらの本にしますか?

 ちなみに、呪いの本は図書館や街の本屋には置いてないですよ」

「そうなの? あ、なるほど。罠の魔道具の本と同じか」

「ええ、そうですね」

「うーん……呪いの本にする!」

「ふむ……私もこの書斎で初めて呪いの本を見たので何がおすすめはわからないのですが……」

「それなら、ジオンが読んでいない本にするよ。

 皆で手分けして色んな本を読んだ方が良いよね」

「でしたら、こちらを」


ジオンから真っ黒な皮の装丁が施された本を受け取る。

表紙にはタイトルや著者名等は見当たらない。


呪い……どんなことが書かれているのだろう。普通に生活していたら読むことのない本だ。

ごくりと生唾を飲み込み、表紙を捲る。


「……んん?」


書かれている文字にぱちりと瞬きをする。


「……恋愛成就の呪い……」


おまじないの本だろうか。ああでも、おまじないを漢字で書くとお呪いなんだっけ。

叶うか叶わないか分からないようなおまじないは呪いとは言えないかもしれないけど、絶対に叶うようなおまじないは呪いと変わらないか。

知りもしない相手に突然好意を寄せてしまうようなものは呪いと言って良いだろう。


「……恋情系の本でしたか……違う本にします?」

「んー……一応読んでみようかな」


用意するのは相手の血……最初から難易度が高いな。

恋愛関係のおまじないと言えば……消しゴムに名前を……書くだか彫るだか……なんだっけ。

俺自身おまじないをしたいと思ったことがないし、女の子達の話が聞こえたことがある程度の知識なのでよくわからない。


消しゴムと相手の血じゃ、効果も全然違いそうだ。

相手の血を貰えるくらいの間柄なら、呪いに頼る必要もなさそうだけど。

いや、血が貰える間柄ってなんだろう。どれだけ仲良くなっても気軽に貰えるものではなさそうだ。


「ジオン、俺にもなんか選んでくれ」

「ボクたちも!」

「俺もよろしく」

「ええ、わかりました。分担していきましょう」


皆で分担して、何か手掛かりが見つかったら良いな。

この書斎にある全ての本を読んでいるのであろうエルムさんに見つけられない手掛かりを見つけられるだろうか。


本を受け取った皆がぱらりぱらりとページを捲る音が聞こえてくる。


縁切りの呪い、復縁の呪い、一目惚れの呪い……呪いの文字を全ておまじないに変えたら、微笑ましい気がしないでもない。

必要な道具や手順は微笑ましいなんて言えないけれど。


パタンと本を閉じる。

やっぱり違う本にしよう。この本では何の手掛かりも得られない気がする。


ジオンに選んでもらおうと視線を向けるが、真剣に文字を追う姿を見て、邪魔をしてはいけないと本棚に向かう。

エルムさんが言っていたのはこの辺りだ。ジオンもここから取っていた。


空いている場所に恋愛関係の呪いの本を入れて、ずらりと並ぶ背表紙を眺める。

背表紙に何も書かれていない本が多く、中が予想できない。

一通り背表紙を眺めた後、なんとなく目に付いた本を抜き取った。


表紙を捲って文字を追う。そこには、相手を何かの病気に煩わせるための呪いが書かれていた。

一番軽い呪いだと風邪だろうか。けど、風邪だって拗らせると危険だ。


「見て、これ。対象が1時間置きにあくびが出る呪いだって」

「呪いかどうかわかんなくねぇか……?」


フェルダとリーノの会話が聞こえてくる。

色んな呪いがあるようだ。精霊さんの呪いもあくびが出る呪いだったら良かったのに。


「ライくん、見てー」

「ボクたちのスキルだよ」

「うん? あ、本当だ。見せて見せて」


2人が見せてくれたページには呪言について書かれていた。

この先のページに呪毒や呪痺についても書かれているのだろうか。


開かれたページの文字を目で追う。

呪言は海に棲む種族かつ呪いが得意な種族のみが使えるスキルなのだそうだ。

海の中にどれだけの種族が棲んでいるのだろう。

ネーレーイス以外には会ったことがない。人魚はいそうだ。


この話が本当ならネーレーイスは呪いが得意と言う事になる。

呪いよりも鋳造のほうが得意だと思うけど。

魔法属性のレベルを上げて使えるようになる状態異常のスキルではなく、状態異常のみの呪言が使えるのは、呪いが得意と言っても良いのかもしれない。


「シアとレヴは精霊の呪いの事知ってる?」

「「わかんない!」」

「そっかぁ」


2人が元々知らないのか、それとも覚えていないだけなのか、どっちなのだろう。

そう言えば……前にネーレーイスについてログアウト中に調べた時に、海に棲む女神、または精霊や妖精と書いてあった覚えがある。

ネーレーイスが水の精霊だったりするのかな。ああでも、そうだとしたら、呪言ではなく精霊の呪いが使えそうだ。


「ライー荒廃の呪いってのがあんだけど」

「腐敗と似ているような似ていないような……」


行きつく先は似た状態な気はする。

腐り果てるのと荒れ果てるのは違うかな?

いやでも、荒れ果てた場所を放置していたら腐敗しそうだし、腐敗した場所は荒れ果てているとも言えそうだし。


何にせよ何が役に立つか分からないし読んでおこう。

荒廃の呪いの解呪の方法が書かれた本も探したほうが良いかな。

こういう症状の時はこういう解呪の手順をといったように、共通点があったりするかもしれない。


じっくりと様々な本を読んでいる時間はないけど、なんとか見つけ出さなければ。

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