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day82.5 現実世界

まさか他のプレイヤーに譲ったり、売ったりしても扱えないとは思っていなかった。

さすがにプレイヤーに尤を持つ者はいないだろう。

そんなスキルを引いてしまったことに、恐怖を感じる。どう思われるかわからない。

俺だったら、凄いと思うだけだけど、皆が皆そうじゃないことは知っている。


俺も兄ちゃんも、何も種族スキルや種族特性だけで戦ってきたわけでは……ない、と思う。

俺はちょっと自信ないけど……兄ちゃんは種族がなんでも強かっただろうし。

俺も一応、技術の向上を目指して、努力はしてきたつもりだ。これからも頑張ろうと思ってる。

でも、そんなの関係ないんだろうな。俺や兄ちゃんがどれだけ頑張っていたとしても、それを知らないなら関係ない。

知ったとしても、結局関係ないのかな。


もぐもぐと夜ご飯を食べながら、頭の中を巡る考えにどんよりとする。


「来李、どうしたんだ?

 久しぶりに会えたってのに、ご機嫌斜めじゃないか」

「あ、ごめん、お父さん。お仕事いつもお疲れ様。

 んー……ちょっと悩んでるというか……」

「あらあら。ゲームで嫌な事があったのかしら」

「嫌な事って言うか……」


ちらりと隣に座る兄ちゃんに視線を向ける。


「俺は良かったって思ったけど」

「えっ? 何が良かったの?」

「いずれバレた時に、他の誰にも扱えないなら、寄越せなんて言われないからね」

「それは……寧ろ、誰でも扱えたほうが良かったような……」

「誰でも扱えるなら、その素材が使われていない装備は売れなくなるよ。

 けど、全員に渡る程の量を用意するなんて、無理だろう?

 ログインしている間中、融合や凝固し続けるなら出来るかもしれないけど」

「さすがにそれはちょっと……俺も普通に遊ばせて欲しい……」

「だよね。それに……ちょっと引っかかることがあるんだよな」

「気になる事? 古の技術で?」

「エルムが知らずに溶鉱炉に入れたってのが、ね。

 凝固について書かれた本に、加工できないって事が書かれてないとは思えないんだよ」

「それは……確かに?

 融合とかのスキルが書いてある本のページには何も書かれてなかったけど……」


この本に載っているスキルを使えるかと、顔に押し付けられた本のページには、扱えるかどうかは書いていなかった。

そもそも開かれていたページしか見てないから、他にどんなことが書かれている本なのかわからないけど。


「エアの言う通り、宝典がなければ分からない情報なのかもしれないけど……。

 誰でも扱えるから、特に言及されていないとも考えられる」

「つまり?」

「後からいくらでも変更ができる状態」

「……エルムさんが溶鉱炉に入れた時は誰でも扱えたけど、その後修正されたってこと?」

「あり得ないことはないかな」

「……もしそうだとしたら……運営さん的には配るなってことなのかな」

「そうなんじゃない?

 ま、ピンポイントにそこだけ修正するかなとは思うけど……他にも気になることがあってね」

「他?」

「うん……狩猟祭、テイムモンスターが参加できないって、変じゃない?」

「……確かに……」


亜空間の中でテイムできるとは書いてたけど、テイマーなら普段の仲間達と参加したいはずだ。

レベルだって上がってるだろうし。


「何か、テイムモンスターに参加されては困る理由があったのかなって。

 例えば、ジオンとか」

「ジオン……凄く強いけど、1人でどうこう……あー、でも、兄ちゃんと2人で頑張って優勝できたからなぁ……」


強力なメリットに散々なデメリットを添える運営だ。

レアな種族とか、レアなアイテムとか、そう言うガチャ要素は取り入れつつ、極端な差はでないようにという方針なのかもしれない。

それはあくまで種族とか、スキルとかの話で、プレイヤースキルや努力の結果等で強い分は別だろう。

でも、参加できなかったのは狩猟祭だけだったし……狩猟祭が一番の目玉だったのかな。


「まさか最初の召喚石で、人型のテイムモンスター……しかも☆4以上だっけ?

 それを引く人がいるとは思ってなかったんじゃないかな」

「それは運営の匙加減では……?」

「確かにね。制限しとけば、来李は今頃……」

「はじまりの街にいたかもね!」

「はは、さすがにそこまではないと思うけど。

 来李じゃなくても凄く強いテイムモンスターを引いた人がいたのかもしれないし」

「んん……なるほど。サイレントナーフ……」

「一応、ほぼ毎日ちょこちょこ何かしら更新されてるみたいだから……その中でアイテムの調整、とか。書いてあるかも」

「そうなんだ? 俺、お知らせとかほとんど見たことないなぁ……。 

 でも、それなら兄ちゃんをナーフすべきじゃない?」

「俺をナーフ……? ただでさえ防御力ないのに?」

「ないけど、当たらないじゃん。兄ちゃん、デメリットがデメリットじゃないもん」

「一応ヌシには苦労してるんだけど……来李だって、デメリットで困ってる事ないだろう?」

「驚く程力がない事に凄く困ってるよ」


俺の答えに、兄ちゃんはくすくすと笑う。

笑い事ではない。


「話を聞いていたけど、来李ちゃんが何に悩んでるのかわからなかったわ」

「あ、えっと……俺と兄ちゃんしか出来ない事があるみたいで……それで、そのことが知られたら、なんて思われるんだろうって……」

「あら、そう言う話だったのね。

 そうねぇ……嫌な事言う人は、PvPエリアに連れて行っちゃえば良いと思うわ」

「えぇ……そんなアドバイスある……?

 ……あれ? お母さんPvPとか知ってるの?」

「ははは。父さんも母さんも、昔はよくゲームしてたからな」

「父さん達がゲームしてる姿なんて見た事ないけど」

「仕事がなぁ……忙しくてな……」


そう言って、お父さんはしょんぼりと肩を落とした。

いつも朝早くから夜遅くまでご苦労様だ。


「いつか家族全員でゲームしたいな」

「よし、仕事辞めるか」

「まぁ! 気持ちは分かるけど、駄目よお父さん」


ここのところずっと忙しいみたいだけど、いつまで続くのかな。

元々、物心ついた時から、いつも忙しそうではあったけど……一体何の仕事をしているんだろう。

何度か聞いたことはあるけど、まともな答えが返ってきたことはない。


「お父さん、何の仕事してるの?」

「守秘義務があるから詳しくは言えないが……宇宙人だな」

「せめて宇宙飛行士じゃない?」


呆れたような声でそう言った兄ちゃんも、お父さんの仕事については全然わからないらしい。

前に聞いた時は正義の味方だったのに、地球外生命体になってしまった。


「兄ちゃん。やっぱり、マフィアだよ。夜な夜な悪い事してるんだよ」

「マフィアか……宇宙人よりは良いかな」

「……確かに……?」

「私はマフィアも宇宙人も嫌よ」

「だってよ、父さん」

「転職するか……蓮斗に雇って貰うかな~」

「職歴が謎な人はちょっと……」

「そう言えば兄ちゃん、最近作業してるの?」

「ログアウトした後とかにしてるよ」

「そうなの? ほとんど寝れてないんじゃ……」

「寝てる寝てる。来李が筋トレとか運動してる時は大体寝てるからね、俺」


朝、俺がログインするまでに起きてこない事もあるし、睡眠不足ってわけでは……ないのかな。


「来李もそろそろ、学校は大丈夫?」

「あ、そうだ……えっと……あ、良かった。一応イベントの後だ」


壁に掛かったカレンダーを見て日にちを確認する。

ゲームの中にいると、日にちの感覚が危うくなるな。

1カ月に1回か2回行けばいいだけとは言え、憂鬱だ。

まぁ、色んな年齢の人がいるし、友達と和気あいあいって雰囲気でもないから、中学校の時に比べると行きやすいけど。


「今後の予定は?」

「暫くはレベル上げだね。それから、呪いを確認しに行くよ。

 あ……秋夜さん探さないと……兄ちゃん、秋夜さん見なかった?」

「俺も来李と一緒の所にいるんだけどな……。

 んー……トーラス街にクランハウスがあるって話じゃなかったかな」

「そうなんだ? トーラス街のギルドにいたら会えそうだね」

「そうだね。それにしても……なんだかんだでよく話してるみたいだけど、フレンド登録してないんだね」

「どうしても僕とフレンドになりたいって言うなら、なってあげても良いけどねぇ……だって」

「はは、なるほど。今度見かけたら、どうしてもフレンドになりたいって言ってみようかな」

「やめてあげて……あ、ねぇ兄ちゃん。βの頃ってPvPエリアがあったの?」

「PvPエリア? あったよ。そういうの来李はあんまり興味ないと思ってたけど」

「俺はそうだけど……兄ちゃん常駐してた?」

「常駐はしてないよ。朝陽に連れられて、たまに?

 そう言えば、行く度に同じ相手と戦って、た……あれ秋夜君だ……」


言いながら思い出したのであろう兄ちゃんは、目を閉じて緩く握った手の甲を額に当てると、なるほどと唸るように小さく呟いた。

ふらりと現れる兄ちゃんに負け続けたのか……秋夜さんも凄く強いのに、さすが兄ちゃんだ。


「……まぁ……βの頃とは種族も職業もレベルも違うし、今の俺には関係ないよね」

「戦闘祭の総合トーナメント一回戦で当たってたけど」

「あー……」

「兄ちゃん、気にしないのかと思ってた」

「さすがに身に覚えがあるとね。謝るわけにもいかないし」

「勝ちすぎてごめん? それは怒られるね」

「ね。ま、どうしようもないか」


もしこの先PvPエリアが実装されても、俺が行くことはなさそうだな。

対人戦は苦手……と、言っても、これまでやってきたゲームで対人戦を全くしたことがないというわけではない。

格ゲーやバトルロイヤルゲームを兄ちゃんとしたこともある。

ただ……俺も結構負けず嫌いだから、苦手だ。


「兄ちゃんの今後の予定は?」

「んー……狩りかな。そうだ、暫くの間、夜は一緒に行く?」

「一緒に行きたいけど、パーティー組めないから……」

「組んでなくても、近くにいるだけで敵の強さは変わるよ。

 亜空間は違ったけど、通常フィールドなら俺を中心に、大体15mくらいが種族特性の範囲みたい」

「確かにクラーケンの時のフォレストスラグも、パーティー関係なしに強くなってたもんね。

 15m……半径だよね? 大分広い……ああでも、狩りの最中動き回ってると狭いのかな」

「ライは結構動くもんね。6人いるし」

「うん。でも、パーティー組まなくても良いなら、一緒に行きたいな」

「もちろん。エルフの集落の周りだと、来李達のレベルではきついかもしれないけど……ま、大丈夫か」

「……不安になってきた……無理そうなら諦める。

 ちなみに岩山脈だと、高い場所と低い場所あるけど、高さも15mの範囲なの?」

「どうかな……岩山脈は昼夜で変わらないから試したことはないけど……そうだとしたら面倒だな。

 他のプレイヤーから離れた場所に行ったつもりでも高さでアウトになるのかもしれないのか」


夜になんだか急に敵が強くなったなと思ったら、15mの範囲に兄ちゃんがいるってことか。

同じ適正レベルの場所で狩りをすることはほとんどないだろうから、そうそうそんな機会はなさそうだけど。

知っている俺はともかく、他のプレイヤーが出会ってしまったら、混乱するだろう。


「夜に狩りに行く時、大変そう。

 移動してるだけで、周りの敵が強くなるんだもんね」

「さすがに、同レベル帯のやつらには伝えてあるよ。

 急に敵が強くなるかもしれないけど、すぐ移動するからごめんって」

「そっか。兄ちゃんと同レベル帯の人達って、狩りをずっとしてる最前線の人達だもんね。

 いつも大体同じ場所で狩りすることになるのか」

「そうだね。お陰でそいつらには通り魔って言われてる。

 たまにそのままパーティー組んで一緒に狩りする時もあるよ」

「へぇ~! 良いなぁ。最前線の人達って仲良しなんだね」

「仲良しって程でもないけど、会えば話すね」


トーラス街で一緒に防衛した人達だ。皆凄く強かった。

俺もその場にいたから、最前線プレイヤーだと思われているみたいだけど、レベルが全然違う。

んん……秋夜さんに言われたように、詐欺だと思われても仕方ないかもしれない。


「うん、レベル上げ頑張らなきゃ。それじゃあ、また後で。

 お母さん、ご馳走様。今日も美味しかった!」

「うふふ、お粗末様でした」

「それから、お父さん、お母さん、おやすみなさい!」

「ん? ああ、おやすみ。ゲーム楽しんで」


お皿をシンクへ持って行って、歯磨きをする為に洗面所に向かう。

寝る準備が終わったら、ログインだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば三之島の時点でレベル60以上ってレベルキャップや島の数どうなってるのやら...
[一言] お母さんや、〆ちまえって事ですか。 そして運営もここまでリアルラックされる のは想定外なのかな?。
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