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day79 依頼

「に、にひゃく……?」

「そう……多い、よね。半分でも、その半分でも良いから作ってくれると有難いのだけれど」

「いやっ、ううん。大丈夫だよ」


困ったように笑うエアさんに慌ててそう返す。


思っていた以上に多いけれど、これだけお世話になっているのだ。応えないわけがない。

10分で1個作れるとして……33時間。1日では無理だな。


「ありがとう、助かるよ。これ、依頼書。

 この集落にはギルドもないから、街の依頼とは違うだろうけれど……」


渡された依頼書には、依頼内容と報酬が書かれている。

依頼内容は光球の生産、期限は無期限。報酬は《翡翠聖木の丸太》が5個と《グリーンクォーツ》が10個だ。

《翡翠聖木の丸太》は木工で使う素材だろう。

《グリーンクォーツ》は《ホワイトクォーツ》と似た用途で使う鉱石だろうか。


「ジオン、《グリーンクォーツ》って鍛冶で使えるの?」

「ええ、装備条件60以上の武器を打つ時に使う鉱石ですね。

 採れる場所が少ないとかなんとか……貴重な鉱石です。

 なかなか手に入らないので、《ホワイトクォーツ》で代用することが一般的ですが、《グリーンクォーツ》を使ったほうが質の良い武器が打てます」

「君は鍛冶をするのかい? 扱える人がいて良かったよ。

 その通り、武器以外でも鉱石を使う装備を作る時に使う鉱石だね。

 採れる場所が少ない、と言うよりは、採れる場所を知らないと言ったほうが正しいかな」

「なかなか行けない場所にあるの?」

「そうだね。この鉱石は魔力が濃い森にしか生成されないんだ。

 エルフが長く棲む森では採れるようになる。後は……まぁ、精霊の棲む森でも採れるんじゃないかな」


エアさんは少しだけ眉間に皺を寄せ、そう言った。

どうやらエアさんは精霊に対して好意的ではないようだ。

いや、恐らく、この集落のエルフの人達は、精霊に対し好意的ではないのだろう。

この森に棲むエルフの皆は、昨日聞いた堕ちた精霊が過ごした集落の子孫だ。

それでも、彼女の想いを汲んで、苦手意識はあれど、心から憎いと思う人はいないのだろうけれど。


「木工が出来る人は……いないみたいだね。

 翡翠聖木を使った杖は、魔法攻撃力の高い杖になるから、伝手があるなら作って貰うと良い」

「なるほど。うん、聞いてみる」


空さんかベルデさん……シルトさんが、今なら弓や杖なら負けないはずだって言ってたから、ベルデさんに聞いてみようかな。

レベル上げした後の、シアとレヴの新しい杖を作って貰えるかもしれない。


「依頼って形を取ることが少ないから、これで大丈夫なのかわからないけれど、内容に問題はなさそうかい?」

「うん、問題ないよ。寧ろ、報酬が貰えるなんて思ってなかったから、有難い限りだよ」


ハンモックを人数分用意してくれただけでなく、朝ご飯とそれから昨日の夜ご飯も持ってきてくれた。

その上報酬まで貰えるなんて、至れり尽くせりである。

招待状だって普通はこんなに簡単に手に入るものではないはずだ。

それもこれも、エルムさんの弟子だからなのだろう。本当にエルムさんには頭が上がらない。

もちろん、こうして受け入れてくれて、その上色々と助けてくれているエアさんにも感謝しかない。


「普段は、魔道具はどうしてるの?」

「集落で使っている魔道具は光球以外はそう多くないんだ。

 前回はエルムに頼んだけれど……ほら、エルムに頼むと高いから」

「なるほど……光球に使う値段ではなくなっちゃうかも」

「一応、友人割引はしてくれているみたいだけれど、量があるからね。

 とは言え、エルムの作った光球だから、長く保つ。

 さすがに数十年経っているから、そろそろ在庫が尽きそうだけれど」

「そっかぁ……俺、同じだけの効果の光球は作れないと思うけど……」

「ふふ、エルムの一番弟子だからって、さすがにそこまで求めていないよ。

 街で売っている一般的な光球で問題ない。この家にある……ああ、でも、これはエルムの作った光球か」

「なるべく、近付けられるように頑張ってみるよ。

 ……近くに鉱石や宝石が取れる場所ってあるかな?

 何の鉱石でも、何色の宝石でも良いんだけど。あ、クォーツ以外で」

「ん? ああ、あるよ。後で案内しよう」


家から魔法鉱石や魔法宝石を持ってきてたら良かったな。

俺のスキルレベルで出来ないことも、魔法鉱石や魔法宝石があれば出来る事がある。裏技みたいなものだけれど。


シアとレヴ曰く、この家の作業場には鋳造の道具もあるそうだ。

エルムさんは鋳造スキルを持っていると言っていたから、この家でも鋳造をすることがあるのだろう。

自宅では鋳造だけでなく、石工や細工、それから鍛冶の道具等の様々な生産道具があるみたいだけれど、参考用なのか過去に作った物をそのまま置いているのか。何れにせよ、そのほとんどが使われていないようだ。


鉱石があれば、作業場にある鋳型で細工の道具が作れる……と、シアとレヴが言っていた。

つまり、魔法鉱石や魔法宝石……魔法宝石は兄ちゃんに手伝ってもらわなければいけないけれど。

それらを使って細工した光球が作れる。


「そう言えば、レン君はどこに?」

「兄ちゃんは寝てるよ」

「おや。ふふ、お寝坊さんだね」


兄ちゃんは夜更かししている事も原因だろうけど、朝に弱い。

まさかゲームの中でまでそうだとは思っていなかったけれど。

現実世界のように眠くて起きれないわけではなく、違和感があって起きれないとのことで。

確かにたっぷり寝たような、全然寝ていないような、不思議な感覚だ。


「鉱石の採れる場所まで案内するのは、レン君が起きてからにしようか」

「んー……兄ちゃんは起きたら好きに集落を見て回ると思うから、置いて行っても大丈夫だよ」

「そう? せっかくならレン君にも集落の案内をしたかったけれど……」

「兄ちゃんは俺より後に俺達の世界に帰るから、時間があれば是非」

「そうなのかい? それでは、そうしようかな。

 ……ねぇ、ライ君。レン君って……」

「うん?」

「……凄く強い気配がするんだ。それは、君もだけれど」

「俺はともかく、兄ちゃん強いよ」

「ふふ。性質の話だよ。品位や気質のようなね。

 君からも感じるけれど、レン君には畏怖さえ感じる。

 異世界の旅人とは、皆このような感じなのかい?」

「どうだろう……あ、兄ちゃん、ハイエルフだからかな」

「……ああ、やっぱり。……それは畏怖を感じるはずだ。

 ハイエルフはエルフの頂点のような存在だからね。

 初めて会ったけれど、私達はそれを本能で知っていたらしい」


たまたま運良く最初に引いただけの種族だし、この世界のハイエルフとプレイヤーのハイエルフでは違うと思うけれど。

そう言えば、ジオンは最初から俺が鬼神だと分かっていたような気がする。特に何か聞かれた覚えもない。

エアさんが兄ちゃんに感じた何かを、同じ鬼であるジオンも感じたのだろうか。


何かを考え込んでいるエアさんの次の言葉を待っていると、階段を下りてくる足音が聞こえてきた。

兄ちゃんが起きてきたようだ。


「おはよ、ライ」

「兄ちゃん、おはよう」


気だるげではあるものの、現実世界で見る寝起きの兄ちゃんよりは、すっきりした顔をしている。


「おはよう。……レン君、聞きたいことがあるのだけれど……。

 君、凝固は使えるかい?」

「ん?」

「不躾にすまないね……君は古の技術と呼ばれる技術のことを聞いたことは?」

「ああ、ライが話してた覚えがあるね。

 亜空間とか……後は、ホムンクルスもそうなんだっけ?」

「ホムンクルスは、古の技術かもしれないって予想の話だよ兄ちゃん」

「ああ、そっか。魔法陣? 術式? が、似てるらしいって言ってたんだっけ。

 ライのほうが知ってるんじゃないかな」

「俺もエルムさんに、亜空間が古の技術で、今は作り出せる人がいないって聞いただけだけど……。

 後は、術式が魔道具職人にしか扱えないって聞いたかな」

「それだけ知ってれば充分さ。私もその程度しか分からない。

 それがどんな用途で使用する物かは分かっても、技術を理解することは出来ない」


エルムさんもなぞっているだけで、何も理解できていないと言っていた。


「エルフの集落には迷宮の石と呼ばれる古の技術で造られた遺物があるんだ。

 迷いの森と呼ばれる所以の装置だよ。

 迷宮の石や宝典……迷宮の石について書かれている宝典は、集落の長が管理し、秘匿している」

「エルムさんも知らない?」

「何らかの遺物があるとは知っているのかもしれないけれど、私がエルムに迷宮の石の話をしたことはないね」


集落を丸ごと隠して、辿り着けないように迷わせてしまうような装置だ。

悪用されたら一大事だろう。


「この先の話は口外しないで欲しい……いや、知ったところで迷宮の石を作れる者なんて存在しないだろうけれど。

 ……迷宮の石の中心には宝石が使われている。そして、その宝石が……」

「凝固された宝石?」

「そう……君のその発言は、凝固が使えるからだと考えて良いのかい?」

「うん、使えるよ。長が秘匿する情報を話すってことは、迷宮の石の宝石に……凝固して欲しいって事かな?」

「話が早くて助かるよ。長い年月をかけて少しずつ、僅かではあるけれど、効力を失っている。

 招待状を持たない者が、稀に迷い込む。付近の魔物がふらりと迷い込む事もある」


兄ちゃんとエアさんが話しているのを眺める。

俺も一緒に聞いてしまったけど、良かったのだろうか。もちろん、言いふらすつもりはない。


そうだ、この間に、光球を見ておこう。

2人の会話の邪魔にならないように、一番背の高いフェルダに、寝室の光球を1つ外してきて欲しいと小さな声で頼む。

頷いたフェルダは早速寝室に向かい、光球を持ってきてくれた。


光球に書かれた魔法陣と、それから壁にあるスイッチの記号を見比べる。

うーん……知らないシンボルや記号がある。

作業場に魔法陣の本があったはずだから、調べて代替え案を考えなければ。


「凝固は……その者が持つ魔法を宝石に封印するスキルだと認識しているのだけれど、合っているかい?」

「合ってるよ。融解、魔操、凝固の3つで、魔法弾を封印できる。俺の場合は魔力弾だけど」

「へぇ、君は魔力銃を使うのか。……魔力弾でも出来るものなのだね。

 属性はなんでも良い。迷宮の石の宝石に魔力が満たされるまで……何度も凝固を繰り返して貰う事になるだろうけれど、君の魔力を封印して貰えないかい?」

「良いよ」


宝石に封印……言われてみれば、凝固や融合と魔道具製造の魔石への封印は似ているのかもしれない。

実際、ジオン達の魔法纏を魔操して封印もしているわけだし、融合も魔道具製造も、古の技術に纏わるスキルなのだろうか。


「ん? 凝固って同じ宝石に何回もできるの?」

「んー……前に試した時は壊れたけど」


いつの間にやら試していたらしい。

と言うことは、融合も無理だろう。


「大丈夫なの? 迷宮の石、壊れちゃったりしない?」

「そのために造られた宝石……と、宝典には記されていたね。

 実際に凝固をしている場面を見たことはないけれど、これまでもハイエルフに凝固をしてもらったという記録は残っているから、問題ないはずさ」

「始めるのは、明後日でも良いかな?」

「構わないよ。その間に、依頼書を作成しておくよ。

 いやはや、エルムには感謝しないとね。

 魔道具だけでなく、迷宮の石の問題を解決してくれる人を紹介してくれるなんて」

「俺はライにくっついてきただけだよ」

「それでもさ。遅かれ早かれ、ライ君からレン君に繋がったはずだ」


エルムさんは、迷宮の石の宝石に凝固が使われていると知らないだろうし、そもそも迷宮の石にそんな問題が起きていることも知らないはずだ。

前に凝固された宝石を渡した時、凝固については本で見たことがあると言っていた。それに、真偽不明とも。

迷宮の石に使われていると知っていれば、真偽不明とは言わないだろう。


「この先、他のエルフの集落を訪れる気はあるかい?」

「辿り着けるなら、かな。ここに来る時は大丈夫だったけど」

「ハイエルフの君なら問題ない……はずだけれど。

 君さえ良ければ、他の集落の長に連絡して、どこの集落でも辿り着けるようになる《迷宮の欠片》を用意しよう」

「古の技術で作られた道具……遺物なんだろう? そんな物を俺に?」

「構わないさ。ハイエルフのいる集落は、私の知る限り1つだけ。

 ……彼は……まぁ、協力的ではなくてね。会うことすら出来ない。

 君に協力を得たい長ばかりさ」


兄ちゃんが何らかのフラグを踏んだような気がする。

全てのフラグがクラーケンのようなボスに繋がっているわけではないだろうし、ハイエルフである事が絶対条件なフラグだから、大きな何かが起きるとは思えないけど、この先の話を兄ちゃんに聞くのが楽しみだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 手順を踏めばフラグが乱立するものですな。 礼儀とコネはどこでも必須なのだねぇ。
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