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day72 アクア街

「見えてきましたよ」

「んー……俺にはまだ見えないや。ジオンは目が良いね」

「どんな街だろうなー!」


杖を買った後、お昼ご飯を食べてから、《クラーケンの骨》をシルトさんに渡して、俺達は港にあるターミナルへ向かった。

ターミナルには、この世界の住人達はもちろん、プレイヤーの姿もあり、ギルド程ではないもののそれなりに賑わっていた。


乗船チケットを貰った防衛戦に参加していたプレイヤーの8割は、貰ってすぐにアクア街に移動したそうだ。

どうやらアクア街周辺と岩山脈では、出てくる魔物の強さはほとんど変わらないそうで、戻って狩りをしている人とアクア街周辺で狩りをしている人の2種類いるらしい。

最前線プレイヤーでなくとも、船に乗ればアクア街に着くので、レベルの高さは関係ない。参ノ国を目指して船に乗るプレイヤーは多いようだ。


「お魚いっぱいいるねー」

「見てきて良い?」

「やめて」


フェルダに肩を掴まれながら、手すりに掴まって海を覗き込むように見ているシアとレヴに気を配りつつ……2人なら落ちても、溺れるなんてことにはならないだろうけれど。

防衛戦の時よりも大きな船の甲板の上から、月が落ちる水面を眺める。


船には魔除けがされていて、ユニークモンスターが出ない限りはモンスターに襲われることはないそうだ。

ここ数百年、ユニークモンスターが出たことはないという話を聞いて、まるでフラグのようだなと思いはしたものの、それを踏むのは俺ではないだろうと安心して船に乗り込んだ。

クラーケンなんていう大きなフラグを踏み抜いてしまったであろう俺が、そう続けざまに踏むはずがない。


というわけで、なんの問題もなく、俺達は船旅を楽しむことが出来ている。

船内でのんびり座っている時もあったけれど、せっかくだからと甲板の上でほとんどの時間を過ごした。

潮風を感じながら、この先にあるアクア街に思いを馳せる。


「あ! 見えてきた!」


目を凝らしてよく見れば、夜の街を照らす明りが小さく見えた。


船が近づくにつれ広がる街の景観に、おぉと声が漏れる。

水上に木造コテージが立ち並び、ヤシの木を始め、色鮮やかな花や植物。浜辺に置かれたパラソルとビーチチェア。

紛うことなきリゾート地だ。コテージに宿泊できたりするのだろうか。


停泊した船から降りて、木造の桟橋を歩けば、こつんこつんと心地よい足音が鳴った。

きょろきょろと辺りに視線を飛ばしながら、桟橋を歩く。

色々見て回りたいところではあるけれど、本来の目的を忘れてはいけない。まずはギルドだ。

ああ、そうだ。地図を買わなきゃ。前は雑貨屋さんで買ったけど、ギルドでも売っているはずだ。


ターミナルのお兄さんに、ギルドの場所を聞いて早速ギルドへ向かう。

自然あふれる街だ。バナナやマンゴー等のトロピカルフルーツが実っているのが見える。


「あれって採っていいのかな?」

「怒られるんじゃない? 街の外にも生えてると思うよ」

「だったら街の外で採ったほうが良いね」


月が照らす道をギルドに向かってのんびり歩く。

じわりと体を包む熱は、夜だからなのかあまり暑くはなく、心地良い。

昼だともっと暑くなるのだろうか。


「この辺りは暖かい気候のようですね」

「ジオン大丈夫か? シアとレヴは?」

「大丈夫ですよ」

「ボクも大丈夫!」

「作業場のほうが暑くなるよー」


確かに、鍛冶炉と細工炉、それから溶鉱炉を使っている作業場のほうが暑い。

それなら、暑さに弱いジオン達も大丈夫そうだ。


「暑さに弱いのは氷鬼だからだよね? 氷鬼じゃない鬼人はどうなの?」

「逆ですね。暑さに強く寒さに弱いです」

「肆ノ国は火山も多くて暑いから、暑さに強い種族のほうが多いね」

「へぇ~そうなんだ。ジオン、大丈夫だったの?」

「今でこそ炉で多少慣れたとは言え、その前は大丈夫じゃありませんでしたね。

 鬼人の街で暮らせる体質ではなかったので、肆ノ国では比較的温度の低い山奥に住んでいました」


なるほど。人里離れた場所に住んでいたというのは、それが原因だったのか。


「そっか。それだけ暑いと涼しい場所を探すのも大変そうだね」

「私の場合、遠縁に同じ氷鬼の方がいらっしゃったので、その方の家に住まわせて頂いていましたよ。

 私に刀や鍛冶を教えてくださった方なのですが」

「ジオンの師匠? 会ってみたいな」

「ふふ。そうですね……私もライさんに会って頂きたかったです。

 彼女のことですので、きっとライさんの事を猫かわいがりしたと思いますよ」

「んん……あ、えぇと、ごめん」

「いえ、もう随分昔のことですので……良い思い出です。

 それに今はこうして、ライさん達と一緒にいますからね」

「さみしくないねー」

「うん! 楽しいね!」


ジオンの師匠か。どんな人だったのかな。

女性のようだけれど、ジオンの師匠なのだから、きっと凄く強いのだろう。

それに鍛冶も、種族スキルではない尤は、尤を持つ師匠がいなければ引き継げないという話だったし、師匠も尤だったのだろう。

そう考えると……リーノにも細工の師匠がいたということか。


聞いてみようかと口を開きかけて、閉じる。


フェルダの尤は、恐らくフェルダとガヴィンさんのお父さんから引き継いだものだろう。

それから、エルムさんの尤も師匠から引き継いだのだろう。生ける伝説と言われていたのは本来師匠だと言っていた。

そしてジオンの師匠。共通点は……もう会えない。亡くなった人だ。


エルムさんが話し難そうにしていた理由がわかった。

俺は、絶対に引き継ぎたくなんてない。引き継ぐような状況にもなりたくない。

種族スキルの尤は生まれながらに持つもの、そして、それ以外の尤は、尤を持つ師匠が世を去る時に、引き継がれるものなのだろう。


「ライくん、あれ飲みたいー!」

「うん? わ、美味しそうだね。うん、買おうか」


ジュースを売っている屋台で、それぞれ好きなフルーツのジュースを選んで購入する。

俺はパインだ。果汁そのままのパインジュースは酸っぱくて、すっきりした甘さが口に広がった。


皆でジュースを飲みながら、のんびりと進めばやがてギルドへと辿り着いた。

一見、遺跡のようにも見えるギルドは、この街の景観を壊すどころか一部として街に馴染んでいる。


ギルドには色とりどりの花や植物が飾られていて、これまでのギルドとはまたちょっと違う雰囲気のギルドだった。

アクア街に移動しているプレイヤーが多いこともあり、賑わっている。


「すみません、地図を買いたいんですけど」

「地図ですね~4,000CZです」


アイテムボックスに追加された《地図・参ノ国》が、地図スキルによって1枚の《地図》になったことを確認して、お姉さんに顔を向ける。


「あの、幽霊の噂があるって聞いたんだけど……」

「幽霊ですか? アンデッドやファントムではなく?」

「詳しくは知らないんだけど……歌が聞こえるとか……」

「幽霊……あ、もしかして、哀歌の森の話でしょうか?

 参ノ国のとある森で、歌声が聞こえる……と、言う噂話なんですけど」

「多分、その話だと思う」

「私も噂程度しか知らないのですが……森の奥深くから悲しい歌声が1日中、聞こえてくるそうです。

 その歌声に導かれると、帰らぬ人となってしまう……なんて言われてますね~」

「奥深くに、何かあるの?」

「さて……ですが、その森自体は、危険な場所というわけではありませんよ。

 群生しているキノコが調薬の材料になるので、冒険者さんも依頼でよく訪れる森です。

 それに、歌声を聞いたというお話も聞いたことがないですね」

「人がいなくなることも?」

「ないですね~。ずっと昔からある噂話ですが、信じている人はいないんじゃないですかねぇ」


導かれたら帰らぬ人になるという部分は、もしかしたら堕ちた魔物や元亜人の可能性があるのではと思っていたけど、なんの危険もない森と言われると違う気がする。

昔はいたけど今はいない、とかかな?

導かれたのが、俺の魔力感知・百鬼夜行のようなスキルを持った人という可能性もある。

聞こえなければ、導かれることもない。

今も森にいるのだとしたら、森を訪れる人を見境なく襲うというわけではなさそうだ。


「ここから遠いかな?」

「それなりに遠いですね。先程の地図を見せてもらっても良いですか?」


《地図》を取り出して、カウンターに広げる。


「あら、地図スキル。珍しいスキルをお持ちなんですね~。

 あ、異世界の旅人さんなら、珍しくないんですかね。

 えーと……ここがアクア街、それから、ここがテラ街なんですけど」


参ノ国には大きな街が4つあり、それ以外にも村や集落が点在しているらしい。

地図ではわからないけれど、ノッカーの集落もどこかにあるのだろう。

そもそもこの地図は、地形と街が分かる程度の簡素なものなので分かりにくい。


どうやら哀歌の森は、次の街であるテラ街寄りにある森のようだ。

俺達のレベルでは今すぐに行くのは厳しいだろう。

仮にその森にテイム可能な堕ちた元亜人がいるとして、クラン戦までに間に合うだろうか。


「ありがとうお姉さん。行ってみるよ」

「幽霊を探しにですか?」

「うん、そうなるのかな?」

「そうですか~……うーん……エルフに話が聞けたら良いんですけどねぇ。

 彼等は長生きですので、噂の原因を知っているかもしれませんから。

 集落に辿り着けないんで、難しいですけど」

「辿り着けないの?」

「気難しい方が多いので……人避けの魔道具なのか魔法なのか……とにかく、迷うんですよね。

 迷いの森なんて呼ばれてるくらいです。招待状があれば辿り着けるんですけどね」

「招待状……」

「あ、それから、その集落出身かどうかは関係なく、エルフであれば迷わないそうですよ」


兄ちゃんに連れて行ってもらおうかな。ハイエルフでも大丈夫だろうか。

もしくは、エルムさんに聞いてみても良いかもしれない。

エルムさんがその集落出身かはわからないけど、知り合いのエルフがいるかもしれない。


お姉さんに迷いの森と呼ばれる森についても場所を聞いておく。

哀歌の森よりは近い。とは言え、順調に進んで4時間以上掛かるようだ。


お姉さんにお礼を告げて受付から離れる。


「さて、どうしようか?」

「そうですね……エルフの集落に行くにしても、レベルを上げる必要がありますね」

「狩りをしなきゃだね。もう遅いし、レベル上げは明日だね。

 今日は……海辺にあったコテージって泊まれるのかな?」

「宿泊施設だったはずだよ」


だったら今日は泊まって……でも、もうすっかり日が暮れてしまっている。

ご飯を食べたらログアウトするだけだ。

せっかくならサンセットをあのコテージからのんびりと楽しみたい。


「今日は家に帰って、次に来た時にコテージに泊まろう」

「良いですね。楽しみです」


狩りをするなら魔石の狙える岩山脈が良いけど、1体ずつなら皆で倒せても、最低でも2体同時に相手しなければならなさそうなので、どうだろうか。

まずはトーラス街周辺で狩りをして、いけそうなら岩山脈かな。


「せっかくだから、アクア街で夜ご飯を食べてから帰ろうか」

「なにがあるかな?」

「楽しみだねー」


ギルドから出て、食事処を探してぶらぶらと歩く。

ゆらゆらと揺れる松明の炎が照らす街並みも素敵だけど、明るい時間のアクア街も楽しみだ。


エルフの集落に哀歌の森。そして、イベント。

イベントの詳細はいつ出るかな。どんな内容でもクラン戦ということは、プレイヤー同士の兼ね合いもあるし、直前になって発表なんてことはないだろう。

詳細が出たら何かしらの準備が必要になるだろうし、あまりのんびりしている時間はないかもしれない。

イベントまでに噂の解明ができたら良いけれど……それも、堕ちた元亜人とは無関係かもしれないし。


良い結果が残せたら良いな。優勝は……まぁ、難しいかな。

最前線プレイヤー達と比べて、詐欺だと言われる程にレベルは低いけど、戦闘祭2位のジオンがいるクランだ。

俺も一応、狩猟祭で兄ちゃんと優勝しているし、そんなクランが一瞬で散ったなんてことにならないように頑張らなければ。

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