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day72 杖探し

出来上がった鍛冶用と細工用の炉を鑑定して、首を傾げる。

表示されているアイテム名は『鉄鑊炉』と『龍旋炉』。作り変える前と同じ名前だ。

けれど、使用条件は上がっており、ランクアップは出来ている。

作り変えるというのはこういうものなのだろうかと尋ねてみれば、フェルダがそうだと言うので、納得した。


「それにしても、よろしいんですか?

 強い装備を渡せば、それだけ強敵になるということになりますが」

「んー……そうなんだけどね」


強い装備があればレベル上げだって捗るし、それに、当日の戦闘だって捗る。

前回のイベントでも戦闘と生産、どちらをメインにしている人でも楽しめるようにイベントが組まれていたことから、戦闘はあると考えて良いだろう。

それがPvPなのか、前回の狩猟祭のようなものなのかは分からないけど。


「だからって、独り占めみたいなのは、気が引けるんだよね」

「ふむ。私は、ライさんが勝利できるのであれば、独り占めも吝かではありませんが」

「だなー。けど、気が引けるってのもわかるな」


生産職の皆がそうしてしまったら、困ったことになりそうだ。

戦いは既に始まっていると言われたらそうなのかもしれないけど。

とは言え、前回の戦闘祭、狩猟祭前も、特に気にせず出品していたわけだし、俺はこれまで通り、生産した時はオークションに出品するつもりだ。


「お祭りは多分、生産と戦闘、両方必要だと思うんだよね。

 だったら、戦闘だけで勝負は決まらないだろうし、なんとかなるんじゃないかな」

「ええ、そうですね。これまで通り、鍛冶をしたいと思います」

「うん。けど、最近ずっと生産関係だったから、そろそろ違うこともしたいな。

 詳細はわからないけど、お祭りの準備もしたいよね」

「レベル上げ? それとも、メンバー募集?」

「うーん……」


新たに誰か、知らない人を勧誘するのは、勇気がいる。

テイムで仲間を増やすのも、制限のせいで増やそうと思って増やせるものではない。


「ギルドで、神隠しとか、そういう噂話がないか聞いてみようかな」

「おーなるほど! なんかわかるかもな!」


教会の話だって、最初はギルドで聞いたわけだし、何かヒントになる情報があるかもしれない。


「それと、露店広場にも行こうか。シアとレヴの杖を買おうよ」

「アタシ達の杖ー?」

「やった!」


見つからなくても、杖なら空さんにお願いできるし、朝陽さんかロゼさんのどちらかは露店広場にいるだろうから聞いてみよう。

作業机の上に散らばったチョークや本を片付けて、家に置いておいた海の戦利品をアイテムボックスに入れ、早速ギルドへ向かう。


ギルドの中は昨日と比べると少ないものの、プレイヤーで賑わっていた。

のんびり話す暇はあまりないかもしれないなと考えながら、受付の列に並ぶ。


今日もクラン設立のために来ているプレイヤーが多いのか、クランの説明をする声が聞こえてくる。

全て聞く人もいれば、途中で大丈夫だと止める人、最初から説明を断る人等様々だ。

比重は、途中で止める人が多い、かな。全て聞く人は少ない。


ゆっくりと動く列を進み、受付のお姉さんに挨拶をする。


「こんにちは。アイテムを売りたいんですが」

「はい! お見せください!」


ウィンドウにアイテムを並べて行く。


「えー……依頼達成出来るアイテムがありますね。依頼を受領しますか?」

「お願いします」


売却と納品依頼の達成報酬を受け取る。

依頼を達成したのは久しぶりな気がする。


「他に何かご用はありますか?」

「えーと……この辺りで、神隠しとか……幽霊とか……?

 そういう噂話ってないかな?」

「は、はぁ……噂話、ですか……そう、ですね。

 岩山脈の教会の話は、知ってますか?」

「うん、それは……知ってるかな」


解決したと言っていいのか悩んで口を閉ざす。

一歩間違えれば踏み外してしまいそうな崖や、いつ崩れるかも分からない教会が危ないのは今もそうだし、抑止力も兼ねて、噂は噂のままにしておいたほうが良いのかもしれない。


「うーん……それ以外ですと……この辺りでは聞きませんね。

 ……そう言えば、参ノ国で幽霊が出るという噂の森があったような……」

「幽霊?」

「ええ……綺麗な歌声が1日中聞こえてくるとか、こないとか……?

 すみません……詳しくはわかりません……」

「ありがとう、お姉さん。助かったよ」

「そう、ですか? お役に立てたようで良かったです」


笑顔を返して、列から離れる。


幽霊の歌声、か。

堕ちた元亜人の声は、誰でも聞こえる声ではないだろうけど、もしかしたら、関係あるかもしれない。

関係なくても、噂の真相を知りたいという好奇心が沸いてくる。


参ノ国に行く理由が見つかった。

ギルドから出て、露店広場への道を歩く。


「参ノ国、行ってみようよ。魔物、強いかな?」

「船旅なら、魔物に出くわさないからいいんじゃない?」

「船の上に襲ってきたりしない?」

「余程運が悪かったら、そういうこともあるらしいけど」

「フェルダはアクア街、行ったことあるの? どんなところ?」

「んー……行ってからのお楽しみってことで」


フェルダはそう言うと、悪戯っぽく笑った。

トーラス街から船に乗って、そして次に降りた時はアクア街だ。

船の上に魔物が襲ってくることも……ほぼないみたいだし、危険もない。旅行気分で向かえるだろう。


「どれくらい掛かる?」

「あー……化け物がどうこう……あ、解決したんだっけ」

「うん。クラーケンだね」

「なら、どうだっけ。4時間とか5時間とか、そんなんだったと思う」


4、5時間か。まだお昼前だし、今からでも行ける。

宿を取るにしろトーラス街に帰ってくるにしろ、問題はないだろう。

露店広場で買い物が終わってから考えようかな。


露店広場に入ると、たくさんの露店が並んでいた。

今一番賑わっている露店広場はどこの街か分からなかったけど、これだけ多いのなら、トーラス街が一番なのではないだろうか。


ふらふらと杖を探しながら、露店広場をうろうろしていると、シルトさんの露店を見つけた。

今日は中で作業をしていないようだ。


「あ、ライさん! こんにちは」

「こんにちは、シルトさん」

「んん!? 名前知ってたんですね……!?」

「あ、ごめんね。馴れ馴れしく呼んじゃって。ロゼさんに聞いたんだ」

「いやいや! 大丈夫です! 気安く呼んじゃってください!

 私も、聞いてもいないのに呼んじゃってましたし……!」


いつも呼びかけて驚かせてしまっていたけれど、今日は違う事で驚かせてしまった。

名乗っていない相手に突然名前を呼ばれたら驚くだろう。

俺も、討伐の時に、たくさんの人に名前を呼ばれて驚いた。


「そのー……ライさん。《クラーケンの骨》残ってませんか?

 もし残ってたら、売ってもらえないでしょうか……」

「家にあるから今すぐは無理だけど、それでも良いかな?」

「お願いします! 品薄なんです……!」

「8個あったと思うけど、いくつ必要?」

「全部……は、無理ですよね。いくつでも、売って貰えるなら、それだけで充分なので!」

「一応残しておいただけだから、全部でも大丈夫だよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!

 1つ、8万CZで買い取らせてください!」

「そんなに高いの?」


レイドボスで、この先手に入るかどうか分からない素材だからって、そんなに高いものなのだろうか。


「あら? もしかして、ライさんご存じない……?

 街の買取額自体は8,100CZで、フィールドのドロップと比べると高いとは言え、めちゃくちゃ高いってわけじゃないんですけどね。

 生産で使うと、スキルレベルが上がりやすいんですよ」

「そうなの? 知らなかったな」

「おまけに強い装備が作れるので、生産職に今、大人気な素材なんです。

 でも、もうほとんど売られてなくてですね……」

「なるほど。珍しい素材のほうが経験値が多いのかな」

「恐らくそうだと思います。えっと……使いますかね?」


少し考えて、従魔念話で皆に聞いてみれば、使わないと答えが返ってきた。

従魔念話、凄く便利だ。


「ううん。大丈夫だよ。後で持ってくるね」

「ありがとうございます!

 あの! 良かったら、それで盾作るんで、どうですか?」


リーノの盾は装備条件15のものだし、25のものに買い替えても良いかもしれない。

今のリーノのレベルは24だけど、直に上がるだろう。


「リーノ、25の盾、作ってもらおうよ」

「良いのか?」

「もちろんだよ。それじゃあ、お願いします」

「はい! 形は今装備してる盾……あれ? 細工……」

「あ、ごめんね。シルトさんの作った盾に勝手に……」


今リーノが装備している盾も、それから壊れてしまった前の盾も、購入した後リーノによって細工が施された盾だ。


「いえ! それは、良いんですけど……その細工って……。

 そっか、ライさん、知り合い……なんですよね。キャベツさんと」

「キャベツさん!? カヴォロのこと……?」

「あ、いえ、私が勝手にそう呼んでるだけで、カヴォロさんの包丁や魔道具を作った方のことなんですけど……」

「なるほど……う、うん。知り合い、かな……」

「……あの! 私のクラン……生産頑張る隊に加入して欲しいと、聞いていただけませんか!?」

「生産頑張る隊」

「先程、カヴォロさんに誘ってみてくれませんかってお願いしたんですけど、無理だと言われてしまって……」

「あー……クラン、入ってるからね……」

「あっ、そういう無理、だったんですね!?

 てっきり、誘う事自体が無理なのかと……!」


後で謝っておかなきゃとあたふたした後、シルトさんは照れたように笑った。


「もう既にクランに入っているのなら、諦めます。

 無理を言ってしまって、ごめんなさい」

「いや……大丈夫だよ。ごめんね」

「いえ! 私がキャベツさんの神秘を暴くような真似をしたので……!」

「神秘……」

「ところで、今日は露店広場にお買い物ですか?」

「うん、杖を探しにきたんだ」

「杖、ですか? でしたら、うちのクラメンがおすすめですよ!

 品評会では惜しくも、空さんに敗れて2位でしたが、今なら弓や杖では負けないはずです!」

「2位? 凄いね。露店出してるのかな?」

「はい! 隣です!」


その言葉に、隣の露店へ顔を向ければ、なんとも気まずそうな顔をした男性と目が合った。


「なんか色々すみません……うちのクラマスが……」

「あ、いえ、謝られるようなことは1つもなかったので……。

 えっと、俺はライです」

「存じ上げております……俺は、ベルデっす」

「よろしくお願いします、ベルデさん」

「こちらこそ。杖……良かったら見てって」

「あ、うん。装備条件15の杖ってあるかな?」

「15……ちょっと待ってくださいね。装備するのは……」

「シアとレヴだよ」


ベルデさんは頷いて、ウィンドウを操作し始めた。

指の動きが止まると同時に、新たに杖が4本露店に並んだ。


「だったら、この4本がおすすめっすね。水属性+3ついてるんで」

「アタシこれー!」

「ボクこれ!」

「うん、この2つだね」


2人が選んだのは、どちらも20センチ程の茶色がかった黒色の細めな杖で、中心にカットされた青色の宝石が嵌っており、それを鳥籠のように細い木が囲んでいる。


2人が選んだのなら、それが2人にとって一番良い杖だ。

一応鑑定して、装備条件を満たせているか確認しておく。


「ベルデさん、この2つ、お願いします」

「52,400CZと53,200CZで、合計105,600CZっすね」


ウィンドウを操作して、取引を完了する。

手渡された2本の杖をシアとレヴに渡すと、満面の笑みを浮かべて受け取った。


「「ライくん、ありがとう!」」

「後で狩り行ってみようね」

「毎度。……そう言えば、クラン作ったとか」

「うん、昨日作ったよ」

「カヴォロさんは誘わなかったんすか?」

「誘った時に、クランに入ってるって聞いてね。

 でも、抜けてもらうのは申し訳なくて」

「あー……その場しのぎで作ったクランなんで、気にしなくて良いっすよ。名前も適当だし」

「適当じゃないですよ! 皆さんには不評なんですよね……」

「そりゃそうっすよ……カヴォロさんの眉間の皺凄かったでしょ……」


簡単に想像ができてしまって、小さく笑う。


「クラン戦があるお陰で、放置されてたクランが動き出して、嬉しいです」

「巻き込まれてるだけのカヴォロさんには、ただただ申し訳ないっすけどね。

 いつでも連れてってくれて大丈夫なんで」

「あはは、カヴォロが俺のクランに入りたいって言ってくれた時は、そうさせてもらおうかな。

 あ、この杖って細工しても大丈夫?」

「大丈夫っすよ。キャベツさん……? に、よろしくお伝えください」

「うん……了解」


俺達全員がキャベツさんになっている。

名前を出していないのだから仕方ない事とは言え、キャベツさんって呼び方は、なんとかならないかな……。

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