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day71 クラン設立

ギルドの扉の前で、大きな月を見上げる。

今日は楽しかった。料理もすごく美味しかったし、時間も忘れる程に、皆との交流を楽しんだ。


お昼からスタートしたお披露目会は、気付けば日が暮れていて、お昼ご飯だけでなく夜ご飯までご馳走になった。

さすがにそろそろお開きにしようかとなり、皆後ろ髪を引かれる思いで解散となった。


元々トーラス街に住んでいる人はそのまま帰宅し、せっかくトーラス街にきたのだからと観光する予定を立てた人達は、宿屋へ向かって行った。

エルムさんとガヴィンさんは、仕事があるから帰らなければならないとのことなので、ギルドまでお見送りだ。

見送りは良いと言われたが、元々ギルドに予定があると言えば、頷いてくれた。

カヴォロも来たがっていたけれど、疲れているだろうし片付けもあるだろうからと突っ撥ねられていた。


「それじゃあ、エルムさん、ガヴィンさん、またね」

「ああ、またな。あまり無理はしないように」

「じゃあね。頑張って」


三日月の銀細工が飾られている扉を潜る2人の姿を見届けて、くるりと皆に体を向ける。


「よし、クラン設立しに行こう!」

「俺達のクランかー……楽しみだなー!」

「お金は大丈夫ですかね?」

「そっか。家の時みたいに、銀行払いができるか分からないよね」


手持ちは今、約10万CZだ。足りない。


「あ、そうだ。オークションの出品が終わってるから、確認してみよう」


落札結果を確認すればお金が入ってくるし、最低落札価格だけで50万CZは超えていたので、例え全て売れていなかったとしても、払えるだろう。

これまでに、売れなかったことがなかったので、大丈夫だとは思うけれど。


最近はトーラス街にもプレイヤーが増え、それと同時にギルドにもプレイヤーが増えたので、邪魔にならない場所へ移動する。

壁に体を預けながら、オークションウィンドウを開き、1つずつ落札結果を確認していく。

落札結果を確認すると同時に増える所持金を眺めながら、ほっと安堵の息を吐いた。


武器とアクセサリーは、街の買取額から大体5倍から6倍で売れているようだ。

4倍で出品しているので、入札自体はめちゃくちゃ多いというわけでもない……のかな?


初出品の《帰還石》は2倍で出品したものの、買取額から7倍程まで跳ね上がっていた。

7倍で約7万CZだ。他の武器やアクセサリーと比べると安く感じるが、ワープアイテムの値段だと考えると高い。

所持金の半減、アイテム消失、それから2時間のステータス半減を考えると、7万CZは痛くない……のだろう。

2時間あれば、高レベルプレイヤーなら依頼もあるし7万CZ以上稼げそうだ。


売れたのなら良いかと、考えを切り替える。

全てのウィンドウを確認し、顔を上げると、周囲にプレイヤーが集まっている事に気付いた。

体を預けている壁に、何か展示物が貼ってあったりということもないし、通り道と言うわけでもない。

観葉植物がある程度で、人も少なかったし、特に邪魔になるような場所ではないと思ってここに移動したけれど。


こちらにちらちらと視線を向けては、友人であろうプレイヤーと話している姿が見える。

その様子に怖くなり、確認し終わったウィンドウへ再び視線を戻す。

邪魔になっているようだし、早く移動しなければと思うのに、体が動かない。心臓は大きく動いているのに。


「なんだ、ライ君じゃん。なんでそんな隅っこにいるの?」


名前を呼ばれて顔を上げ、そこにいた人物の顔を見て少しだけ緊張が緩む。


「……秋夜さん。ウィンドウ見るのに移動してただけだよ」

「ふぅん。あ、見てよこれ」


そう言って、秋夜さんはデスサイズを取り出して、刃の部分を俺の顔の前に突き出した。


「ここ、欠けちゃったんだよねぇ。修理してって頼んでくれない?」

「……良いけど」

「ありがと。よろしく伝えといてねぇ」


あくまで、俺ではない誰かに頼んでおいて欲しいと話す秋夜さんに、本当に律儀な人だなと思う。


「ところで、ライ君。次のイベントはクラン戦なわけだけど」

「そうだね」

「僕のクラン、入らない?」

「入らないよ。俺、これからクラン作るからね」


俺がそう答えると同時に、辺りから溜息や落胆の滲む声が聞こえてきたかと思うと、周囲の人達が離れて行った。

そんな様子に驚いていれば、秋夜さんが鼻で笑った。


「誰一人誘えないなんて、情けないねぇ」

「何が?」

「クラン勧誘。全員ライ君狙いでしょ」

「ああ、そういう……って、6人も一気に増えるのに」

「関係ないでしょ、君達は。そこらのプレイヤーより強いんだからさぁ」

「なるほど……俺の仲間は強いからね」

「はいはい。で、この後修理できる?」

「クラン設立した後ならね」


ログアウト予定時間までそう多く時間があるわけではないけど、クランを設立して、修理する時間はあるはずだ。


「じゃ、さっさと作ってきなよ。待ってるからさぁ」

「……家までくるの?」

「そりゃそうでしょ。他に受け取る方法ないし」

「メッセージ送って待ち合わせするとか……」

「どうしても僕とフレンドになりたいって言うなら、なってあげても良いけどねぇ」

「結構です。クラン、作ってくる」


律儀な人だけど、やはり余計な一言が多い人である。

愉快そうに笑う秋夜さんから離れて、受付へと向かう。


「すみません、クランを設立したいんですけど」

「ギルドカードはお持ちですか?」


鞄からギルドカードを取り出して、手渡す。


「えー……はい。確認しました。

 クラン設立には50万CZがこの場で必要ですが、大丈夫ですか?」


先に落札結果を確認しておいて良かった。

頷くと、受付のお姉さんはクランについての説明をしてくれた。


クランメンバーはクランレベル1だと10人。レベルが上がる毎に増える上限は2人。

つまり、クランレベル6らしい秋夜さんのクランには、20人ものクラメンが……と、思ったけど、俺達を誘ってくるところを見るに、上限いっぱいクラメンがいるわけではないのだろう。

断ると分かってて、聞いてきている可能性もあるけれど。


加入申請の承認や拒否、クラメンの脱退を行えるのはクランマスターとサブマスターのみ。

サブマスターを指定できるのはクランマスターのみで、サブマスターは必ずしも指定する必要はないとのことだ。

クランマスターは交代することも出来るが、それには再度申請を行う必要があり、手数料として20万CZが必要になる。

また、従魔はクランマスターとサブマスターになることはできない。


クランハウスやクランショップ等、クランメンバーが共有で使える施設は、クランレベルによって解放されるそうだ。

クランレベル1だとクラン倉庫とクラン金庫が購入できるらしい。倉庫と金庫はクラン特有の施設だそうで、個人で購入することはできない。

とは言え、レベル2でクランルームが購入できるそうなので、金庫はともかく、倉庫を利用する人はあまりいないとのことだ。

ちなみに個人で物件を購入する金額と比べると、手数料で大体2倍から3倍になってしまうらしい。

クランレベルが満たされていれば、現在所有している家や店舗をクラン所有にすることも出来るそうだが、手数料として差額を支払う必要があるようだ。


クランレベルが上がる毎の特典については、ウィンドウで確認できるらしく、今後レベルが上がった時に確認するように言われた。

その他、メンバー伝達……クランチャットの話や、テイムモンスターとサモンモンスターの差、クランレベルの上げ方、脱退、解散について等の説明を受けて、クラン説明は終わった。


「問題がなければ、クラン設立の登録をしますが、どうしますか?」

「うん、よろしくお願いします」

「それでは、ライ様をクランマスターとして、クランを設立しますね。

 クラン名は決まってますか? クラン名は後から変更できませんので、気を付けてくださいね」


お姉さんの言葉と共に、ウィンドウが現れる。

そこにはキーボードが表示されており、クラン名が入力できるようだ。

『百鬼夜行』と入力して、間違いがないか確認した後、『決定』の文字に触れる。


「はい。『百鬼夜行』ですね。こちらで登録させていただきます。

 それでは50万CZをお支払いください」


大きく『百鬼夜行』と表示されていたウィンドウが、支払い画面へと切り替わる。

『確認』の文字に触れると、『支払い完了』の文字が出て、ウィンドウは消えた。


「……はい。これで、クラン『百鬼夜行』の設立は完了です。

 他に何か質問はありますか?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとうございます」


お姉さんにお礼を告げて、受付から離れる。

ウィンドウを開くと、新たに『クラン』の文字が増えていた。

早速開いてみると、そこにはクランレベルと特典、メンバー一覧、クランマスター権限、それからメンバーチャットがあった。

残念ながらメンバーチャットはプレイヤーのみしか使えないそうなので、俺が使うことは……その内あれば良いなと思う。


ウィンドウを閉じて辺りを見渡せば、入口付近の椅子に座っている秋夜さんを見つけた。

何やらウィンドウを操作しているようだけれど、顔に暇だと書いてある。


「秋夜さん、お待たせ」

「遅い。長い。全部聞かなくても、ヘルプに大体書いてあるのに」

「そうなんだ? でも、文字で読むより聞いたほうがわかりやすいからなぁ」

「説明書とか読まないタイプ?」

「あー……そうかも」

「ふぅん。なるほどねぇ」


立ち上がった秋夜さんと共に、ギルドから出て家へ向かう。


「召喚石、成功したんだねぇ」

「うん。秋夜さんのお陰だよ。ありがとう」

「いーえ。あ、《魔除けの短剣》売ってくれない?」

「良いよ。参ノ国では使えないと思うけど」

「暫くはワイバーン相手にするつもりだから問題ないよ」


歩きながら取引ウィンドウを開いて……手を止める。値段のことを考えてなかった。

値段を決めるには、まず取引ウィンドウを一旦閉じて、オークションで買取額を確認して、それから何倍か決めて……ちょっと、面倒だな。


「あげる。召喚石のお礼ってことで」

「……ま、成功したみたいだし、貰おうかな」

「失敗しててもあげるけど」

「借りを作りたくはないからねぇ」


そう言って、秋夜さんはするりと指を動かした。

取引完了の文字が浮かび、ウィンドウが消える。


「どうも。次からは、面倒臭がってないで、値段決めなよ」

「……はい」


筒抜けである。おまけに忠告までされてしまった。


「一応言っとくけど、武器の修理もお金払うものだからねぇ」

「そうなんだ? いくらくらい?」

「人によるけど、まぁ、装備条件45の武器なら、平均5万くらいかなぁ。

 性能下がることもあるし、高くはないねぇ」

「修理で性能が下がることがあるんだね」

「まー、その点は気にしなくてよさそうだけど」


家の扉を潜り抜け、秋夜さんには椅子に座ってもらって、デスサイズを受け取る。

ジオンに渡すとすぐに作業を開始してくれた。


「次のデスサイズはいらないの?」

「それも考えたけど、ワイバーンを狩る分には問題ないしねぇ。

 15レベルくらいじゃ、そんなに変わんないでしょ」

「え、秋夜さん、レベル60もあるの?」

「60ちょうど。ライ君はどれくらいなの?」

「俺38だよ」

「そんなもんなの? 詐欺じゃん」

「詐欺って……まぁ、装備と仲間のお陰だね」

「ふぅん……65のデスサイズ、頼んどこうかな」


装備条件Lv65の武器を作るとなると、炉を作り変える必要がありそうだ。

今の俺なら、前よりもランクの高い炉を作ることが出来る。


「ジオン、鉱石の品質は大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ。それ以上となると、1つ上の品質が必要になりますが」

「そっか。それなら、よろしく。リーノもね」

「おう! どんな奴が使うのか分かったし、分かりやすいな!」

「そうですね。先日の戦いで、戦い方も見れましたし」


クラーケン戦の時に観察していたようだ。

確かに自分が作った装備をどんな人が使っているのか気になるのは頷ける。

俺も、ジオンとリーノの作った装備を見かけた時は、見てしまったし。


「ライさん、手入れ終わりましたよ」

「早いね。さすがジオン。ありがとう」


ジオンからデスサイズを受け取って、取引ウィンドウを開く。


「平均の5万CZで良いよ」

「へぇ。君達ならもっと高くて良いと思うけどねぇ」


50,000CZと入力されたのを確認して、取引を完了する。


「ありがと。それじゃ、デスサイズよろしくねぇ。

 その内取りに来るから」

「いない時もあるんだけど」

「ライ君なら探しやすいから大丈夫。またねぇ」

「えぇ……?」

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