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day68 お誘い行脚①

「グラーダさん、いますか?」


シアとレヴ以外の皆が釣りスキルを取得出来たのを合図に、今日の釣り、基、食材調達は終了した。

その後、カヴォロに夕食を振舞って貰って、街一番の鍛冶場へとカヴォロと共にやってきた。

現在の時刻は『CoUTime/day68/19:23』。作業場の貸し出し時間が19時までなので、閉まっているかとも思ったが、鍛冶場自体の営業終了は違う時間のようだ。


鍛冶場に入ったのは初めてのようで、カヴォロは物珍しそうにきょろきょろとしている。

以前来た時より、幾分か金属を打つ槌の音が少ない。あの時は猫の手も借りたい程に忙しそうだったし、今日のほうが通常なのだろう。


「何か用……ん? ジオンとリーノじゃねぇか。じゃ、そっちの兄ちゃんが、2人の主人か。

 今は生産依頼は出してなかったと思うが……」

「先日は2人がお世話になりました。今日は、グラーダさんに用があって」

「ほーん。あんたらなら、良いか。奥にいるぞ」

「ありがとう」


作業場以外の場所に立ち入れるのは、基本的にここで働く職人さん達だけなのだろう。

依頼で来たわけでもない俺達を、責任者であるグラーダさんの元へすんなり通すわけにはいかないようだ。


以前、生産依頼を受けて話しに来た時と同じ道を歩けば、グラーダさんの姿を見つけることが出来た。


「グラーダさん!」

「んあ? お、ライじゃねぇか。

 聞いたぜ? クラーケン相手に大活躍だったってな!

 この街を守ってくれてありがとう。こうしてまた営業できてんのも、あんたら異世界の旅人のお陰だ」

「へへ。皆凄かったよ。でも、守れて良かった」


豪快にわしわしと髪を撫でられ、少し照れつつ答える。

グラーダさんは手を止めると、俺達の顔を見渡した。


「うお、龍人か? 弐ノ国にいんのは珍しいな。

 ああ、いや、石工の村に1人いるって聞いたことあるな」

「俺の新しい仲間のフェルダです」

「ども。石工の村にいんのは、俺の弟だね」

「ほー……! それと、そっちの兄ちゃんは……友達か?」

「うん! 今日はそのことできたんだけど……」

「カヴォロだ。料理人をしている。

 3日後にレストランを開店するんだが、開店初日は招待客のみにするつもりなんだ。良ければ、来てほしい」

「俺を招待? 今日が初対面で、招待するような仲じゃねぇだろ」

「あんたの弟……アルダガも呼ぶつもりだ。来れるかはまだ、わからないが」

「アルダガ……もう随分顔見てねぇなぁ。祭りにも行けなかったし。

 しかし……異世界の旅人に交じって参加すんのはなぁ……」

「安心して良い。俺とライ、それからライの兄貴とそのパーティの3人以外はこの世界の住人だ」


兄ちゃん達以外のカヴォロの知り合いのプレイヤーは呼ばないのだろうか。

そう言えば、カヴォロが他のプレイヤーと接客や取引以外で話している姿はあまり見かけたことがないかもしれない。

露店広場にいる時はもちろん、先日のクラーケン戦の時も見なかった気がする。


「ほう? ライがそうだってのはアルダガから聞いてたが……あ! お前さんあれか!

 祭りの時の料理部門で優勝したってやつか! アルダガの手紙に書いてあったぜ。

 そりゃ是非とも味わいたいものだな。俺でよけりゃ、招待してくれ」

「ああ、是非きてくれ」

「楽しみにしてるぜ! アルダガにもなんとしてでも来いって伝えておいてくれ。

 金がねぇなら俺が払ってやるってな」

「あはは。うん、グラーダさんもくるって言っておくね」


のんびり話したいところだけど、他にも誘わなきゃいけない人がいるので、そろそろ出なければ。

アリーズ街から鉱山の村への往復の移動時間があるので、ログアウトまであまり時間がない。

夜の間に移動できれば、時間の心配はないけれど、夜は頭程ある蜘蛛が出現するので、勘弁願いたい。


「あ、グラーダさん。住居ID教えてくれないかな?

 この先、弐ノ国から出た後も連絡取りたいから」

「おう、良いぜ。ま、そうちょくちょく顔出しに来れるもんじゃねぇよなぁ。

 俺とアルダガだって、なかなか会えやしないんだから」

「俺も良いか?」

「おう。お前さんらのIDも教えてくれ」


俺は住居ID、カヴォロは店舗IDをグラーダさんに伝えて、グラーダさんからは住居IDを教えて貰った。

忘れないように、アイテムボックスから《アイテムの入った白狼皮の鞄》を取り出して……羽ペンと羊皮紙、それからギルドカードと地図の入った鞄だ。羊皮紙にメモをしておく。


狩りの予定もないし、肩から提げておこう。

メモした羊皮紙を鞄の中に戻して、グラーダさんに向き直る。


「それじゃあグラーダさん、また3日後に」

「おう。そん時、色々話そうぜ。ジオンとリーノの働きぶりについても話してぇしな」

「うん! またね」


笑顔で手を振って、鍛冶場を出る。


「カヴォロはこの後どうする? 俺はエルムさんの家に行く予定だけど」

「俺は、明日の朝牧場の村に行けるように、これから移動しておく」

「なるほど。牧場の村にも転移陣ないもんね」

「ああ。それじゃあ、悪いが他のやつらも頼んだ。またな」

「うん、またね」


アルダガさんのお店は閉まっている時間だし、ガヴィンさんは……窯元兼住居のようだったし、出かけていなければいるだろうが、夕飯時にお邪魔する程は仲良くなれていない……と、思う。

フェルダがいるのだから、遠慮しなくても良い気はするけれど。


ギルドへ向かい、転移陣でカプリコーン街へひとっ飛び。

エルムさんの家までは少し距離があるので、のんびり夜の街並みを眺めながら歩く。


「婆さん、今も弐ノ国に住んでんだな」

「フェルダも行ったことある?」

「ないね。親父は行ったことあるみたいだけど、婆さんが来ることが多かったね」

「エルムさんって結構アクティブだよね」


作業中の家からほぼ出ず、ご飯も平気で抜いちゃうような一面もあれば、俺の話をするためにあちこちに行くような一面もある。

先日、クラーケン戦の後に俺の家に来た時のエルムさんの様子を思い出して、笑みが零れる。


辿り着いたエルムさん宅のノッカーを叩けば、どうやら作業中だったようで、目元に真っ黒な隈を拵えたエルムさんが姿を見せた。


「わ、エルムさん大丈夫?」

「ああ……大丈夫さ。トーラス街にいる間、放置していた仕事を片付けてたんだ」

「そ、そうだったの?」

「気にしなくて良い。先程全て終わらせた」


扉を潜り抜け、リビングへと向かう。

初めてこの家に訪れた時のように、本があちこちに積み上がっており、倒さないように恐る恐る体を動かし、ソファに座った。


「それで、どうしたんだい?」

「カヴォロのレストラン開店のお披露目会のお誘いだよ。

 3日後なんだけど……どうかな?」

「ほう? この時間に君が来るのは珍しいから心配したが、なるほどな」


開店初日は招待客のみで、お祭りの時の人達を誘う予定であることを伝える。

他にもグラーダさんやガヴィンさん、それからカヴォロの知り合いの人達のことも伝えておく。


「ふむ。仕事も片付いたことだし、参加させてもらおうかね」

「やった! エルムさんがきてくれて嬉しいよ。

 ついこの間、カプリコーン街に帰ったばかりだし、難しいかなって思ってたんだ」

「はは。あの時の面子が集まると聞いて行かないわけにはいかないな。

 彼らは良い友人だ。この歳になって友人が出来るとは思っていなかったがね。

 魔道具職人としての私ではなく、個人としての私と付き合ってくれる者は少ない」

「そう言えば……人嫌いって聞いたことあるけど……」

「ああ……利己的な輩ばかり近付いてくるから、極力避けていたらそう言われるようになった。

 だがまぁ、嫌いなわけではないさ。良心的な客や取引のある職人連中とは、それなりに友好的な関係を築いていると思うぞ」


フェルダとも気心が知れた相手……とまではいかないでも、それなりに親交があるようだったし、その通りなのだろう。

伝説と呼ばれるエルムさんに近付きたい人はたくさんいるとも聞いたし、これまでにどんな人達がエルムさんに近付いてきたのかは、想像しかできないが、大変だったのだろう。


「そんなことより、あの爺にも伝えておこう。明日の朝すぐに文を出しておくよ」

「ありがとう。お爺さんの住居ID、俺も知りたいんだけど……聞いてみてくれる?

 カヴォロも知りたいって言ってたよ。エルムさんのも知りたいって」

「ああ、聞いておこう。私にもカヴォロのIDを教えてくれるかね?

 はは、異世界の旅人と手紙のやり取りをするなんて想像もしていなかったな」

「あー……そもそも、手紙でやり取りが出来るって知ってる人のほうが少ないと思う」


郵便局があって、それを俺達プレイヤーが使えること自体、あまり知られてなさそうだ。

郵便局の話を兄ちゃんにした時も、知らなかったと言っていた。

フレンドならメッセージでやり取りが出来るし、街で手紙を送る必要はない。

でも、メッセージではアイテムは送れないし、アイテムをすぐに配達できる宅配は便利だと思う。


「よし、開店祝いに何か送り付けるか」

「魔道具?」

「魔道具は君が用意してやれ。良い訓練になる。

 そうだな……よし、米にしよう」

「お米! そう言えば、全くないわけではないけど、お米の料理ってあんまり見かけたことないかも」


これまでに食べたのはオムライスとパエリア、おにぎりくらいだろうか。

カヴォロもお米がないと言っていた覚えがある。


「ああ、この辺りでは作ってないんだ。街でもほとんど売られていないし、君達は買えないだろうな。

 悪く思うなよ。君達に全てを回していては、私達が生活できなくなるからな」

「ううん。気にしてないよ。俺達がこの世界にお邪魔させてもらってるだけだしね」

「そう言ってくれると助かるよ。米は肆ノ国に行けば君達でも買えるはずだ。

 ふむ……そう言えば、君達は好きにスキルが取得できるんだったな。

 ならば、苗が良いか? カヴォロが農業スキル持ちに伝手があれば良いが」

「多分、カヴォロはそのうち農業始めるんじゃないかな……。

 トーラス街には畑がないから、今はできないだろうけど」

「だったら、参ノ国のテラ街が良いだろうな。あそこは農業と林業の街だ。

 辺り一面畑やら植林地が広がっている。住むにはちと不便な点もあるが、農業をするならもってこいだ」


参ノ国の街はどうやら星座の名前ではないようだ。

テラ……土かな? なるほど農業、林業の街か。


「トーラス街から船で行ける街?」

「いや、それはアクア街だ。アクア街の次の街がテラ街だな」

「そっか。まだまだ先になりそうだね」

「そうだな。カヴォロには米だけ送ることにしよう」

「おにぎり作ってもらわなきゃ」

「はは、おにぎりで良いのかい? それくらいなら、私が握ってやるぞ」

「エルムさんの手料理! 食べたい!」

「手料理って程でもなかろうに。まぁ、次に君が来た時にでも出してやるさ」

「やった! 楽しみにしてるね。

 あ、海苔も肆ノ国?」

「いや、海苔はアクア街の名産だな。

 トーラス街でも売ってるはずだが……君達に売りに出されているかはわからんな。

 何にせよ、親交を深めれば分けて貰えることもあるだろう」


そう言えば、カヴォロが小麦粉をクリントさんのお父さんに分けてもらったと言っていた。

銀食器もそうだったみたいだし。


「でも……アイテム目的で近付くのは気が引けるね」

「はは。私はそういう輩を突っぱねてきたからな。

 まぁ君もカヴォロも、それだけを目当てに近付くようなやつではないだろう。

 そもそも、異世界の旅人は警戒されているからな。そのような目的な者では親交は深められないだろう」

「あー……警戒されてるんだねぇ」

「ま、それは君達も同じじゃないのかい?

 ライやカヴォロ……それからレン達は違うようだがね」


警戒しているわけではないだろうけど、それを説明するのは憚れるので曖昧に頷いておく。


「おっと、もうこんな時間か。君、明日は早起きなんだろう?」

「わ、本当だ。それじゃあ、そろそろ……アリーズ街に行こうかな」

「ああ、気を付けて行ってこいよ。またな」

「うん! また、3日後!」


エルムさんの家から出て、ギルドへ向かう道中でカヴォロにメッセージを送っておく。

他の皆に会いに行くのは明日……午前中に回りきれると良いけれど。多少ログアウト時間が遅れても、大丈夫だろう。

参加できるかどうかは別として、皆に会えるのが楽しみだ。

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