day3 冒険者ギルド
両開きの扉を潜り抜けると、そこはプレイヤーで賑わっていた。
緊張しつつ、プレイヤーの間を抜けて受付へと向かう。
受付は全部で5つあり、そのうち3つは対応中だ。
並ぶ必要がなくて良かったとそのまま開いている受付の女性へ話しかける。
「アイテムの売却をしたいんだけど、登録が必要かな?」
「はい。冒険者登録をしていただけたら、売却の受付が可能となります。
冒険者登録をされますか?」
「うん。お願い」
「それではこちらの水晶に手を翳してください。
そちらは……従魔の方ですね。でしたら貴方だけで大丈夫です」
受付の女性はちらりとジオンを見た後、手に持った水晶をカウンターへと置いた。
手を翳すと水晶玉は一度ふわりと光った後、ぽんっと音を立てて一枚の羊皮紙へと変化した。
驚きから少しだけ目を見開いていると、受付の女性が羊皮紙を手に取り確認していく。
「ありがとうございます。
少々、お待ちください……はい、はい」
羊皮紙を確認している受付の女性を待つ。
恐らくステータスが書かれているのだろう。
「はい。問題ありません。
登録完了です」
受付の女性の発言と共に、今度は羊皮紙がカードへと変化した。
羊皮紙を確認している最中に一度目が細められたような気がしたが、問題はなかったようで安心する。
「こちら、ギルドカードとなっております。
クエスト受領時や達成時等、冒険者ギルド内での手続きに使用しますのでなくさないでくださいね」
差し出されたギルドカードを受け取り見てみる。
名前とレベル、それから職業が書かれているだけの、随分と簡素なものだ。
「早速売却いたしますか?」
「うん。お願いします」
武器屋で売却する時と同じく、取引ウィンドウが現れる。
素材を全て並べて『確認』を押す。
「納品依頼が達成ができるアイテムがありますので、そちらは一旦お返ししますね。
残りの素材の合計買い取り額は5,304CZです」
所持金が増えたことにほっと息を吐く。
これでジオンに苦労を掛けることはない。
「先程お返ししたアイテムで達成できる依頼を受領されますか?」
「よろしく」
「はい。それでは、『ポイズンラビットの角5個の納品』、『ポイズンラビットの爪5個の納品』、『ワイルドウルフの牙5個の納品』、『ワイルドウルフの毛皮10個の納品』の受領を確認しました」
自分で依頼を確認せずに処理してくれるのは大変ありがたい。
言われなければ普通に売っていただろうし。
「依頼達成数が2以上のものもありますので……報酬は7,110CZですね」
「そんなに?」
「はい。武器や防具にも使えますし、他にも使い道がたくさんありますので。
依頼を受領せず通常通りに売却すると依頼達成分の報酬はありませんので、依頼のあるアイテムは売却しないことをおすすめします」
もっと早くに冒険者ギルドの存在を知りたかったな。
まぁ、ホーンラビットの素材の納品依頼はなかったようだから、結局一緒か。
報酬を受け取ると所持金は12,715CZになり、随分と余裕ができた。
「この後のご予定は?」
「悩んでるところだけど、どうして?」
「ワイルドウルフの討伐依頼がありますので、もし夜も狩りを続けるのでしたら受領されてはどうでしょう?
納品依頼と違い、討伐依頼は受領してから討伐しないと達成できません」
「なるほどね」
時間を確認してみると『CoUTime/day3/22:08 - RWTime/22:01』。
ログアウト予定時間まではまだ余裕がある。
「ジオン、大丈夫?」
「えぇ。大丈夫ですよ」
「それじゃあ少しだけ狩りしようか。
討伐依頼を受けるよ」
「はい。『ワイルドウルフ10体の討伐』の受領を確認いたしました。
受領後、討伐数はギルドカードの裏面に表示されますのでご参考にしてください」
その言葉にギルドカードの裏面を確認してみると、先程まではなかった『ワイルドウルフ討伐数』という文字が書かれていた。
「色々ありがとう」
「いえ。お気をつけて」
受付の女性の言葉に笑顔で応える。
冒険者ギルドを後にした俺達は、ワイルドウルフの出現ポイントへと早足で向かった。
ジオンと一緒にワイルドウルフを1体ずつ倒していく。
HPは多いけど、毒にならない分ポイズンラビットより楽だ。
討伐依頼である10体を倒し終わった後も、狩りを続けているとレベルが8に上がった。
残念ながら今回はSTRは上がっていない。
それからも暫く狩りを続け、ジオンのレベルが上がった後、冒険者ギルドへ戻る。
随分と遅い時間なのでいないかと思ったけど、受付に先程の女性を見つけた。
夜勤だろうか。遅くまでお疲れ様です。
少しだけとは言え話したことがある相手のほうが気が楽だと、女性の受付に向かう。
「おかえりなさい。
依頼達成の報告ですか?」
「うん。それと、売却も」
「ワイルドウルフの納品依頼は先程ライ様が達成なさった2つがありますが受領しますか?」
「爪と毛皮か。それぞれ1回分かな」
「では、そちらも受領しておきましょう」
討伐依頼と納品依頼を達成した後、残った素材を売却する。
所持金は19,893CZとなった。
これなら初心者用ではなく上のランクの鍛冶道具を狙えるのではないだろうか。
「ギルドに鍛冶道具って売ってたりする?」
「はい。初心者用の鍛冶道具でしたら取り扱っておりますよ」
「初心者用じゃないものはない?」
「壱ノ国では初心者用以外の鍛冶道具は取り扱っておりませんね。
鍛冶スキルを取得する予定があるのですか?」
「ううん。ジオンが持ってるんだ」
視線をジオンに向ける。
「そうですか……鍛冶道具は重量もありますし、嵩張ります。
異世界の旅人達の持つアイテムボックスであれば問題ありませんが、ライ様が異世界へ帰っている間に彼が使用するのであれば、持ち運びが大変かと」
「確かに、言われてみれば炉とか必要なんだっけ? 鍛冶って」
「そうですね。持ち運べないことはないですが……些か骨が折れるのは事実ですね」
ジオンの答えを聞いた女性は小さく頷いて再び口を開く。
「ライ様は住居を購入または入手する予定はありますか?」
「住居?」
「はい。街で購入できる住居の他、クラン設立後に入手可能なクランルームやクランハウス等がありますね。
テイマーの方は宿代が多く掛かりますし、住居を購入する方が多いですよ」
確かに、テイムモンスターが増えてくると宿代はどんどん高くなるばかりだ。
俺の場合、次にテイムできるのがいつになるかはわからないけど。
「鍛冶道具を置いておくには最適かと」
「なるほど……ちなみにいくらくらいかな?」
「場所にもよりますが、最低でも100万CZは必要ですかね」
「それはすぐには無理だね」
いつかは購入したいけど、いつになるだろうか。
今のところジオンしかいないからそこまで問題はないけど。
「でしたら、鍛冶場を利用するのはいかがでしょう。
利用料金はかかりますが、鍛冶道具を使用することができます。
この街にある鍛冶場でしたら初心者用の鍛冶道具が用意されていますよ」
「弐ノ国にある鍛冶場だったら初心者用より上質な鍛冶道具になる?」
「詳しくはありませんが、恐らくそうかと」
これは良いことを聞けた。
今は鉱石もないし、目当ての鉱石は弐ノ国だ。
弐ノ国の鍛冶場に訪れてみるとしよう。
「ちなみにクランの設立って一人でもできる?」
「設立に50万CZが必要ですが、一人でも設立は可能です。
冒険者ギルドで設立することができますよ。
ただ、クランルームやクランハウスの入手には更に多くのお金が必要になるので、住居を購入したほうが良いかと思われます」
クランルームやクランハウスはクランのメンバーと集まるための場所だ。
クランのメンバーでお金を集めて入手するだろう。
住居目当てに一人で設立する必要はない。
「そっか。色々教えてくれてありがとう」
笑顔でお礼を言った後、冒険者ギルドから出て宿屋へ向かう。
宿屋の部屋に戻ると、ごろりとベッドに横になった。
「はー 今日は色々あったね。
しばらくあのふかふかは忘れられそうにないよ」
「ふふ。そうですね。
ですが、楽しかったです」
「そうだね。俺も楽しかったよ。
あ、そうだ。お金渡しておくね」
所持金が表示される場所の下にある『金銭アイテム化』アイコンに触れる。
ウィンドウに10,000CZと入力して『確認』を押すとぽんっと目の前に紙幣が1枚現れた。
「あ、そういえば、お財布持ってる?」
「持ってないですね」
「裸銭になっちゃうけど、ごめんね。
もし気になるならこれでお財布買ったらいいよ。
それか、鞄とか? 足りるかわからないけど」
「いえ……あの、こんなに貰って良いんですか?」
「いいよ。何が起きるかわからないし。
それに、ジオンが頑張ってくれたお陰だからね」
「それは……」
「いいからいいから。
それに、暇を潰せるものも結局渡せてないしさ」
ジオンは納得のいかない顔をしていたが、やがて困ったように笑って頷いた。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
「遠慮せずに使っていいからね。
ご飯もちゃんと3食取るように」
「そうですね。明日の朝は簡易食糧を食べて、その後は街で食べたいと思います」
「うん。美味しいものがあったら俺にも教えて」
「もちろん」
さて、お金も渡したし、そろそろログアウトしようかな。
「それじゃあ、ジオン、暫く間が空いちゃうけどごめんね」
「いえ。お帰りをお待ちしております」
「おやすみ、ジオン」
「おやすみなさい」
―――
名前:ライ Lv8 SP:25
種族:鬼神 職業:テイマーLv1
HP:65 MP:155
STR:3 INT:21
DEF:8 MND:13
DEX:10 AGI:10
『種族特性』
・百鬼夜行
・地獄の業火
『種族スキル』
【融合】【熔解】【魔操】
『職業スキル』
【テイム・百鬼夜行】Lv1
『戦闘スキル』
【刀術】
【刃斬】Lv2
『魔法スキル』
【黒炎属性】
【黒炎弾】Lv1
『スキル』
【鑑定】Lv5【魔力制御】Lv1
ジオン Lv6 ☆4ユニーク
種族:鬼人(氷鬼)
HP:220 MP:280
STR:25 INT:30
DEF:16 MND:12
DEX:27 AGI:23
『種族特性』
・雪華
『種族スキル』
【憤怒】Lv1
『戦闘スキル』
【氷晶魔刀術】
【氷晶魔刃斬】Lv2
『魔法スキル』
【氷晶属性】
【氷晶弾】Lv2
『スキル』
【鍛冶】Lv☆




