day61 新たな仲間
「と、言うわけで、改めまして、新たな仲間を祝してー……いただきます!」
トーラス街は未だ休業中の店も多く、なんとか見つけた露店で6人分のおにぎりを購入できた。
恐らくそろそろ元通りになるとは思うけれど。
「ごめんね、フェルダ。もっと良い物食べられたら良かったんだけど」
「別にいいよ。なんかもう……なんでも良い……」
「……ごめん。これからはあんな拉致みたいなことはしないから……」
「そうして……」
「うん。……最初のインパクトが凄すぎて碌に自己紹介できてなかったね」
「それ俺の台詞ね」
「一応名前は名乗りましたが、それ以外は全くですね」
皆で自己紹介をしながら、怒涛の展開で見るタイミングがなかったフェルダのステータス画面を開く。
フェルダ Lv1 ☆5ユニーク
種族:黒龍人
HP:350 MP:250
STR:32 INT:17
DEF:22 MND:21
DEX:30 AGI:28
『種族特性』
・黒雲白雨
『種族スキル』
【闇魔鉤爪術】
【闇魔裂断】Lv1
【黒龍の咆哮】Lv1
『戦闘スキル』
【格闘術】Lv1
『魔法スキル』
【闇属性】
【闇弾】Lv1
『スキル』
【石工】Lv☆【採掘】Lv1【鑑定】Lv1
☆5ユニークの文字に、驚愕する。
ステータスも高いし、スキルも多い。強い。
「黒龍人?」
「そ、元は龍人」
「黒龍人……!? 進化したんですか!?」
「ううん、変異。似てるけどね」
「ライさん! ライさんと同じ上位種族ですよ……!」
「そうなの!? 大丈夫!? いきなり倒れたりしない?」
「しないよ」
種族特性の『黒雲白雨』に触れて詳細を見る。
『攻撃力上昇。龍種または竜種に対する攻撃力上昇大。
魔物を撃退する毎に呪紋に黒龍の呪いを受ける。
魔物から逃れる事は出来ず、逃れれば膨大した呪いを受ける。』
メリットはわかるが、デメリットはやはりわかりにくい。
呪紋とはなんだろうか。呪いの紋様……左腕に絡みつくように描かれたタトゥーのことだろうか。
「呪いを受けたらどうなるの?」
「痛い」
「なるほど……動かせなくなるくらい?」
「そうでもないよ。限界越えたら無理だろうけど」
鉤爪の武器を持っている様子もないし、【闇魔鉤爪術】は恐らくその鋭く尖った長い爪を使って戦うのであろう。それから、【格闘術】も体術系のスキルだと思う。
動かせなくなったら困るのではないだろうか。
「戦って大丈夫なの?」
「問題ないよ。限界超えることなんて早々なかったし。
それに、暫く狩りしてないと結局呪い受ける。そっちのがきつい」
「なるほど」
魔物から逃れられないというのは、魔物の攻撃から避けられないとかそういうことではなく、呪いを受けないために狩りをやめても、魔物を倒した時以上の呪いを受けるということのようだ。
「暫くってどれくらい?」
「んー……よくわかんない。まちまち。
けど、1日、2日とかで出たことはないね。最短2週間ってとこかな」
メリットとデメリットが比例していない気がする。
書かれていること以上のデメリットがあるのか、それとも俺のようなデメリットはプレイヤーだけなのか。
考えてみれば、俺達は好きにスキルを覚えられるけど、この世界の人達は簡単には覚えられないようだし、種族によるスキルの制限を設ける必要がないのかもしれない。
「うーん……まぁ、フェルダがそう言うなら大丈夫なのかな。
あ、そうだ。石工用の道具を用意しなきゃね」
「嬉しいね。何作って欲しい?」
「コップ!」
「最初にそれなんだ……」
帰り道、飲み物を買って帰ろうかと思ったが、相変わらずコップが3人分しかないので、断念したのだ。
結果、おにぎりで乾杯することとなった。別にぶつけたりはしてないけれど。
「木のマグカップが3つしかないからね。
後は魔道具にできる石工品が欲しいな」
魔道具工房のお手伝いとコンロ大量生産のお陰で魔道具製造スキルのレベルが上がっているので、今ある炉等の魔道具より性能の高い魔道具が作れるようになっている。
それに、あと1上がれば10になるので、恐らく扱える素材の品質や魔道具の使用条件が変わるはずだ。
「細工と鍛冶に使ってる炉は、ちょっと弄れば良さそうだね」
「完成してる炉を弄れるの?」
「そりゃ弄れるよ。魔法陣だって描き直せるでしょ?」
「描き直せるの!? 完成させた後で!?」
「知らなかった?」
確かにシアとレヴも、鋳造で作った道具を調整することは可能だと言っていた。
とは言え、これまで装備や魔道具等を再利用したことはない。
「今持ってる刀を、次の装備条件に変えられるの?」
「出来ないことはありませんが、鍛冶ではほとんどしませんね。
アクセサリーでもしないのではないでしょうか」
「おう! アクセサリーでもしねぇな。
今以上のアクセサリーにするとなると、邪魔なくらい宝石付けなきゃいけなくなるし。
素材の品質を入れ替えるなら、1から作んのと変わんねぇからなー」
「ええ、武器も同じです。元の武器が邪魔になることも多いので……」
今の装備、例えば刀であれば、上の品質の玉鋼を追加して強くするということだろうか。
追加するとなると、形も変わりそうだし、重さも増えそうだ。
それをいつもの形や重さに調整したら、結局元にした刀の素材や品質、性能が混ざってしまう……と、いうことだろうか。
「石工品とか魔道具とか、鋳造品は……物によるか。
そういうのは、一部分だけ取り換えたりがやり易いからね」
「なるほど。確かに魔法陣だけとか、上の鉄板だけとか、できるよね」
「そ。特に炉は岩重ねてるだけだから。まぁ、くっついてはいるけど」
完成した魔法陣はごしごし拭っても消えないけど、何かやり方があるのかな。
今度エルムさんに聞いてみよう。
「コップなら轆轤が必要。素材も」
「粘土とか?」
「基本はね。石工で使う素材は砂、土、岩だって思ってたら良いよ。
種類とかは詳しくなきゃわかんないだろうし」
前にガヴィンさんも同じ言葉を言っていたのを思い出して兄弟なんだなと思う。
俺と兄ちゃんも同じ言葉を使っているのかな。自分ではわからないけど。
「轆轤は魔道具?」
「そう。自分で回しても良いけどね。
高い魔道具だと細かく回転の調整ができるらしいけど」
「へぇ~頑張ってみる! 土台とかは、何で作ったら良いの?」
「なんでも良いけど……俺が昔使ったことあるやつは、石工品だったね」
「なるほど。作れる?」
「素材と石工道具があればね。道具は鋳造で作れるよ」
「作る!」
「どんなのー?」
シアとレヴが嬉しそうにフェルダと話す姿を見ながら、2人は本当に鋳造が好きだなと思う。
「ライくん、いくつか型がないよ」
「んー……後で街で鋳型の元になる道具探してみようか。
トーラス街は……まだ、店開いてないし、石工の村ならあるかな?」
「道具用意してくれんのはありがたいけど、置く場所ある?」
「……ないね……中央の作業机片付けて、模様替えしたら置ける?」
「轆轤くらいならまぁ。石工スキルの素材って嵩張るからね。
陶芸の材料ならそこまで嵩張らないし、暫くは陶芸だけかな」
「うぅん……」
確かに手狭ではあるのだ。中央の作業机だって、完成品を置いたり、融合の時にも使っているので、なるべくなら残しておきたい。
それに、まさかこんなタイミングで仲間が増えるなんて想像もしていなかったので、ベッドの数も足りない。置く場所もない。
そもそも、この家を交換した時にはシアとレヴもいなかったし、次に仲間が増えるのはだいぶ後のことだろうと思っていた。
頭を悩ませていると、ピロンとメッセージが届く音が聞こえてきた。
誰だろうとメッセージボックスを開くと、そこには『Chronicle of Universe』の文字が書かれていた。
初めての事に驚きながらメッセージを開く。
『報酬の配布が完了致しましたことをお知らせします。
報酬内容については下記をご確認ください。
※参加の有無に関わらず、テイムモンスターやサモンモンスターへの報酬は配布されません。
ご理解のほどよろしくお願いいたします。
【大規模戦闘:侵攻の阻止】参加者
乗船チケット ×1
イベントポイント 2,000pt
【大規模戦闘:銀を喰らう者】参加者
イベントポイント 2,000pt
※ポイントにつきましては、『ポイント交換ウィンドウ』からご確認ください。』
「ナイスタイミング! 報酬が貰えたよ!」
「報酬?」
フェルダの疑問に皆で数日前の出来事を話しながら、早速ウィンドウを開く。
前回のイベントの時と同じく、ポイントとアイテムを交換できるようだ。
だったらまずはフェルダの防具と交換しよう。
「フェルダの防具交換をしよう」
「え、良いの? 俺、参加してないけど」
「良いよ。皆も良い?」
俺の言葉に全員が快く頷いてくれた。
「どんなのが良い?」
「あー……軽くて動きやすければ、なんでもいいかな」
「そっか。なら、オーダーメイドかな」
早速『防具一式オーダーメイド』と交換しようと指を動かして、その下に表示されていた『イベント防具強化:外套』の文字を見て指を止める。
その下にもずらりと上半身、下半身等が並んでおり、『イベント防具強化:一式オーダーメイド』の文字を見つけて顔を上げる。
「前交換したこの防具、強化できるみたいだよ。
半分の300ptでできるみたい。皆の分も交換しよう」
「おや。それは良いですね」
フェルダの『防具一式オーダーメイド』と『イベント防具強化:一式オーダーメイド』を5人分、交換する。全部で2,100ptだ。
それから、カタログ化ボタンを押して、カタログを机に広げる。
「石工道具の鋳型はここから3人で相談して選んでね」
「「はーい」」
さて、それでは妖精ちゃんを呼び出そう。
ポンっと音が鳴り、きらきらと光る粉が舞った。
「こんにちは、ライ様! またお会いできて嬉しいです!」
「良かった。違う人だったら寂しいなって思ってたんだ」
「私はライ様の担当ですので!
他に担当している旅人様と予定が重ならない限りは私がきます!」
「担当とかあったんだ?」
「はい! 基本的には、この世界へ渡るためのお手伝いをした方の……おっと」
「何も聞いてないよ」
相変わらずな妖精ちゃんに笑みが零れる。
「はい! 『防具一式オーダーメイド』ですよね!
『イベント防具強化:一式オーダーメイド』も一緒に対応できますが、どうしますか?」
「そうなんだ? じゃあ、よろしくお願いします」
「了解致しました! それでは皆様のステータスを確認致します。
えー……フェルダ様の防具のご要望はございますか?」
「軽くて動きやすいもので、後はお任せで」
「了解致しました! それでは、これより防具の作成を開始します」
防具が完成するまで、時間が掛かるのだろう。妖精ちゃんはきょろきょろと辺りを見渡した。
「すごいですね~! たくさんの生産道具が揃ってます!」
「生産が得意な仲間がきてくれたからね。
でも、手狭になってきて困ってたところだよ」
「なるほどー……増築してみてはどうでしょう?」
「出来るの?」
「ギルドで受付してますよ! 詳しくはギルドで聞いてみてください!」
「なるほど……あとでギルドに行ってみるよ」
「はい! あ! 防具が完成しました!
早速装備の変更をしますか?」
「フェルダ、装備変わるよ」
「ん、わかった」
フェルダの返事を聞いて、妖精ちゃんに向かって頷く。
妖精ちゃんがぱちんと手を叩くと、俺達の装備がエフェクトに包まれた。
やがてエフェクトが消えると、元の防具を強化しただけの俺達の見た目に変化はなかったが、フェルダの防具はがらりと変わっていた。
七分丈で折られた部分だけ黒色で、他は白色のカッターシャツの上には、黒色のカマーベスト。
濃いグレーのパンツの上から、フェルダの前髪と良く似た色の市松模様の布……ストールと言うのだろうか。先になるにつれて暗い色へグラデーションされたストールが、左腰に巻かれている。
襟足が長く、前髪とサイドだけメッシュのように濃い青碧色をしていて、左腕から手の甲までタトゥーが巻き付き、眉尻と口、それから耳についたたくさんのピアスだけでなく、他にも指輪、ネックレス、ブレスレットを付けているフェルダの姿から、パンクな感じの防具になるのかと予想していたけれど、フォーマルな装いだ。
でも、寛げられた襟元や、髪型やアクセサリー、左腕から見えるタトゥーによって、堅い印象は受けない。
「格好良い! わー……! スタイル良いなぁ……!」
「ありがと」
「凄くお似合いですよ!
前の防具はどう致しますか? 引き取りますか?」
「どうする?」
「いらないかな」
「そっか。妖精ちゃん、引き取ってもらえるかな?」
「はい! それでは引き取りますね~!
ではでは! 名残惜しいですが、これで案内は終了です。
またお会いしましょう!」
ポンっという音と共に、妖精ちゃんはいなくなった。
きっとまた会えるだろう。