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*エーデルシュタインの恋人

グレンがハイデルベルクから帰ってくる前。両想いになった二人がいちゃついてるだけの小話です。


「あ、そうだわ。叔父さまが戻ってくる前に、美術品の整理をしたいの」


 昼食の席でメリルローザがそんなことを口にした。

 旬のキノコの(ラーム・)ブラウンソース煮込み(プフィッファリンゲ)を口に運びながら、「美術品の整理?」と訊ねる。

 メリルローザの付き合いで人間の食事をとるようになったが、これはこれで悪くない。だが、ヴァンの好みとしては野菜料理よりも肉料理のほうが好きだ。夕食は肉が食べたい。


「ええ。最初にあなたと会った部屋よ。とりあえず買い取った品がたくさんあるから、時間があるときに見ておいてって頼まれているの」


 ハイデルベルクにグレンを置いてきたため、メリルローザの仕事は薔薇園の手入れくらいしかやることがない。新しい浄化の依頼も、社交の付き合いもない今のうちに片付けておこうと思ったのだろう。


「……あの部屋か。あの部屋はまだ最近のものが多いな」

「どういう意味?」

「もっと古い品は別の部屋に置いてある。一階の端の物置もそうだし、三階にもあったな」

「うそ、そんなにたくさんあるの?」


 ヴァンの能力が使えなかった間、とりあえず買い上げては物置に突っ込んでいたらしい。不要な物を売れば一財産出来るだろう。


「……でも、少しずつやるしかないわよね」


 グレンが積極的に片付けようとしないので、メリルローザがやらねば多分ずっとそのままだ。自分がやらなくては、と使命感に燃えるメリルローザに、午後から付き合わされることは決定事項のようだった。






 とりあえずヴァンがいた部屋から手をつけることにしたらしい。分厚いカーテンと窓を開け、こもった空気を追い出す。


「……ぱっと身じゃわからないようになっているのね」


 はじめて浄化した十字架のように、どの品もケースに納められているので、開けてみないと呪われているかどうかわからない。使われていないテーブルは完全に物置になっており、薄高く積まれた箱の山に手を伸ばした。


 変な民族衣装を着た木の人形や、髑髏や蛇に巻き付かれた水晶玉。どれもこれも呪われてはいないがらくただ。


「地道にやるしかないわね」

「……見つけたらすぐ浄化するのか?」

「ええ」


 だったら、とメリルローザに手を伸ばす。先に対価を貰わないといけない。


「……もらうぞ?」

「……ええ」


 メリルローザがぎゅっと目を瞑るものだから、そのまま口付けたくなった。啄むように唇に触れると、ぱっと目を開けたメリルローザが怒った顔をする。


「だめ。仕事しなきゃ」


 仕方がない。

 メリルローザの首筋に歯を立てると、小さくこらえる声が聞こえる。視線を下にさげると、胸元につけたキスマークがだいぶ薄くなってきていた。新しい花を咲かせないといけないな、と血を吸いながらメリルローザの腰に手を回す。


 ――人間のメリルローザと恋仲になって、ヴァンはすっかり彼女との情事に「はまった」。


 長い時を生きてきたが知らないことはたくさんあるものだ。

 キスをするという行為が心地良い苦しみを生むということ。肌と肌を触れあわせる行為があんなにも激流のような感情を連れてくるということ。

 そして、腕の中にいるメリルローザが泣いたり、赤くなったり、甘えてきたり、物凄くかわいい表情を見せること。


 永遠に触れ合っていても多分飽きない。

 しかし、せっかくの楽しい時間も、情事にばかり耽っているわけにはいかないとメリルローザに叱られてしまった。


「ヴァン……っ」


 メリルローザにぎゅっとしがみつかれれば、血を吸うだけでは物足りなくなってくる。

 ヴァンの術でとろんとした顔のメリルローザの唇を奪うと、今度は怒られなかった。


「んう、っ、だめ、だってば……」

「いいだろ。少しくらい」

「あ、どこ触って……」


 スカートの上から柔らかい身体を撫でると、メリルローザがびくんとヴァンの腕の中で反応する。そんな仕草も、


「……誘ってるようにしか見えない」

「ちが……っ」


 にやりと笑うヴァンに、メリルローザは恥ずかしがって顔を背ける。


「いいだろ。どうせあいつもしばらく帰ってこないんだし」

「ど、して言い切れるのよ……」

「なんとなく」


 グレンも恋人だという女とこうして遊んでいるに違いない。そんな様子が容易に想像できた。

 どうせ帰ってきたら、真面目なメリルローザは今以上にガードが固くなる。


 邪魔者のいないうちにたっぷりと。愛し合うことの喜びをメリルローザに教えて欲しい。


 結局、なし崩しのようにヴァンのペースに持ち込まれ、「全然進まなかった」とメリルローザに叱られることになるのだが、そんな時間もヴァンにとっては楽しいものだった。

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