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【コミカライズ】エーデルシュタインの恋人  作者: 深見アキ
第三章 黒い宝石と城のある街
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11、呪われた一族

 

 図書館や博物館、学生牢がある広場では多くの人が銘々の時間を過ごしていた。ベンチで読書をする人や、慌ただしく大学へ向かう学生など、互いの動向はあまり気にされていない。

 指定の時間よりも早くついたが、ディアナはそれよりももっと早く待っていた。化粧もせず、長い栗色の髪をひとつに束ねただけのそっけない出で立ちだが、きりりとした面長の美人だ。

 メリルローザとヴァン、その後ろにグレンがいることは予想通りだったのだろう。三人を見て、寄りかかっていた壁から身を起こした。


「昨日はマリウスが危険な目にあわせてしまったみたいで……ごめんなさい。わたしはマリウスの姉のディアナです」

「わたしはメリルローザ・キースリング、彼はヴァンです」


 そう自己紹介したメリルローザに、ディアナは複雑そうな顔を見せた。


「あの、あなたは、グレンの……」

「娘だよ」


 そう口を挟んだグレンにディアナの顔は強張る。


「……そう。こんなに大きな娘さんがいるなんて知らなかったわ」

「わたしは養女です。叔父さまは亡くなった母の弟で、少し前にキースリング姓になりました」


 隠し子扱いされては困ると慌てて言い添えた。あっけなくばらされ、グレンは肩をすくめている。


 彼女からしてみれば、グレンが妻子持ちで、自分は旅先の都合のいい女だったのかもしれないと疑っていたのかもしれない。

 ディアナが目に見えてほっとしたような顔をしたので、もしかしてまだ叔父さまのことを想っているのかしら、なんていい方向に考えてしまう。


「ディアナ、ちゃんと説明してくれるかい? 君とマリウス君は一体何をしているんだ?」


 ディアナはグレンから視線を外すと、観念したように口を開いた。


「わたしの家は、呪われた品を産み出していた一族なの。代々、美術の道に進んできた我が家の品が、買われた先で不幸を起こしているという話は聞いていた。でも、全部が全部不幸を引き起こしているわけじゃない。……ただの偶然だと思っていたわ」


 あの絵を買ったら呪われた、なんてやっかみや風評被害だと思っていたとディアナは言う。

 何しろ、一族の作品となれば膨大な量だ。全てにおいて不幸を起こしているのならともかく、何百とある作品のうち、いくつかは買われて行った先で不幸が起こることだってあるだろう、と。


「でも、そうじゃなかったの。祖父や、わたしの知らない先祖たちは、故意に呪われた品を作っていた。お金で頼まれて、政敵や気に入らない人物を排するために」

「その力を持っているのが、あの屋敷にあるブラックダイヤモンドなんですね」


 メリルローザの言葉に、ディアナはギクリとした顔をした。


「どうして、それを? マリウスがあなたに話したの?」

「いえ。(ヴァン)は精霊なんです。わたしは、彼の力を借りて呪われた品を浄化しているんです」


 いきなり精霊だと言われても信じられないかもしれませんが、とメリルローザが付け足すと、ディアナは首を振った。


「ブラックダイヤモンドは人目につかないように厳重に隠してあるの。マリウスが話したのでなければ、誰も知るはずがないわ。……それこそ、精霊でもないかぎりね」

「ディアナ、ブラックダイヤモンドは危険だ。昨日のマリウス君の様子からして、あの石はかなり強大なパワーを持っているね」

「ええ。わかっている。祖父はあの石に魅入られて非業の死を遂げたわ」


 ディアナは自身の身体を抱きしめるように、両腕を回した。


「わたしは気味が悪くてあの家を出て一人暮らしをはじめたの。そこで、グレンと恋に落ちて、このままこの街を出るのもいいって思っていた。ブラックダイヤモンドは母が厳重に鍵をかけて地下にしまったわ。……でも、あのダイヤは幼いマリウスを呼んで、鍵を開けさせた」


 自分が家にいれば、マリウスがダイヤに触れることはなかったかもしれない。ディアナは後悔したそうだ。

 ダイヤはマリウスの心を喰い、呪いを生み出すようになった。前の持ち主だった祖父も、ダイヤの欲望に飲み込まれるように自分の意思とは関係なく、絵に呪いの力を込めるようになったらしい。


「……どうして、三年前に僕に相談してくれなかったんだ?」

「あなたはいわくつきの品を集めているっていっていたけれど、ブラックダイヤの力は本物だわ。あなたが心を喰われてしまうかもしれない。……自分だけ、呪いから逃げようとしたバチが当たったんだと思ったわ」


 でも、とディアナは弱々しく笑った。


「マリウスが呪いをかけたカードを、ローズクォーツの宝石の箱に忍ばせて売ったのはわたしよ。もしかしたら、あなたが買い取るんじゃないかって、どこかで期待していたのかもね」


 そのせいで別の誰かが不幸に巻き込まれるとわかっていたけれど、出さずにはいられなかったSOSなのだろう。

 ごめんなさい、とディアナは頭を下げた。


「……ヴァン、ブラックダイヤモンドにも精霊はいるの?」

「いない。あれは人の心をエネルギーにして生きる宝石だ。だから……浄化をしても、いずれまたダイヤに近付くものが現れたら、その心を奪うかもしれない」


 浄化をしても一時しのぎにしかならないかもしれないということだ。


「――燃やしてしまうのはどうだい?」


 グレンがぽつりと呟く。


「燃やすって……宝石をですか?」

「ダイヤモンドは炭素の結晶だ。僕たちが普段使っている炎じゃ燃えきらないかもしれないが――ヴァン、君なら出来るんじゃないかい?」


 ヴァンの司る力は『浄化』と――『炎』だ。

 ヴァンを見ると「出来る」と頷いた。


「待って。あのダイヤを燃やしてしまったら、マリウスはどうなるの?」


 ディアナが問う。

 マリウスの心はダイヤに乗っ取られているのだ。ヴァンは難しい顔をした。


「……わからない。人間としての肉体は残る。ただ、ダイヤが喰った心は元には戻らない。喰われていない部分がどれくらい残っているかによる……と思う」

「それは、マリウス君が廃人のようになってしまうという可能性もあるということかい?」


 言いにくいことをはっきりと聞いたグレンに、ヴァンもそうだと頷いた。


 マリウスが助からない可能性があるのなら別の方法を考えるべきかもしれない。

 メリルローザとグレンは視線を交わしたが、ディアナはヴァンを真っ直ぐ見据えた。


「あのダイヤを、燃やしてください」

「……いいのか?」

「このままにしていても、いずれマリウスはあのダイヤに心を喰い尽くされてしまう。そうなれば祖父と同じだわ。……きちんと、終わらせなくてはいけない」


 唇を噛みしめてディアナはそう言う。

 ダイヤの呪縛からマリウスを解放してあげたい。ディアナの顔から迷いは消えていた。

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