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【コミカライズ】エーデルシュタインの恋人  作者: 深見アキ
第二章 青い宝石と大叔母の部屋
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3、お約束的展開?


「お・は・よ、メリルローザ」


 顔がくっつきそうな距離で、色っぽく囁く声。

 目覚めたメリルローザは、至近距離にあるフロウの顔にたまらず悲鳴を上げた。


「やだぁ、そんなに驚かないでよ。でもその反応、新鮮でいいわね」


 フロウが頬に手をあてて、メリルローザの様子を観察している。

 メリルローザの叫び声を聞いて、言わんこっちゃない、と部屋のドアから顔を出したのはヴァンだ。一応様子を見に来たらしいが……メリルローザはヴァンに向かって枕を投げた。思い切り顔に命中してしまい、ヴァンがむっとした顔をする。


「…………おい?」

「だ、だって、あなたがノックもなしに入ってくるからっ」


 シーツを引き上げて乱れた寝間着を隠す。


「そうよぉ、ヴァン。乙女の部屋に許可なく入ってくるなんて失礼よ。出ていきなさい」


 そう言ってフロウはクローゼットを開けた。ご機嫌に鼻歌をうたいながら、メリルローザの私服を物色する。


「ねっ、メリルローザ。このワンピース可愛いわ、着てみてちょうだい! でも、こっちのスカートも捨てがたいわね」

「……あいつは好き勝手していいのか?」

「だっ、だめに決まってるでしょ、ちょっとフロウっ」


 あれこれ洋服を出しては、鏡の前で組み合わせて楽しそうにしている。

 メリルローザが制止する前に、フロウの手が服とは別の小さな籠にかかり、


「……あらやだ、随分大人っぽい下着ねぇ……」


 呟く声に、メリルローザは赤面した。


「もう! 二人とも出ていってちょうだい!!!」


 叫ぶなりフロウとヴァンを追い出して扉をバタンとしめる。


 毎朝こんな調子ではやっていられない。

 メリルローザは、フロウにも勝手に部屋に入って来ないでと厳命した。



 *



「おはよう、メリルローザ。朝から随分騒がしかったね」

「……すみません、叔父さま」


 朝食の席でグレンが爽やかに微笑む。昨夜は少し疲れていたようだが、一晩休んですっかり調子を取り戻したらしい。

 対するメリルローザは朝からぐったりだ。あたたかい紅茶を飲んでようやくひと息つく。


「叔父さま、実は昨夜、大叔母さまの部屋に行って……」


 一応グレンの許可はとっておいたほうがいいだろうと、メリルローザはハンカチに包んだブルーフローライトと、その精霊・フロウと会ったことを話した。


 ヴァンとは姿が見えなくても話をしたりしていたグレンも、フロウの存在は知らなかったらしい。大叔母は秘密が多い人だったからね、とくすりと笑った。


「僕も見てもいいかい?」

「ええ」


 グレンがフローライトを手にとる。


「保存状態もいいし、色合いもとても綺麗だね。発想力や思考力を高める石――『天才の石』なんて呼ばれている宝石だね」

「天才の石、ですか」


 テンションの高いフロウの姿を見ているだけに、天才という単語とはうまく結びつかない。いや、あの奇抜な格好はある意味突き抜けた発想力なのかも……。


「あとは……フロウという名前の通り、流れる力で負の感情を洗い流してくれる石。癒しの石だね」


 グレンの解説に、


「詳しいのねぇ。それに、なかなかいい男に育ったじゃない」


 フローライトから現れたフロウが品定めをするようにグレンに顔を寄せた。

 いきなり現れたフロウにグレンは驚かず――いや、声も姿も確認出来ていないようだった。「はい、ありがとう」とメリルローザに宝石を返す。


「叔父さま、フロウが見えないの?」

「うん? ここにいるのかい?」


 グレンが検討違いの方向を見る。フロウは「こっちよ?」なんてウィンクしてみせているが、やはりグレンの目にはうつっていないようだった。


「あ……そっか。契約してないから……?」

「んーん。アタシは恥ずかしがり屋さんなの。契約しても、契約者以外の前には姿を現さないわ」

「……残念ながら僕には見えないようだね。メリルローザは、フローライトとも契約するつもりなのかい?」

「……いえ、それは……まだ」


 歯切れの悪いメリルローザに、グレンは「まあ君が決めることだからね」とあっさり話を畳む。

 フロウの力は『サードアイ』。もし、力を借りることが出来れば、呪われている品を見つけ出すのにも役に立つだろう。


「叔父さまは……わたしがフロウと契約したほうが助かりますよね?」


 うん、そうだね。……と。

 グレンがそう言ったなら、メリルローザは決断出来たかもしれない。誰かに、背中を押して欲しくて。

 そんな気持ちは、グレンにはお見通しだったらしい。珈琲に口をつけたグレンは、直接メリルローザの質問には答えなかった。


「僕はね、大叔母に言ったんだ。僕は僕に出来る範囲のことしかしない。あくまで僕は、つなぎでしかないから」

「つなぎ?」

「呪いを浄化するのはヴァンとその持ち主――つまり君のことだ。大叔母の仕事の後を正式に継ぐ、という意味では僕は当てはまっていない」


 浄化の力を使うために、メリルローザとヴァンを引き合わせた。言い方は悪いけれど、君たちを便利に使っているということだ、と言った。


「僕に出来るのは、呪われたと言われている品を買い取って、君たちに浄化してもらうことだ。それ以上を望むつもりはないよ」


 グレンはグレンの分かる範囲で呪いを探すが、大叔母のように――昨夜ヴァンとフロウが言っていたように、「まあ大変!」と呪いの元に駆けつけるようなお人好しではないと言いたいらしい。


「でも……、わたしを養女にしたということは、いずれ叔父さまの後をわたしが継ぐということでは……?」

「そこまで強制する気はないよ。君がお嫁にいくときは喜んで送りだすし、その時はその時でまた考えるさ」


 その時はその時。もし、メリルローザがこの家を出ていくときがくれば、新しい誰かがヴァンの持ち主になるということだろうか。


 レッドスピネルを手放すことを想像すると、何故だかメリルローザの胸は痛んだ。それなりに一緒に過ごして絆されちゃったのかしら、と胸元に輝くレッドスピネルに触れる。


 結局のところ、フロウとの契約をどうするのかはメリルローザ自身が決めなくてはいけない。

 フロウもグレンもその決断を肩代わりしてくれない。


 もし、フロウと契約を結んだら――その時は、メリルローザが大叔母の後継者となるのだろうか。そんな未来を、漠然と想像した。

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