空と海の王国と、ジョーのカレー。
(あらすじに同じ)
空と海は平和に接し、エア・キングダム号の危なっかしいエンジンに今日も火が入る。特別なクジラ「歌姫」に想いを馳せるパイロットと研究者たちの日常。昼食の献立はカレー。しかし一抹の不穏さが過ぎる。
歌が聴こえる。弦楽器の唸るような音がメロディを奏で、そこには俺の知らない言葉が綴られている。闇の中で水面が盛り上がり、その下には巨大な一面が、水の膜に包まれて薄ぼんやりと光っているように見える。太古から雨に洗われている神殿の柱のような色だ。
俺はそれと並んで、暗い海面のようにどこまでも続く静かな水の上の低空を滑るように進んでいる。乗り馴れたエア・キンングダム号は妙に静かで、壊れてしまったのかと思うほどだ。けれども失速感はなく、むしろ今までのいつよりも調子が良さそうに暗い空を飛んでいる。インカムからジョーの声がする。
「見て! 方角四時!」
操縦に障らぬよう注意して体をひねると、巨大なものの少し後ろについて小さなものが、同じように水面下ギリギリを進んでいるのが見える。大きなものよりもずっと濃い灰色をしていて、暗い中では一層姿が見づらい。
「あれは、歌姫の⋯⋯?」
そちらに近づこうとした時に、バタンと音がして俺の夢は覚めた。
扉が開いて廊下の空気が部屋に流れ込んでいる。俺は横になったまま頭だけドアの方に向けた。開いた船室のドアに手を掛けて、メイがそこに立っていた。小柄な彼女は海洋研究者だ。シャツにジーンズのラフな格好の上に、船員たちに支給されているジャンパーを羽織っていた。俺は眠たい頭の中を徐々に回していきながら彼女に文句を言った。
「ノックくらいしてくれよ」
彼女は赤いフレームのメガネの向こうで目を伏せながら言った。
「何度もしたわよ。それより ねぇ、歌姫が鳴いたわ。すぐ近くよ」
「あんたらの感覚で、簡単に近いとか言うなよ。500キロはあるんだろう」
彼女は目を閉じたまま答えた。
「150を切ってるわ。このままの進路だと、10分後に最接近。そのあと振り切られてしまうでしょうけどね」
俺は口笛を鳴らした。
「そりゃ近い。オーケー、トロい船の代わりに飛んでやるよ。⋯⋯ねえ、今日の献立って分かる?」
「昼はカレーよ、カレーライス。朝は悪いけど、ハムとレタスのサンドイッチ持って飛んで。魔法瓶にコーヒー入れてあげるから。それと⋯⋯」
「それと?」
俺はベッドの上に身体を起こしながら聞いた。彼女は一瞬だけ目を開けたが、短く叫んで手のひらを顔の前に開いた。
「寝るときは何か着るか、ノックしたらすぐに起きるかして!」
「無茶いうな」
彼女は転がっていた木のドアストッパーを拾ってこっちに投げた。
「バカ! 早く飛んでけ!」
あぁ、俺たちの飛行機は速いぜ?
俺たちというのは、俺と観測士のジョーのことだ。前の戦争で別々の国からやってきた義勇軍飛行隊としてコンビを組み、なんとか生き延びるうちに意気投合、今は国際海洋研究隊の遣いっ走りだ。
コンビ⋯⋯いや、トリオだな。先の戦争では、小国に掻き集められた飛行機のスクラップ部品の中から、勇敢なツギハギの飛行機たちが何機も飛び立った。俺たちのエア・キングダム号 水上偵察機は、その中でも指折りの快速機だ。俺とジョーよりも歳上の機体から錆びついたアンティークエンジンを取り払い、代わりに耐熱合金を使った実験用ジェットエンジンのストック供与品が奢られている。
「それしか今ないって、ホントにそれしかないのかよ⁉︎」
とは、設計計画をたまたま耳にして驚いた俺の弁。すぐにバラバラになると思っていたが、腕のいい技術者がタービンの圧縮を下げて安定化、ついでに低燃費化を狙った改造を施し(バーナーとハンマーによる家内手工業だ)、数年が経った今も快速で飛び回っている。祖国の危機と技術者の愛国心が生み出した奇跡の鋼鳥だ。実測最高726km/h 技師は800まで保証するというが、そんなもの試すのに命を賭けるのはゴメンだ。
猜疑心を抑え、一応の敬意と祈念を込めて俺たちはそれをエア・キングダム号と呼び、自腹でペンキを買って飾り文字の号称も描いた。描いたのはジョーだ。彼には芸術の才能があると思う。これはホント。
俺がすっかり頭を覚まして甲板に出ると、キングダム号はエンジンマウントにクレーン・フックが掛けられ、調査船の軌道台から海面に降ろす支度ができたところだった。クレーンとレールの周りでクルーが行き来している。小さな調査船で密閉格納ができないのは玉に傷だったが、鉄パイプの溶接と羽布の巨大な裁縫で作られた折りたたみ式テントを用意してくれた研究隊工作部には感謝している。
観測士のジョーは後部観測席に収まって点検をしていた。横目に俺の姿を見つけたのだろう。わざと大きな声でジョーは言った。
「サンドイッチよし、コーヒーよし、バッテリー電圧よし。あと足りないものはなんだー?」
「パイロットだよ! 置いてけるもんなら置いてってみろ!」
ジョーは操縦席にも朝食の入ったバスケットを運び込んでくれていた。ベルトラックにバッチリと固定されている。俺は操縦席に飛び乗ると振り返ってジョーに親指を立て、通電スイッチが入れられた計器版を確かめてからクレーン操作のクルーにも親指を立ててサインした。ディーゼル・ウィンチが唸りを上げ、ケーブルはピンと張って海上の風に唸った。キングダム号はゆっくり吊り下げられて海面に降りる。革に機械を縫い付けたヘルメットを被り、俺はインカムの端子を計器版につないだ。
「こちらMk.K おいメイ、メイ聴こえるか?」
衣擦れのような音がして、コイルを通したメイの声が聞こえた。
『こちら観測船室メイ。感度よし。信号確認』
俺が計器版の端のスイッチを入れると、耳障りな電子音がビュウビュウと鳴った。生体追跡用の発信器を改造した帰り道案内器だ。観測船との距離と方角を大雑把に示す。
「信号よし。自慢の水中マイクが歌を拾ったのはどっちだ?」
ポケットの手帳をとって、まず機内コンパスの指す数字を書き込む。
『いい? 言うわよ⋯⋯』
メイの言う方角と距離の数字を書き込む。インカムのスイッチを切り替え、数値をジョーに伝達。今度はジョーが計算してメイに座標を確認。伝言ゲームで伝達を確かめる。
発信のたびに毎度繰り返される瑣末な手順だ。だが俺は、こういうのが一つずつ片付いていくのは割に好きだ。機体が海面に降りるとクレーンとワイヤーは戻され、エンジンにはバッテリーから電気が送り込まれてタービンが回り始める。潮の香りにわずかにオイルのそれが混じり、インテークの奥でタービンが空気を押し回す音が高まる。回転計の針がゆっくりと持ち上がり始め、その先が白のマーカーで書き込んだ印に達すると、俺はジョーが後ろから見ているはずの空間に手を上げてパタリと倒した。同時にバーナープラグのスイッチをガチリと押し込む。風の回る音に火の吹き出る高い音が混じり、煤の焼ける辛い匂いが一瞬だけ流れ、エア・キングダム号は海面をゆっくりと進み始める。
甲板のクルーと手を振り合ってからスロットルを押し込むと、軽量で水面抗力の少ないエア・キングダム号は吸い込まれるようにして速度を上げ、最後の波頭をひと蹴りすると空中に浮かび上がった。海の下にクジラたちの王国があるのなら、空の王国もまた、エア・キングダム号をその国民として含んでいるはずなのだ。「おはよう」と、遠くに浮かぶ雲が笑った気がした。
『ジス ラン イズ ヨ〜ラン♪ ジス ラン イズ マ〜イ ラン♪(この国は君のものだし、この国は僕のものなんだ)』
三時間半後、エア・キングダム号の操縦桿を握る俺の耳には、後部観測席に座るジョーの歌がインカムを通して聴こえていた。ジョーが持ち込んでいるカセットのポータブル・プレーヤーの音楽と、風がマイクに切りつけるズーズーというノイズも。
結局、その日の出動は空振りに終わった。しかしこれは、がっかりすることでもない。空からクジラを認められる日はそうそう多く巡ってくるものでもないのだ。個体個体に直接の発信器を付けてしまえば話は簡単になるのだが、歌唱パターンごとのクジラの追跡研究はまだ始まったばかりで、その手はまだ段取りの最中だった。オレは口先に支えられたマイクを触って確かめ、それからジョーに言った。
「やめろやめろ。その歌はガキの頃に学校で歌わされ過ぎて嫌いになった」
ジョーは歌詞を鼻歌に変えてしばらく歌うが、少しして歌は尻すぼみに消えてしまった。ジョーが何か考え事をしているのだ。
『じゃあもし、その嫌な思い出がなかったらこの歌は好き?』
それは簡単な質問のようにも聞こえたし、難しい質問のようにも聞こえた。
「想像できないな。分からない」
『ハハッ!』
ジョーは短く笑ってから続けた。
『ダメだよ。パイロットがそんなに簡単に想像することを諦めちゃ』
こうして時々始まるジョーの説法。俺はそれが、 不思議と心地よい気がして好きだった。
『人はどうして飛行機なんか作ろうとした? 飛んでるところを想像したからさ。どうしてクジラの歌なんか聞いて、それで何かが解るなんて思える? そうなったところを、研究室で誰かが想像しているからさ。君はまだあと15キロを飛び、いつものように上手く着水して、それで食堂までいって温かいカレーを食べるんだろう? そこにパインを乗せてもいい。そういうのを空の上で想像するっていうのは、君の仕事の1つであり、才能の1つでもあるんだ。だからね、そういうことに比べたら嫌いな歌が好きなとこくらいは簡単に想像ができなくっちゃ。きみはこの歌が好きなところを、きっと想像できるよ』
ジョーにそう言われて、今度は俺が考え込んだ。ジョーはまた歌を歌い始めた。考えながらその歌を聴いているうちに、ほんの一瞬、その歌のことが好きな自分が頭の中に降ってきたように感じた。これはパイロットを続けていくことに足りる想像力の力なのだろうか。その問題は答えを出すのに時間がかかりそうだし、正しい答えが出るのはきっと俺がパイロットを引退する時だろう。あるいは、死ぬまで答えの出ないまま飛び続けることにならないとも限らない。
ところでもう一つ気になることがあった。
「ジョー、お前はカレーにパイナップルをのせて食べるのか? 今まで一度も見たことがないぜ」
『もちろんするよ。きみと一緒に食事をした時に、一度も食卓にパインが添えられていなかっただけだよ』
「⋯⋯生の?」
『うーん、シロップに漬けてある、缶詰のやつなんかがいいね』
俺はその奇怪な料理をうまく想像することができなかった。パイロットとしては、まだまだ半人前なのかもしれない。俺が考えの渦の中にいるうちに、ジョーが通信機で観測船への報告連絡をした。
俺たちは海域内のクジラやその他生物相を空から観察、記録しつつ、同時に特定の個体を捜索していた。E-52と識別されるその個体は、ナガスクジラ科のメスの成体という以外には断定的な情報をまだ持たない。それは歌のパターンと、それが近づき遠ざかる際の遊泳速度から計算、照合されたもので、現在の研究精度ではほぼ間違いのないことらしかった。研究者たちがそのクジラ一体を他と区別して、「歌姫」の愛称で追いかけるにはもちろん理由がある。それは、彼女だけが特別な歌を歌うためだ。
クジラの歌は高度な通信手段だ。しかも、派生や流行がある。これをして科学者たちは情報伝達の手段以外にも、ある種の嗜好性を伴う文化的な意味があるのではないかと推察している。その点において、彼女の歌は特有のパターンを人間の機器観察に示すだけでなく、どうやらクジラ同士としても特別なものらしいのだった。
観察し得る限りでは、彼女は普段から何種類もの固有の歌を発している。そして、そのレパートリーの中の一つに、年に数回程度歌われる特別な波形の歌があった。その歌が発されている間、ナガスクジラ科の全種のクジラが一切の音波発信をやめて海面下で静まり返るという現象が観測された。研究者たちはこの奇怪な現象を、「聴いている」「聴かせている」と、それぞれの立場から表現している。しかしその意味は未だ解明されず、また 元々遊泳速度の速さのために追跡の難しいナガスクジラ科の彼女を、数枚の遠影写真を撮影する以上の詳しい調査ができた機関はないのだった。
朝とはおおよそ逆の手順でエア・キングダム号を収容したあと、俺たちは食堂に向かった。時間は遅く、船内の他の乗員は皆食事を終えてしまっているようだった。船の中では一番広い、テーブルの並んだ一室には、端の方に二、三人の者がたむろしているだけだった。とてもガランとしている。その中に、朝と同じ格好のメイがいた。俺とジョーが入っていくと、彼女は人のいない方に席を移って俺たちを手招きした。
「お疲れ様。無事のお戻りで」
俺は答えた。
「まぁね。クジラは撃ってこないから」
「潜水艦だって、見つからなきゃ撃ってこないよ」
ボソボソとした声でジョーが言った。こういうときに一番ガッカリするのはいつもジョーだった。彼は海の生き物が昔から好きなのだ。俺とジョーは並んで彼女の向かいに座った。
「あなた達が戻ってくるのを待ってたのよ。さあ、カレー食べましょ」
それで俺は、さっきジョーが言っていたことを思い出した。
「あ、メイ、聞いてくれよ。こいつカレーにパイナップルのせて食うんだぜ」
驚くか笑うかすると思ったが、メイはあっさりと受け入れた。
「あら そう? なら昨夜のデザートの残りがまだあるかもね。ほら、ヨーグルトにのってたから」
「そんなこと言ってたら久しぶりに食べたくなっちゃったな。皆のカレーも取ってくるよ。大盛りと、普通?」
「あ、うんサンキュ」
「じゃ、お願いね」
ジョーは元気を取り戻してキッチンの方へ行き、俺とメイだけが残った。俺はクジラの話を振った。
「今朝のは普通のソングだったの?」
メイはハッとした顔をした。
「なんだよ」
彼女は左右に首を振った。ハラハラと髪が揺れた。
「大丈夫だって。ホラちゃんと服着てるだろ」
「バカ、大バカ者! ⋯⋯そう、歌ね、歌。歌姫の」
彼女は一つ咳払いをした。
「歌姫はどうやら体積が落ちたみたい」
「うん?」
「痩せたの。先週歌が拾えた時より、内鳴動が少なくなってるのよ」
俺は感心した。
「すげーな、この船の機械」
「ま、読み取って情報化する方にも技術がいるんだけどね」
「いやまあ、そこは普通にアンタのこともすごいと思ってるよ」
「『普通に』、ねぇ」
彼女はメガネのフレームを触った。もしかしたら照れているのかもしれない。
「で? その理由はどんなのがあるんだ?」
「病気等による脂肪分の急激な減量、または内臓疾患からの脱水症状」
「⋯⋯あんまりいい知らせじゃないみたいだな」
「あとは、出産ね」
「へぇ、歌姫に子供が。あ、」
俺は今朝の夢のことを思い出した。暗い水面のうねりが内心に広がる。遠くではジョーが、キッチンのマム・イェン給仕長にパインの交渉をしているのが聞こえる。
「⋯⋯パインの缶って、昨夜開けて残ってるのないの? ホント? ありがとう! いや、ヨーグルトの皿に盛るくらいでいいんだ⋯⋯」
メイが言った。
「どうしたの? パインは見るのも嫌なくらい嫌いなの?」
俺は我に返ってメイに聞いた。
「なあ、クジラの歌ってさ、人間の耳にも聴こえて、それで意味が分かるなんてことはあり得るか?」
「そりゃ、一番高いところなら少しは聞こえる周波数だけど⋯⋯。意味を知るとなると、今の研究じゃ無理ね。仮に全部が聞こえたとしても、コードが分からなきゃ無理よ」
「コード?」
「そう、取っ掛かりとでもいうのかしら。『水』って言葉を聞いた時に、実際 水を触ったり見たりしなければ、頭の中で意味の結びつきは起きないわ。それは言葉ではなく、ただの音よ。そんなのクジラと一緒に、泳いでオキアミやイワシ食べて生活しなきゃ無理ね」
「⋯⋯そっか」
俺は少しがっかりした。
「珍しいじゃない、そんな興味持つなんて。よかったら時間作って講義してあげようか?」
「いや、いい。そりゃまた今度でいいよ」
ジョーがカレーライスの乗った盆を持ってやってきた。アルミの板が食卓に当たると、「カンッ!」と食欲をそそるようないい音がした。
「さ、食べよう食べよう!」
ジョーは言った。ジョーと俺は大盛りで、メイは普通。それからパインの缶詰を山盛りにした昨日のヨーグルトの皿が一つ。マム・イェンが一口大にわざわざ切ってくれているようだった。
「おい、俺はそんな気味の悪いことしないぞ!」
「あんなに美味いのに?」
ジョーは心底の疑問で聞いているようだった。
「きっと保守的で陰険な老人になるのよ。わたしはやってみよう♪」
メイは乗り気だ。⋯⋯保守的で陰険な?
ジョーはまずルーの端をスプーンで寄せて皿に空白を作り、そこにパインの切れを5、6個入れた。メイもそれに倣らった。それからジョーはスプーンの背でパインをジュクジュクと潰し始めた。シロップがライスの方に染みていく様子は、俺には直視に耐えない。メイもそれは真似しなかった。それからライスとルーとパインが全て乗るようにスプーンで一口を取って食べた。おぞましい料理と美味そうな顔の対比を呆気にとられて見ていたら、俺は自分のカレーを食べるのを忘れていた。
「どうしたの? 冷めるよ」
「あぁ、うん」
ジョーに言われてやっと自分のカレーライスに取り掛かる。目と脳と舌が繋がっているせいだろうか。なんだか甘い汁がルーにかかっているような錯覚がした。それから俺たちは、概ね黙ってカレーを平らげた。食欲がなくなるほどではなかったが、俺はなんとなく黙って早く平らげてしまいたい気分になったのだ。残ったパインはメイがデザートとして食べた。俺はメイに聞いてみた。
「なあ、で、どうだったの? それ」
「うん? それぞれ美味しいカレーとパインの味がしたわ。普通よ」
普通⁉︎ 俺はメイに世界中の色々な食材を食べさせて観察したいという欲求に駆られた。
「まったく、俺にはイワシやオキアミよりも理解に遠いよ」
俺はデッキでタバコを吸うために立ち上がった。それから思い出してメイに言った。
「あ、そうだ。俺は歌姫が母親になった説に賭けるよ」
「へぇ、根拠はあるの?」
「そうやって想像してみるのが一番しっくりくる」
「⋯⋯なるほどね。憶えておくから、早く正解見てきてね」
「そりゃまあ、そこに座ってる相棒の目にも掛かってるさ。なあ、ジョー!」
彼はよく状況が飲み込めていないようだった。自分の皿を片して食堂のドアを出るときに、後ろからメイがジョーに歌姫の話をしているのが聞こえていた。それに、パインの缶詰とカレーが残した匂いも。
「イカ二貫⁉︎」が好きで、後半に出てくる「普通⁉︎」はそのテンションです。千鳥のネタに比べると物語はおとなしいですが、主人公の感情が作中一番起伏する箇所です。あ、でもメイは出だしが一番激してますね。本来なら威厳に満ち尊敬を集めるはずのパイロットが「バカ! 早く飛んでけ!」と罵られるようなことが起きるのは、エヴァンゲリオンの影響なのか? と今テキトーに考えました。読んでくれてありがとう!