救世主
ダンジョン・スクールデスゲーム2 発売中です!
WEB版から大きく物語が変化していますので、読者の皆様にもきっと楽しんでいただけると思います!
書店でお見かけした際には、よろしくお願いします!
現在、Youtubeや一部書店でPVも公開中です!
三枝勇希役:竹達彩奈さん
九重勇希訳:早見沙織さん
と豪華キャストになっておりますので、是非、チェックしてみてくださいね!
勇希の言葉に3組の生徒たちは目を丸めた。
「……い、いいのか?」
驚きに包まれる教室の中で、最初に声を上げたのは高無だった。
しかし彼の表情にも戸惑いが浮かんでいる。
「もちろんだよ」
対して即答する勇希。
俺たちのパーティが共に行動をするメリットはない。
だが、おそらく彼女は……。
(……信頼を得ようとしているのだろうな)
ここで共に階層攻略までできるなら、そして3組を下位攻略から抜け出したという実績を手に入れることができたなら――その時、彼らは1組を、いや、九重勇希に強い信頼を寄せるだろう。
「……九重さんは……わたしたちを救ってくれるの?」。
3組の生徒が縋るような眼差しを勇希に向けた。
その声に視線が集まる。
「違うよ」
「ぁ……」
勇希の返答に対して落胆に染まり掛けた表情。
だが、
「みんなの力でみんなを救うの。
一人一人の力は小さくても――協力することでこの世界を生き抜ける。
そうなれるように、私がみんなを導くから」
続けて勇希は力強い言葉を紡ぐ。
すると、少女の表情は熱を帯びた。
だがそれは憧憬ではない。
まるで神を崇め尊ぶような眼差しを向けているのだから。
「勇希様……」
先程、縋るような視線を向けていた少女の口からそんな言葉が漏れた。
その熱のこもった視線は、はまるで彼女を妄信しているかのような異常性すら感じる。
「おれたち……本当に助かるかもしれない。
九重さんがいてくれたら……」
彼女の存在は間違いなく3組の希望となっていくだろう。
「さ、早速、同行するメンバーを決めよう!
九重さんたちにも協力してもらえれば、この階層を上位通過できる可能性がグッと上がる! そうしたら、この最悪の状況から抜け出せるかもしれない!」
高無はそう言って、皆の顔を見回した。
その言葉に否定を述べるものはいない。
そして短い話し合いの末に俺たちのパーティに5人のメンバーが同行することになった。
※
5組のメンバーを連れて俺たちは探索に戻った。
一緒に行動することになったのは、最初に出会った3組の生徒である高無と矢那瀬。
さらに初瀬歩、七峰リーシャ――そして、
「……」
勇希を妄信するような異常な熱のあるの眼差しを向けてきた少女も付いて来ていた。
「……楓ちゃん、あまり慌てなくても大丈夫だからね」
勇希が彼女――水流楓の名前を呼ぶ。
「は、はい……勇希様、お優しいです……」
それだけで水流は頬を赤く染めた。
「あのね、楓ちゃん。
その『様』っていうのはやめてくれると嬉しいんだけど……」
彼女の態度には勇希も困惑している。
さっきから水流はずっとこんな調子なので、流石にどう対応したらいいか悩んでいるようだ。
「ゆ、勇希様は、わたしたちを救ってくれる救世者です!
敬意を表するのは当然です……!」
「そんな大袈裟なものじゃないよ。
同級生なんだから、勇希でいいから」
「勇希様に最初にお救いいただいた救者として、こ、これだけは譲れません!」
救者――この絶望的な状況で九重勇希の存在と言葉は、彼女の救いとなったのだろう。
彼女にとっては勇希は神に近い存在となっているのかもしれない。
「水流さんが付いてくるなんて……ちょっとびっくりしたよ」
そう言ったのは三枝の隣の歩いている矢那瀬だ。
「どいうこと?」
「クラスが違う三枝さんたちは知らなくて当然だけど……あの子、うちのクラスではほとんど会話すらしてなかったからさ」
「そうなんだ……。
でも……なんとなくわかるかも……」
「あまりおしゃべりが得意なタイプではなさそうだもんね」
三枝と此花は同意を示した。
勇希とのやり取りを見る限り、確かにコミュ力があるタイプではないだろう。
意思の疎通ができず一方的な感情を勇希に向けているくらいだ。
(……勇希が他クラスから信頼を得るメリットは大きいがまた面倒な奴が増えたな)
彼女に対する尊敬の気持ちは間違いないのだろうが……利用価値は間違いなくあるかもしれない。
勇希に危機が迫った時……水流はどういった行動を取るのかで、俺の中での彼女の価値は変わってくる。
(……そんな危機的な状況が訪れないことがベストだが)
常に最悪を予測して行動できなければ、俺たちは死ぬことになるだろう。
「……と……右の通路、まだ通ってないよね。
宮真くん、あっちに行っても大丈夫かな?」
「ああ、大したモンスターもいなさそうだ」
そして次に進むルートが決まった。
実際、気配察知のスキルは常に発動しているが周辺に強い気配もなければ、モンスターの数もそこまではない。
暫く探索を進めて数体ほどのモンスターと戦闘になった。
それは勇希の指示もあり3組のメンバーと協力して倒すことになったのだが……ここでも新たな発見があった。
「勇希様、凄いです!
一気にレベルが2つも上がりました!」
「わたしのレベルも上がったよ!」
「俺もだ」
野島がモンスターを撃破した際、戦闘に積極的に参加したわけではない3組の生徒――水流、初瀬、七峰の三人のレベルが同時に上がったのだ。
「水流さんは今レベルはいくつになったの?
「3です」
「ハセとリーシャは?」
「俺も3レベルになった」
「あたしも同じ!」
つまり3人は元々のレベルは1だったということだ。
そしてここから推測できるのは、敵が強くなるにつれて撃破時に手に入る経験値のようなものが、間違いなく高くなっているということ。
そして、一度でも敵に攻撃を与えていたならモンスターを討伐した際に経験値は入る。
(……低レベルの生徒も高レベルな人間とパーティを組むことができれば、レベルを上げるチャンスは十分にあるかもしれない)
全ての生徒が攻略に参加しているわけではないが、クラス全体のレベルの底上げは必須になる。
もし攻略班の補填が必要になることがあれば上手く戦闘をすることで、レベルの低い生徒の強化が行えそうだ。
これが明確にわかっただけでも、今回まだ全体的にレベルが低い3組の生徒を同行させた価値があった。
それから数回、小規模の戦闘を重ねて進んでいくと……。
「……あっ! あれ!?」
三枝の明るい声が通路に響く。
そしてそれは――階層攻略に至る扉を見つけた証明でもあった。
「信じられない……もう階層を攻略できるのか」
驚愕と言った感じで声を漏らしたのは高無だった。
今まで相当な苦労をして探索をしてきたのだろう。
マッピングスキルの恩恵、そして1組と協力していくメリットは十分に感じられただろう。
「ありがとう、九重さん! 本当に助かったよ!」
目に涙を浮かべて矢那瀬は勇希の手を取った。
「1組のみんなも! 3組が1組のみんなにできることは少ないかもしれないけど……あたしたちがんばるから!」
「ああ、協力できることがあればなんでも言ってくれ!」
「この恩は忘れないよ」
さらに最初は1組と協力することを拒んでいた初瀬や七峰すらも、俺たちに感謝の言葉を継げる。
「勇希様は、やはりわたしたちの救世者です」
そして水流の頬が恍惚に染まる。
「みんなの協力があったからだよ」
微笑を浮かべる勇希。
実際、攻略に関しては三枝のマッピングスキルの力が大きい為、勇希の力というわけではないが……盲目的な水流にとってはそれを言って意味はないだろう。
「みんな、相談があるんだけど……」
言って勇希は、俺たち1組のパーティメンバーに目を向けて、
「今回は先に3組に階層攻略をしてもらおうと思うだけど、いいかな?」
そんなことを言ったのだった。




