矢那瀬からの提案
DSD1巻、好評発売中です!
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一人は気絶。
一人は軽傷。
一人は無傷ではあるが戦意喪失。
そして俺たち1組と3組はほぼ無傷。
これなら十分な戦果と言えるだろう。
「う、うちらをこれからどうするつもりだ?」
降参した2組の女子生徒が俺たちの――いや、勇希の様子を窺っていた。
「どうもしないよ。
大人しくしてくれるならね」
「……っ」
怖いくらい優しい笑みを浮かべる勇希を見て、気が強そうな女子生徒が顔を背ける。
続けて、
「こ、九重さん……と、呼べばいいか?」
3組の生徒が戸惑いながら声を掛ける。
「うん。
3組の高無くんだったよね」
「本当に助かった。
一時はどうなることかと思ったが……」
高無は頷きながら答えた。
そして2組の生徒たちを睨み付ける。
「こいつらの処遇なんだが……自分たちに任せて貰えないか?」
「た、高無……どうするつもりなんだよ?」
言ったのは3組の矢那瀬という女子生徒だ。
髪を短く切り揃えていて、ボーイッシュな顔立ちのせいか活発そうな印象を受ける。
「……どうするだって?
決まってるだろ! 報復するんだ!」
「ほ、報復って……そんなことしても意味ないぞ!」
「意味がない……?
矢那瀬、わかってるのか!?
自分たちは襲われたんだ!
最悪……殺されていたかもしれない!」
同じクラスの仲間に対して、高無は感情的に声を荒げる。
それだけ苛立ちを募らせていたということだろう。
「だけど……報復なんて……」
怒声を上げる仲間に対して、矢那瀬のほうは冷静だ。
襲われたことへの怒りはあるはずだが、人間同士で争うことは無益であると考えているのだろう。
「悪いけど、彼女たちの処遇を二人に任せるわけにはいかない」
言い争いを続ける二人に勇希が口を挟んだ。
高無たちは一斉に彼女に目を向ける。
「ど、どうしてだ?
自分たちには彼ら処遇を決める権利があるはずだ!」
「2組の生徒を拘束したのは私たちだよ?
あなたたちはただ助けられただけ」
「そ、それは……」
勇希の正論に、高無は口を閉ざす。
もし俺たちが助けに入らなければ、こいつらは死んでいたかもしれないのだ。
それを思えば2組の処遇を決める権利があるのは、明らかに1組だろう。
「そ、そうだよ、高無。
あいつらの処遇は任せよう。
九重さんたちには助けてもらった恩もあるんだしさ」
矢那瀬に言われた後、逡巡するような間を置いて高無が頷く。
これで俺たちは2組へ侵入する為の【手段】を手に入れた。
後は此花に俺たちと2組の生徒の姿を入れ替えて、ダンジョンを攻略すれば――2組の生徒としてクラスに強制転移されるはず。
「納得してもらえたみたいで良かった。
あまり悪く思わないでね。
これからも3組とは仲良くしたいと思ってるから」
「……そう言ってもらえると助かる。
キミたちも知っていると思うが、俺たち3組は4組と苛烈な攻略競争を強いられているからな……」
3組と4組は常にビリ争いをしているクラスだ。
クラス内の状況もかなり厳しいだろう。
できればその辺りの情報も聞いておきたい。
「あ、あの……3組のみんなは大丈夫なの?
食事とかタウンでの生活は……?」
その質問をしたのは三枝だ。
合わせて野島や此花も、高無たちに目を向ける。
どうやら、他のクラスが気になるのは全員同じようだ。
「……食事は最低限だ。
それに、人間らしい生活なんて全くできていない……。
うちのクラスは最下位を取った時のペナルティがあるからな」
「ボクたちもペナルティのことは聞いてるけど、やっぱりあるんだね」
「うん。
……しかも階層事に内容が変化するらしいよ。
上に行けばいくほど……キツくなるってうちのクラスの担任は言ってたぞ」
矢那瀬が答えた。
だが気になるのは、3組や4組は具体的にどんなペナルティを受けたかだ。
「ペナルティの内容を聞いていいか?」
「……それは話せない」
「口止めされているのか?」
「……」
高無も矢那瀬も口を閉ざす。
答えられない……ということが既に答えたなのだろう。
「大翔くん、答えられないなら仕方ないよ」
「……そうだな」
この話はこれで終わりだ。
だが……3組の二人の表情を見ていれば、ペナルティは並大抵ではないのだろう。
攻略は急ぐべきかもしれない。
「ねぇ……3組まで来てみる気はない?」
思いもしない提案をしたのは矢那瀬だ。
その表情は何かを迷っているようだったが……恐らく、3組の現状を知らせておくことが狙いだろう。
確認しておきたい……という気持ちはある。
だがメリット以上にデメリットも大きい。
特にダンジョンの攻略が遅くなる可能性があるのは大きな問題だ。
それに、
(……3組の生徒を信じていいのか?)
最悪……敵地に侵入するのと同じ危険性があることは、予め覚悟しておく必要がある。
「……どうする?」
俺はパーティメンバーに意見を聞こうと顔を向けた。
三枝、野島、此花……それぞれが考えを巡らせる中、
「そうだね。
一度、行ってみようか」
まるで最初から答えを決めていたみたいに、勇希は即答する。
そして、その一言で俺たちの行動は決定したのだった。




