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矢那瀬からの提案

DSD1巻、好評発売中です!

作者個人も皆様により物語を楽しんでいただけるよう、様々な企画を進めていますので、今後も応援よろしくお願いします!


           ※




 一人は気絶。

 一人は軽傷。

 一人は無傷ではあるが戦意喪失。

 そして俺たち1組と3組はほぼ無傷。

 これなら十分な戦果と言えるだろう。


「う、うちらをこれからどうするつもりだ?」


 降参した2組の女子生徒が俺たちの――いや、勇希の様子を窺っていた。


「どうもしないよ。

 大人しくしてくれるならね」


「……っ」


 怖いくらい優しい笑みを浮かべる勇希を見て、気が強そうな女子生徒が顔を背ける。

 続けて、


「こ、九重さん……と、呼べばいいか?」


 3組の生徒が戸惑いながら声を掛ける。


「うん。

 3組の高無くんだったよね」


「本当に助かった。

 一時はどうなることかと思ったが……」


 高無は頷きながら答えた。

 そして2組の生徒たちを睨み付ける。


「こいつらの処遇なんだが……自分たちに任せて貰えないか?」


「た、高無……どうするつもりなんだよ?」


 言ったのは3組の矢那瀬という女子生徒だ。

 髪を短く切り揃えていて、ボーイッシュな顔立ちのせいか活発そうな印象を受ける。


「……どうするだって?

 決まってるだろ! 報復するんだ!」


「ほ、報復って……そんなことしても意味ないぞ!」


「意味がない……?

 矢那瀬、わかってるのか!?

 自分たちは襲われたんだ!

 最悪……殺されていたかもしれない!」


 同じクラスの仲間に対して、高無は感情的に声を荒げる。

 それだけ苛立ちを募らせていたということだろう。


「だけど……報復なんて……」


 怒声を上げる仲間に対して、矢那瀬のほうは冷静だ。

 襲われたことへの怒りはあるはずだが、人間同士で争うことは無益であると考えているのだろう。


「悪いけど、彼女たちの処遇を二人に任せるわけにはいかない」


 言い争いを続ける二人に勇希が口を挟んだ。

 高無たちは一斉に彼女に目を向ける。


「ど、どうしてだ?

 自分たちには彼ら処遇を決める権利があるはずだ!」


「2組の生徒を拘束したのは私たちだよ?

 あなたたちはただ助けられただけ」


「そ、それは……」


 勇希の正論に、高無は口を閉ざす。

 もし俺たちが助けに入らなければ、こいつらは死んでいたかもしれないのだ。

 それを思えば2組の処遇を決める権利があるのは、明らかに1組だろう。


「そ、そうだよ、高無。

 あいつらの処遇は任せよう。

 九重さんたちには助けてもらった恩もあるんだしさ」


 矢那瀬に言われた後、逡巡するような間を置いて高無が頷く。

 これで俺たちは2組へ侵入する為の【手段】を手に入れた。

 後は此花に俺たちと2組の生徒の姿を入れ替えて、ダンジョンを攻略すれば――2組の生徒としてクラスに強制転移されるはず。


「納得してもらえたみたいで良かった。

 あまり悪く思わないでね。

 これからも3組とは仲良くしたいと思ってるから」


「……そう言ってもらえると助かる。

 キミたちも知っていると思うが、俺たち3組は4組と苛烈な攻略競争を強いられているからな……」


 3組と4組は常にビリ争いをしているクラスだ。

 クラス内の状況もかなり厳しいだろう。

 できればその辺りの情報も聞いておきたい。


「あ、あの……3組のみんなは大丈夫なの?

 食事とかタウンでの生活は……?」


 その質問をしたのは三枝だ。

 合わせて野島や此花も、高無たちに目を向ける。

 どうやら、他のクラスが気になるのは全員同じようだ。


「……食事は最低限だ。

 それに、人間らしい生活なんて全くできていない……。

 うちのクラスは最下位を取った時のペナルティがあるからな」


「ボクたちもペナルティのことは聞いてるけど、やっぱりあるんだね」


「うん。

 ……しかも階層事に内容が変化するらしいよ。

 上に行けばいくほど……キツくなるってうちのクラスの担任は言ってたぞ」


 矢那瀬が答えた。

 だが気になるのは、3組や4組は具体的にどんなペナルティを受けたかだ。


「ペナルティの内容を聞いていいか?」


「……それは話せない」


「口止めされているのか?」


「……」


 高無も矢那瀬も口を閉ざす。

 答えられない……ということが既に答えたなのだろう。


「大翔くん、答えられないなら仕方ないよ」


「……そうだな」


 この話はこれで終わりだ。

 だが……3組の二人の表情を見ていれば、ペナルティは並大抵ではないのだろう。

 攻略は急ぐべきかもしれない。


「ねぇ……3組まで来てみる気はない?」


 思いもしない提案をしたのは矢那瀬だ。

 その表情は何かを迷っているようだったが……恐らく、3組の現状を知らせておくことが狙いだろう。

 確認しておきたい……という気持ちはある。

 だがメリット以上にデメリットも大きい。

 特にダンジョンの攻略が遅くなる可能性があるのは大きな問題だ。

 それに、


(……3組の生徒を信じていいのか?)


 最悪……敵地に侵入するのと同じ危険性があることは、予め覚悟しておく必要がある。


「……どうする?」


 俺はパーティメンバーに意見を聞こうと顔を向けた。

 三枝、野島、此花……それぞれが考えを巡らせる中、


「そうだね。

 一度、行ってみようか」


 まるで最初から答えを決めていたみたいに、勇希は即答する。

 そして、その一言で俺たちの行動は決定したのだった。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
もしよろしければ、ご一読ください。
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