便利なスキル
※
暫くして身心ともに落ち着いた頃。
「宮真くん。
わたし、今のでレベルアップしたみたい。
それとアイテムが手に入ったんだけど……」
黙っておいても良かったものを三枝がアイテムを取り出して、地面に置いていく。
ゴブリンからドロップしたのは、装備品――棍棒と盾だった。
「盾はさっきゴブリンが使っていたものだな」
「宮真くんの魔法の跡があるもんね」
その言葉のままに盾には炎の矢が突き刺さった穴と、焦げ跡が付いていた。
ドロップするアイテムは、モンスターが持っている物の中から手に入るのかもしれない。
「アイテムはどうする? 渡しておいた方がいい?」
なぜ判断を俺に委ねるのか。
協力関係にあるとはいえ、まだあったばかりの他人を信じ過ぎではないだろうか?
だが、現状ではありがたいことに変わりない。
相手を利用するにしても、ある程度の信頼は必要なのだ。
勿論、三枝がそこまで考えているのかは俺にはわからないが……。
「棍棒かホーンラビットの角か。
どっちか渡してくれないか。盾は三枝が使ってくれ」
「わかった。
じゃあ……ホーンラビットの角をそのまま使わせてもらうね」
俺は三枝から、棍棒を受け取った。
アイテム欄に棍棒が入ったのを確認して装備する。
少しずつだが、装備が整っていった。
「それと、レベルアップしたならポイントが入った通知があったよな?」
「うん」
頷く三枝に、俺は魔法とスキルを獲得する方法を伝えた。
話を聞きながら、三枝は自分の獲得できる魔法とスキルを確認している。
その間に、俺も自分のステータスを確認した。
が……どうやらレベルは上がっていない。
もう少しモンスターを倒す必要があるようだ。
それともう一つ気になる事があった。
消費されている魔力の量がおかしい。
炎の矢の消費魔力は3。
さっきの戦闘で使った回数は4回。
つまり消費魔力は12のはずなのだが……。
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○ステータス
名前:宮真 大翔
レベル:2
体力:40/50
魔力: 2/38
攻撃:32
速さ:25
守備:17
魔攻:30
魔防:15
・魔法:炎の矢 治癒
・オリジナルスキル:一匹狼
・スキル
気配遮断1
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自動回復していた分を考えると、明らかに魔力の消費が激しい。
考えられる原因は、さっきの戦闘時に変わった魔法の使い方をしたことだ。
それが、魔力の大幅消費に繋がったのだろうか?
「ねぇねぇ、宮真くん宮真くん」
「どうした?」
「いっぱいありすぎて、どれを獲得していいかわかんないんだけど……」
「まさか、俺に選べって言うのか?」
「選んでっていうか、アドバイスは欲しいかも……」
都合がいい。
正直、そう思った。
このまま三枝とダンジョンの探索をしていく必要がある以上、互いの獲得したスキルの詳細は知っておきたかった。
だが、まさかそこまで頼って来るとは……。
この現状において、魔法やスキルの獲得がどれだけ重要かわかっているのだろうか?
「ちなみに獲得できる魔法とスキルは何がある?」
「いっぱいあるみたいなんだけど……」
三枝は自分が獲得できる魔法とスキルを口にした。
基本的には、俺が獲得できる魔法やスキルと同じものばかりだが、見覚えのない能力も混じっていた。
どうやら獲得できる能力には個人差もあるようだ。
「三枝、マッピングってスキルはどんな効果なんだ?」
「え~と……。
ダンジョン内の通った経路を記録、マップを表示させることが可能となる……って書いてある」
「は!? マジでか!?」
「え……なにかマズいの?」
「お前、バカなの?」
「なっ!? た、確かに勉強は苦手だけど……ば、馬鹿じゃないし!」
しまった――思わず考えていたことが口から出ていた。
悪口は良好な関係に亀裂を生む。
ここは素直に謝罪しよう。
「すまん。驚き過ぎて思わず突っ込みを入れてしまった。
だがお前の持っているスキルは超重要スキルだぞ」
「そうなの?」
「あのな……通った経路の記録が出来ってことは、『現在地の確認』が出来るってことだぞ!」
「う、うん……便利、だよな?」
「便利どころの話じゃない!
このダンジョンと呼ばれる場所は、複雑に入り組んだ広大な迷路みたいなもんだ。
つまり迷いまくる。
自分がどこにいるのかすら、わからなくなっていくんだ」
「だから宮真くんは、通路に印を付けることにしたんだもんね」
「ああ、だが三枝がマッピングを獲得してくれればその手間すらなくなる。
これで無駄に同じ通路を通ってしまう心配がなくなるわけだ」
「あ、そっか! それめっちゃ便利じゃん!」
ここまで説明してやっとか……。
だが、三枝がマッピングスキルを持っていたのは僥倖だ
「これで、助かる可能性がぐんと上がったぞ!
時間はかかるがルートを一つ一つ潰していけば、教室の扉が見つけられる可能性も高いからな」
俺はあえて助かると口にした。
実際は教室に戻っても助かるかは不明だが、わざわざ希望を絶つ必要はないと思ったからだ。
それに、ダンジョンの構造が急に変化した……という件についても、マッピングスキルがあれば何かわかるかもしれない。
「三枝、そのマッピングスキルを獲得してもらってもいいか?」
「うん! 役立つスキルなら取っておかないとだよね!」
俺の意見を素直に聞いてくれた。
頭がいいとは言えないが、三枝は素直な性格なので扱いやすい。
こちらがある程度制御できるという意味では、俺にとってこれ以上ない協力者かもしれない。
「え~と、Yes を押せばいいんだよね……うん、獲得できたよ!
後は何を取ったらいいかな?」
「そうだな……魔法の方は……」
「魔法もだけど、まだスキルも取れるみたい」
「は?」
「マッピングってスキルが5ポイントだったの。
だから、まだ5ポイント残ってるよ?」
「残ってる?
レベルアップでスキルポイントが10入ったってことか?」
「うん。
マジックポイントも10入ったけど……」
どういうことだ?
俺がレベルアップで得たポイントは5ずつだったよな?
「……三枝、お前のレベルっていくつになってる?」
「えっと……3レベルになってるよ?」
さっきの戦闘で、レベルが2つ上がっていたのか。
まだ断定はできないが、倒したモンスターによって貰える経験値に差があるのかもしれない。
「三枝自身が獲得したいスキルはあるのか?」
「そう言われても……あたし、わかんないけど……。
宮真くんと行動するなら、宮真くんの役に立つスキルを取れればって思うくらいかな」
「いいのか?」
「うん!」
だとしたら、同じスキルを取ることは避けたい。
5ポイントで獲得できるスキルの中で、便利そうなのだと……。
「鑑定技能なんてどうだ? 魔法の方は攻撃を一つ取ってほしい」
「鑑定技能ね、わかった」
三枝は迷うことなく鑑定技能を取ってくれた。
俺の発言に迷いなさ過ぎて、なんだか不安になるが、ありがたい。
「魔法はどうしよう?
攻撃できるのだと……雷撃っていうのでいいかな?
あ――でも、使用するには魔力が5も必要なんだよな……」
「魔法を使うには魔力を消費するからな」
「だとすると……意味がないかも……」
「え?」
「あたしの魔力、今2しかないんだけど……?」
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○ステータス
名前:三枝 勇希
レベル:3
体力:30/30
魔力: 2/2
攻撃:18
速さ:17
守備: 9
魔攻: 5
魔防: 7
・魔法
なし
・スキル
マッピング
鑑定技能1
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レベル3となった三枝のステータスはこんな感じらしい。
(……相変わらず、低いな)
初期ステータスだけではなく、成長率も低いようだ。
マッピングという有用なスキルを持ってくれてはいたが、戦闘面は期待できないかもしれない。