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第5階層攻略――と、もう一つの作戦

20180914 更新しました。

       ※




「各班、無理はせず探索してね。

 少しでも危険があったら直ぐに教室に戻ること」 


 食堂に着くと勇希の声が聞こえた。

 生徒たちが食堂を出て、教室に向かっていく。

 どうやら既に階層攻略をスタートさせるようだが、俺と同じチームの三枝に此花、野島と攻略班以外の一部の生徒はまだ食堂に残っていた。


「遅くなってすまない」


 俺は指示を出すリーダーに駆け寄る。


「大翔くん、お疲れ様。

 あまり休めなかったよね……?」


「それは勇希も同じだろ?」


「私は大丈夫。

 みんなが頑張ってくれてるんだから、弱音なんて吐いてられないよ」


 周囲の期待に応えようとする彼女らしい言葉だが……俺個人としてはあまり無理をしないでほしいというのが正直なところだ。


「勇希……あいつはどうしてる?」


「三間くんと久我くんが見張りを続けてくれてる。

 今後は攻略班以外の生徒にも協力してもらうことに決まったよ」


 それは、俺が柊の見張りをしている間の会議で決定したことのようだ。


(……久我が大人しく命令に従ってくれるなんてな)


 勇希に対する感謝は本物らしい。

 こうして行動に移してくれているのは朗報と言えるだろう。

 今までの久我なら、他人の言うことなど絶対に聞かなかったはずだからな。


「他に伝達事項はあるか?」


「変身能力者の正体が柊さんだったことをクラスのみんなに伝えたけど、この件については緘口令を敷かせてもらってる。

 だから表向きには、まだ犯人がわかっていないというていで行動してもらうことになってるから」


「他クラスに事件の解決を伝えない……ということでいいか?」


「うん。

 今はまだ」


 この口振りからするに、ずっと黙っているわけではないらしい。

 つまり勇希は何らかの行動を起こすつもりなのだろう。


「理由を聞いてもいいか?」


「勿論だよ。その話をする為に、みんなに残ってもらったからね」


 勇希は座っているパーティメンバーに視線を向けた。


「なら早速、話を聞かせてく……」


 くぅ……と、腹部から空腹を知らせる音が鳴った。

 こんな状況化で我ながら緊張感がない。


「大翔くん、朝食まだだもんね。

 まずは食事にして」


「……すまないが、そうさせてくれ」


 この後、ダンジョン攻略に向かうことを考えれば、食事はとっておくべきだろう。

 次にいつ、食事にありつけるかもわからないからな。


「実は面白い発見もあったんだよ」


 発見? それはなんだろうか? 疑問に感じていると、


「あの……宮真くん」


 食堂の受け取りカウンターから女子生徒――長谷部が出てきて俺の名を呼んだ。

 その手に持つお盆の上に、おにぎりと味噌汁が載っている。


「これ、良かったら」


 言って長谷部は控えめな笑みを俺に向ける。


「助かる。

 今、受け取りに行こうと思ってたんだ」


「……少しでも美味しくできてたらいいんだけど」


 長谷部は照れたようにはにかみ、食事を机まで運んでくれた。

 限りある食材の中で、長谷部たちは少しでもみんなを喜んでもらおうと頑張って料理をしてくれているのだろう。

 俺は席に付くと、手を合わせる。


「じゃあ、いただくな」


 おにぎりを手に持つ。

 するとなぜか三枝や野島、此花に長谷部、勇希までも俺に興味ありげな視線を向ける。 受け取りカウンターの向こうから、もう一人の料理当番である加賀沢も出てきた。

 まるで全員が俺の反応を待っているみたいだ。


「どうかしたのか?」


「た、食べてみて」


 俺の言葉に返事をしたのは料理を作ってくれた長谷部だった。

 何か仕掛けでもあるのか?

 だが、気弱そうで大人しい長谷部が悪戯を仕掛けるとは考え難い。

 怪しさを感じながらも、俺は空腹からくる欲求に耐えきれずおにぎりを口にした。


(……塩のおにぎりか)


 味は薄味。

 さっき握ってくれたのか、まだ温かかった。

 続けて俺は味噌汁に口をつける。

 材料不足の為、出汁を取っているわけではないが、大根と豆腐が入っていて十分美味しくて、俺はあっという間に完食してしまった。

 すると、


【食事の効果で、体力の最大値が1%向上しました。

 効果は3時間後に消失します。】


 突然、いつもの機械音声が聞こえた。


「は?」


 今のは……俺の気のせいじゃないよな?


「宮真くん、どうっすか!? 何か食事の効果はありましたか?」


 一瞬、俺が眉を顰めたことに気付いたのだろう。

 向かいの席にいた野島が興味津々な様子で聞いてきた。


「効果って……まさか今のは長谷部のスキルか?」


 俺は彼女に説明を求めた。


「あ、えと、それは……」


 すると長谷部は小動物のようにおどおどする。

 そんなキツい口調で言ったわけではないが、彼女は人見知りなところがあるのだろう


「じ、実は、朝食の準備をしていたら、料理スキルを獲得したって通知が入って……」


「それはポイントを使うことなく……ということか?」


「……うん。本当に突然だったの」


「料理というスキルは持っていたのか?」


 その質問に長谷部は首を左右に振った。

 今日までそんな報告はなかったのだから当然か。

 長谷部が嘘を言う理由もない。


(……勇希の言っていた新しい発見というのはこれのことか)


 まさかポイントを使用することなく、スキルを獲得できるなんて。

 しかもこれで、スキルツリー画面にない力が発現することがあるということもわかった。

 問題はその条件だが……。


「加賀沢、お前はどうなんだ?」


 少し声を張り、受け取りカウンターに立っている加賀沢にも尋ねてみたが、


「残念ながらあたしは獲得できてないんだよね」


 彼女はそんなスキル持っていないらしい。

 だが今後、加賀沢に長谷部と同じ力が芽生える可能性は十分にあるはずだ。


「何か条件を満たすと個人の持っている技術が、スキルという形で発現することがあるのかもしれないな」


「まだ情報が少なすぎるけど、その可能性が出てきたよね」


 俺の考えに勇希は同意する。

 しかし、本当にこの世界は謎ばかりだ。

 これでまだ5階層だと言うのだから……この先、もっと多くの発見があるだろう。

 今回のように役立つ発見であれば素直に喜べるのだが、必ずしもそうとは限らないのが怖いところだ。


(……しかし、攻略組でないからこそ芽生える力か)


 三間が提案した攻略に参加できない人間に役割を与えるというのが功を奏す形となった。もしかしたらこの世界は、こういった予想もしないところから生還の糸口が見つかるのかもしれない。


「料理にこんな効果があるのなら、今後は食ってから探索に出ないとな」


「だからって食べ過ぎないでよね。

 身体が重くて動けないとか言い出したら迷惑だし、ボクは構わずキミを見捨てていくから」


「んなこたぁ言われなくたってわかってんだよ!」


 野島が三白眼で凄むと、全く関係のない長谷部が膝を折って逃げるように俺の後ろに隠れた。引っ込み思案な人間に、野島のような荒っぽいヤンキーは辛いのだろう。


「でも野島くんの意見は最もだよね。

 食べるだけで能力上がるなんて、あたしなんだか信じられないもん」


 嬉しそうに声を弾ませたのは三枝だ。


「だな

 それほど大きな効果ではないが、当然ないよりあるほうがありがたい」


 現時点での効果は最大値の1%上昇という微々たるものだが、効果が上がれば大きな力になるだろう。


「ちなみに、食べたら食べただけ能力が上がるわけじゃないみたい。

 実験も兼ねて一部の生徒におにぎりを二個食べてもらったんだけど、体力の最大値から1%上昇っていうのは変わらなかったの。

 食料に余裕があるわけじゃないから回数は少ないけど……」


 流石は勇希だ。行動が早い。

 長谷部のスキルが発覚して直ぐに試したのだろう。


「今後は食事の度に効果を確かめてみよう。

 作る料理次第で変化があるかもしれない。

 長谷部たちには今後、料理スキルについてわかったことがあれば記録しておいてほしい」


「わかった。

 それで、みんなの力になれるなら」


「頼むな。

 それと御馳走様、美味かったよ」


「ぁ……お、お粗末様でした」


 顔を伏せながら小声で答えて、長谷部はお盆に皿を載せて食堂のカウンターに戻って行った。

 思い掛けない発見があり話題はそっちに流れてしまったが、まだ本題に入れていない。


「それで勇希――今後の方針、お前がやろうとししていることについて聞かせてくれないか?」 


「うん。

 出来ればこの5階層……遅くても7階層の攻略がスタートする前に、私たちの手で七瀬さんを救出したいと思ってる」


「九重さん、気持ちはわかるけど……どうやって?」


「ダンジョン攻略に七瀬を連れ出してくれるならともかく、2組の教室で捕まってたら助けようがねぇだろ?」


 三枝と野島が疑問を口にした。

 教室に捕らえられているなら、こちらからは手の出しようがないと考えているのだろう。

 だが、それは違う。

 何故なら――。


「今の私たちは2組に潜入する手段を持っている」


「……あ――そうか!? 変身能力だね!」


 三枝が勇希の考えに気付いた。


「そう。

 柊さんが一組に潜入できたのなら――同じ方法で2組に潜入することだって出来る。

 そして、隙を付くなら今しかない」


 なるほど。

 それが変身能力者の捕縛について緘口令を敷いた理由か。

 羅刹がもし柊が捕まったとした場合、俺たちが変身能力を利用して2組に潜入する可能性を考えるだろう。

 そうなれば、対策が講じられ効果が薄くなる。

 それに、柊が潜入に失敗したと知れば、羅刹は七瀬を使い何らかの交渉に出てくるかもしれない。

 その場合、交渉内容は読みにくい。

 互いの人質を交換……なんて『つまらない』選択肢を羅刹が選ぶとは思えないのだ。

 最小限のリスクで七瀬を救い出すなら今しかない。


「みんな、お願い。

 七瀬さんを救い出す為、そして――やられっぱなしだった私たちが、最初の反撃の狼煙をあげる為に、この作戦に協力してほしいの」


 敵にやられた攻撃を、今度はこちらがやり返す。

 上手くいけば、羅刹を追い詰めることができるかもしれない。


「今度はこっちから攻められるってわけだ!

 いいじゃねぇか!

 やられっぱなしは面白くねぇもんなっ!」


 いの一番に声を上げたのは野島だった。


「なら、ボクがコピーした変身能力を使う必要だよね。

 あの男に一泡吹かせてやるのは面白そう」


 此花は勇希を見て微笑む。

 彼女は説明を受ける前に、自分の役割を理解しているようだ。


「もちろん、あたしも手伝うよ!

 みんなに助けてもらった分もがんばるから!」


 パーティメンバー全員が作戦に賛同する中、勇希はまだ答えのない俺に目を向けた。

 そんな彼女を見て、俺は頷き返す。

 最初から断る理由などない。

 何故なら……勇希が提案しなければ、俺自身が同じ行動を起こすつもりでいたのだから。


「じゃあ具体的な計画について話すね」


 勇希から作戦内容を確認した後、俺たちは2組に潜入する為の行動を開始するのだった。

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