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尋問を終えて

20180904 更新しました。

           ※




 三枝に治癒魔法を掛けた後、俺たちは柊を連れてタウンの空き部屋に移動した。

 逃げ出す可能性を考慮していたが、彼女は暴れることなく床で項垂れている。

 そんな犯人に勇希がゆっくりと詰め寄った。


「……柊さん」


「っ!?」


 勇希に呼ばれると、柊はガチガチと震えだした。

 三枝を甚振いたぶり楽しんでいたサディストが嘘のようだ。

 それだけ勇希に対して恐怖心が染みついているのだろう。


「質問の前に変身能力を解いてもらってもいいかな?

 それと三枝さんの姿も元に戻してくれる?」


 その声音は優しい。

 が、変身能力者を見つめる勇希の目に感情の色はない。

 犯人は恐怖に震えながらも、最後の反抗心を見せるように歯を噛み締めた。


「……だ、誰が、あんたの言う事なんて聞く――ひっ!?」


 反抗的な態度を見せた途端、勇希は微笑を浮かべて柊に手を向けた。

 それだけで恐怖に表情を歪ませ、サディストは涙を浮かべる。

 雷撃を受けたのが、余程トラウマになっているようだ。

 同時に三間が眉根をひそめた。

 手段を選ばない勇希の行動に不快感を示すように。


「何度も言わせないでね」


 勇希は伸ばした手を彼女の頬に伸ばして、優しく触れながら淡々と告げる。

 噛み締めていたはずの歯が、ガチガチガチガチガチと音を鳴らす。

 すると柊の身体が淡い光に包まれて、一瞬で姿を変えていた。


「へぇ……それが本当の柊さんなんだね。

 今のは自分の意志で解いたの?」


「……そ、そう、です」


 柊の口調が敬語に変わった。

 心の底から屈服したわけではないと思うが、今は従うことにしたのだろう。


「此花さん、間違いないかな?」


 従順になった柊ではなく、勇希は此花に確認を取った。

 彼女は固有技能――演者アクターの効果で柊の力をコピーしている為、変身能力の詳細を全て把握しているのだ。


「え~と……」


 間を取るように言いながら、此花は俺を見た。

 答えて構わないか? と、尋ねているのだろう。

 肯定の意志を示す為に俺は頷いてみせた。


「間違いないよ。

 この能力は使用者の意志で使用も解除もできる」


「心――メンタルの影響はあるのかな?」


「ううん。

 精神的に不安的になったとしても絶対に解けない」


 つまり今のは、柊が自分の意志で解いたと考えて間違いないのだろう。


「わかった。

 三枝さんの姿を元に戻せるんだよね?」


 勇希は再び柊に目を向けた。

 先程のやり取りは、嘘を吐いても意味がない……ということを、彼女に理解させるのが目的だったのかもしれない。

 そして、嘘があればいつでも裁きを下すという事を、遠回しに伝えているのだろう。


「じ、自分以外を元に戻すには、触れないと、無理……です」


「そっか。

 此花さん……三枝さんを元に戻してあげてくれないかな?」


「勿論、構わないよ」


 今度は俺に確認を取ることなく、此花は三枝の下へ歩いていく。


「三枝さん、触るよ?」


「う、うん……」


 許可を取った後、此花がペタッと七瀬の肩に触れる。

 直後、七瀬の姿をしている少女が光に包まれた。

 そして光が消えると元の姿を取り戻していた。


「だ、大丈夫……かな?」


「心配しなくてもちゃんと解除したよ」


 此花の言葉を聞いてもまだ不安そうな三枝が、再度確認を取るように俺を見た。

 この場では自分の姿が確認できない為、不安だったのだろう。


「間違いなく三枝だ」


「そ、そっか……良かった……」


 俺が頷くと、三枝は安堵したような息を漏らした。

 突然、姿を変えられたことは想像以上に不安だったのだろう。

 今まで意識したことはなかったが、人はそれだけモノの姿や形に囚われている……ということかもしれない。

 実際、教室で三枝と柊を目撃した時、二人が入れ替わっているなんて想像もしなかった。

 人が人を認識しているのは、中身ではなく表面というのを嫌というほど味わうことになったのだ。


「三枝さん……ごめんなさい。

 謝って済むことじゃないけど、私の想定以上にあなたを危険な目に合わせてしまった」


 安堵する三枝を見て、勇希が謝罪の言葉を口にする。

 結果的に彼女を助けることが出来たが、最悪……柊が三枝としてこのクラスに残っていたらと思うと、ゾッとする話だ。


「こ、九重さん!?

 そんな、あ、あたしは大丈夫だから……ちょ、ちょっと大変だったけど、こうして助かったんだし……」


 クラスのリーダーに謝罪され、三枝は恐縮したようにあたふたしている。

 そんな彼女を見て勇希の瞳に強い決意が宿った。


「……ありがとう。

 三枝さんの行動と勇気が犯人を捕まえることができた。

 これは大きな成果に繋がるから」


「う、うん!

 あたしに手伝えることがあるなら、これからもがんばるから」


 前向きに協力を申し出てくれる三枝に、勇希は柔和な笑みを見せた。

 そんな勇希を見て、三間は厳しい表情を緩める。

 敵に見せる残虐さと、三枝に向ける優しさ。

 どちらが本当の九重勇希なのか……測り切れずにいるのだろう。

 彼女をリーダーとして、『一組』は今後も歩みを進めていいのかを見極めようとしているようだが、この調子なら答えはまだ保留となりそうだ。


「……九重さん、このまま柊さんに尋問を続けるのかい?」


 少し間を置いて三間が尋ねた。


「うん。

 朝になるまでには終わらせたいの。

 申し訳ないんだけど、誰か付き合ってもらっていいかな?」


 それは柊の監視を含めてという意味だろう。


「俺は構わないぞ」


「僕も付き合わせてもらうよ」


 俺と三間はほぼ同時に声を上げた。


「な、ならあたしも――」


 続けて三枝が声を上げた。


「三枝さんは、今日はもうゆっくり休んで」


「で、でも……」


 戸惑うように、三枝は言葉を詰まらせた。

 自分だけ休むことに気後れしているのだろう。


「いいじゃん、サエグサ。

 お言葉に甘えてボクたちは休ませてもらおうよ」


 気遣いな三枝が休みやすいように、此花が促す。


「お前はもう十分がんばってくれたよ。

 だから、今日はゆっくり休んでくれ。

 明日からまた、ダンジョン攻略もあるんだからな」


 何より彼女はこれ以上、柊と関わるべきではないだろう。


「宮真くん……。

 うん……わかった。

 でも明日からまたがんばるから!」


「ああ、無理しない程度に頼むな。

 此花も今日は助かった」


「愛するヤマトの役に立てたなら何よりだよ」


 軽口と共に此花は微笑を浮かべた。


「それじゃあ、ボクたちは一足先に失礼するよ」


「みんなも、無理しないでね」


 二人は一声掛けた後、部屋を出た。

 カチャ……と、部屋のドアが閉まり、俺は鍵を閉める。


「じゃあ尋問を始めるよ。

 柊さん……正直に答えてね」


 それが合図となるように勇希は言った。

 たったそれだけのことで、戦慄したように柊は身を震わせる。

 彼女にとって勇希の言葉は、まるで死の宣告のように感じたのかもしれない。




            ※




 話をする前に、柊が持っていた道具は全て没収した。

 この後、尋問は数時間に及んだ。


・どうやって一組の教室に入ったのか。

・七瀬の行方、生死について。

・変身能力を使い各クラスを襲った意図。

・二組の現状。


 大まかにはなるが、勇希が柊に尋ねた内容は以上だ。

 その全てに対して柊は言葉を閉ざすことなく答えてくれた。

 以下が詳細となる。


『――どうやって一組に侵入したの?』


 勇希の口から出た最初の質問はこれだった。

 柊は一組が階層を攻略する前に、変身能力を使い自分と七瀬の姿を入れ替えていたらしい。

 その後、階層攻略の放送が入ると七瀬の姿をした柊は一組に転移していたそうだ。

 柊自身も実験のつもりでやったことらしいが、結果的に狙い通りだったらしい。

 つまり彼女は、この世界の抜け穴の一つを見つけたのだ。

 それと柊は、この行動に関しては2組の支配者リーダーである羅刹に承諾を得てから行動に移ったと言っていた。


『なるほどね……これは使えそうかな』


 話を聞いた勇希が、こんなことを呟いていた。

 変身能力の優位性――次の作戦に繋がる使い道を思い描いたのかもしれない。


『七瀬さんは無事なの?』


 続いての質問はこれだ。

 柊と七瀬が入れ替わったのは、さっきの質問で既にわかっている。

 が、生死や所在については不明のままだ。


『わ、わからない……』


『どういうことかな?』


 淡々と口を開く勇希に脅えるように、柊は声を震わせながらも必死に言葉を紡ぐ。

 七瀬を狙った理由は階層攻略中に、彼女のパーティにたまたま遭遇したこと……が原因らしい。

 それから一瞬の隙を付いて、七瀬を攫い変身能力を使い互いの姿を変化させてそのまま入れ替わったらしい。

 その際、本物の七瀬は2組の生徒に引き渡しているそうだ。

 柊が一組に転移していることを考えれば、七瀬も2組にいると考えて間違いないだろう。

 現時点で生死は定かではないが、恐らく殺してはいないはずだ。

 理由は単純で人質としても利用価値があるからだ。

 今後、俺たち一組に何かしらの交渉を持ちかけてくる可能性があるだろう。

 ちなみにこの時、俺は一つ疑問が浮かんでいた。

 もしも階層攻略の時点で同じ姿をした人間が二人いた場合、どうなるのだろうか?

 既に元の姿に戻った柊は今も一組にいる。

 この現状から考えるに、教室の中にいれば階層攻略後の転移の影響は受けないのかもしれない。

 変身能力に関しては検証しなければならないことが多そうだが……使いこなせればシステムを瓦解させるような大きな力になるかもしれない。


『……七瀬さんが2組に囚われているのなら、必ず救出しよう』


『そうだね。

 このことはみんなにも相談しないと』


 この時、勇希と三間――男女のリーダーである二人は、次の一手を考え始めていたようだ。


『変身能力を使ってクラスを襲った理由は?』


『そ、それは……』


 これは想定内であったが、各クラスを混乱させて争わせることが目的だったらしい。

 また柊自身、羅刹が楽しんでくれたから……という個人的な理由もあったそうだ。


『これは単純に私が気になっていたことなんだけど、2組の生徒たちは羅刹くんの支配を受け入れているの?』


 勇希の言葉を柊は肯定した。

 羅刹という支配者を頂点とする完全なヒエラルキーが二組には出来上がっているらしい。

 完全実力主義――力ある者が上に立つ。

 それが羅刹の決めたただ一つのルール。

 力のない者は奴隷階級として扱われているそうだ。


『やっぱり……羅刹くんはどうにかしないといけないみたいだね……』


『九重さんの言う通りだ。

 生徒同士で階級を付けるなんて……そんなの間違ってる』


 これに関しては勇希と三間は同意見らしい。

 俺たち一組にとって、当面の敵は2組になることは間違いなさそうだ。


『ありがとう、柊さん。

 また聞きたいことができたら、質問させてもらうね』


 その声音は優しく、柊も安息を得たようにぶんぶんと頭を振った。

 が、判断力を奪われているのか彼女は勘違いしている。

 冷静に考えればわかることだが、今の言葉は『お前を解放するつもりはない』という意味と同義なのだから。

 しかし柊はそれに気付くことなく、彼女への尋問は滞りなく終わりを迎えたのだった。



            ※




「そろそろ……みんな起きる時間だよね?」


 尋問の後。

 勇希の言った言葉に三間が頷いた。


「そうだね。

 少し早いかもしれないけど……犯人が捕まったことも含めて、今後どうするかみんなに相談しよう」


「それと、久我くんに冤罪が晴らせたって早く伝えてあげないとね」


 今も拘束状態にある久我は、事件の解決を誰よりも願っているだろう。


「大翔くん、悪いんだけど……柊さんの見張りを頼んでいいかな?

 会議での決定事項は私の口から後で伝えるから」


「ああ、構わないぞ」


 俺は迷わず承諾した。

 今後の作戦に関しては勇希に任せておいて問題はないだろう。

 恐らく……俺と同様の考えのはずだ。

 何より柊を見張る人間は絶対に必要なのだから、この中で適任は俺しかいないだろう。

「疲れてるとは思うけど、お願いね」


「宮真くん、ごめん。

 よろしくお願いするよ」


 勇希と三間が部屋を出て行った。

 それから少しして、


『3組の生徒が5階層に繋がる扉を発見しました。

 よって3組は第4階層攻略完了となります』


『4組の生徒が5階層に繋がる扉を発見しました。

 よって4組は第4階層攻略完了となります』


 ほぼ同時に放送が流れた。

 今回は次の階層攻略が開始する前に、全クラスが下の階層攻略を終えた形となった。

 これで、第5階層の攻略が開始されるのも時間の問題だろう。


「……」


「……」


 放送が終わると、室内は一気に静寂に包まれる。

 互いに交わす言葉はない。

 そんなことを思っていると、


「み、宮真……」


「うん?」


 意外にも柊が話しかけてきた。


「……あ、あの女は……なんなの?」


「九重のことか?」


 俺が彼女の名を口にするだけで、サディストはビクッと身体を跳ねさせる。

 反射行動になるほど恐怖が染み込んでいるようだ。


「あ、あいつは……羅刹と、同じだ……」


「え……?」


「あ、あいつは、支配者だ……」


 確かに一面を見れば重なる部分はあるかもしれない。

 だが、皆を守る為に壊れてしまった勇希と、最初から支配を強いる羅刹では本質がまるで違うだろう。

 信念も目標も向かうべき場所も。


「近いうちに俺たちは2組――羅刹を潰す。

 お前も死にたくないなら、勇希に従っておけ」


「……羅刹を……か、勝てるのか?」


「勝つさ、必ずな」


 俺が勝たせてみせる。

 どんな手段を使ったとしても。


「っ……た、頼む……お願いします。

 うち、まだ死にたくない。

 だから……」


 態度を軟化させる。

 長い物に巻かれる。

 強い者には弱く、弱い者には強い。

 柊友愛はそういう人間なのかもしれない。


「う、うち、結構可愛いっしょ?

 あ、あんたさえよければ、なにしたっていいからだから……」


 そして、自分の為なら手段を選ばない。

 相手の気持ちを考えるのも不得意のようだ。


「一つ忠告をしておくが、お前は口を開かないほうが長生きできると思うぞ」


「ひっ……!?」


 俺が苛立ちを滲ませると、柊は口を閉じ脅えたようにこちらの様子を窺っていた。

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