表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/94

二人はどこへ?

20180726 更新しました。

           ※




「お疲れ~」


 女子生徒の声が聞こえた後、廊下を歩く足音が重なる。


(……やっと解散したみたいだな)


 俺たちは三階――七瀬の部屋付近の空き部屋で待機していた。

 タウンの部屋は壁が薄いらしく、扉を少し開いておくだけでも彼女たちの笑い声がよく聞こえた。

 これなら少し声を張れば、三枝の声は俺たちに届くだろう。


「ここからが本番だな」


 声を潜めながら俺が言うと、勇希と三間が頷いた。

 それと、自室で此花にも待機してもらっているが……それを知っているのは俺だけだ。

 彼女の部屋も三階の為……部屋の扉を少し開いておくように頼んである。

 万一、彼女の力が必要になった時は頼らせてもらうつもりだが、これは保険だ。

 使わずに済めばそれでいい。


「九重さんには大変な仕事をお願いしちゃったけど……何かあったら直ぐに声を上げるように伝えてあるから」


「その後、直ぐに宮真くんと九重さんが突入を開始する。

 僕は不測の事態に対応できるよう、この場で待機……これで問題ないんだよね?」


 何度か確認を取っているが、改めて三間が尋ねる。

 その行動からも、この男の慎重な性格が見えた。


「うん。

 室内で捕まえるつもりだけど……もしもの時はお願い」


「わかった。

 万が一があれば任せてほしい。

 出来るかぎりの努力をするよ」


 実直なリーダーは、俺たちに真摯な眼差しを向ける。

 絶対――などと安請け合いをしないからこそ、三間が押さえられなかった際の最悪を想定しておくことができた。

 誠実であることはこの世界において貴重だが、少し気味が悪い。

 そんなことを思ってしまうのは俺の捻じ曲がった性格ゆえだろう。


「……生徒たちは全員、室内にいるんだよな?」


「ああ、僕と九重さんで確認済みだよ。

 二人以上で部屋にいたし、部屋も可能な限りは出ないように伝えてあるから」


 念の為、互いに互いを見張った状態……というわけだな。

 勇希は七瀬が犯人の可能性が高いと考えているが、これで他の生徒が変身能力者だったとしても安易な行動は起こせないだろう。

 この状況で殺傷者が出れば自分が犯人だと疑われるようなものだからな。


「……準備は万全だね。

 このまま警戒を続けよう」


 ここからまた……何時間もこの場で待つことにならねばいいが……。


 ――ガタッ。


 小さな音が七瀬の部屋から聞こえた……気がした。


「……なぁ、勇希。

 今、何か聞こえなかったか?」


「うん……微かにだけど……」


 何かあれば、三枝には声を上げるように言ってあるのだが。


(……まさか、叫べない状況になったのか?)


 だとしたら犯人の行動が早すぎる気がする。

 まるで……最初から何かを仕掛けることを決めていたかのようだ。


 しかし七瀬が変身能力者だとしても、相手の命を危険に晒すような危険行為には出ないだろう。

 それは自分にとってもあまりにリスクが大きすぎる。

 だが……それはあくまで可能性の話で、もしも最悪を想定して行動するのなら――


「勇希……」


「待って……もう少し様子を見よう」


 三枝からの合図がない以上、現時点では妥当な判断だ。


 理想を言うなら、七瀬が変身能力者だという確固たる証拠を見つけてから捕縛に乗り出したい……と、勇希は考えているのだろう。


 仮に七瀬が犯人だという証拠を掴めなくても、強制的な捕縛はいつでも出来る。


「……何事もない場合は、七瀬さんが眠った頃に部屋をこっそりと抜け出してもらうことになってるから」


「九重さん、もしも……仕掛けてこなかった場合はどうするんだい?」


 疑問を口にしたは三間だ。

 ここで犯人を捕縛できなければ危険な状況は続く為、何か策はあるのか聞いておきたかったのだろう。


「その場合は――」


 答えを口にする勇希の顔から、表情が消えた。

 しかしその言葉を聞き終える前に――ギギィという重い音が聞こえ扉が開いた。

 音の距離で考えれば近くの扉だ。

 そして、ほんの少し開いてる扉の隙間から様子を窺う。


「……」


「……」


 部屋から出たのは三枝と七瀬だ。

 二人は会話も交わさず、口を閉ざしたまま歩いていく。

 隙間からでは細かい仕草などは見えないが、先頭を歩いているのは七瀬だった。

 その後ろに三枝が続いていた。


(……どこに行くんだ?)


 何かがあった……のかはわからない。

 だがもしも問題があれば、後ろを歩く三枝は逃げ出す余裕はあるように思える。

 そのまま一定の間隔を保ちながら、彼女たちは階段を下りて行った。


(……少し予想外の事態だが……)


 このままここにいるわけにもいかないだろう。


「追うぞ」


「うん、行こう!」


「……何事もなければいいけど」


 俺たちは部屋を出る。

 直後、俺は此花の部屋に視線を送る。

 恐らくこれで、付いて来てほしいという意図は伝わっただろう。

 それから注意を払いつつ、三枝たちを追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
もしよろしければ、ご一読ください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ