犯人の正体②
20180719 更新しました。
「それで九重さん……事件の犯人についてなんだけど……」
部屋に入り、最初に話を切り出したのは三間だった。
「犯人の見当は付いてる。
それと犯人を罠に嵌める為の手は打ってるから」
「手を打ってる? もう犯人がわかってるのかい?」
「うん。
犯人は変身能力を持った2組の生徒で間違いない」
三間の質問に勇希は答える。
「九重さんは、変身能力を持った生徒が一組に侵入したと考えてるのかい?」
頷く勇希。
どうやら彼女も、俺と同じ考えに至っていたようだ。
当然と言えば当然だ。
何せこの世界のルール――【システムのエラー】を最初に利用したのはこの少女なのだから。
「確実にいるよ。
そして誰に化けているかもわかってる」
「……そこまで見当がついてるんだな」
俺がわからなかったのは、変身能力を使い誰に化けているのか……だが、勇希はその答えを知っているようだ。
「運が良かったんだ。
相手がわかりやすいヒントを出してくれたから」
「ヒント?」
「そう……そいつはね、笑ってたんだよ。
久我くんが一方的に責められている状況を見て、心底おかしくて仕方ないって顔で……」
勇希の瞳に狂気の色が映り込んだ。
その胸の内にあるのは犯人への怒り……だろうか?
同時に俺はあの時、食堂にいた勇希が何かに気付いたようにはっとした顔を見せたのを思い出した。
(……あれは……犯人の変化に気付いたのか)
覗きという行為に不快感を示すならわかる。
もしくは正しい感情表現としては、怒りや不安だろう。
だが、そんな状況化で歪んだ感情を露わにする者がいるならば、犯人である可能性は高いだろう。
それこそ、クラス間の秩序を掻き乱すような屑には相応しい。
「確かに……笑みを見せていたというのはおかしいね。
でも、それが決定的な証拠だと言い張るには難しい気もするよ」
三間も可能性の高さは認めているようだが、この情報だけで動くことには否定的なようだ。
「そう。
だから証拠を見つける為の手を打ってある。
それに……問題なんてないよ」
「え?」
「だって……クラスメイトが責められているのに、あんな醜い顔ができるんだよ?
そんな人が一組の生徒のはずがないよ」
「……あ、ああ……確かに、そうかもしれないけど……」
真顔の勇希に三間は苦笑を浮かべた。
狂気すらも感じさせる発言に頷くしかなかったのだろう。
彼女の異常性に三間はとっくに気付いているはずだ。
が、このクラスが上手くいっている間は、こいつは何も行動は起こさないだろう。
彼女が欠けてしまえば、クラスの状況は悪化するだけなのだから。
「勇希、それで犯人は?」
「――七瀬さんだよ」
「……なるほど」
食堂で一番、大騒ぎしていた。
何より、久我に覗かれたとのたまいていた張本人。
(……クラスを掻き乱すのはさぞ面白かったろうな)
後は捕まえて事実を吐かせるだけ……か。
「それで勇希、どんな手を打ったんだ?」
「三枝さんって七瀬さんのグループだったでしょ?
だからお願いしたんだよね。
七瀬さんを誘って、今日は同じ部屋で過ごして欲しいって……」
「そこで何か仕掛けてくるようなら、捕まえるというわけか」
「うん。
それに彼女は元2組だからね。
犯人は気を緩めて協力を依頼するかもしれない。
もしも隙を見せるようなら……後は押さえるだけ」
「つまり……なるべく犯人が動きやすい状況を作るというわけだね」
だったら部屋で一人にしておいた方がいい……とも思えるが、あれだけ大きなトラブルが起こった状況で対策を打たないようなら、逆に相手は警戒するだろう。
そう考えれば同じ室内にいるのが三枝だけで、かつ元同じクラスの仲間なら尻尾を出しやすいのではないか? と勇希は考えたようだ。
(……だが)
状況は想定とは違う方向に動くかもしれない。
勇希は三枝が2組内で酷いイジメを受けていたことを知らない。
クラス内で格下だった相手が近くにいるのなら――犯人はあらゆる手段を使って三枝を脅し、利用しようと考えるかもしれない。
(……大丈夫だろうか?)
少しだけ不安があった。
過去に受けたトラウマはそう簡単に消えるものではない。
三枝は強くなろうとしている。
今の自分がイヤで変わろうとしている。
だが、もしも激しい脅しを受けた時――彼女はそれに負けず戦うことができるだろうか?
犯人に懐柔され従わされてしまう……という可能性はないだろうか?
「どうしたの、大翔くん?」
三枝のトラウマを、勇希に伝えておかなかったのは失敗だったかもしれない。
今から伝えるべきか……?
「……いや、それで犯人が七瀬だとして俺たちはどう動く?」
少しの逡巡の後、この事は誰にも伝えないと決めた。
これはある意味、勇希への裏切りだろうか?
だが、それでも言えない。
同情と言えばそれまでだが、同じトラウマがある俺にはわかるのだ。
自分がイジメられていたなんて知ってほしい人間……誰もいないって。
それを知られたと思うだけで、見下されるような感覚になる。
たったそれだけでのことで、自分という人間が全否定されるような恐怖に晒されるのだ。
三枝には……このクラスでそんな想いを感じてほしくはなかった。
(……俺のほうでも保険を作っておくことにしよう)
借りを作ることになってしまうが、【あいつ】の【力】を借りることになるかもしれない。
「行動を起こすとしたら深夜。
みんなが寝静まったころだろと思う……それと万が一にも逃げ道を塞ぐ必要があるから……」
それから俺たち三人は作戦内容について話し合った。




