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犯人の正体①

20180718 更新しました。

          ※




 俺は久我と共に一旦食堂を離れた。

 あの状況では話を続けるのも難しいだろう。

 拘束を望む女子生徒を考慮し、今は俺の部屋に連れてきているのだが……。


「クソ……クソクソクソクソ――あのクソ女ども!」


 バン! バン! バン!

 苛立ちを抑えきれず、久我が部屋の扉を蹴り付けている。

 こんな状況が暫く続いていた。


「久我、少し落ち着け」


「僕は……僕はやってないんだ! やっていない!」


「わかってる」


「ぇ……?」


 その言葉が予想外だったのか、久我は目を丸めぽっかりと口を開いた。

 唖然呆然憮然……久我の胸中は俺の意図を推し量っているところだろう。


「俺も……それに多分だけど勇希も……お前がやったとは思ってないよ」


「……嘘だっ!」


「嘘じゃない。

 他の生徒はわからないが、少なくとも俺たちはお前を犯人だと思ってないよ」


「今もこうして僕を拘束しているのが、僕を犯人だと思っている証拠だろっ!」


「それはお前が魔法を使おうとしたからだろ」


「っ……僕だけが悪いというのかっ!

 手を出す切っ掛けを作ったのはあいつらの方だ!」


 淡々と伝える俺に、久我は表情を歪めて喚き散らした。


「あれだけ言われたんだ。

 腹も立つだろうさ。

 無実なら余計にな」


「そうだ。

 誰も……僕の言葉を信じなかった。

 信じてくれなかったから僕は――」


「だからと言って、あの時に死傷者を出していたら……それこそお前は終わりだぞ」


「っ……」


 錯乱していた男が初めて口を閉じた。

 あの時――俺が止めなかったらどうなっていたか。

 その先の状況を想像したのかもしれない。


「とにかく、少し冷静になれ」


「……どうしたらいい。

 どうしたら僕が犯人でないと証明できる……」


「そんなの犯人を捕まえるしかないだろ」


「軽く言ってくれるなっ!

 どうやったら真犯人を見つけられるかと言ってるんだ!」


「そんなにわめかなくても聞こえてる。

 真犯人の正体はわからないが、どうせ2組の変身能力者だろうな」


「僕もその可能性は考えた!

 だが、どうやって2組の奴が一組に侵入するんだ!」


「そう……当然の疑問だよな……」


 問題はそこだ。

 まず、どうやってこのクラスに侵入した?

 階層攻略後――生徒は強制的に自分の所属するクラスに転移させられる。

 だからこそ他のクラスの生徒が入り込む余地など……。


「いや……可能性はあるのか?」


「なんだ!? 何か思い当たることがあるのかっ!?」


 俺の呟きを聞き、久我は詰め寄って来た。

 希望があるなら縋りたい。

 そんな顔をしている。


「すまん。

 期待させてしまったが、確定情報じゃないんだ」


 完全な嘘ではない。

 可能性は高いと考えている。

 だがそれでも俺は、久我その可能性に行きついた情報を与えるつもりはなかった。

 それはこの世界の【穴】に付いて教えることになるからだ。


「確定じゃなくてもいい!

 可能性があるなら――」


 久我が俺の肩を揺さぶった。

 その時――コンコンコン……と、ノックの音が聞こえた。


「大翔くん、久我くん、入るよ?」


 それは勇希の声だった。


「どうぞ」


 俺が返事をすると扉が開かれた。


「ごめん……。

 待たせちゃったよね」


「いや……そっちは大丈夫だったか?」


「とりあえず治まった……って感じかな。

 不安がっちゃってる女子が多いから、今日の夜は何人かで集まって見張りを立てながら休んでもらうことになった感じ」

 男子との雰囲気も悪くなっちゃってる……」


 先行きが不安なのか勇希の声には覇気がない。


「……僕は悪くない」


「久我くんが犯人の可能性は低いだろうね」


「え……信じて……くれるのか?」


「信じるじゃなくて、私がそう考えてるだけだよ」


「……そ、そうか」


 無表情で淡々と口を開く勇希に、久我は戸惑いを覚えたようだ。 


「だけど、キミの行動は許容できない。

 どうして同じクラスの仲間を傷付けようとするの?」


「そ、それは……」


「犯人にされそうになって焦っていたのはわかるよ。

 でも、暴力はダメだよ。

 クラスのみんなは敵じゃないよ。

 友達を――仲間を傷付けるのは、最低最悪の行為だから……次にやったら許さない」

 表情のない笑み……というのがあるのだろうか?

 うすら寒い。

 背中に悪寒が走る。


「もし怒りたくなっても、冷静になって考えるの。

 わかった?」


「あ、ああ……」


 迫力に負けるように久我は後退った。


「うん。

 さっき言ったこと、覚えておいてね久我くん。

 これが最後の警告だから」


 勇希の言葉に、何度も何度も久我は頷いた。

 それを見て勇希は初めて笑った。


「なら話は終わり。

 後は――この問題を直ぐに解決しないとね」


「か、解決って……ど、どうするつもりなのだ?」


 久我の疑問は最もだろう。

 勇希の物言いは、まうで犯人がわかっている……と、言っているみたいだった。


「おかしなことを聞くんだね。

 ただ、犯人を捕まえるだけだよ?」


 平然とそして堂々と答える勇希に、久我の表情は一変した。

 それは恐怖ではない。


「ほ、本当に犯人がわかってるのか?」


「うん。

 だから――久我くんはそれまでここにいてね。

 部屋を出るなとは言わないけど、犯人が捕まるまで勝手な行動は控えること。

 部屋の外は野島くんと三間くんが待機してるから、用事があるならどちらかに声を掛けて」


「……わかった」


「不満はあると思うけど……これ以上の疑惑を深めない為にもお願いね」


「ああ……僕は君を信じる!」


 頷く久我から不満や不安は消えていた。

 もしも本当に勇希が事態を解決できたなら――久我にとって勇希の存在は大きなものになるかもしれない。


「うん、待っててね。

 大翔くんには話があるから、このあと私の部屋に来て」


 俺は頷き、勇希と共に部屋を出た。

 すると部屋の前には生徒が二人。


「宮真くん! 大丈夫でしたか? あの野郎、暴れまわってたんじゃ?」


「大丈夫だ。

 この後も大人しくしてる思うぞ」


「そ、そうっすか。

 流石は宮真くん! 一発締め上げてやってんですね!」


 そんなことしてない。

 このヤンキーの中では俺は相当暴力的な男になっているようだ。

 食堂で久我を力ずくで拘束するところを見られているし……身から出た錆とも言えなくはないか……。


「九重さん、この後のことなんだけど……」


 三間が重々しい表情で尋ねた。

 クラスリーダーであるこの男からすれば、男女の壁が出来かかっているこの状況を早く解決したいのだろう。


「うん。

 この後、私の部屋で話そう。

 野島くん、三間くんが戻るまでここで見張りをお願いしていいかな?」


「おう! 任せろっ! バッチリ見張ってるぜ!」


 そして俺と三間は階段を下り、勇希の部屋に向かった。




             ※

お待たせしてすみません。

次話は明日の0時頃更新予定です。

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『ダンジョン・スクールデスゲーム』
もしよろしければ、ご一読ください。
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