勇希の目的
20180216 更新1回目
少し前に2組、その後に5組の攻略完了の通知が届いた。
扇原たち5組の攻略が遅れたのは、2組の襲撃者を探していたからだろうか?
3組、4組は特に通知もない。
下位順位のこの2クラスが潰れるのは、時間の問題かもしれない。
それから少しして、
「みんな会議を始めるね」
食堂での会議が始まった。
勇希はクラスメイトに、羅刹についての詳細を伝えた。
発見した場合、接触は避けて逃げること。
そして自分に連絡するよう徹底させる。
また変身能力を持つ生徒への対策として、
「1組の生徒は人に対する攻撃は絶対に禁止だよ。
万一、1組の生徒の姿をした誰かが、人を攻撃をした場合は変身能力を持った生徒だからね。『こっちから』は、絶対に人を攻撃しちゃダメだよ。もしルールを守れないなら、その生徒は何をされても仕方ないからね」
そのルールを徹底させた。
これは万一、1組の誰かに攻撃された場合は、攻撃を加えろという意味でもあった。
「みんなを守る為だから、徹底していこうね!」
勇希の言葉に、生徒たちは確かに頷く。
誰も彼女を裏切ろうとは思わない。
意見を口にしようとすらしない。
まだ高校生である俺たちだが、既に15年間の人生で理解しているのだ。
カーストの上位者に逆らうことは、クラスで生きていけない事を意味すると。
勇希のしていることは、羅刹と同じ支配だ。
それは彼女もよく理解している。
その上で支配を行う彼女は歪だ。
が、クラスがまとまってくれるのは楽でいい。
「三間くんはどう思うかな?」
勇希が唐突に三間に話を振る。
「九重さんのアイディアは素晴らしいね。
もっと多くのルールを明確に用意した方がいいかもしれない」
男子のリーダである三間は、勇希の発言に対して常に肯定的だ。
もしかしたら勇希の言動に違和感を覚えている可能性はある。
が、クラスのまとまりに安心しているようにも見えた。
絶対的な独裁者の誕生を、三間は望んでいたのだろうか?
「羅刹くんに関しては、私たちのパーティに任せてね。
彼は悪魔のような人間だからね。
私たち全生徒の敵だよ」
悪魔などという言葉が唐突に出ても、それがおかしいと声を上げるものはいない。
まるで思考を誘導されるかのように、このクラスでは羅刹=クラスの敵であるという認識が広まる。
生徒たちの気持ちが敵を許すなと一つになっていく。
(……外敵を作るというのは、内部の人間をまとめるのにこれほど役立つものか)
歴史が証明している事とはいえ、普通に生きてるだけならばそれを実感する機会はないだろう。
イジメのように弱い者を排除するのではない。
弱い者が集団となり強者を倒す。
それはまるで、王制に反旗を翻す民のようだ。
そして革命のリーダーは九重勇希――俺が生み出してしまったもう一人の支配者だ。
「それじゃあ会議は終わり――みんなゆっくり休んでね」
こうして食堂での会議が終わりを迎えた。
※
「大翔くん、少しいいかな?」
「ああ、大丈夫だ」
「なら、私の部屋に来て」
言われるままに俺は付いて行く。
何かの相談――恐らく他の生徒がいる場所では出来ない話だろう。
「どうぞ」
俺が部屋の中に入ると、勇希は扉を閉めた。
「適当に座って」
「……ああ」
俺は床に座った。
勇希もベッドには座らず、俺の傍に腰を下ろす。
「……相談があるの」
「羅刹のことだろ?」
「……違う」
「……?」
思わず首を傾げてしまう。
だとしたらなんだ?
クラスのこと?
それとも他に気になる生徒がいるのか?
思い当たることはない。
「羅刹くんは倒さなくちゃいけない。
人を惑わす悪魔だから。
でもね、私は考えたの」
虚ろな瞳を俺に向ける。
一体、勇希が何を考えているのかが、俺にはわからない。
だから言葉を待つ。
俺は彼女を利用し、彼女は俺を利用する。
俺は勇希を助け、勇希はみんなを救う。
契約は既に成立している。
「みんなを助ける為には、羅刹くんを倒しても結局意味がないんだよね」
「……だが今後の攻略に置いて、羅刹は邪魔になる」
「攻略をするっていう発想がいけないんだよ」
「どういう意味だ?」
「なんで私たちが苦しんでいるのか? なんで私たちがこんなところにいるのか?
羅刹くんを倒したところで、結局この元の世界に帰れるわけじゃない。
この世界にいたら、みんながおかしくなっていく。
だったら――原因そのものを潰さないといけない」
原因――そう言われて俺は、ようやく理解した。
九重勇希という壊れたヒーローが何を望んでいるかを。
「……担任を潰すつもりなのか?」
「まずは、ね。
でもそれは手始め。
私はね、この世界を壊す為に、邪魔なものを全部排除する。
こんな世界がなくなれば全部救われるんだから」
そう言って勇希は妖しい笑みを浮かべる。
俺も担任を潰すことは考えていた。
F――俺にオリジナルスキルを与えたあの女の話では、一匹狼がレベル4になった時点で、確実に担任を潰せると言っていたが……。
「いくらなんでも、今直ぐには無理だってわかってるよ。
でも……今日から準備を始める。
その為に必要な条件を揃えていく」
きっと、勇希はもう止まることはないのだろう。
俺は――そのレールに乗っている。
下りるつもりもない。
「……大翔くんは協力してくれるって言ったよね?
あなたのを利用してもいいって言ったよね?」
「ああ、俺を使え。勇希がこの世界を壊す為に」
「じゃあ……あなたの持つ力――全部教えてね。
嘘偽りなく……全部」
狂気を感じさせる笑みを勇希が浮かべる。
それは、壊れてしまった勇希が初めてみせた人間らしい感情だった。




