変化するクラス
20180214 更新1回目です。
あの後――俺だけは別行動を取る事となった。
『3階層のボスが討伐されました』
階層内に声が響く。
討伐したのは俺だ。
勇希にボスの討伐を命じられ、三枝を連れて3階層のボス討伐に向かったのだ。
「宮真くん、ボス討伐お疲れ様!」
三枝が笑顔を向けて俺を労ってくれた。
「ああ、これでポイントが手に入る」
3階層のボスは『バイオイーター』。
三枝の鑑定スキルによれば、毒を使うモンスターだったらしい。
が、触れることなく魔法でサクッと討伐してしまった。
『バイオイータ―がアイテムドロップしました』
ドロップアイテムは『毒の牙』。
恐らく素材アイテムだろう。
「この後は九重さんたちのところに戻るんだよね?」
「いや――戻る必要はない」
なぜなら、
『1組の生徒が4階層に繋がる『扉』を発見しました。
よって1組は第3階層攻略完了となります』
続けて響くシステム音。
俺と勇希の打ち合わせの通りだ。
俺がボス討伐後、勇希が扉に触れる。
これで俺たちは多くのポイントを手に入れた。
「ね、ねぇ……宮真くん、九重さんは大丈夫、なの――」
三枝の言葉が一瞬途切れた。
そして俺たちは階層攻略班は教室に戻って来た。
※
「大翔くん、ありがとう」
「いや、このぐらいはなんでもない」
教室に戻って直ぐ、勇希が俺に駆け寄って来た。
優しい笑みを向けてくれる。
表面だけ見れば、いつもの九重勇希に戻ってくれていた。
彼女を気に掛けつつ俺は周囲を見回す。
担任の姿はない。
階層攻略で得られるポイントはどうなるのか? と思い共通ポイントを確認したが、しっかりと振り込まれていた。
が、俺の個人ポイントに変更はなかった為、ボス討伐の報酬は担任から直接受け取るしかないようだ。
(……あいつ、忘れてやがるな)
直ぐにポイントが必要なわけではないが、次に担任がやって来た時に問い詰める必要があるだろう。
「九重さん、階層攻略をしたのはキミかい?」
「なぜ勝手に攻略をした!! まだ犯人を特定できていないだろ!!」
三間と久我が、二人同時に勇希に話し掛けてきた。
「……三間くん、階層攻略したのはわたしだよ。
久我くん、襲撃犯は2組の生徒で確定だよ。
リーダーの羅刹くんが、2組の生徒に命令して襲わせたの」
勇希は淡々と答えていく。
オリジナルスキルの存在については、あの後で俺から勇希に話していた。
羅刹の持つ力は恐らくオリジナルスキルだという事と、襲撃者が使用したと予想される変身能力も、オリジナルスキルの可能性が高い事を伝えた。
「2組のどの生徒なのだ?」
「名前はわからない。
でも、2組の生徒であることは間違いないよ。
そうだよね、大翔くん」
「ああ、2組の生徒が姿を変化させたところを、俺たちはこの目で見ているから」
嘘だ。だが、そういう事にしておく。
嘘を吐くなら有効的な使い方をするべきだ。
そして最後には――それを真実に変えてしまえばいいのだ。
それに……襲撃者の件に関しては、2組――羅刹が関わっている可能性は非常に高いのだから。
「むっ……だとしたら、あの女――扇原は犯人じゃないのか」
「そうだね。
だから久我くん、今度会ったら扇原さんに謝ってね」
「……あ、謝るだと! なぜこの僕が――」
久我が強い口調で勇希に迫った。
だが、
「久我くん……私は謝ってて言ったよ?」
信じられないほどの冷たい声が教室に響いた。
大声を上げたわけじゃない。にも関わらず、生徒たちの視線が勇希に一斉に集まる。
「っ……」
「もし久我くんのせいで5組のみんなと喧嘩になったらどうするの? 扇原さんを怒らせた責任が取れる? 彼女のオリジナルスキルはとても強力なんだよ? だったら仲良くしておくべきだよね? 扇原さんが本気になったら、久我くんなんて直ぐにやられちゃうよ? 久我くんのレベルは今いくつ? 5組の生徒のレベルはもう8レベルを超えているらしいよ。戦いになったら勝てるの? レベル5の久我くん」
勇希が久我を捲し立てる。
淡々と感情もなく次々と言葉が紡がれる。
久我を見る勇希の瞳は虚ろだった。
ヒーローの魂は……壊れている。
「ぁ……っ……」
「……謝れるよね? 久我くん」
「わ、わかった……」
辛うじて久我が声を絞り出す。
「よかった。じゃあ約束……裏切らないでね」
もし嘘を吐けば、お前を容赦しない。
勇希の言葉にはそんな意味が含まれている気がした。
そして、勇希は優しく笑った。
たったそれだけのことで、重くなっていた空気が和らぐ。
「……そ、そういえば、三枝さん! あれはどういうことなの!」
思い出したかのように、女子生徒の一人が声を上げる。
「え? 七瀬さん、どうかしたの?」
七瀬と呼ばれた生徒は、最初に三枝が仲良くなった女の子だ。
昨日の夜も一緒におしゃべりをしていた……と、三枝は言っていたが。
「ダンジョンの中でのことだよ!
いきなりやってきて、あたしの顔をひっぱたいたじゃない!」
「え? あ、あたし、知らないよ」
「嘘吐かないで! うちのパーティの子も三枝さんに殴られたんだから!」
再び騒ぎが起こる。
これも、三枝に変身した誰かの仕業だろう。
だが、襲撃者は三枝にも変身可能なのだとしたら――犯人は2組の生徒の可能性が一気に高まった。
「あ、あたし、本当に知らないよ!」
「知らないって、ふざけてんの!」
七瀬が三枝に迫り、彼女の腕を強く掴む。
「い、痛いよ、七瀬さん」
三枝は顔を歪める。
瞳が徐々に濡れていく。
「おい、七瀬やめ――」
俺が止めに入ろうとした時だった。
「七瀬さん。
三枝さんは嘘を吐いてないよ」
「こ、九重さん?」
勇希の言葉に、七瀬は身を固くする。
明らかな差。
ヒエラルキーの序列がはっきりと見える。
「私たちはずっと一緒にいたんだよ。
三枝さんと私たちは同じパーティなんだよ?」
「それは間違いないよ。
ボクも一緒にいたからね」
「オレもだ! テメェらは2組の襲撃者に騙されてんだよ!」
此花と久我も、三枝を庇う。
「しゅ、襲撃者?」
俺たちは、詳しい事情を知らぬ生徒たちに、3階層で起こった事件について説明した。
※
「ごめん! 三枝さん!」
「ごめんね! わたしたち、知らなかったの!」
七瀬たち女子グループが、三枝に頭を下げて謝った。
「だ、大丈夫だよ、七瀬さん」
戸惑いつつも、三枝は皆を許す。
文句の一つくらいは言ってやってもいいが……優しい三枝らしい。
「……許してくれる?」
「全然、怒ってないよ」
「良かった! わたしたち、友達だもんね!」
三枝の手を、七瀬がぎゅっと握った。
よくもまぁこんな都合のいい言葉が出てくるものだ。
「七瀬さんは、三枝さんと友達なんだよね?」
「え……う、うん。そうだよ」
唐突に話しかけてきた勇希に、七瀬は戸惑いながら固い笑みを浮かべる。
「そうだよね。でもさ、ならどうして三枝さんの言葉を信じてあげなかったの?」
「え……?」
「最初から嘘だって決めつけたよね? なんで? 友達なのに、その言葉を信じられなかったの? それとも、七瀬さんにとっては、友達ってただの都合のいい存在なの? いざとなったら切り捨てられちゃうの?」
「ち、ちがっ……」
「そうだよね。七瀬さんは、そんな酷いことはしないよね」
勇希は笑う。
七瀬はそんな勇希を見て、ほっとしたように息を吐いた。
「う、うん! しないよ! 本当にごめんね! 三枝さん!」
「あ、あたしは全然大丈夫だから! 本当だよ、九重さん」
「そっか。でも、仲間同士を疑うのはやめようね。
足の引っ張り合いなんてしても意味ないよ。
悪いのは2組の羅刹くんなんだから」
「う、うん! わたしたちも、その羅刹って奴には警戒しておくから!」
「そうしてね。
みんな! もしも困ったことがあったら、まずは私に相談して!
一人で悩まないで、一つ一つの問題点をちゃんと解決していこう!
どんな困難だって、みんなでなら乗り越えられるから!」
勇希の温かい笑み、温かい言葉で、クラス内は一つになる。
(……これでいい)
これで今までよりも遥かに、クラスは纏まっていく。
勇希を守る為の城が整っていく。
(……後は――羅刹を利用しまくって、使い潰してやる)
それから俺たちは、九重勇希というクラス内カーストの頂点を中心に、4階層攻略を始める為の準備を整えていった。




