大翔の推測
20180206 更新
扇原は口止めはしていなかったらしい。
オリジナルスキルは、この世界で生きて行く上での大きな力だ。
それを言いふらすような真似をするなんて……。
(……いや、知られたところで問題ないと考えているのかもしれない)
扇原のオリジナルスキルが、彼女の説明通りであれば一切リスクもなかった。
俺の一匹狼と違い、永続的なスキルだからな。
だが、それにしたって警戒心がない気もする。
もしかしたら5組には、もっと強力なオリジナルスキル持ちがいるのだろうか?
「しかし、レベル8か……かなり高いな」
「ボクたちのパーティは、今レベル5になったところだもんね」
「1組の平均レベルはそれくらいなんですね」
1組全体としての平均レベルはもっと低いだろう。
階層攻略に参加していない生徒はレベル1のままだから、恐らく4、5レベルは違うんじゃないだろうか?
扇原のオリジナルスキルの怖さは、経験値を得られなかった者達すらもレベルアップしていくことだ。
総合力で考えれば5組は圧倒的だろう。
最悪、クラス間で戦闘になった際には数の暴力で殲滅される危険性もあるわけだ。
5組の危険性を、俺は改めて感じていた。
(……うん?)
右側の壁の向こうに、今までよりも強い気配を感じた。
恐らく、この感覚はボスだ。
しかし俺たちの進行方向は直進。
出来ればボスモンスターを倒しに行きたいのだが……。
(……抜け出して、討伐してくるか?)
ボス討伐の経験値は大きい。
だが、俺が抜ければ明らかに皆は訝しむだろう。
正直、一匹狼を使用すれば簡単に討伐できるはずだ。
しかしこの力は切り札でもある。
可能な限り誰にも知られたくはない。
「みんな、どっちに進む?」
分かれ道を見つけ、勇希が進行方向を尋ねた。
真っ直ぐ進むか、右に進むか。
右に進めばボスとの戦闘になる可能性は高い。
(……隠しているわけにはいかないか)
ボスがいることに関しては、伝えておくべきだろう。
「右の通路の先、ボスモンスターがいるぞ」
「右の通路の先に、強い気配があります」
声が重なった。
答えたのは樹だ。
どうやら彼女も気配察知を獲得しているのだろう。
「ボス……か。
扇原さんから聞いてはいるが……」
「普通のモンスターよりも、ずっと強いんだよね?」
5組の生徒でボスモンスターとの戦闘経験があるのは、扇原のパーティだけなのだろう。
1階層はともかく、2階層のボスは一匹狼で瞬殺してしまったからな。
まともなボス戦の経験者は、この中では俺、勇希、三枝だけということになる。
「この人数で戦えばいけるんじゃねえか?
宮真くんもいるんだしよ」
「危険を回避したいなら、俺は戦うべきではないと思う」
数は絶対的な力。
野島の考えは決して間違いではないが、俺は反対しておいた。
「宮真は、ボス戦経験者なの?」
「ああ、俺だけじゃなく勇希と三枝もな」
俺は二人に話を振る。
「1階層では扇原さんたちと組んで戦ったんだよ」
「扇原さんと……?
そんなことがあったのか……」
どうやら扇原は、あの時のことについては話していなかったようだ。
それは俺たちに対する負い目からなのか、ただ単に保身を考えた末なのか……。
「通常のモンスターとは、比べ物にならないくらい強かった。
正直、生きていたのが不思議なくらい……だよね、宮真くん」
三枝は俺に苦笑を向けた。
思わず苦笑を返す。
「……それほどか。
階層攻略に関わらない以上は、戦うべきではないのかもしれないな」
俺たちの話を聞いた上で、5組の面々は戦闘を回避することを選択したようだ。
だが、恐らく彼らは気付いていないだろう。
(……もし変身能力を持った第三者が、この階層のボスだった場合――)
ボスを避けるということは、『襲撃者』を見つけ出す可能性を一つ消していることになる。
久我と樹を襲ったであろう犯人が、人間だとは限らないのだから。
「じゃあ、ボスは避けて進むってことでいいよね?」
勇希の言葉に全員が頷いた。
そのタイミングで、
『4組が2階層を突破しました』
ダンジョン内にシステム音が響く。
毎度のことながら、一体どこから聞こえてくるのだろうか?
「……4組が攻略完了か」
「2階層未攻略なのは、後は3組だけよね?」
このまま直ぐ、4組が3階層攻略を始めるとは考えにくいが、『襲撃者』のいるこの状況では、さらに面倒なことになりそうだ。
(……とっとと階層を攻略してしまうか、
それとも……犯人を見つけるか……)
少し状況を整理する。
襲撃者の可能性があるのは1、2、5組の誰か。
もしくはモンスター。
俺が知っているのは、俺たちのパーティに犯人がいないということ……。
それ以外の誰か……で、且つ他のパーティを潰そうと考える人物。
現在、被害を受けたのは、1組の久我、5組の樹。
襲撃者は5組の扇原と……5組の鷺ノ宮だったらしいという話だけ確認している。
ちなみに鷺ノ宮は、樹に対して、雷撃を放った生徒だ。
(……普通、同じ生徒に対してそこまでするか?)
いや、身を守る為の行動と考えればおかしくはないか。
恐らく、牽制程度の攻撃だったのだろう。
樹も魔法は掠めただけ……と言っていたしな。
行動と結果を合わせて考えれば、言い分に違和感はない。
それよりも違和感があるのは、
(……どちらも襲撃者がなりすました生徒が5組という点にある)
まるで5組を潰そうとしているみたいだ。
それとも……そう考えさせることで、5組が犯人ではないと思わせる作戦だろうか?
だが、最初に疑いを持たれるリスクがある。
仮に俺が変身能力を持っていたとして、そんなリスクを犯すだろうか?
そもそも生徒同士が争うことで、最もメリットがあるのは誰だ……?
(……モンスター……か?)
久我を捕えていたコボルドたちのことを思い出す。
あれは生徒を何かに利用する為の行動だろう。
何らかの交渉に使うつもりだったのか、それとも別の理由があったのかはわからない。
仮に変身能力を持ったモンスターがいたとして、誰にでも変身できるものなのか?
その人物を知っているからこそ、変身可能なのではないだろうか?
今まで変身能力が発動しているのは、5組の扇原、鷺ノ宮。
彼らを知っているからこそ、5組の生徒に変身出来たのではないだろうか?
1組で扇原と鷺ノ宮、共に面識があった生徒はいるだろうか?
絶対とは言い切れない。が、恐らくいないだろう。
そもそも1組の生徒は俺と勇希と野島を除けば、1階層の攻略に参加していない。
そして、扇原が三間に初めて俺たちの生存を聞いたということは、1組の生徒と顔を合わせていない可能性が高いということだ。
コミュ力の塊のような扇原が生徒と顔を合わせた上で、何も会話をしていないという可能性は低いだろう。
となると、やはり1組に犯人の候補者となる生徒はいないはずだ。
そうなれば襲撃者は2組か5組となる。
1番可能性が高いのは当然5組なのだが……。
「鷺ノ宮。
2階層で2組の生徒と顔を合わせなかったか?」
俺は鷺ノ宮に声を掛けた。
唐突な質問に、彼は不思議そうな顔をする。
「なんでそんなことを聞くんだ?」
「深い意味はない。
誰か友人になった奴とか、いないのか?」
「友人というほど親しくはないが、2階層で顔を合わせた生徒はいるぞ」
やはりか。
そうなると2組の誰かが、この状況を作っている可能性も出てきた。
2組が階層攻略を始めたのは、三枝が引き抜かれたことがわかった後だ。
しかし5組も2階層の攻略には時間がかかっていたからな。
どこかで顔を合わせていてもおかしくない。
「その生徒の名前はわかるか?」
「ああ、パーティでの行動だったから複数人いるが。
リーダー格なのは羅刹だな。
それと目立ってたのは柊さんって女子生徒だ」
「あたしも柊さんは覚えてるよ! 性格悪そうな子だったよね。
当たりがキツいって言うかさー。
なんていうか、冷血漢な女帝って感じ?」
柊の名前が出た途端、美玲が会話に混じってきた。
会話を聞いた感じだと、あまりいい印象を抱いていないらしい。
同時に俺は気付いた。
柊の名前が出た途端、三枝が身を固くしたことを。
(……そうか)
多分、柊というのは三枝をイジメていた生徒なのだろう。
ダンジョンにいるとなると、顔を合わせる可能性もある。
その時、トラブルが発生する可能性は否定できないだろう。
(だが、もし2組の羅刹、もしくは柊が襲撃者であるのなら――)
トラブルの原因を排除するついでに、三枝にとってのトラウマを取り除いておいてもいいかもしれない。
勿論、この件に関しては三枝の能動的な行動を期待したいが……。
「扇原は柊や羅刹を知っているのか?」
「うん。
階層探索中に合って、少しだけ話したって言ってた」
となると、やはり2組が犯人に近付いていく気がする。
彼らがなぜそんなことをするのか。
その理由はまだわからないが……。
「扇原さんは、柊さんたちに協力関係を結ばないか提案されたそうです」
「なぜ断ったんだ?」
「だって女帝だよ?
あれと組んだら明らかに空気悪くなるもん。
みんな仲良く~ってスタンスの扇原さんとは正反対だもん」
「……扇原さんは、裏を感じてしまったんだと思います。
こちらに大きな被害を被るような、そんな何かを……」
平気で他者を裏切るような、そんな印象を受けたというわけか。
だが、扇原のその推測は間違っていないだろう。
楽しくイジメが出来る生徒など、信用していいわけがない。
「そうか。
羅刹と柊、警戒しておいたほうがよさそうだな」
俺はその二人の名前を刻み込む。
襲撃者でなかったとしても、厄介な相手であることは間違いないだろう。




