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201802024 更新しました。

         ※




 三間たちのパーティを発見したことで、俺たちの当初の目的は完了した。

 後は3階層の攻略を進めるだけ……なのだが、


「……とりあえず、マップを埋めていくか」

「そうだね。

 後は……どこかで久我くんを襲った犯人を見つけられるといいんだけど……」


 やはり勇希は犯人を捜しを進めたいらしい。


「でもさ~、ココノエ。

 もしオウギハラが言っていたみたいに、襲撃者が変身能力を持っていたら犯人を見つけることなんて出来ないんじゃない?」


 姿を変えた放題では、犯人の特定など不可能に近い。

 此花はそう考えたようだ。


「その場に同じ人が二人いる……とかなら話は別かもだけどね。

 そういう状況を意図的に作り出すのは難しいよね」

「……作れたとしても、見分けがつかねえんじゃねえか?」


 見た目だけならまだいい。

 気になるのは変身能力の具体的な効果だ。

 もしも見た目だけではなく、性格や声まで変化するのだとしたら……それこそたちが悪い。

 使う人間次第じゃ、最凶の能力になりかねない。

 いや――使用者が人間だと決まったわけでもなければ、そもそも久我が言っていることが事実なのかもわからないが……。


(……疑っていてはきりがないな)


 情報の少ないこの状況では、やはりまずは3階層の扉を見つけることを優先するべきだろう。

 それと出来れば、ボスモンスターの討伐もしておきたい。

 一匹狼オリジナルスキルを発動した状態で、ボスを倒せば再び大きくレベルアップできるだろう。

 俺の3階層の目標設定としては攻略とボスモンスター討伐。

 もしチャンスがあるのなら、犯人を確保、もしくは討伐と言ったところか。


【周囲に複数の気配があります】


 考え事をしていても、スキルはしっかりと反応する。

 出来れば、人かモンスターかもわかるようになるとありがたいんだが……それは望み過ぎだろう。


「この先、何かいるぞ」


 俺が伝えると全員が表情を引き締めた。

 だが、


「くそっ! なんだって言うんだ!」

「先に仕掛けて来たのはお前らだろうがっ!」


 明らかに穏やかではない。

 男たちの喧噪がダンジョンに響く。

 この先にいるのは、どうやらモンスターではないようだ。


「……まさか……」

「大翔くん、これって生徒同士のトラブルなんじゃ……!?」


 嫌な推測が頭によぎった。

 もしかしたら既に――他の生徒も襲撃者に襲われているのではないか。

 それが生徒間で、大きなトラブルに発展しているのではないか。


(……確認しておくか)


 首を突っ込むかは置いておいて、何が起きているのか知っておく必要はあるだろう。


「――雷撃ライトニングボルト!!」


 この先にいる生徒が魔法を使ったのか、ダンジョンの通路が眩い光で照らされた。


(……まさか)


 人が、人相手に魔法を使ったのか?

 それを確かめるべく、俺は足を速める。

 すると通路の先で――膝を突く生徒が見えた。

 さらに数人の生徒たちが争っている。

 ただの殴り合いではない。

 武器を持った本気の戦闘だった。


「……う、嘘でしょ……どうしてこんな……」


 生徒同士の戦闘――下手をすれば殺し合いにもなりかねない。

 その光景に三枝は大きなショックを受けたようだ。


「止めないと!」


 勇希が駆け寄って行く。

 見知らぬ生徒たちではあるが、流石に死者が出る前に止めるべきだろう。

 モンスターに殺されるならまだしも、生徒が生徒を殺すなんてことになれば大きな禍根になる。

 こんな閉鎖的な空間で憎しみが広がっていくとなれば、敵はモンスターだけでなく人間も……なんてことになりかねないだろう。


「戦いをやめて! 何が原因でこんなことになってるの!」


 勇希が声を張った。

 だが、どちらのパーティも武器を下ろそうとはしない。


「うるさい!

 いきなり不意打ちしてきたのはこいつのほうだ!」

「だから、おれは何もやっていないと言ってるだろっ!」

「嘘を吐かないで! わたしたちはこの目で確かに見たんだから!

 結花ゆいかは怪我だってしたのよ!」


 問題が生じ戦闘に発展してしまったようだ。

 そしてこの問題は、久我の一件と状況が似ている気がする。

 扇原の推測通り、変身能力を持った生徒がいるのか?


「どうしてキミたちは戦ってるんだよ?」

「せ、生徒同士でこんな危険な戦いはダメだよ!」

「やるんだったら素手でやれや! テメェらは殺し合いをしてぇのか!?」


 此花、三枝、野島が、自分なりの言葉で声をかける。

 だが彼女たちの言葉は、憎しみに駆られた者たちには届かなかった。


(……こういう状況で役立ちそうな魔法は……)


 獲得した魔法の中で使えそうなものを探す。

 相手を眠らせる魔法とか、動きを拘束する魔法でもあればいいんだが……少なくとも今は、そんな都合のいい魔法は獲得できていない。

 かと言って、攻撃魔法を使うわけにもいかないだろう。

 暴力というのは問題解決の為の最終手段だ。

 時に必要になる状況はあるだろう。

 だが、安易な手段でリスクも大きい。


(……なら俺に出来ることが――争いを治める為の最も有効的な手段は……)


 必然的に一つしかない。


「――お前らは騙されてる」


 断定口調ではっきりと言い切った。

 瞬間、怒りに身を任せていた生徒たちの視線が一斉に俺に集まる。


(……よし、第一段階成功だ)


 人が持つ最強の武器は言葉だ。

 それは時に争いを生むことにも繋がることもあれば、争いを回避する為の手段にもなる。

 だが話をするためには、こちらの言葉が届かなければ意味がない。

 その為にまず、関心を得る必要がある。


「……騙されているというのはどういう意味だ?」


 相手からの疑問を引き出せた。

 これで第二段階成功。

 後は――誤解が解けるよう話を進めてやればいい。


「不意打ちされたと言っていたよな?

 だが今、ダンジョン内で同じトラブルが発生している」

「……どういうことだ?」


 俺は彼らにクラスメイト――久我に起こったトラブルについて説明した。

 そしてそれは、変身能力を使った第三者の犯行かもしれないと。


「……状況が全く同じであることはわかった。

 だが、一つ疑問に答えてほしい」


 話を終えた俺に、争っていた生徒たちの一人が口を開いた。


「俺がわかる範囲でいいなら答えさせてもらう」

「……変身能力がある第三者がいるというのは、確定じゃないんだな?」

「その通りだ」


 流石にこの説明だけでは納得してもらえないか。

 当然だろうな。

 もしこれで「そうなんですか、わかりました」などと口にしたらそいつは馬鹿だ。


「久我という生徒を襲った相手が嘘を吐いてる可能性もあるだろ?」

「だよねだよね! なんていうか都合良過ぎるよ!」

「……お前らは騙されたんじゃないか?」


 質問してきた男のパーティメンバーが、追従するように騒ぎ出した。

 だがこいつらの発言は想定内だ。


「騙された可能性が全くないとは言えない」

「なら――彼がボクたちを襲った可能性は否定できない。

 そういうことだな?」

「ああ。

 さらに言えば、そいつが変身能力を持った本人という可能性もあるだろ」

「……そんな不確かな情報を信じられるとでも?」


 そうだろうな。

 普通は信じられない。

 だが、説得の手段はある。


「お前たちは、2組か5組の生徒たちで間違いないか?」


 現時点で3階層攻略が可能なのは1、2、5組だけ。

 彼らは1組の生徒ではない為、必然的に2組か5組となる。


「……どちらのパーティも5組だが?」


 やはりそうか。

 もし彼らが2組の生徒なら、三枝が何らかの反応を見せていただろう。


「まだ伝えていなかったが、俺たちは1組だ」

 

 話しながら俺は、この戦闘は既に回避されたと確信した。

 なぜなら彼らが5組だったからだ。


「さっきは名前を伏せたがな、うちの久我を襲ったのは5組の扇原だったそうだ」

「……馬鹿な!? 扇原さんがそんなことするわけがない!」

「そうだよ! うちのクラスのリーダーで、とっても優しくて頭も良くて、人に暴力なんて振るう子じゃないよ!」


 5組全体としても、扇原はリーダー格で間違いないようだ。

 今の口振りから考えれば、信用もされているし、信頼を寄せる生徒も多いのだろう。

 であれば、


「俺も扇原が生徒同士の争いをくわだてたとは思っていない。

 1階層で共にダンジョンを攻略した時に世話になった奴だしな」

「当たり前だ!」

「変身能力を持った生徒がいる可能性も、元々は扇原が言い出したことなんだ。

 そして、彼女の言葉だからこそ、被害者である俺たちも信じることにした。

 彼女は今、真犯人を捜索している」


 5組の生徒は、扇原が自分たちを襲ったとは考えないだろう。


「似たようなトラブルが連続で起こっている。

 もしかしたら他の場所でもな。

 そんな状況下で争っても、無意味だと思わないか?

 まずは扇原がしているように、トラブルの原因を突き止める必要があると思う」


 彼らはパーティメンバーと視線を交差させた。

 自分たちがどうすべきか? 悩んでいるようだ。

 が、きっと彼らは扇原の考えに追従するはずだ。

 扇原の存在は5組の生徒たちにとっては、それだけ大きいはずだから。


「……わかった。

 扇原さんに襲われたというキミたちが、彼女を信じてくれた以上……おれたちも戦いをやめよう」

「こっちも構わない。

 怪我人が出たわけじゃねえからな。

 それと、魔法を使っちまって悪かった、許してくれ。

 突然のことで、頭に血が上っちまった」


 どちらのパーティも戦闘継続の意思がないことを表明した。

 緊迫した空気が消えて、生徒たちが武器を下ろす。


「あんた……大丈夫か?

 おれの使った魔法が当たっちまったよな……」


 魔法を放ったという男が、怪我をした少女を気遣う。

 俺たちがここに駆け付けた時、地面に膝を突いていた少女だ。


「だ、大丈夫です。

 ちょっとよろけちゃっただけで、そんなに痛くないですから……」

「彼女は魔法でダメージを受けたのか?」


 俺が尋ねると、


「あ、足に霞めた程度です。

 でも、少ししびれちゃって……」

「……それだけじゃない。

 さっきも、結花が最初に襲われたの。

 大きな怪我はなかったんだけど……」


 泣きっ面に蜂……というと安っぽいが、災難だったな。

 俺は彼女――結花と呼ばれる生徒に近付き、その場で膝を突いた。

 そして、


「……治癒エイド


 治癒魔法を使ってやる。

 この女を助けたいわけじゃない。

 あくまで初対面の相手に大して、友好的な態度を見せているだけだ。

 今後、どこで何がきるかわからない。

 単純な打算からの行動だったのだが、


「……ヤマトが優しい……」


 此花、なんだその意外そうな目と声音は……?


「宮真くんはもともと優しいよ」

「冷たそうに見えるけど、困ってる人を放っておけないんだよね」


 三枝も勇希も俺を誤解している。

 まず誰にでも優しわけじゃない。

 そんな善人は異常者だ。

 それと、放っておけないのは勇希のことだけだ。

 ……三枝のことも、ほんの少しだけ放っておけないが……。


「どうだ? 大丈夫か?」

「あ、ありがとう。

 もう平気みたい。

 不思議……痺れが直ぐに治まっちゃいました」


 治癒エイドには軽度の状態異常を治す効果もあるからな。


「えと、宮真君……って、言うんですか?」

「ああ。

 もし、また顔を合わせる機会があったらよろしくな」

「は、はい……。

 わたしは樹結花です。

 本当にありがとうございました」


 立ち上がり、お礼を言う少女。

 少し控えめで礼儀正しい。

 性格的には、うちのクラスの料理担当と仲良くなれそうだ。


「それで……お前たちはこれからどうする?」


 5組の生徒たちに確認を取った。


「……扇原さんが犯人を捜索している以上、こちらもそれを手伝うつもりだ」

「おれたちも同じだ。

 真犯人がいるってわかった以上、同じクラスで争う理由は何もないからな」


 5組のメンバーはまだまとまりがいいな。

 互いに謝罪をして和解を済ませた。

 少なくとも表面上はそれが尾を引いてはいない。

 これが俺たち1組で、仮に久我がトラブルなど起こした日には、こんな風に和解できるかどうか……。

 だが、そんな彼らですら少しの誤解で関係は瓦解していく……人の心の脆さがよくわかる……。

 扇原がいてこそ、成立している人間関係のように思える。

 そして、だからこそ彼らはきっとわかっていない。

 その扇原ですから、本当の意味で信頼することなど出来ないということを。

 一人の人間を信じ切っているようでは、5組の瓦解は意外と早いかもしれない。


「このトラブルを発生させている原因を見つけ出すことは勿論だが、状況が把握できていない生徒もいると思う。 

 だから、そんな生徒を発見したら情報の共有をしていくつもりだ。

 勇希、それでいいよな?」


 俺は勇希に話を振った。

 これは、このパーティのリーダーは彼女……九重勇希であることを、5組の人間に伝える為だ。


「うん! 生徒間のトラブルを避ける為にも、みんなで協力して誤解の原因は解いていこう」


 表向きの行動方針を伝えておく。

 こうしておけば、5組のメンバーも襲撃者の捜索に力を入れてくれるだろう。

 その間に俺たちが扉を見つけ出す。

 そのまま階層攻略をするかは別として……な。


「1組の方針はわかった。

 ……もしよければ、キミの名前を聞いてもいいか?」

「あ……紹介が遅れてごめんね。

 九重勇希、よろしくね。

 扇原さんとも友達なんだよ」

「九重さん……か。覚えておく。

 また顔を合わせる機会があればよろしく頼む」

「うん! こちらこそよろしくね!」


 話はまとまった。

 これでようやく、探索へ戻れる。

 と、俺は考えていたのだが……。


「そうだ!

 もしよかったらなんだけど、暫く一緒に行動しない?

 そうすれば、犯人に襲われるリスクも減らせると思うんだ」


 ちょ!? 勇希さん!?

 いきなり何を言っちゃってるの?

 そもそも、こいつらの中に襲撃者がいる可能性もあるんだぞ。


「……なるほど。

 それなら仮にこの中に犯人がいたとしても、互いを見張り合うことで牽制にもなるな」「おれたちも構わないぞ。

 襲撃者の件は勿論だが、3パーティで行動することでモンスターも討伐しやすくなるだろうからな」


 5組のメンバーはノリノリだった。

 最悪だ……。

 俺の行動を狂わせるのは、いつも九重勇希だ。

 今からでもなんとか別行動するよう提案したいが……。


「それじゃあ協力関係成立だね! これから一緒に頑張ろう!」


 勇希はこれが、皆にとってもベストな選択であると信じているのだろう。

 笑みを浮かべる彼女を見て、俺は思考を切り替える。


(……仕方ないか)


 最悪ではあるがデメリットばかりではないことも事実。

 彼らから5組の情報を引き出せるかもいれない。

 それに……これ以上、生徒間でのトラブルが増加すれば面倒なのは事実だ。

 優先順位は変わってしまうが、俺たちに被害が及ぶ前に原因を潰しておくとしよう。

 無理にそう納得して、俺も表向きは他クラスとの協力関係に賛成したのだった。

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