表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/94

襲撃者を捜索せよ!

20180203 更新しました。

「お、お前、いきなり何を――」

「良かった、本当に……無事だったんだね!」

「は……?」


 いきなり何を言ってるんだこいつは?

 俺は思わず呆気に取られる。

 するとそんな俺のことなど気にした素振りも見せず、


「九重さんも……三枝さんも、本当に良かった……」


 勇希と三枝を見て安堵していた。


「お、扇原さん……?」

「よ、良かった……?」


 二人は一度目を見合わせた後、目をパチパチさせる。

 激怒していた久我すら、惚けた顔でこの状況を見守っていた。


「ずっと、三人が無事か気になってた……。

 1階層のボス戦のことがあったから……ずっと、心配で……。

 もしかしたら、わたしのせいで……宮真くんたちがって……。

 それが気になって、わたしたちは2階層も宮真くんたちを探しながら探索をしていたの……」


 心配で……? 俺たちを探していた……?

 扇原が何を話し出すのかと思えば――くらだない言い訳か。

 何を言ったとしても、結果は変わらない。


「2階層では会えなかったけど……でも、3階層でさっき三間くんたちに会って――それで、宮真くんたちが無事だって教えてもらって……わたし、本当に安心しちゃって……」

 話ながら目を潤ませる。

 嘘を言っているようには見えない。


「……扇原、俺たちを置き去りにしたのはワザとじゃない。

 そう言いたいんだよな?」

「当たり前だよ! あの時は階層攻略の条件もわかってなかったもん……」

「だが、やったことの結果は変わらない。

 あの時の戦闘で、俺たちは死にかけた」

「それは……」


 扇原は言葉を詰まらせた。

 そして彼女は理解したのだろう。

 俺があの時のことを許すつもりがないということを。


「……大翔くん、もういいじゃない」

「勇希……」

「扇原さんだって、わざとじゃないって言ってるんだし……。

 出来ればわたしは……他のクラスの人と仲良くしたいよ」


 これもまた想定内ではあるが、勇希に言われたとしても扇原子猫を許すことは出来ない。

 一歩間違えば、勇希が、三枝が死んでいたのだ。


「俺たちの件だけなら許す事も出来たかもな。

 だが……久我、お前を襲ったのは扇原で間違いないのか?」


 俺は敢えて今、その話を掘り返した。

 この事実は俺にとって多くの使い道があるカードだ。


「はっ!? そ、そうだった! 貴様、なぜぼくを襲った!」


 久我は扇原を怒鳴りつける。


「え……?」

「え? って、知らないとは言わせないぞ!」

「そ、そんなこと言われても、わたしはあなたのことなんて知らないよ」


 扇原は困惑していた。

 この態度からすると、嘘は吐いていないように思える。


「ちょっと! 子猫は知らないって言ってんじゃん!

 それに、あーしらもあんたのことなんて知らないっての!」


 この女王様めいた女は確か……九条秋葉くじょうあきはだったか?

 当然のように扇原のことを庇い始めた。


「つ~かありえないっしょ? なんで子猫がお前を襲うんだよ?」


 このチャラ男は確か鳳瞬おおとりしゅんで、


「俺たちは他のクラスの生徒と争う意志はないぞ」


 スポーツマン風のこの男は波崎功はざきこう


「その通りだな。

 生徒同士で戦う理由がない」


 理知的な眼鏡のイケメンは遠峯修吾とおみねしゅうごで、パーティの副官のような男だったな。

 どうやら扇原のパーティメンバーは、前回と変わっていないらしい。


「理由がない!? ふざけるな! 優秀なぼくを襲って、少しでもライバルを減らそうという魂胆が透けて見えるぞ!」

「あんたさ、あんまふざけたこと言ってると、あーしもマジで怒るよ?

 それともさ、子猫が襲ったっていう証拠があるの?」

「しょ、証拠などなくとも、ぼくは実際に襲われたんだ!」


 いきなり形成不利になる久我。

 証拠など出せるはずもない。


「……久我くんが襲われているのを見た人はいるかい?」


 三間が俺たちに尋ねた。


「……わたしたちのパーティも見たわけじゃないの。

 話を久我くんから聞いただけだから……」

「ボクたちが知る限りでは証拠はないよ」

「なんだ久我? やっぱテメェが嘘を吐いてんのか?」


 普段の態度もあるのだろうが、証拠も出せず、根拠もない。

 これでは久我の立場はどんどん悪くなっていく。


「ちょ、ちょっと待ってよ!

 久我くんが嘘を吐いているって証拠もないでしょ?」


 だが、そんな久我に三枝がフォローを入れた。


「それに関しては三枝の言う通りだな。

 事実、俺たちは久我が気絶し魔物に取り囲まれていたのを見ている。

 一歩間違えれば、こいつは死んでいたんだ」

「なっ!? ほ、本当かい!?」

「うん、それに関しては間違いない。

 わたしたち全員が確認してる」


 あの時の状況を、勇希が三間たちに説明した。


「……モンスターが人を拘束していた?」


 話を聞いて三間は厳しい表情を浮かべる。


「どんな狙いがあったのかはわからないがな……」

「何かに利用してようと企んでいたのかな?」

「それはわからないが、人と同じく知性がある可能性は高いだろうな」


 何気ない扇原の質問に俺は返答した。

 彼女を許したわけではない。

 だが、この女なら俺の気付かないような観点から物事を見れるのではないか?

 そんな期待があった。


「……人間を捕まえて利用しようとしていた?

 もしかして、人と交渉するつもりだったのかな?」

「俺もその可能性は考えていた」


 そうでなければ、気絶している人間などとっくに殺されているだろう。

 もしくは何かの儀式の生贄にされそうだったとか……まぁ、考えたらきりはないが……。


「……久我くんは誰かに襲われて気絶した。

 少なくとも久我くんには、その襲撃者がわたしに見えた」

「見えた……ではない! 間違いなく貴様の仕業だろ!」

「そういう能力があるって可能性もあるんじゃないかな?」


 扇原は冷静に可能性を考えていた。


「能力だと……? 他人に変身する力がある? 馬鹿げてる!」

「そうかな? わたしは可能性を否定しちゃいけないと思うけど」

「言い逃れだ! それこそ証拠があるのか!」

「ないよ。……でも、もし久我くんが嘘を言っていないなら、必ず見つかる」


 扇原は言い切った。

 自分が犯人ではないからこそ、襲撃者は他にもいると確信しているのだろう。


「このままじゃ平行線だな。

 扇原、もし自信があるのなら、犯人を見つけてみるってのはどうだ?」

「見つけられる保証はないよ。

 でも……その為の努力をすることは出来る」


 俺が言うまでもなく、既に扇原は襲撃者の捜索をするつもりでいたようだ。


「なら私も手伝うよ!

 このまま誰かを疑わなくちゃいけないのはイヤだから」

「あたしも!

 誰かを疑うように仕向けて……これじゃまるで、生徒たちを互いに傷付け合わせたいみたいだもん!」


 俺たちを争わせること。

 襲撃者は正にそれが狙いなのだろう。

 互いに猜疑心に苛まれ、争い脱落していく。


(……ま、犯人捜しは扇原たちに任せればいい)


 勇希と三枝も探す気満々のようだが、俺たちは扉の捜索を進めよう。

 直ぐに扉に入らずとも、見つけておけばいつでもダンジョンを攻略できるからな。


「ならぼくは貴様と行動する! 必ず真実を暴いてやる!」

「わかった。

 襲撃を見つけて、久我くんにわたしが犯人じゃないって証明してみせるから」


 どうやら扇原のパーティは、久我と共に行動することに決めたようだ。

 九条は物凄く嫌そうな顔をしているが、文句を口にすることはなかった。


「僕たちも扇原さんたちとこのまま行動を共にするつもりだ。

 1組の仲間として、久我くんを一人にはしておけないからね。

 宮真くんたちは……」

「俺たちは別行動させてもらう。

 その方が効率もいいだろうからな」


 メンバーからの反対はない。

 俺の真意は理解していないと思うが、効率という意味では嘘は吐いていない。


「もし何かあれば、後で報告させてもらう」

「わかった。

 それじゃあ気を付けて……!」

「ああ、三間たちもな」


 俺と三間が話を終えると、


「……あの、宮真くん、九重さん、三枝さん」


 タイミングを見計らって、扇原が俺たちの名を呼んだ。

 そして、


「改めてになるけど……本当にあの時はごめんなさい。

 もしわたしが力になれることがあるのなら、必ず協力するから」

「そんなことしても、起こった結果は変わらないぞ?」

「うん……だから、これはわたしの自己満足」


 そう言って、扇原は寂しそうに笑う。

 嘘を言っているように見えない。

 だが、息を吐くように嘘を言う奴が世の中には存在する。

 だから信じるべきではない。

 手を借りて裏切られれば、今度こそ命はないかもしれないのだから。


「それじゃあ、わたしたちも行くね」


 扇原はダンジョンを進んでいく。

 彼女の仲間たちと、三間のパーティ、そして久我はその背を負う。


「……あんたたちには、あーしも悪いと思ってる。

 でも、あんま子猫のこと、悪く思わないでやってよ……。

 あの子はさ、ただあーしらを助ける為に、一生懸命なだけだから……」


 去り際、九条秋葉が言った。

 扇原と余程仲がいいのだろう。

 何が真実で何が嘘か。

 襲撃者の存在などなくとも、この世界は既に猜疑心に満たされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
もしよろしければ、ご一読ください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ