回復魔法の使い方
2018127 更新
「……な、なんなのあれ……!?」
「うわぁ……かなりグロテスクだね……。
ボク、ああいうのは苦手……」
驚愕の声を抑えつつも、俺たちの視線はモンスターに釘付けになっていた。
見つけた敵は人の形を模している……のだが、
「今度は骨のバケモンかよ……」
野島は見たままを口にした。
そう――視界の先にいるのは全身が骨のモンスター。
物語やゲームの中では【スケルトン】とたとえられるモンスターだった。
当然、眼球も耳もない。
だがスケルトンたちは俺たちに顔を向ける。
「戸惑ってる暇はないぞ!」
「うん! 来るよみんな!」
俺以外の全員が武器を構える。
同時にスケルトンたちが動き出した。
知性などないはずのモンスターだが、手には錆びついた剣と壊れかけの盾を持っている。
まだ距離はあるものの、その動きは熟練の剣士のように俊敏だ。
前方と後方に分かれて一直線に突き進んでくる。
(……見た感じだと接近戦主体のモンスターか?)
なら距離のあるうちに、
「――雷撃!」
俺は直ぐに魔法を放った。
一筋の稲光が一直線に敵を襲う。
「――!」
声は上がらないが、間違いなく前方のスケルトンに直撃した。
が、敵の動きは止まらない。
一撃で倒さないように威力は弱めたが、それにしても効果が薄い。
「三枝、あのモンスターに鑑定スキルを使ってくれ」
「う、うん!」
対峙した感覚でわかったが、間違いなく俺はこいつらよりも強い。
倒すだけなら簡単だろう。
だが、モンスターの情報はなるべく多く獲得しておきたい。
「モンスターのクセに、生意気に武器なんて使ってんじゃねえよ!」
襲い来るスケルトンに向かい野島が動いた。
その後に勇希と此花が続く。
「おらっ!」
野島は持っていた片手剣を振る。
だがスケルトンの盾が、その攻撃を軽く受け止めた。
こちらの攻撃に対して焦りはなく、流れるような動作だ。
剣士としてのレベルは明らかに敵のほうが高いのが見てとれる。
「野島、お前は剣スキルは?」
「獲得して――うおっ!? クソ、こいつ結構つえぇぞ!!」
では敵は、少なくとも剣スキル1以上の動きが出来るわけか。
3階層の時点でレベル1の生徒は相当辛くなりそうだな。
「野島くんはそっちの敵に集中して!
もう1体はわたしたちで抑えるから!」
「1人でどうにもならないなら、数の優位性で勝負ってね!」
うちの女性陣は勇ましく賢い。
圧倒的な実力差でなければ数の優位性は絶対だ。
そして、3人が時間を稼いでくれている間に、
「お待たせ! このモンスターはスケルトン。
アンデッドのモンスターでレベル3。
属性は闇、弱点は光属性。
闇属性は光属性以外の魔法に耐性を持ってるみたい。
あと、剣士スキル1を持っているみたい」
三枝が鑑定スキルの結果を伝えてくれた。
「こいつも剣スキルを持ってんのかよ!?」
剣の扱いが達者だと思っていたが、まさかスキルが使えるなんてな。
野島よりも扱いに長けてるのは単純な能力差といったところか。
しかも属性耐性もあるとは……。
「光属性が弱点なんだよね?
どうしてヤマトの雷撃が利かなかったのさ?」
「雷属性だからだ」
「光じゃないんだ……」
此花は苦笑する。
スケルトンと悪戦苦闘を続けつつながらも、余裕のあるやつだ。
「魔法が利かねえなら、このまま剣で倒しちまえばいいだろうがっ!」
「だね! 数の優位は変わらない。
わたしたちが冷静に戦えれば、きっと勝てるよ!」
勇希は悲観的にはならない。
冷静に状況を観察しながら戦いを進めている。
「あたしも手伝うから!」
三枝も善戦に加わった。
これで敵1体に対して2人で戦える。
俺が戦闘に参加しなくても、負ける可能性は低いと思うが……。
「――少し試したいことがあるんだが、いいか?」
「この戦いが楽になるなら、なんだてもやっちゃってよ!」
「辛くなるかもしれないが……物は試しだからな!」
戦いが楽なうちに、色々と確かめておきたい。
「それじゃあやるか」
俺は敵に接近した。
そしてスケルトンの腕に触れて、
「――治癒」
回復魔法を使用した。
「んなっ!? 宮真くん、何やってんだ!?」
「ヤマト、回復する相手を間違ってるよ!」
正気を疑うような目で、野島と此花が俺を見た。
勿論、俺は気が狂ったわけじゃない。
狙ってスケルトンに回復魔法を使ったのだ。
「お、落ち着いて二人とも!
宮真くんのことだから、何か考えがあるんでしょ?」
「ああ……効果があればいいんだが……」
俺は治癒を掛けたスケルトンの動きを観察する。
だが、スケルトンたちの様子に変化はない。
かと思ったが、
「……あれ? 見て! なんだかスケルトンの動きが……」
変化の兆候に気付いたのは勇希だった。
熟練の剣士のように俊敏な動きを見せていたスケルトンの動きが鈍る。
そして、
「っ――!?」
治癒を掛けた箇所――スケルトンの左腕が消失した。
ガタン! 重い音が響く。
それは左手で持っていた盾が地面に落下した音だった。
「みんな、今がチャンスだよ!」
「あたしだって――」
「OK! いっくよ~~~~~!」
勇希と三枝、此花が同時攻撃。
盾を落としたスケルトンには、迫り来る3つの斬撃を防ぎきる手段などなく、
「…………!」
その骨のみで構成された身体は両断された。
「やった!」
「まだもう1体――」
「このまま一斉攻撃で倒そう!」
3人は油断することなく、野島が相手をしているスケルトンに迫っていく。
野島と対峙していたスケルトンが、3人に目を向けた。
が、それは一瞬の隙となり、
「おら! 余所見してんじゃねえよ!」
「っ!?」
野島の振り下ろした一撃に反応できず、切るというよりも叩き伏せるような一撃を頭部に受けた。
ゴガッ!! という鈍い音が響き、スケルトンは頭蓋骨を粉砕され、そのまま地面に倒れ伏したのだった。
「なんだか呆気ねえな」
「なにカッコ付けてんだよ。
大苦戦だったじゃないか」
「ば、馬鹿野郎! それは相手を油断させる作戦だ!」
戦いを終えたばかりだというのに、此花と野島の喧騒コンビは元気がありふれているようだ。
ま、まだまだ探索を続けていくわけだから、この程度の戦いで疲れてもらっても困るが……。
「ねぇ、大翔くん。
なんでスケルトンに回復魔法を?」
「それあたしも気になってたんだけど……もしかして、アンデッドだったから?」
「三枝も気付いたのか」
「なんとくだけど……。
聖なる力……みたいのって、アンデッドは嫌がりそうかなって」
俺も三枝と同じことを考えていた。
正確に言えば治癒に属性はない。
だがアンデッド――既に死んでいる敵を回復するとどうなるのか?
そんなことを疑問に思った。
ゲームでもあるだろ?
アンデッド族に治癒アイテムを使うとダメージを与えられる……みたいのがさ。
「その発想がたまたま上手くいっただけだ。
でも、これでアンデッドを倒す時には治癒魔法が役立つことがわかったな」
「まさか回復した部分が消滅しちゃうなんてね……。
流石すぎるよ、ヤマト!
あ~、ボクのヤマト愛がどこまでも激しく昂っちゃう!」
此花は一人で悶えだしだ。
……余裕あるなぁうちのパーティ……って、あれ?
「そういえば……」
俺は倒れ伏したスケルトンの骨に目を向ける。
「消滅してないな……」
「あ、そうだよね!
あたしたちが今まで倒したモンスターって、みんな消滅してたよね?」
「え……じゃあもしかしてこいつら……」
「まだ生きて……のかな?」
その可能性を疑っていると、ガシャガシャガタガタ――と、骨が動き出した。
切断された場所、砕かれた箇所がまるで磁石のように引き合っていく。
「ま、マジかよ……」
「嘘でしょ!? 生きてるの!?」
「アンデッドだから死んではいるんだろうけど……」
「さ、三枝さん、冷静に言ってる場合じゃないよ。
どうにかしないと……」
「どうにかと言っても、消滅させるしかないよな……」
倒す手段はいくつもあるだろうが……。
耐性以上の強力な魔法で消し飛ばすか……それとも再生できないほどに切り刻むとか。 だが、
「治癒を使うのが一番楽だな。
俺以外に獲得した奴っているっけ?」
「私は獲得してあるよ」
「ボクも」
「なら、今のうちに消滅させてしまおう」
勇希と三枝は頷き、スケルトンが再生する前に治癒を使い消滅させた。
倒し方さえ知っていればなんてことないが、物理攻撃で倒そうとする奴らは苦戦を強いられるだろう。
(……教室に戻り次第、情報共有しないとな。
あ……そうだ)
他クラスに情報を売る……というのもいいかもしれない。
ここで生き抜くには情報は宝だ。
ポイントによる情報売買はありかもしれない。
(……なんだか悪だくみを思いついてしまったが……)
雑魚ばかりの今だからこそ色々な情報を集めていこう。




