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敵影発見

2018126 12時更新

「しっかしよ~……厄介な罠もあったもんだよな」


「なに暢気なこと言ってるのさ。

 少しは気を付けて行動しなよ。

 キミの行動一つで、パーティ全体に被害を被るかもしれないんだからさ」


「……すまねえ」


 此花の言葉に、いつもなら喰ってかかりそうな野島も神妙に頷いた。

 自分がパーティに迷惑を掛けたという自覚はあるようだ。 


(……こんな状況だが……いや、こんな状況だから、こいつも成長しているのかもな。

 それにしても……)


 3階層で既にあんな危険な罠が出てくるとはな。

 仮に俺のレベルが低ければ、あの壁の化物相手に殺されていた可能性だってある。

 一人で行動している人間であれば、あの罠に引っかかればほぼ確実に死ぬだろう。


(……他にも危険な罠が山ほどありそうだな)


 もしかしたらモンスターの存在よりも危険かもしれない。


「暫くは俺を先頭に探索を続けよう」


「それだと宮真くんが一番危ないんじゃ……?」


「俺なら罠察知スキルのお陰でトラップにもいち早く気付ける。

 危険は最小限で済むだろ?」


「でも……」


 三枝は納得できないようだ。

 不安そうに唇をキュッとさせた。


「安心しろ。

 次は罠にかからないようもっと早く知らせる」


「そうじゃないよ。

 宮真くんのことは信頼してるの。

 だけど……宮真くんの負担がどんどん大きくなっちゃうから……」


 あれ?

 もしかして、


「俺のことを心配してるのか?」


「……友達のことだもん。

 何も出来ないあたしが、宮真くんの心配なんておこがましいかもしれないけど……」


「なら気にするな。

 パーティ全体の不安要素を減らせるなら、少し危険は安いもんだ」


 正直な話、これは俺の為でもある。

 誰かが罠にかかる度に助けに……となっては面倒だ。

 これは探索を効率良く進める為に必要なことだ。


「サエグサ、ヤマトの言う通りにするのが一番だよ。

 さっきも言ったでしょ?

 ボクたちはパーティで行動してるんだからさ」


「……わかった。

 宮真くんに助けてもらってる分、あたしもがんばるから!

 何が役立てるかは……まだわからないけど……」


「こういうのはお互い様だろ?

 三枝にはもう十分助けてもらってるよ」

「私が宮真くんを?」


 実際、三枝には何度か命を救われてるからな。

 それに、クラス内でマッピングスキルは持っているのは三枝だけだ。

 俺も獲得した魔法やスキルは増えたが、マッピングスキルに関してはスキルツリーに現れる気配すらない。


「私も三枝さんには沢山助けてもらってるよ」


「あ、あたしは何も……」


「そんなことないでしょ?

 ボクたち、今だって助けてもらってるもん」


「今も……?」


「マッピングスキルでオレらが迷わないようにしてくれてんだろ?

 それで役立ってないって言うなら、オレなんてマジの役立たずになっちまう」


 思わぬ周囲の評価に三枝は目を丸めていた。

 普段の言動もそうだが、自己評価がかなり低い奴だからな。

 まぁ……俺自身が言えたことじゃないか。

 どうにもイジメられた経験がある人間は卑屈……というか、自然に自己評価を下げてしまうのかもしれない。

 イジメを受けるっていうのは生存競争に負けた……と言えなくないもんな。

 事実、人生ドロップアウトする奴もいる。

 なんとか耐え抜いても、精神的な後遺症は根深い。

 考え方や生き方、人生のあらゆる場面で大きな影響がある。

 それは俺だけじゃなくて、三枝も同じだろう。

 イジメってのは人生にとって、それくらい大きな『事件』なんだから。


「……ま、そういうわけだ。

 パーティなんだから、自分に出来ることをすればいい。

 足りない部分は力を借りればいいさ」

「へぇ……ヤマト、いいこと言うね~。

 でも、らしくないかも」


 此花が苦笑していた。

 俺自身、らしくない発言をしたのはわかってる。

 正直に言えばもっとストレートに、


『相手を利用しろ』


 こう言いたかった。

 だがそんなこと言っても、理解を得られるはずがない。

 意味は同じでも言い回し次第で共感性は随分と変わってしまうからな。


「私も大翔くんの言う通りだと思う。

 理想を口にするようだけど、みんなで協力していけばどんな困難だって乗り越えられるって私は信じてる」


 勇希の発言は間違いなく本心だ。

 声や表情からそれは簡単に読みとれてしまう。

 それほどに、彼女は常に真っ直ぐだった。


「理想上等じゃねえか!

 絶望に負けるよりずっといいぜ!」

「へぇ、ノジマもいいこと言うじゃん。

 理想は口にしてこそ価値があるよね。

 口に出したことは現実になる――なんて言われてるくらいだしさ。

 それとさ三枝、ヤマトにばかり負担をかけるのがイヤって言うなら、ヤマトの為になることをしてあげればいいじゃん」


 此花がいたずらな笑みを浮かべる。

 これは絶対に何か悪巧みをしていそうだ。


「でも、あたしが役立てるのはマッピングくらいしか……」

「なに言ってんのさ。

 たとえば――」


 話しながら此花が軽やかなステップで俺に近付いてきた。

 そして、


「こ~いうこととか!」


 俺の身体に胸を押し付けてきた。


「男の子が喜びそうなことをして、癒してあげればいいじゃない!」

「え、えええええええ!?

 そ、そんなこと出来るわけないじゃ――」


 思わず三枝と目が合う。

 そして何故か、昨夜の風呂場での一幕を思い出してしまった。

 三枝も同じだったのか、俺の顔を見て真っ赤になっている。


「此花さん、仲良しなのはいいけどはしたないのは禁止!」

「え~そんなこと言って、ココノエだってこういうことしたいんじゃ――」

「おい!」

「あいたっ!?」


 俺はビッチの頭に、チョップを叩き込んだ。


「酷いよヤマト!

 女の子に暴力なんて! DV! DVなの!?」

「ここは家庭内じゃないからDVにはならないな」

「違うよ。

 ダンジョン内のバイオレンスだから、DVだよ!」

「……なるほど」


 そう来たか。

 思わず感心してしまった。


「ま~冗談はこのくらいにしておくけどさ」

「行動に移してたら冗談とは言わないでしょ!」

「ボクがするのはいいの。

 ただ、三枝さんにこうしろっていうのは冗談。

 でもね、役立てることなんていくらでもあるとボクは思うんだ。

 だから、あまり申し訳ないなぁとかは深く考えてなくていいんじゃない?」

「……此花さん……そっか、そうなのかも。

 ありがとう。

 なんだか難しく考えすぎちゃってたかも……」


 きっと三枝は、誰かに傷つけられることが当たり前で、優しくされることには慣れていないから、そんな優しさに答える為に何かしないとと思ってしまうのだろう。

 慣れない環境に焦っていたのだ。

 そんな三枝にとって、今の此花の言葉は――自分のペースで進んでもいい。

 そんな道標になったのかもしれない。


「でもね、宮真くん。

 無理はしないでね。

 宮真くんが苦しい時は言ってほしい」

「ああ、最初から無理するつもりはないよ」


 俺は自分の出来ることするだけなのだから。

 それから先程決めた方針のままに、俺を先頭にパーティはダンジョンの探索を続けた。



         ※




 それから少し進んだところで、


「この先、何かいるぞ。

 数は2――恐らくモンスターだ」


 気配の強さからしてボスではなさそうだ。


「……罠はありそう?」


「それは大丈夫だ。

 敵を発見後、魔法で牽制。

 隙が出来れば攻撃を仕掛けてって感じでいいか?」


「わかった! 生成してもらった武器を使ってみる!」


「オレも問題ねえ。

 いつでもいけるようにしとくぜ」


「ボクもOK。

 魔法はヤマトに任せていいの?」


「ああ、じゃあいくぞ」


 まずは3階層の敵の強さの調査だ。

 倒しやすいようなら、メンバーのレベルを底上げしておきたい。

 パーティ全体が強くなれば、ダンジョン探索をより安全に進めることが出来るからな。

 これも全ては、俺と勇希、そして三枝が生き抜く為に必要なことだ。


(……よし、見つけた)


 進んだ先に発見したのは……。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
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