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小鬼とする鬼ごっこは、命懸けの逃亡です。

          ※




 俺は勇希に追いつく為に通路を全速力で走っていた。

 ダンジョンの通路は土色の石壁になっていた。

 松明のような薄明りが設置されている。

 通路の石壁には苔が生えていて、じめじめしていて、かび臭かった。

 俺はその通路を真っ直ぐに進んでいた。

 というか、このダンジョンの通路は一本道だったのだ。

 迷うことがないのはありがたい。

 これなら直ぐに、勇希にも追いつけ――


「うあああああああああああああああっ!?」


 男の悲鳴がダンジョンに響き渡った。

 さっきの三白眼の声か?

 まさかモンスターに襲われて……――だとすると、勇希も!?

 距離は近い。

 頼む――せめて勇希だけは……!

 視界の先に広いフロアが見えた。

 そこには、


「くそっ! クソがっ!

 こっちに来るんじゃねえ!」


 どうやら、無事のようだが――フロアにいたのは勇希たちだけじゃない。


(……あれが――)


 スピーカーの声が告げていた、モンスターの存在。

 鬼の顔と小柄な体――ファンタジー世界では、ゴブリンと呼ばれる魔物が五体、三白眼を囲むように迫っていた。


「勇希!!」

「――大翔くん!? どうして!?」

「そんなこといいから、さっさと逃げるぞ!!」


 今なら逃げ切れる。

 運がいいことに、フロアの魔物は三白眼に集中しているのだ


「ダメだよ!」

「なっ――」


 手を引く俺を、彼女は拒絶した。


「なに言ってんだ!

 この場にいたら、お前まであのモンスターに!」

「彼を見捨てられないよ!

 なんとかして、助けないと!」


 助ける?

 この状況で馬鹿かこいつは……。


「放っておけ!

 今は自分が生き残ることだけを考えろ!」

「ダメ! 絶対に助ける!」

「助けるって、どうやって!?」

「それは……わからないけど、でも助けないといけないの!」


 意味がわからん。

 戦う準備もしていなければ、手立てもない。

 なのに彼女は、あの他人を助けるという。

 無謀すぎる。

 ただの学生生活なら、ヒエラルキーの枠組みの中でなら人助けも結構。

 勇希の性質は――間違いなく正義の味方でヒーローなのだ。

 だが、今は命がかかってる。

 こんなわけのわからない状況で、誰かを助けるなんて……その正義感は俺からみれば異常の一言だ。


「くそっ! 来るな、来るなああああああああっ!?」


 どうやら、悩んでいる時間はないらしい。

 あいつがられれば、次は俺たちだ。

 無駄に時間が過ぎれば、このフロアに他のモンスターが集まってくる可能性だってある。

 そうなれば――勇希を助けられる可能性はどんどん低くなる。


「――わかった。

 なら――まずはあいつを助ける」

「え……手伝って、くれるの?」

「助けたいんだろ?」

「――うん!」


 即答か。

 このどうしようもな正義感こそ、九重勇希が九重勇希たる所以なら、俺に選べる選択肢はない。


「俺が魔物を引き付ける。

 その間に勇希はあいつを助けてくれ」


 三白眼はモンスターに驚愕して腰を抜かしていた。


「わかった。

 でも、引き付けるってどうやって」

「上手くいくかはわからないが――」


 俺はステータスを確認した時に見た魔法を使ってみることにした。

 その瞬間――膨大な知識が頭の中に流れ込み、魔法という力を一瞬で理解していた。

 炎の矢の消費魔力は3。

 数発分、放つだけの魔力はある。


炎の矢(ファイアアロー)!」


 無詠唱で放たれた赤い閃光は、火花を散らしながらゴブリンに迫り――直撃。

 小鬼は胸を貫かれ、地面に倒れ伏した。


(……イケる!!)


 炎の矢はゴブリンを一撃で倒せるくらいの威力があるようだ。

 武器もない状況でどうなるかと思ったが、なんとかこの場を切り抜けることができるかもしれない。


「す、すごい!? すごいよ、大翔くん! 今のって魔法!?」

「驚くのは後だ!」


 ゴブリンたちの視線が、三白眼から俺に集まった。


「こっちだ雑魚ども!」


 言葉が通じるかわからない。

 だが、敢えて挑発する。

 意味がわからずとも、態度で意思は伝わるかもしれない。


「ゴブ、ゴブゴブ! グガアアア!!」


 よし、成功だ。

 フロアからは四方向に通路が分かれている。

 勇希たちは教室の方向に逃がしたい。

 なら――


「ゴブリンども、こっちに来い!」


 俺は教室とは反対方向の通路に足を向けた。

 一斉にゴブリンたちも動き出す。


「勇希!」

「――うん! 君、起きられる?」

「あ、ああ……す、すまねえ」


 腰を抜かした不良を、勇希が起こす。


「大翔くん! 彼は助けたよ。

 だから、一緒に――」

「俺はもう少し時間を稼ぐ!

 先に行ってくれ」

「でも――」

「心配しなくていい。俺も直ぐに戻るから。信じてくれ」


 本当に、生きて戻れるかなんてわからない。

 でも、こうでも言わなくちゃ勇希を納得させることなんて出来ないだろう。


「ゴブッ!」


 もたもたしている間にも、モンスターの注意が勇希に向いた。


「そっちじゃねえだろ!

 ――炎のファイアアロー!」


 俺は再び炎の矢を放ち、ゴブリンを威嚇する。

 ゴブリンの注意が俺に戻った。

 よし、これでいい。

 今なら勇希を逃がせる!


「行けっ!」

「……必ずだよ! 信じるからね、大翔くん」

「ああ」


 駆け出す勇希を確認して、俺は教室とは逆の通路を突き進んで行った。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
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