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勇希、怒る。

2017/1210 更新しました。

                  ※




「みんな~おっはよ~~~!!

 今回もみんな遅れずに教室に集合できたみたいだね~!

 褒めてあげたいところだけど、遅刻しないっていうのは学生として当然のことだから、先生は褒めたりしないのです!」


 1組の生徒が教室に集合すると、担任がハイテンションで口を開いた。


「さて、放送で伝えたけど3階層の攻略許可が出たよ。

 だから、今から早速3階層の攻略をスタートしていいよ~!

 あ、質問とか特にないよね?

 あるなら今のうちにしてもらってもいいよ~。

 あ、でも順番ね!

 挙手してくれた生徒を先生が順番に選んじゃいまーす!」


 質問したいことなどいくらでもある。

 だが、担任に質問しようとする生徒は少ない。

 触らぬ神に祟りなし……という言葉があるが、この不気味なクマの着ぐるみは、あまりにも未知数な存在だ。

 もし怒らせでもしたら自分は死ぬことになるかもしれない。

 俺も含め、生徒たちはそんなことを危惧しているのだろう。

 そんな恐怖を理解した上でも、挙手した生徒は二人。

 一人は、


「じゃあ、三間くんどうぞ!」

「……もしかしたら僕の勘違いかもしれませんが、現時点で2階層の攻略が完了しているのは1組と5組だけではないのでしょうか?」

「そうだよ~。

 それがどうかしたの?」


 三間の疑問に、担任は平然と口を開いた。

 その態度は『当たり前でしょ?』と言わんばかりだ。


「つまり、階層攻略は全てのクラスが攻略を終えてから始まるわけではない。

 そういうことでしょうか?」

「そうだよ~」


 担任は肯定した。

 2階層の攻略は、全クラスが1階層の攻略を終えてから始まった。

 だから3階層の攻略もそうなると思っていたのだが、それはただの偶然だったということらしい。

 多くの生徒が俺と同じように考えていたのか、クラス内でも動揺が走っている。


「……先に階層を攻略したクラスが、次の階層の攻略でも優位に立てる……そういうわけですね」

「うん。今更そんな当たり前の質問が出て来るなんて、先生びっくりだよ~」

「……わかりました。僕の質問は以上です」

「は~い。

 他に質問がある人は……はい、じゃあ九重さんどうぞ」


 次の質問者は勇希だった。

 一体、どんな質問をするつもりなのだろうか?


「階層攻略後に休憩が入りますよね?

 休憩は次の階層攻略許可が下りるまでということですか?」

「そうだよ~」

「つまり階層攻略許可が下りた後は、休憩なしでも階層攻略に進むことが可能……ということでしょうか?」

「うん、少なくとも先生たちは止めないよ。

 攻略許可が下りた後に休憩するのは自由だけど、ただでさえ遅れているクラスが攻略を止めたら、先に行くクラスとの差はさらに生まれちゃうよね。

 でもでも~、無理したらそこで死んじゃうかも~!

 あ、でもがんばらないとポイントが無くなっちゃうから餓死しちゃうんだ~。

 きゃはっ、これは悩ましいよね~!」


 担任は愉快そうに残酷な発言をする。

 この世界にいる限り――常に死が付き纏う。

 多くの生徒が忘れようとしていた……だが、決して忘れることのできぬ恐怖。

 それを改めて突きつけられたことで、教室の雰囲気が陰鬱なものに変わった。

 だが、


「……何がおかしいんですか」


 静かな、だが間違いなく怒りを感じさせる声。

 それは勇希のものだった。


「え……? 九重さん、何か言った?」

「誰かが死んでしまうかもしれないんですよ!

 何がおかしいんですか!」


 抑えきれない怒りの発露。

 勇希は明確な敵意を担任に向けていた。


「あれあれ? もしかして怒ってるの?

 だってさ~、他のクラスのことだよ?

 競争相手だよ? 先生だって~、自分のクラスの子たちが死んじゃったら悲しむよ~。

 だってそうしたら~、先生が困っちゃうからね~!」


 担任の発言はわざとなのだろうか?

 それとも本当に勇希の伝えたい言葉を理解していないのか?


「っ……あなたはどうしてそんな――」

「――勇希、やめろ」

「大翔くん……でも……!」

「これ以上、言っても無駄だ」


 これ以上の発言は、勇希を危険に晒す可能性が高くなるだけだ。

 現状では俺たちの命など、担任の機嫌一つで消えかねないのだから。


「……ごめん」


 俺の想いが伝わったのか、勇希は力なく席に着いた。


「う~ん? 良くわからなかったけど、質問は終わりでいいのかなぁ?」

「……はい。すみませんでした」


 勇希の口から力ない声が漏れ、表情は暗く沈んで行く。


(……勇希……お前が謝る必要なんてない)


 俺の中にある怒りが強まっていくのを感じた。

 勇希にこんな思いをさせた担任――そして、この状況を生み出している黒幕に。

 いつか必ず……勇希の感じた怒りを、悲しみを、悔しさを――全てまとめて、こいつらに倍返ししてやる。

 その為にも、


(……俺はもっと強くなってみせる)


 勇希には二度と、こんな顔をしてほしくないから。


「よ~し! じゃあ質問タイムは終わりだよ!

 それじゃあ3階層の攻略開始だ~!

 みんな~、がんばってね~ん!」


 暗い教室内の雰囲気などお構いなしに、担任の能天気な声が教室内に響いたのだった。

少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

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