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次の階層へ――

2017 1206 更新しました。

 次の日。

 何事もないまま朝……なのかはわからないが、俺は目を覚ました。

 特に放送などがなかったことを考えると、次の階層攻略はまだ始まらないのだろうか?

(……とりあえず、食堂にでも行くか)


 今が朝食の時間なのかはわからないが、誰かいるかもしれない。

 そう思い俺は部屋を出た。




      ※




「あ、大翔くん。おはよう」


 俺が食堂に入ると、勇希が声を掛けてくれた。

 今のところ食堂内に他の生徒はいないようだ。


「もう起きてたんだな」

「あはは、なんだか落ち着かなくてね」


 勇希は普段よりもほんの少しだけ疲れたような笑みを浮かべた。

 あまり眠れていないのかもしれない。


「そろそろ、次の階層攻略についての通知が来るのかな?」

「どうだろうな?

 夜中に5組が階層を攻略したって通知はあったのは聞いたか?」

「え……? そうだったの?」


 どうやら、勇希はあの通知に気付かなかったらしい。

 あの時間はほとんどの生徒が眠っているようだったからな。

 勇希が気付かなかったのも無理はないだろう。


「ああ、三枝も聞いているから間違いない」

「三枝さんも……?」


 しまった。

 余計なことを言ってしまった。

 まさか風呂でバッタリ会ったなどと言えるはずがない。

 三枝にも、忘れるよう努力すると約束したというのに脳裏に焼き付いた記憶が鮮明に蘇って――。


(って……あああああ! 忘れろ忘れろ!)


 とりあえず、何か言わねば。


「……昨夜、たまたま会ったんだ。

 どうにも寝付けなくてな……」

「そうなんだ。

 てっきり二人で仲良くおしゃべりでもしていたのかと思った」

「そこまで親しい仲じゃない」

「う~ん?

 わたしには仲良しに見えるけど?」

「それは気のせいだ」


 俺自身が、三枝と大して親しいとは思っていない。

 ただ……あいつを見ていると、昔の俺を見ているみたいで……強くなろうと足掻き続けていた俺を見ているみたいで……もしかしたらあいつは、俺がなれなかったものになれるんじゃないかって、勝手にそんな期待をしてしまっているだけだ。


「ねぇ、大翔くん。

 少し聞いていいかな?」

「なんだ?」

「どうして私のことを、勇希って呼ぶ時と、九重って呼ぶ時があるの?」

「……そうだったか?」


 意識していなかったが、もしかしたらそうだったかもしれない。

 勇希――あの時の勇希ちゃんは、


「うん。

 呼びやすいほうでいいけど、私は名前で呼んでくれた方がいいかな。

 友達って感じもするし」

「友達……か」


 俺にとっては勇希は最初から、ただ一人の――唯一と言っていい友達……それはきっと、これからも変わらない。

 だから彼女を名前で呼ぶことには、何ら違和感はないのだが……。

 クラスメイトの前で名前で呼ぶのは、どうしても躊躇ってしまう……。


(……何か詮索してくる奴もいるだろうしな。

 たとえば此花とかな)


 だから、


「二人きりの時だけでいいなら……」

「二人きり?

 それだと、なんだか恋人みたいだけど……」


 は……!?

 こ、恋人!?

 別に、俺はそういうつもりはなかったんだが……。


「でも、宮真くんがそうしたいならそれでもいいよ」

「あ……いや、俺は……」


 勇希は少し照れたように微笑してくれた。

 そんな顔を見せられては今更否定しにくい。


「……あ、ヤマト! こんなところにいたんだ!」

「うん? あ、此花か」

「も~う! どうして部屋に居てくれないの!

 折角、朝這あさばいをかけに行ったのに!」

「あさばい……?」

「夜這いの朝verだよ!」


 此花はアホな発言を、真顔で言い放った。

 だが、助かった。

 なんだか微妙な雰囲気になり掛けていたからな。


「おはよう、此花さん」

「おは! ココノエ。

 ところで、二人は何を話していたの?」

「昨日、5組がダンジョンを攻略した通知があったなって話さ」

「私は眠っちゃってて気付かなかったんだけどね」

「あ、それボクも聞いたよ」

「お前もあの時間、起きていたのか?」

「まぁ……ね。

 考えたいこともあったから……」


 此花は少し言葉を詰まらせた。

 ここでは言い辛いことがあるのかもしれない。

 もしかしたら【F】や【クラウン】――俺たちにオリジナルスキルを与えた存在について、調べていたのだろうか?


「ヤマトにどうしたら愛してもらえるかとかね!」

「そんなこと考えてる暇あるなら寝ろ!」

「ふふっ、本当に此花さんは大翔くんが好きなんだね」

「うん! でもボクはココノエのことも嫌いじゃないよ」

「そ、それって喜んでもいいのかな?」


 反応に困る言い回しに、勇希は苦笑を浮かべた。


「物凄く喜んでいいよ!

 一応、このクラスの女の子じゃ一番仲良しなつもりだから」

「あ、だったら嬉しいな。

 私ももっと此花さんと仲良くなりたいから」

「うん! 今度部屋でガールズトークでもしようか。

 主にヤマトの事について二人で話そう!」

「ふふっ、大翔くんのことか~……わかった!

 じゃあ三枝さんも混ぜて三人でどうかな?」

「OK!

 ならどうせならヤマトも……」


 なぜ俺に話を振る。

 というか、


「そういう話は本人がいないところでしてくれ」

「ボクたちみたいな美少女が話題にしてるんだから、ヤマトも嬉しいでしょ?」

「悪口でも言われてないといいがな」

「わ、悪口なんて言わないよ!」


 勇希が他人を悪く言わないのは知ってる。


「主に此花がな」

「ぼ、ボクが言うわけないでしょ!

 ヤマトのこと、これでも頼りにしてるんだからね!」

「そうか」

「あ、信じてない!

 わかった。

 これから朝食が始まるまで、いかにボクが普段からヤマトのことを見ているかしっかり語ってあげ――」


 此花の長い話が始まろうとした時だった。


「ピンポ~ンパンポ~ン!

 さ~みんな!

 第3階層攻略がスタートするよ!

 教室に集合だ! 15分以内に来ること!

 遅刻したら今回もペナルティがあるからね~」


 タウン全体にタウン全体に担任の声が響いた。

 2階層の攻略を終えたのは、1組と5組のみのはずだったのだが……。


「もう……始まるだね」

「ああ。

 とりあえず、教室に行くか」

「大翔くんたちは先に行ってて!

 私はみんなのところに行ってくるね。

 今の放送に気付いていない人もいるかもしれないから!」


 勇希は俺の返事を聞かぬまま食堂を出て行った。


「仕方ない……。手伝うとするか」

「……手伝うって……ヤマトにしては、珍しいね。

 いつもクラスの事なんてどうでも良さそうなのに」

「そんなことないだろ?

 これでも協力的なつもりだぞ」


 確かにクラスのことはどうでもいいが、敵は作りたくないからな。

 最低限の協力はしてきたつもりだ。

 しかし、此花は俺の言葉を信じるつもりはないようだ。


「ふ~ん……まぁ、いいけどね。

 ヤマトが行くならボクも手伝うよ。

 さ、行こう」

「……ああ」


 そして俺たちも階段を上り、生徒たちの部屋を回っていくのだった。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
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