三枝勇希をどのパーティに?
2017/1128 更新しました!
「あたしは――」
「良かったら、私たちのパーティに入りなよ」
突然、三枝の隣に座っていた女子生徒が口を挟んだ。
「七瀬さん……」
「折角、友達になれたんだもん。
三枝さんも、私たちのパーティがいいでしょ?」
女子グループはいくつかに分かれているのだが、そのうちの一つがこの七瀬と呼ばれた生徒をリーダーとしてグループだ。
教室でも直ぐに三枝に話し掛けていて、それなりに社交的な印象だったのだが……。
(……まさか、三枝を自分と同じパーティに入れる為に親しくなろうとしていたのか?)
マッピングスキルについては、クラスメイトたちにも最初に伝えてしまっていたからな。
勿論、引き抜きにより1組の生徒となった三枝が一刻も早くクラスにとけこめるように……という善意がなかったわけではないだろう。
が、人間である以上は無償の善意などあり得ない。
「ちょっと待ってよ。七瀬さんずるくない?」
「は? ずるいって何が?」
「だって、三枝さんはマッピングスキルを持ってるんでしょ?
だとしたらさ、彼女がいるパーティは探索も楽に進められるじゃん」
「あ~、それ思ってた。
うちらも、三枝さんと同じパーティがいいんだけど?」
早速、クラスメイトたちが揉め出した。
さっきの久我の時といい、次から次にクラス内でも問題が発生する。
5クラスの中では比較的優位な立場にある1組の生徒でこれでは、他クラスでは想像もしたくないような問題が起こっているんだろうな。
(……たとえば2組とかな)
今頃、三枝が引き抜かれたことを知って、ダンジョンの攻略に躍起になっているだろう。
生徒同士で争っていなければいいが……などと俺が考えるのは、それこそ余計なお世話だろう。
「はぁ……くだらない争いだ。
ここにいても時間の無駄のようだね。
僕は部屋に戻らせてもらうよ」
「久我くん、まだ次のパーティ編成が……」
「決まった後に伝えに来てくれ」
それだけ伝えて、久我は食堂を出て行ってしまった。
多くの敵意が久我に向くがそれも一瞬で、話は直ぐ三枝がどのパーティに所属するかに戻っていた。
「……おれらのチームって、平均レベルが一番低いだろ?
だから三枝さんがいてくれた、生き残れる確率も上がると思うんだよな。
レベルの高いチームはさ、モンスターとの戦いだって問題ないだろ?」
「レベルが低いパーティこそもっとモンスターと戦って苦労した方がいいんじゃない? ついでにレベルも上がるわよ。
それに差があっても1か2レベルくらいの差じゃない」
共通しているのは、どのパーティも三枝に加入してもらいたいと考えている点だ。
どちらも引く気がない以上、意見はまとまりそうにない。
こういう状況で三間はどう動くのだろうか?
そんな興味もあり、俺は事態の動向を見守った。
「探索に行く以上、全員がリスクを負っているのは変わらないよ」
「なら、三間くんはどうしたらいいと思ってるの?」
「そうだな。
三間の意見を聞かせてくれよ」
三間の意見以前に、三枝の意志を聞いていないのだが……こいつらにそれを気にしている余裕はないようだ。
「どうなんだよ、三間?」
「……わかった。僕を意見を伝えておくよ。
僕は平均レベルが最も高いパーティ――九重さんのパーティに所属してもらうのが一番いいと思う」
どう答えるのかと思っていたが、三間の言葉に迷いはなかった。
「レベルが高いってだけが理由なのか?」
「それは理由の一つだよ。
大切なのは実績だ。
九重さんと宮真くんは、1階層、2階層ともにダンジョンを攻略している」
「でも、それは三枝さんのマッピングスキルがあったからだろ?
おれらもマッピングスキルがあれば、ダンジョンの攻略くらいできると思うぜ?」
「そうかもしれない。
でも、出来る限り探索を効率的に進めたい。
そうなると、三枝さんは平均レベルの高いパーティへの参入が望ましいと思う」
レベルの高いパーティに有効的なスキルを持った三枝が入ることで、ダンジョンの探索効率を上げるということだろう。
単純に合理的な意見だ。
「……でも、なんだかずるい気がする。
強い人たちと、いいスキルを持った人が集まっているパーティがあるならさ、うちらが探索に出る必要なんてないじゃん」
「そんなことはないよ。
それぞれのパーティで役割を決めたらいいんだ。
実際、一つのパーティだけでは、広いダンジョンの探索を全てこなすのは難しい。
みんなが探索に出てくれることが、有効的な結果を生むかもしれない」
「有効的な結果ってなんだよ?」
「たとえば、強い装備や貴重なアイテムが手に入ったりだね。
それにクラスのみんなが生き残る為には、全体のレベルの底上げは必須だよ。
……最悪のケースを想定するのでれば、尚更ね」
「最悪のケースってなんだよ?」
察しが悪い奴がいたものだ。
あえて三間が口にしなかったことを、わざわざ聞くのか。
「……実際、マッピングスキルを持った三枝さんがいることは探索の効率化に繋がるの間違いないよ。
でも、攻略の中心になるメンバーはそれだけ危険を強いられる。
九重さん、効率的な探索はメリットだけじゃなかったよね?」
「……うん。
ダンジョン内で迷いなく進めるメリットは大きいよ。
でも、モンスターとの遭遇率は探索の効率が上がる分、向上していたと思う」
「ま、マジで……?」
「……じゃ、じゃあ、安全に探索が進めるわけじゃないの?」
勇希の発言に、生徒たちの間で動揺が走った。
「今、九重さんが言ったことでもあるけど、ダンジョン内で迷わない――そういう意味での安全はあるよ。
でもそれは、まだ誰も通っていない通路やフロアに入ることにも繋がる。
そこには多くのモンスターがいるかもしれないし、罠だってあるかもしれない。
……言いたくはないけれど、それは最悪、探索の中心メンバーを失うことにもなるはずだ」
レベルの高い者にだけ頼っていれば、もしその生徒を失った際に間違いなく行き詰まる。
生き抜く為には、レベルの底上げは必須なのだ。
「マッピングスキルを持つ三枝さんが入るパーティは、攻略の中心にならなければいけない。
より大きな危険を強いることになるけれど、ポイントというシステムがある以上、それがクラスの為なんだ。
少しでも危険を減らす為にも、実績があり平均レベルの高いパーティに、三枝さんには加入してもらいたい。
都合がいいと思われるかもしれないけど、僕は誰一人、クラスメイトを失いたくはないから」
三間はただ合理的な意見を口にするだけではなく、最後にはクラスの為という想いを伝えた。
「……そ、そういう理由なら、仕方ないかもね」
「お、おう。
おれらも出来る限りで、探索を頑張らせてもらうよ。
三間が言ってたみたいに、ただ階層を攻略するだけじゃなくて、アイテムを探すってのもいいよな」
三枝の加入が必ずしも安全に繋がるということではないと知ると、険悪なムードは消えていた。
「うん。ダンジョン攻略は当然最優先だけれど、各パーティがそれぞれの目的意識を持って行動してくれるのはありがたいよ」
「そうだな! 3階層では色々と考えて行動してみようぜ!」
「だね! 2階層はモンスターと戦うだけで必死だったけど、ダンジョン内の宝箱を探すのもありだよね! それが攻略の役に立つかもしれないわけだしさ」
「オレも必死で調査しなかったけどよ。
もしかしたら、隠し通路とかがあったりするかもしれないよな」
さっきに比べれば、随分とまともな意見が出始めた。
それにしても三間の奴、クラスメイトを上手く騙したものだ。
モンスターとの遭遇率、危険云々というのは全くの嘘というわけではない。
が、マッピングスキルを持つ生徒がパーティにいることで、探索が危険になるということはない。
なぜって探索は強制されているわけではないのだ。
モンスターと戦わない、探索を進めないという選択肢も取れる。
それに、モンスターとの遭遇率が上がるというのは、先のことを考えればメリットになるだろう。
この世界で生き抜く為には、ある程度のレベルアップが必須になる。
レベルが低過ぎてモンスターと戦えなくなれば……階層攻略することが不可能になる。 そうなれば待っているのは【死】だけだ。
現段階では取り返しのつかない段階ではないだろうが、もし階層の後半でパーティの中心メンバーを失えば、全員が共倒れになるだけなのだ。
(……三間だって、そんなことはわかっているんだろうが……)
結果的にこの合理的な行動こそクラスの為に繋がると、三間は信じているのかもしれない。
だが、俺は三間という人間に対して持っていた考えを改めた。
やはりこいつはただの善人ではない。
クラスの為であれば――平気な顔で嘘を吐ける。
こいつは、一人を失うことで多くを救えるのであれば、迷わず一人を切り捨てるのではないだろうか?
「……ええと一度話を戻すね。
三枝さんは九重さんたちのパーティに所属してもらうってことで大丈夫かな?」
「OK!」
「それがいいだろ」
「うちらは問題ないよ」
こんな感じで、他パーティの賛成を得た後、
「三枝さんはどうかな?
九重さんや宮真くんと一緒のパーティで問題ないかい?」
「う、うん! あたしはそれで大丈夫!
ごめんね、七瀬さん……折角誘ってくれたのに」
「大丈夫! 三枝さん、探索頑張ってね!」
「うん! ありがとう」
「それじゃあ、三枝さんは九重さんのパーティに加入して欲しい。
それと……解散した久我くんたちをどこのパーティに加入させるかなんだけど……」
それから解散したパーティのメンバーをどうするか話し合い、会議は終わりを迎えたのだった。
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