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食堂での話し合い

2017/1111 本日2回目の更新です。

            ※




 食堂は穏やかな空気に包まれていた。

 近くの席の生徒同士でコミュニケーションを取る生徒たち。

 こんな状況でも、クラス内でグループができつつあるのが人間らしい。

 特に三間は男女問わず絶大な支持を受けていて、最大派閥を形成していた。

 流石はコミュ力の塊。

 疲れてるだろうに、嫌な顔一つせずに他の生徒と話している。


(……大したものだな)


 やろうと思っても俺には絶対に出来ない。

 ちなみに先程から、数人の生徒がちらちらとこちら――というか、勇希の方を見ていた。

 どうやら、話し掛けたいようだが俺たちがいるせいで話し掛けられないのだろう。

 勇希を除けば、お世辞にも話し掛け安いってメンバーじゃないからな。

 俺自身は早くここを離れたいのだが……。


「みんな――食べながらでもいいから聞いてほしい」


 三間が立ち上がって、全員の顔が見える位置に移動した。

 生徒たちが冷静なうちに、本題に入ろうということらしい。


「今の状況を不安に感じている人も多いだろうし、僕も正直全てを受け入れられてはいない。

 でも、今後の事に付いてしっかり話しておきたいんだ」

「今後っていうのは……ダンジョンの攻略について?」

「うん。それも考えなくちゃならないことだ。

 僕たちは、ダンジョンの攻略を強制されてしまっている」

「で、でも……モンスターと戦うのは、やっぱり怖いよ……」


 怖い……その恐怖に打ち勝てる生徒が、どれだけいるだろうか?

 これは1組だけではなく、他のクラスも同じだろう。

 全ての生徒が戦えるとは到底思えない。

 本来なら足手纏い……と切り捨てられてもおかしくない状況だが、


「うん、そうだね。

 男子でも女子でも、戦いがどうしても怖いという人がいると思う。

 だから僕は、そういう生徒に戦いを強制しようとは思わない」


 やはり三間は平和主義のようだ。


「でもよ~。

 ダンジョンを攻略しないことには、次のポイントも入らないんだろ?」

「モンスターは怖いけど、怖いとか言ってる場合じゃないよね」


 女子生徒からも勇ましい声が上がった。

 こんな意見も出るあたり、生徒たちもやっと冷静になれたようだ。


「それも意見の一つだと思う。

 実際、1階層の攻略は九重さんたちに負担を掛けてしまったからね。

 今度は僕自身も力になりたいと考えてる。 

 だけど、戦いたくない生徒にそれを強制してもいい結果は生まないと思うんだ」

「でもさ~、それって不公平じゃね?」

「確かにな。それってニートみたいなもんじゃん。働かざる者食うべからずだろ?」


 それを言ったら、お前ら全員ただ飯くらいじゃねえか。


「だったら、働いてもらおう」

「え? でも無理強いはしないって……」

「うん。だからこそ、出来ることをしてもらおう」

「どういうことだよ?」


 多くの生徒が首を捻る中、三間が口を開いた。


「たとえば今日作った料理――これだって仕事の一つじゃないかな?

 ダンジョンで戦えない人で、料理が得意な人もいるかもしれない」


 働くことは何もダンジョンを攻略するという事だけではない。

 三間は戦えない生徒に、道を示そうとしているのだ。


「あ、それならわたしも出来る!」

「三間くんのアイディア、すごくいいと思う!」

「料理だけじゃなくて、この建物の掃除係りも必要だよね!」


 仕事――についての話が進む。

 何が必要か、どんなことをすべきか。

 三間が方向を示したことで、建設的に話し合いは進みそうだ。


(……無駄な争いに発展せずに済んだか)


 上手いやり方ではあるが、これは一つの問題に繋がる可能性がある。

 職業の選択による、クラス内のヒエラルキーの変化だ。

 命を懸けて戦っているのだから、ダンジョン攻略をしている人間が偉い。

 生徒たちがそんな妄執に囚われないか……それが元で面倒事に発展しないかだけが心配だ。


(……まぁ、クラス内の揉め事は三間が上手く解決するか)


 俺は勇希にトラブルが降りかかられなければそれでいい。

 話し合いは進み、クラスの中で男子生徒5人と女子生徒10人がモンスターと戦う以外の役割を持つ事となった。


(……意外と残ったな)


 というのが、正直な感想だ。


「じゃあ続けて――それ以外の役割、ダンジョンを攻略を目指す生徒たちは聞いてほしい。

 教室にいる間に色々と話して、ステータスや魔法、スキルというものがあることを僕たちは知ったよね」


 それは、俺や勇希がダンジョンにいる間の話だろう。


「でも、実際にぼくらはまだその力を使っていない。

 戦いに関して経験値がないんだ。

 だから――実際にダンジョンの攻略を達成した九重さんから、色々な情報を聞ければと思ってる」


 名前を呼ばれて、勇希が立ちあがった。


「そうだね。私もどこかで話せればって思ってたから。

 それじゃあ、え~と、まずは魔法やスキルの獲得方法について話すね」


 そして勇希はダンジョンで経験した事。

 5組の扇原たちと情報共有して得た知識について話をした。

 ボス討伐の際、共闘中の5組が消えた事に関しては伏せていた。


「他クラスとの共闘は、可能であるならばこれからもしていきたいね」

「人同士で争う必要はないよな」


 今はそれでもいいかもしれないが、今後戦力が充実した時に他クラスがどういう行動に出るか……だな。

 1階層の攻略に関しては、協力することでメリットがあった。

 それはまだ、互いの優位性がはっきりしていなかったからだ。

 だが、今後はそうはいかなくなるだろう。

 限られたモンスターを討伐し、多くの宝箱や資源を得た者が優位になっていく。

 差が開けば開くほど、協力する意味はなくなってしまうのだ。


「もしダンジョン内で他クラスの生徒を見つけたら、共闘できないか相談してみよう」


 平和主義の三間らしい。

 だが、1組はその方針で決まった。

 それで上手くいけばいい。

 手痛い失敗をすれば、方針を変更するだけだろう。


「それと、ステータスの項目を見て欲しいんだけど……。

 オリジナルスキルを持っている人っているかな?」


 続けて勇希が聞いた。

 勇希も俺と共に扇原からオリジナルスキルの説明を聞いていたからな。

 だが、それに反応を示した者はいない。

 俺が把握している限りだと俺の他には此花もオリジナルスキルを持っている。

 しかし、彼女も自分の持っている力については、教えるつもりはないようだ。


「いないみたいだね」

「九重さん、オリジナルスキルっていうのは?」

「条件はわからないんだけど、スキルとは別にオリジナルスキルっていうのがあるみたい。

 5組の扇原さんが言ってたの」


 それからオリジナルスキルについて、生徒たちに伝えた。


「……そんな強力な力が……」

「5組が1位通過なのも頷けるぜ」

「でも、5組の扇原って奴とは協力関係なんだよな?」

「少なくとも1階層に関しては協力していたよ。

 今後も協力関係を維持できればいいんだけど……」


 勇希はあの時の扇原たちの裏切りを伝えるつもりはないようだ。

 今も協力関係は維持されていると考えているのだろう。


「そうだね。少なくとも敵対する理由はないと思う」


 クラス内では5組に限らず、他クラスと協力できれば……という方針で話が進んでいた。

 利益を得る為の協力なら構わない。

 だが、能天気に他者を信用するのは危険だ。

 またボス戦で裏切られでもしたら、冗談抜きに死ぬ可能性だってある。

 そう思いつつも、俺が発言することはない。

 これはあくまで俺の考えだ。

 そもそも――扇原たちは敵だと決めた時点で、俺の中で協力という選択肢はない。

 考えをまとめている間に話は続いていく。


「それとオリジナルスキルとは別に、獲得できる魔法やスキルも個人差があるみたいなの」

「個人で獲得できる力が違うってことかい?」

「うん。だから気になる力があったら、みんなに情報を共有して欲しいの。

 同じ魔法やスキルばかりを獲得するよりは、役割を決めた方が戦いやすくなると思うから」

「役割か。確かにそれあいいかもしれないね!」

「具体的には攻撃、補助、回復の三役に分けて――」


 勇希はレクチャーを続ける。

 役割を分けるというのは、扇原たちの戦闘法から勇希が学んだことだろう。

 だが、チームで行動するのであればバランスは大切だ。

 俺も周りに倣って、スキルツリーをチェックしてみた。


(……あ、そういえば……)


 レベルアップ時に得たポイントをまだ使っていなかった。

 だが、今は獲得しない。

 これは、部屋に戻った後に熟考して獲得しよう。


「九重さん、質問がある」

「何かな?」

「鍛冶ってスキルがあるんだけど、こういうのも補助スキルになるのかな?」


 恰幅がよく優しそうな男子生徒が口を開いた。


「鍛冶じゃないけど、ミャーには装備生成スキルっていうのがあるよ」


 続けて自らを『ミャー』と呼ぶ女子生徒が質問した。

 鍛冶スキルも、装備生成スキルも――俺が獲得できないスキルだ。


(……そんなスキルもあるのか)


 装備生成は名前のままに、装備が制作可能になるらしい。

 生成可能な装備はスキルレベルに依存するとのこと。

 鍛冶スキルは、武器や防具の強化が可能になるそうだ。

 共通点として、どちらも素材が必要になるらしい。

 その素材はダンジョン内やポイントで購入しろということだろう。


「貴重なスキルだね。

 二人にはスキルを獲得してもらった後は、鍛冶と武器生産に注力してもらうべきかもしれない」


 三間の言う通り、それが無難だろう。

 万一、モンスターとの戦闘で二人が命を落とせば、俺たちは貴重なスキル要因を失うことになるわけだからな。


「じゃあ、二人には鍛冶屋になってもらう感じだね!」

「ミャ―が鍛冶屋かぁ。でも、面白そうかも!」

「自分も、物作りは好きだから装備を鍛えるというのは興味があるな」


 二人もそれなりに乗り気のようだ。

 戦闘要員は減るが、装備が整えられるならそれ以上の利益になるだろう。

 それから暫くスキルについて話が進んだが、他には特に目新しいスキルを持っている者はいないようだった。


 三枝と同じマッピングスキル持ちがいるのでは? と期待していたが、どうやらうちのクラスにはいないらしい。

 あのスキルがあると、ダンジョン攻略がかなり楽になるんだが……。

 無いものネダリしても仕方ない。


(……出来れば、三枝と合流出来ればいいんだがな)


 広いダンジョンでは、それも難しいかもしれない。


(……あいつ、どうしてるかな?

 辛い目にあっていないといいが……って、なんで俺はあいつのことを気にしてるんだか)


 クラス内で虐められていると言っていた。

 モンスターに襲われるという命の脅威はないが……。

 クラスという逃げられない環境は、三枝にとってはダンジョン以上に辛い場所になっているかもしれない。


(……次に会った時に力になってやれればいいんだが)


 あいつには、二度も命を救われた。

 だからただ、俺はその借りを返したいだけ。

 誰に聞かれたわけでもないのに、心の中で俺は、そんな言い訳をしてしまうのだった。

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