三間のお願い
2017/1110 本日2回目の更新です。
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この学生寮を模した建物はかなり広い為――空きスペースには、様々な施設を設置することが出来る。
1階には主に共用施設――浴場、トイレ、キッチン一式を設置した。
さらに、勇希に譲渡したポイントの余りで、生徒分の皿や箸などの食器、それと食堂に置く為の長机と椅子を購入した。
これで最低限、人間らしい生活を送ることが可能だろう。
「よし。これで共用スペースの準備は完了だ。
後は各自、部屋を決めよう。
みんな疲れてるとは思うけど、決めたら食堂に集合してほしい」
三間が解散を伝え、俺たちはここに来て初めての自由行動となった。
(……はぁ……これで少しの間だけ、一人になれるな)
一人でいられる時間は大切だ。
単純に俺が一人になれているせいで、そう思うのかもしれない。
でも、ずっと誰かと一緒にいるのは精神的にキツい。
(はぁ……とりあえず、適当に部屋を決めにいくか)
俺が階段に向けて歩き出そうとすると。
「大翔くん!」
「宮真くん!」
「ヤマト」
「宮真くん、少しいいかな?」
4人の声が重なる。
面倒事になるんじゃ? という予感を感じつつ、俺は振り返った。
俺を呼んだ、勇希、野島、此花、三間が立っていた。
「あ……ごめん。私は後で大丈夫だから。
じゃあ、先に行くね」
「ぇ……」
他の3人を気遣ってか勇希が行ってしまった。
「オメーらは後にしろ。
オレは宮真さんと男同士でしなくちゃならねぇ、大切な話があんだよ」
いや、ないよ。
少なくとも俺の方には全くないよ。
「ボクもヤマトに話があるの。
行こう、ヤマト」
此花が俺の腕を引く。
続けてになるが、少なくとも俺には全く話すことはない。
「尋ねたいことがあったんだけど……僕の話は二人が終わった後でも大丈夫だから」
尋ねたいこと? 今後に関わることだろうか?
三間は今後もクラスのまとめ役として機能してもらう必要がある。
そうでなければ、クラス内での勇希の負担が増す可能性がある為だ。
「宮真くんは、どの部屋にするんですか?」
「ボクもそれが聞きたかったんだ」
「いや、決めてないけど……」
まさかとは思うが……。
「一番の舎弟としては、宮真くんのガードも兼ねて隣の部屋になりてーと思ったんですよ。
ほら、クラスのヤンキーがカチコミかけてくるかもしれませんから!」
「キミが隣にいるのが一番危険なんじゃないかな?
それと、ヤマトとボクは同じ部屋に住むから、キミが入り込む隙間は微塵もないよ」
なに言ってんだ、こいつ?
勇希とすら同じ部屋は勘弁だというのに、お前なんぞと同じ部屋に入られるわけねぇだろ!
まぁ、冗談のつも――
「ね! そうだよね、ヤマト!」
此花が俺に抱き着いてきた。
そして、懇願するような眼差しを向けてくる。
「一緒の部屋だぁ!? テメェ、硬派な男の世界に割り込んでくんじゃねえ!」
「ボクはヤマトの奴隷なの。同じ部屋に住むのは当然だよ」
ど、奴隷って、ちょっ、おまっ!?
いきなりなに言っちゃってんの!?
「ど、奴隷……」
うわぁ……と、野島の三白眼が見開いてる。
そりゃそうだ。
流石に奴隷がいるなんて言えば引かれ――
「宮真くん、流石っす!
高校生の身で奴隷がいるなんて! マジぱねえっすよ!」
尊敬された!?
「ヤマトがぱねぇのは当然だよ!
ボクが奴隷になってもいいって思った人なんだから」
そして、なぜお前が威張る!?
「あ、あはは。人気者だね、宮真くん」
「……ほんと、そう思ってるか?」
「ごめん」
三間は苦笑を浮かべた。
「野島、隣の部屋になるのは禁止だ」
「な、なんでだよ!?
勝ち誇った笑みを浮かべる此花だったが。
「此花、当然だが俺はお前と一緒に住むつもりはない」
「ど、どうして!?」
一瞬で意気消沈。
「もし破ったら、今後はお前らを無視し続ける」
「んなっ!?」「むぅ!?」
しょんぼりする二人。
可哀想なことをした気もするが……これも静かな生活を得る為には仕方ないことだ。
だが、飴も必要だろう。
「……約束を守ってくれるなら、食事くらいは一緒にしてもいい」
「裏番と飯!? わ、わかったぜ! 席の確保は任せてくれ!」
「……ヤマトに嫌われたくないし、ボクもそれで納得しておくよ」
そして、渋々ではあるが二人はこの場を去って行った。
これで残ったのは俺と三間だけだ。
「待たせたな」
「ううん。こっちこそ急かせちゃったみたいでごめん。
それにしても、宮真くんはすごいね。
こんな短時間で、君を慕う人が何人もいるんだから」
「慕われているように見えるか?」
「うん」
三間は嫌味のない笑みで頷く。
申し訳ないが、眼科に行くことをオススメしたい。
「まぁ、あいつらの話はもういい。それで本題は?」
「……うん。
こんな事を言える立場にないのはわかっているんだけど、それを承知でお願いがある。
君がダンジョンで経験したことについて教えてほしい。
内部構造やモンスターについて、それと可能な範囲で魔法やスキルについても聞きたい」
「なぜ九重じゃなくて俺に?
ダンジョンに入ったのは九重も同じだぞ?」
「九重さんは女の子だからね。男同士の方が話しやすいかなってね。
それに、キミたちって恋人同士なんだよね?」
「は?」
どうしてそうなる?
「あれ? 違ったかな?」
「違う。全くの見当違いだ。
九重の迷惑になるから、他の奴には絶対にそんなこと言わないでくれよ」
「ご、ごめん。そこまで強く否定されるとは思ってなかった」
全力で否定するわ!
そんな勘違いされたら、勇希の評判が下がるだろ。
俺がどう思われようと構わないが、それだけは絶対にダメだ。
「情報の共有については、九重が話すと思うぞ。
次に生徒が集合した時に、聞いてみるといいんじゃないか?」
勇希なら、間違いなくクラスメイトと情報を共有するだろう。
「わかった。宮真くん、引き止めてごめん」
「いや、別にいい。それじゃあな」
「それと……1階層を攻略してくれて、ありがとう。
九重さんと君がいてくれたお陰で、本当に助かった」
「俺は何もしてない。感謝なら九重にしてくれ」
それだけ言って、俺は階段を上った。




