物資購入会議
2017/1110 本日更新1回目です。
※昨日更新分で、同じ話を二度投稿してしまいました。
削除ではなく別の話を上書きすることで対応しております。
もし話が飛んでいると感じた読者様がおりましたら、
大変お手数ではありますが、前の話数にも目を通していただければ幸いです。
※
三間がクラスメイトたちに建物――寮の状況を伝える。
それを加味した上で、三間が黒板に生徒たちの意見をまとめていった。
ポイントで購入できる物資は色々あり、それこそ現代で買える物――ゲーム機、スマホなども購入できるようだった。
勿論、この場において娯楽品を望むものはいない。
生徒たちが購入を望んでいるのは風呂やトイレ、現代人らしい生活を送る為に必要な物だった。
そういった設備を使用する際のエネルギーは、魔力で代用可能のようだ。
一度の魔力供給で長時間稼働するらしい。
何らかの設備を購入する場合は、魔力を供給する当番を決めておいた方がいいかもしれない。
(……しかし、魔力がエネルギー代わりか)
今まで意識していなかったが、教室内やタウンには『電気』が付いていた。
電気が使えるという事が当たり前すぎて、今まで意識すらしていなかったが、それも魔力供給による明かりだったのだろう。
だが、魔力を供給しているのは誰だ?
担任……それとも、別の誰かなのか?
もし明かりも魔力によるものなら、どこかで魔力供給する必要があるのだろうか?
もしそうなら、担任に確認する必要があるかもしれない。
あいつが素直に答えてくれるかは別だが……。
(……何にしても、この世界じゃ魔力が生きる為に必要のライフラインってことなんだな)
魔力が低い奴は苦労しそうだが……三枝の奴は大丈夫だろうか?
あいつは魔力――というかステータスが極端に低かったからなぁ……。
苦労するのは目に見えていそうだ。
あいつには借りがあるから、手助けしてやりたい。
2階層を攻略中に出会えればいいんだが……。
「……食料はまとめ買い出来るんだね」
「ばらばらに買うよりも安いみたい。
クラスメイト全員分で1日10ポイント計算」
三間がクラスメイトたちに聞こえるよう声を上げた。
物資購入画面の説明によれば、これはクラスメイト40人分の食料でという意味らしい。
食材を選んで購入することも可能だが、まとめ買いの方が価格は安い。
ちなみに食材は毎日変わるようだ。
現時点で500ポイント――50日分の食料を購入することが可能だ。
しかし、キッチンは別に必要となる。
「キッチン一式に必要なのは100ポイントか……」
「流石に高すぎるだろ!」
「そんなのに100ポイント使うくらいなら、簡易食品で我慢しようぜ」
簡易食品――缶詰とかの事を言っているのだろう。
確かに食べ物と飲み水さえ確保できれば、死ぬことはない。
「でも、そういうのばっかりじゃ身体によくないと思う」
「環境が変わりすぎて、体調を壊しちゃう子だっているかもだしさ」
「でも、キッチンがあれば水も飲むことが出来るし……」
「飲み水が確保できるのは大きいな」」
「だったらトイレか風呂を削るか?」
「いや、ありえないでしょ!」
「その二つを削るくらいなら、食事は最低限でいいよ!」
「あ、あの……出来れば洗濯機も欲しいんだけど……」
ちなみにトイレが男女兼用で構わないなら30ポイント。
別にする場合が60ポイントだ。
風呂は50ポイント。シャワーにする場合は20ポイントで済む。
だが、これも男女別にする場合はその倍だ。
洗濯機は20ポイントか。
全部買うとなるとかなりのポイントが必要になるな。
「お風呂やシャワーがあれば、最悪はそっちで飲み水の確保はできるんだよね」
「ええ? お風呂の水道から水を飲むってこと?」
「なんか抵抗あるよねぇ……」
様々な意見が飛び交い続けている。
こんな調子で、意見はまとまるのだろうか?
そもそも、このポイントは俺と勇希がダンジョンを攻略したから手に入った物というのを理解してるのかこいつらは。
自分の身が可愛くてずっと教室にいたくせに、文句だけは一人前に口にする。
「キッチン一式、浴場に洗濯機、トイレ――男女別でこれらを購入した場合、230ポイント必要になる。残るポイントは270ポイント。
27日間分の食材は購入することができる」
27日分の食料――それをどう考えるか。
2階層を攻略すれば、またポイントは貰える。
つまり27日以内に2階層を攻略すれば、また食料が買えるだけのポイントが手に入るが……。
「なら、全部買っちゃっていいんじゃないの?」
「27日分も食料を確保できるんだもんね!」
「1階層もすぐに攻略できたんだし、買っちゃってもいいかもな!」
「だね! 意外と直ぐにここから出られるんじゃない?」
はい?
こいつら、マジで言ってんのか?
何があるかわからない以上は、ポイントを節約しようって考えにはならんのか?
勿論、最低限を送る為に必要な経費を使うのは構わないが、今の調子だと一瞬でポイントがなくなりそうだ。
「みんな、待ってほしい。
生活に必要な物は買うべきだと思う。
でも、僕は出来る限りポイントを節約すべきだと思ってる」
「ボクも三間くんの意見に賛成だよ。
ここでは何が起こるかわからないし、不測の事態に備えるべきだと思う」
三間と此花の意見だ。
「はぁ? 不測の事態ってなんだよ?」
「ボクたちは生きる為にはダンジョンを攻略しなくちゃいけない。
でも、ダンジョンの中にはモンスターがいるんだよ?
みんなは29日間――その限られた期間で2階層を確実に攻略しきれると思う?
それに、1階層の探索をしていないボクらには、どんな仕掛けがあるのかもわからない。
もしかしたら、ダンジョンを攻略する為にポイントが必要になる可能性だってあるかもしれない」
此花の言葉を生徒たちは黙って聞いていた。
夢心地な気分から、現実を突きつけられ意気消沈してしまったかのようだ。
なぜかわからないが、クラス内には不穏な空気が蔓延する。
そしてまるで敵意……のようなものが、此花に集まって行った。
余計なことを言うな。
空気をよめ――と言わんばかりに。
「あのさ、どうしてそういう余計なこと言うかな!」
「余計なこと? ボクは必要なことを言ったつもりだよ」
「ダンジョンとか、モンスターとかさ、わけわかんないんだよ!」
「怖いことなんて、考えたくない……!」
「あたしたち、必死に忘れようとしているのに!」
女子生徒たちが騒ぎ出した。
辛辣に、此花を攻めるようだ。
「怖いから、考えたくないから、わけがわからないから――だから思考停止して何もしないんじゃ、ボクたちは死ぬだけだよ」
事実だ。此花は、全く間違ったことなんて言ってない。
現実を受け止める強さが、此花にはあるのだろう。
だがその現実を受け止めさせるには、まだ時間が必要な生徒もいる。
恐らく、此花自身もそれはわかっている。
それをわかった上で発言したに違いない。
誰かが言わなくてはならない事なのだから。
「死にたくないなら戦うしかない。
自分なりに何ができるのか考えて行動するしかない。
その為にクラスのみんなで出来るのは、ポイントを節約することだって思う」
「節約って、具体的にはあんたはどうしたいのよ。」
「最低限、生活環境は整えるべきだとは思う。
でも、お風呂とトイレは男女共用でいいんじゃないかな?」
「はあ? ありえないんですけど!」
「そんなの絶対いや! 今日会ったばかりで、まともに話したこともないのに!」
「それでポイントを節約できるなら安いものだよ」
正直なところ風呂とトイレがあればそれだけで十分だ。
現状ではそれすらも贅沢だ。
だが……あまり我慢をさせ過ぎれば、何かの拍子にストレスが爆発するだろう。
余計なトラブルを生む危険があるのなら、最低限クラスメイトたちが納得する物を購入すべきだろうか?
せめてもう少しポイントがあれば……。
(……ポイント……? あ、そういえば……)
俺はボスを討伐した際に入った特別ポイントがあったことを思いだした。
俺はメニュー画面を開き、ポイントの項目があるか確認してみる。
(……あれ、マジで?)
するとメニュー画面の右下に俺が持つ個人ポイントとして、1000pと表示されていた。
もしかして、これも物資を購入する為に使用可能なのだろうか?
メニュー画面のポイントの部分に触れて詳細を確認してみる。
――――――――――――――――
・個人ポイントについて。
個人ポイントはクラスポイントと同様の使い方が可能。
クラスポイントと違い、獲得者のみの承認で自由に使用することでが出来る。
――――――――――――――――
と、いうことだった。
(……俺だけが使えるポイント、か)
しかし、ここでポイントを隠しているとバレた時に余計な禍根を生みそうだな。
「……勇希、ちょっといいか?」
「うん? どうしたの?」
小声で話し掛ける。
「ちょっと、試したいことがあるんだ。協力してくれ」
「わかった。私に出来ることなら……」
俺の試したいこと――それは、ポイントの譲渡。
頭の中で勇希に300ポイントを譲渡したいと考えた途端――アイテムトレードをした時のような交換画面が視界に映った。
トレードしますか?
Yes or No
俺は迷わず Yes を選択した。
「え、これって……?」
「ボス討伐で俺に入ったポイントだ。
勇希がボス討伐で手に入れたことにして、この300ポイントで必要な物を購入してほしい」
「でも……いいの?」
「構わない」
これは勇希のお陰で手に入れたポイントでもあるのだから。
それにクラス内でトラブルが起これば、勇希の負担になる可能性も大きい。
現状、男子と女子のリーダー格が三間と勇希である以上、二人を頼ろうとする者が現状増えると予想できるからな。
これは必要な先行投資だ。
それに、此花があれだけ言ったんだ。
無駄にポイントを使えるという甘い考えは抑えられただろう。
「ごめん。それと、ありがとうね。大翔くん」
勇希の言葉に俺は小さく頷いた。
「ちょっと聞いてもらってもいいかな?」
勇希はボス討伐で300ポイントが支給されていたと話した。
そして、設備の必要経費をこれで賄うと約束する。
「マジかよ!?」
「本当にいいの、九重さん!?」
「ちょ~ありがたいよ!」
大喝采。
その瞬間の生徒たちの歓喜と言ったらなかった。
これで勇希は、クラスメイトたちの信頼を大きく得たと言っていいだろう。
「ありがとう、九重さん。本当に助かるよ!
これでみんなが必要だと思う、最低限の物は揃えられる」
しかもクラスポイントの500pはまるまる残った状態で……だ。
さらには俺がボスを討伐した……と担任が口にした事実も、クラスメイトはすっかり忘れてしまっただろう。
俺自身に与えられた個人ポイントも700pも無事に隠せた。
疑う者などいない。
これは大きなアドバンテージだ。
「それじゃあ寮に向かおう。
寮に付いたら、早速必要な物を揃えていこう」
「とりあえず、そろそろトイレに行きたいんで、最初にトイレを頼むな!」
クラスメイトの男子がそんなことを言った。
それに頷いた生徒が数人いたのは……敢えて見なかったことしておこう。




