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ギブ&テイク

2017/1109 本日更新1回目

             ※




 担任が去って少しすると、生徒たちは騒がしさを取り戻していった


「ポイントが入って良かったね!」

「ほんとな。マジでどうなるかと思ってたけど……」

「これならどうにかなりそうじゃない?」


 話題は当然、得られた500ポイント――それの使い道に使い道についてだ。


「ポイントで何を買おうか?」

「お腹もすいちゃったから、とりあえず何か食べたくない?」

「わたし、お風呂入りたい」


 皆、欲望のままに口を開く。

 だが、好き放題使っていたら、ポイントは一瞬でなくなるだろう。


「みんな! 色々と欲しいものはあると思う。

 でも、限られたポイントで全てを買うことは難しいよ」

「あ……そうか。500ポイントしかないんだもんね」


 三間の発言に、騒いでいた生徒たちがはっとする。


「だけどよ三間、食料は絶対必要だろ!」

「そうだよ! 何も食べられず餓死するなんて絶対いや!」

「が、餓死……う、嘘……わ、わたしたち、餓死するかもしれないの?」


 なぜ、限られたポイントしかない=餓死になるのか。

 こいつらは、三間が言いたいことを理解できていないようだ。


「みんな、落ち着いて! 私たちは餓死なんてしないよ!

 ポイントがあれば食料は買える!

 無駄に使うことが出来ないのも事実だよ。

 だからこそ、今何が必要なのかみんなの意見をまとめた方がいいと思う」

「僕も九重さんの言う通りだと思う。

 生きていく為に、必要な物をまとめていこう。

 それと、タウンの状況を確認しておきたい」


 勇希と三間、二人がクラスメイトたちをまとめていく。


「で、でも……タウンって場所にも、モンスターがいるかもしれないんじゃ……」

「それは大丈夫……と、僕は考えているんだけど……そうだね。

 不安な人もいると思う。だからこそ、まずは僕が様子を見てこようと思う」


 ダンジョンの探索には出なかった三間だが、やはり判断力、行動力がないわけではないらしい。

 俺もタウンにはモンスターは出ないと考えている。

 絶対に……とは言い切れないが、理由があるとすればあの担任の発言に今まで嘘がないからだ。

 これからも絶対にない……とは言い切れないが、少なくともタウンで俺たちを襲わせるメリットは何一つないだろう。

 担任が俺たちを利用したいのであれば尚の事だ。


「だったら、私も一緒に行く!

 三間くん一人に負担を掛けるわけにはいかないよ」


 だああああああああっ!?

 勇希の奴、なんで立候補してんだ!?

 危険はないと思うが……100%じゃないんだぞ!


「ありがとう、九重さん。他にも付いて来てくれる人はいるかな?」

「……俺も行こう」


 最初から、タウンの探索はするつもりだったし、勇希が行くなら仕方ない。


「助かるよ。えと……」

宮真大翔みやまやまとだ」

「宮真くんだね! よろしく!」


 三間は人当たりのいい笑みを俺に向けた。

 俺が善意から、タウンの探索を申し出たと思っていそうだ。


「オレも行くぜ」


 意外な人物が声を上げた。

 三白眼――あの不良男だ。

 なぜ今になって声を上げたのだろうか?

 ギロっと三白眼で俺を睨んで来た。


「ありがとう。野島くん、よろしくね!」

「おう」


 あれ……?

 三間も野島の名前を知ってるんだな。

 俺がいない間に、自己紹介を済ませたのか?


「それじゃあ、タウンにはこの4人で――」

「あの……ボクも、一緒に行っていい?」


 ボク……という一人称であったが、声を上げたのは女の子だった。

 青がかった白い髪と雪のような白い肌――小柄ではあるが、その日本人離れした容姿は非常に目立つ。

 もしかしてハーフ……か、クォーターなのだろうか?


「此花さんだったよね。

 ありがとう、それじゃあこの5人で一緒に行こうか。

 僕たちがタウンの調査に行く間に、みんなは何を購入すべきか。

 自分の意見をまとめて置いてほしい」


 三間はそう伝えて、席を立った。

 俺たちもそれに続く。

 タウンに繋がっているのは教壇側の扉と言っていた。


「それじゃあ行こうか」


 三間の言葉に俺たちは頷いた。

 扉を開く。その先には、


(……ここは建物の中か……?)


 この建物は、非常に見覚えのあるような現代的な感じだ。

 タウンなどと担任は呼んでいたが、これじゃただの居住区じゃないか。


「なんだこりゃ?」

「ダンジョンではないみたいだけど?」

「もしかして……ここって……?」

「此花さん、何か知ってるのかい?」

「……返事は、ここを探索してからでもいいかな?」


 何か、確かめたいことがあるのだろうか


「わかった。此花さんの判断で話してほしい」


 俺たちは指示通り、建物の中を進んで行く。

 今のところ魔物の気配はない。

 建物を入って直ぐ左の扉を開くと、そこは教室よりも広い一室だった。

 しかし、家具は何一つ置かれていない。


「マジでなんもねぇんだな」

「やはり、最低限の家具は購入する必要があるみたいだね」

「大きなテーブルを買って、ここを共同スペースにするとかいいかもね!」


 共同スペースか。

 会議などに使うのはありかもしれない。

 いや……だが、それは教室ですれば済む話か。

 建物の中の部屋を何に使うのか……というのも、しっかりと考えて決めるべきだろう。

「……やっぱり、階段があるんだ……?」


 俺たちと離れた位置から此花の声が聞こえた。

 どうやら、部屋の左奥に足を運んでいた。


「え? 階段があるの?」

「……うん。みんな、この先に進んでいいかな?」


 どうやら此花は、この扉の先が気になるらしい。


「……わかった。上に行くなら、みんなで行こう」


 俺たちは階段を進み、2階に到着。

 3階へも進む階段が続いていたが、俺たちはこの階を調べることにした。

 2階は左右に通路が分かれていた。

 特徴的なのは一定間隔で扉があることだ。

 しかも扉には番号が付けられていた。


(……まるでアパートやマンションだな)


 扉を開けて、中を確認してみるか?


「……構造も同じなんだ」

「ん?」


 いつの間にか、俺の右隣には此花が立っていた。


「んだよ? やっぱお前、なんか知ってんのか?」


 なぜか、左隣には不良男もいる。

 え?

 な、なに?

 なんで話したこともない奴に、俺囲まれちゃってるの?


「……確信はまだ持てないから」

「ああん? もったいぶってんじゃねえぞ。

 宮真くんも、そう思いませんか?」

「え……あ……」


 は? なんで俺の名前知っちゃってるわけ?

 しかもなんで敬語?

 ていうか、いきなり俺に話を振らないでくれ。

 思わず言葉に詰まってしまった。


「……ボクは、ヤマトは無理に話を聞き出すような人じゃないと思うけど?」


 こっちも呼び捨て!?

 だが、此花はあまり他人と親しくするタイプではない……というか。

 気軽に相手を呼び捨てするタイプじゃない気もするんだが……。


「と、とりあえず、中を確認してみるか」


 話を変える為に、俺はドアノブに手を掛ける。

 鍵はかかっておらず、そのまま扉は開くことができた。


「……おお! ベッドがあるじゃねえかっ!

 見てくださいよ、宮真くん」


 目を輝かせながら、野島は部屋に飛び込んだ。

 そして――ボフン。

 ベッドにダイブしていた。


「やっぱり……ここって……」


 対して此花はその場に留まり、ゆっくりと部屋の中を確認した。

 やはり家具はほとんどない。

 少しボロい……とはいえ、ベッドがあったことが意外だ。


「……此花……さんは、何か知ってるのか?」

此花彩花このはなさいか。ボクのことは彩花でいいよ」


 いや、言えるか。

 それがどれだけ高難易度であるか、彼女は理解していないらしい。


「……此花で勘弁してくれ。

 それで、さっきの質問の答えなんだが……」

「彩花……」


 此花が青い瞳で俺をじっと見る。

 その目は自分を呼び捨てにしろと訴えていた。

 これだけ人間関係は面倒だ。

 こいつは、俺に何を望んでいるのだろうか?

 名前で呼ばせて、親しさアピールか?

 お前と親しくなるつもりなんて毛頭ないぞこっちは。

 だが……無駄な亀裂を生むのも得策ではない。


「……さ、彩花さいか、質問に答えてくれるか?」

「うん。ありがとうヤマト」


 満足そうに微笑む。

 今だけ、こいつと話すのは今だけだ。

 教室に戻れば、わざわざ俺に話し掛けてなんて来なくなるだろうからな。


「ここに入った時から、もしかしてと思ってたんだけど。

 建物の構造が、学生寮と全く同じみたいなんだ」

「学生寮……?」

「うん。ボクもそこで暮らしてるから間違いない」


 此花は寮生だったのか。

 何かに気付いた様子だったのはそういう理由か。


「だが、誰もいないのはおかしくないか?」

「ボクもそれが気になってた。

 ここが本当に学生寮なら、管理人さんとかもいるはずだからね」


 管理人どころか、ここには人の気配はない。


「学生寮を模して作った施設……ってところか?」

「その可能性が高いと思う。

 なんの狙いがあるのかはわからないけど、こんなことが出来るなんて。

 ボクたちを攫った組織は、やっぱりとんでもない力を持っているんだろうね」


 とんでもない力……か。

 確かに担任――あいつらは常軌を逸している。

 だが、俺たちには力が与えられた。

 ステータスという概念、魔法とスキル。

 何より、俺にはオリジナルスキルがある。


(……あいつらを、倒すことが出来るかもしれない)


 このままレベルを上げていけば……――いや、倒す必要はない。

 あいつらと対等に交渉できるだけの力を手に入れれば、それでいい。

 あいつらなら、俺たちが元の世界に帰る為の手段を知っている可能性があるだから。


「……あのねヤマト。

 ボクはキミに聞きたいことがあって、ここの探索に立候補したんだ」

「聞きたいこと?」

「ボクたち1組はダンジョンを攻略したことになった。

 それは――ヤマトのお陰なんじゃない?

 ボスを討伐したのはヤマトだって担任は言ってたもんね」


 ダンジョンに残っていたのが、俺と勇希だけであることを考えれば、攻略したのはそのどちらかという事になる。

 担任の俺がボスを倒した……という発言を此花しっかりと聞いていたか。


「俺は特に何もしてないよ。

 5組が1位通過したのは知ってるだろ?

 九重が上手く5組の連中と協力関係を結んでくれたんだ。

 そのお陰でボスも倒せたし、俺たちはダンジョンを攻略できた」


 決して嘘ではない。

 だが、完全な真実でもない。

 勇希……そして三枝の協力があったからこそ、俺は生き残る事ができたのだから。


「……5組と……確かに理屈にかなってるね。

 ココノエさんは人付き合いも得意そうだし」

「納得してくれたか?」

「してないよ……。でも、ヤマトのこと一つだけわかったよ」


 

 この短時間の会話で何がわかったと言うんだ。


「ヤマトが――嘘吐きだってことがね」


 嫌味のない笑みを向ける。

 出会ったばかりで嘘吐き呼ばわりか……。

 遠慮がないな。だが、


「よくわかってるな。じゃあ嘘吐きと話しても意味ないだろ?」

「意味はあるよ。ヤマトは意味のない嘘を吐かないでしょ?

 ボクの事が信用できないからこそ、嘘を吐いたんじゃないかな?」

「……出会って直ぐに、相手を信じられる人間ではないな」

「だよね。だからボクはヤマトに信じてもらえるように行動する。

 もしボクがキミの役に立つと思ったら、キミの下僕げぼくにしてほしい」


 わっつ? げ、下僕……?


「だめ……かな? だったら奴隷でもいいよ」


 下僕からさらにグレードダウンしてるじゃねえか!


「……お前、頭だいじょうぶ?」

「ヤマトひどいよ。普通、女の子にそんなこと言うもの?」


 え? 俺が酷いの?


「とりあえず――信じてもらう為に一つ情報提供。

 ボクのオリジナルスキルについて――」


 此花の顔が俺に近付いたかと思うと、耳元に唇を寄せた。

 そして、勝手に話し出す。

 彼女の持つオリジナルスキルについて。


「なぜ話した? その力を他者に伝えるメリットは皆無だろ?

 寧ろ効果を考えればデメリットしかないはずだ!」

「奴隷だからね! ご主人様に尽くさないと!」

「あ、あのな……ふざけるのも大概にしろ! 一体、何が狙いだ?」

「狙いは……そうだね。今はヤマトと仲良くなりたいな。

 そしていつか、奴隷からギブ&テイクの関係になれたらって思ってる」


 ギブ&テイク――と、此花は明言した。

 それは、最初から互いに利用し合う関係にないたいと言っているようなものだ。

 俺を利用して何がしたいのか。

 それはまるで見えてこない……が、割り切った関係ほど楽なことはない。

 『友達』になることで『見返り』を望む奴らよりよっぽどマシだ。


「……わかった。もしお前に頼った時は、その分の恩は返そう」

「ありがとう。今はそれだけ聞ければ十分」


 彼女のオリジナルスキル――その使い道はいくらでもある。


「……ところで、さっきから野島が黙ってるみたいだが……?」

「彼なら寝てるみたいだよ」


 zzz……というイビキがベッドから聞こえて来た。

 こんな状況で、よく眠れたもんだ。

 神経が図太いというのは、羨ましいものだ。

 などと俺は思った。

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『ダンジョン・スクールデスゲーム』
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