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幼馴染と再会しても、ラブコメは始まらない。

          ※




 人間形成とは環境に依存する。

 一個人が個性を得て、どんな人間になるか。

 その全てが、生まれ育った環境で決まると言える。

 だから、俺が『人間嫌い』になった原因は環境にあったと言えるだろう。

 人は自分の利益の為に人を裏切る。

 人は自分の利益の為に人を傷つける。

 これは俺が、見て、聞いて、体験して得た事実だ。

 人と人が関わることが争いを生みだす原因だ。

 そんな当たり前のことを、俺は過去の経験から知った。

 同時に俺は自分の欠点を理解した。


 俺は、心が弱い。


 身体は鍛えれば強くなる。

 でも、心は鍛えることができない。

 精神的に未熟だと言われたらそれまでだが、俺は傷つきたくないのだ。

 傷つくのが怖いのだ。

 そして同じくらい、誰かを傷付けるのも嫌いだ。

 臆病なのだ。

 だったらいっそ、誰とも関わらずに生きることが俺にとっての安穏。

 結論――。


「引きこもりになりてぇ……」


 理想論ではあるけれど、だがそれは現実的ではない。


「いきなりどうしたの?」

「え?」


 あれ?

 右隣にいた女子生徒が、なぜか俺に声を掛けてきた。


「【入学初日】から、登校拒否宣言は感心しないよ」

「あ……」


 しまった。

 思わず心の声が漏れてしまっていたようだ。


「悩みがあるなら相談に乗るよ?」

「いや、今のはただの冗談だ。

 早起きして、学校に来るのって辛いだろ?」


 適当な発言でごまかしておく。

 真剣にこんな話をしたら社会不適合者もいいところだろう。

 学校と言う場所において、弱みを見せることは実質的な死に繋がる。

 死――それはイジメの標的になることだろう。

 少なくとも俺のいるこのクラスでは問題を起こさないようにしたい。

 余計なレッテルを張られる前に、冗談ということで済ませておこう。

 今度こそ俺は上手くやってみせる。

 誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、安穏に。

 学校とは社会に適応する為の訓練施設なのだから。


「毎日が日曜日なら楽なんだけどなぁ」

「まぁ、気持ちはわかるけど――って、まだ自己紹介もしてなかったよね。

 私は九重勇希ここのえゆうき

 これから1年間、よろしくね」


 勝手に自己紹介されてしまった。

 いや、寧ろこれは自然な流れなのか?

 だとしたら、俺も返事をするのが無難――って、あれ?

 ココノエ、ユウキ……?


「……どうかしたの?」


 呆然とする俺の顔を、九重が覗き込む。


(……まさか?)


 いや……でも、そんな偶然あるか?

 改めて彼女の顔を見る。

 ……似ている、気がする。

 もう何年も経っているから、面影くらいだけど……九重勇希――彼女は俺にとって大切な恩人だ。

 でも、だからこそ――ここで再会したくはなかった。


「……大丈夫?」

「あ、ああ……」

「よかったら、君の名前を教えてよ?」


 名前……か。

 ばれるだろうか?

 一瞬、不安に思ったが……いや、大丈夫だろう。


「……宮真大翔みやまやまとだ」

「みやまやまと……?」


 九重が俺を凝視する。

 何かを探るように、俺の瞳を見つめた。


「あまりじっと見ないんでほしいんだが……」

「……あ、ごめんね。

 ちょっと、昔の事を思い出しちゃって……」


 昔のこと――それは俺との約束をという事だろうか?

 数年ぶりの再会であることと、俺の名字が代わっていたこともあり、あのヤマトだとは思われていないようだが……。


「ヤマトくんって、どういう漢字を書くの?」


 いきなり呼び捨てだった。

 でも、昔から彼女はこうだったか。

 アクティブな性格で、誰にでも親しまれていた。

 容姿は随分と女性らしく――というか、美少女と言って差し支えないほど綺麗になっている。

 しかし、まいった。


(……まさか、勇希と隣人になってしまうなんて)


 引っ越して以降、今日まで一度も顔を合わせていなかった。

 再会できたことが嬉しくない……と言えば嘘だけど、今の自分を知られるのは怖い。

 複雑な心境を抱えつつも……俺はノートの切れ端に自分の名前を書いてみせた。


「大きいにかけるかぁ。

 いい名前だね! それじゃあ大翔くん、これからよろしくね」

「……ああ、よろしく」


 俺は勇希に満面の笑みを向けられ、思わず顔を背けた。

 変わらない――今でも彼女はヒーローのように眩しい。

 でも……俺は?

 彼女を守りたいと誓ったはずの俺は……少しも成長できていない。

 確かに俺は、泣くことはなくなった。

 でも、今も俺の心は、弱いままだ。

 それが引け目となって、思わず態度に出てしまう。

 今からでも、正直に伝えるべきだろうか?

 俺が……あのヤマトだってことを……。

 思いがけない再会に頭を悩ませていると、がらがらと教室の扉が開いた。

 教師がやってきたのだろうか?


「……え?」


 違う。

 教室に入ってきたのは、白い翼の生えた黒いクマだった。


(……うん? どういうことだ? 俺は夢を見てるのか?)


 目を擦る。

 だが、現実は変わらない。


「はいは~い!

 ちゅうも~く!」


 いや、もうみんなが注目してると思うけど?

 ていうかクマがしゃべってる。


「みんな~、まずは入学おめでとう。

 このクラスの担任になる春日美々(かすがびび)で~す」


 は?

 担任?

 クマが?


「あれれ~?

 驚いてる~?

 驚いちゃってる~?」


 クマのテンション高ッ!

 対照的に俺を含めた生徒たちは、呆然、唖然、憮然。

 だから当然、教室の中は静寂に包まれた。


「なんで驚いてるのかは知らないけどさ~。

 これからみんなには、殺し合いをしてもらいま~す!」

「……え?」


 何その、バト○ロワイヤル的な展開!?


「というのは冗談で~す!」


 って、冗談かい!

 心のなかで即行突っ込んでいた。

 このクマはマジでなんなんだ?

 通報か?

 通報した方がいいのか?

 俺はいつでも通報できるように、ポケットの中からスマホを取り出す。


「おっと! そこの君、ダメダメ」


 その瞬間、


「え……っ!?」


 今まで手に触れていたはずのスマホが消えていた。

 言葉のままに、消滅していたのだ。


「この状況でも冷静に行動を選択したんだよね。

 その判断は悪くないよ。

 君は結構、いい感じだ~」


 なんだ?

 なんなんだこいつは!?


「じゃあ早速、始めようか。

 今回の【ゲーム】はワタシが勝ちたいんだ。

 だから【担任】として――このクラスの皆には期待してるからね」


 クマの着ぐるみが不気味に微笑む。

 その直後――意識が暗くなっていくのを感じた。

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