1階層攻略
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穏やかなムードも束の間。
俺たちは行動を再開していた。
次の目標はダンジョンの攻略――2階層に繋がる通路を見つけ出すこと。
三枝のマッピングがある為、地道に通路を潰していけば必ず見つかるはずだ。
モンスターに遭遇する可能性もある為、俺たちは慎重に進んでいく。
「……扇原さんたちは、裏切ったわけじゃないよね?」
歩きながら、三枝がこんなことを聞いてきた。
「どうだろうな……」
短く返事をする。
あの状況で消えられれば、裏切られたようなものだ。
「扇原さんたちは班を二つに分けて行動してるって言ってたから、もう一つの班が攻略条件を満たしちゃったんだと思う」
「……そっか。そうだよね!
あたし、裏切られたのかなって思っちゃって……」
「そんなことないよ。扇原さんは人を故意に傷付けるような人じゃないと思う」
故意でなかったとしても、俺は扇原たちを許せなかった。
何より――
(……扇原と協力関係を結んだ自分自身が許せなかった)
いや、あんなのは協力ですらない。
一方的に利用されただけだ。
その結果、俺のせいで勇希と三枝を危険に晒すことになった。
甘い考えは持つな。
同じ人間であろうと――あいつらは敵だ。
(……必ず……報いは受けてもらう)
目には目を、歯には歯を――裏切りには裏切りを……。
まだ算段が立ったわけではないが、扇原子猫が一番苦しむ方法で使い潰してやる。
「大翔くん? どうかした?」
「考えごと?」
勇希と三枝が俺の顔を窺って来た。
「ああ……2階層に繋がる扉はどこかなってな」
咄嗟に適当なことを口にした。
二人に聞かせたい話ではないからな。
「きっともう直ぐ見つかるよ!」
「うん! 少しずつだけどフロアも埋まってきたし!」
俺を元気付けるよう言って、二人は笑った。
「そうだな。この調子で探索を続けよう」
俺の考えを知れば、勇希はきっと悲しみ、反対するだろう。
だが、三枝はどうだろうか?
彼女は……いや、考える必要はないことだ。
二人に俺の考えを伝えるつもりなんてないのだから。
※
(……しかし、さっきから身体が軽いな)
戦闘を終えてから、結構な距離を歩いているが、疲れもない気がする。
なんだか信じられないくらい調子がいい。
ボスを倒したことでレベルが随分上がったが、それが関係しているのだろうか?
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○ステータス
名前:宮真 大翔
レベル:3 → 8
体力:50 → 50/110
魔力:38 → 20/102
攻撃:32 → 81
速さ:25 → 67
守備:17 → 53
魔攻:30 → 75
魔防:15 → 51
・魔法:炎の矢 治癒
・オリジナルスキル:一匹狼
・スキル:気配遮断1 気配察知1
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俺はステータスを確認していた。
(……一気に5レベルアップか)
それに、オリジナルスキル――『一匹狼』がレベル1になったんだっけ。
改めて効果を確認する。
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〇オリジナルスキル:一匹狼
効果時間は15分。
対象に対する自身の全能力値が10倍。
発動状態は獲得経験値量10倍。
効果発動時にレベルアップした際、マジックポイントとスキルポイントの獲得量10倍。
1度の使用で24時間のクールタイムが必要となる。
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(……だが、おかしい)
オリジナルスキルのレベル1の条件は、クラスメイトの協力なしにボスモンスターを討伐する事と記載されていた。
しかし、ボスとの戦闘には勇希も参加していた。
なのになぜ、このスキルが獲得できたのだろうか?
勇希が戦闘から離脱したからか?
与えたダメージ量なども関係している?
それ以外にも、何か別の理由があるのかもしれないが……。
(……考えていても仕方ないか)
とにかく、オリジナルスキルのレベルは上がった。
これは大きなメリットだろう。
実際に使って効果を確かめたいが……1度の発動による持続時間は15分。
さらに24時間のクールタイムが必要になる。
使うタイミングは強敵との戦闘時になるだろう。
「大翔くん、三枝さん、あれって!」
「――扉だ!」
入ったフロアの最奥に荘厳な扉があった。
教室のような木製の扉とも違う。
石で形作られているこのダンジョンの中では、かなり異質な感じだ。
「これで、この階層はクリア……になるんだよね?」
「うん。そのはずだよ!」
「とりあえず、進んでみよう」
そう言って、俺が扉に触れると――
『1組の生徒が2階層に繋がる扉を発見しました。
よって1組は第1階層攻略完了となります』
あの時と、同じシステム音が聞こえた。
「どうやら、扉に触れるとクリアになるらしい」
「……じゃああたし、ここで宮真くんたちとも……」
三枝は不安そうだった。
考えてみればこいつは……この1階層をクリアしても、自分を追い出した2組の生徒と一緒に過ごさなくちゃならないのか……。
こんな世界じゃなければ家に籠って逃げてしまうのも一つの手だが、ここじゃ教室にいる限り……逃げ場はない。
「……三枝……約束を忘れるな。何かあったら――」
俺を頼っていい――。
『1組に所属する生徒を強制転移します』
その言葉を伝えることは出来ず、
「あれ……?」
「ここって……?」
俺たちは、教室に転移させられていたのだった。




