約束
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「ありがとうね、大翔くん。
なんだかいつもよりも、身体の調子がいい感じだよ!」
そう言って、勇希はぴょんぴょん飛び跳ねる
「ちょ!? 大怪我だったんだから、あまり無理するなって」
「そ、そうだよ九重さん。
もしかしたら傷が開いちゃう可能性だってあるかもだし……!」
「……ごめん。でも、すっかり良くなったよ。
魔法って本当に凄いよね。改めて実感しちゃった」
「本当にな……」
回復手段があるというだけで、安心感がまるで違う。
「――ところで大翔くん」
勇希が俺に迫ってきた。
が、目が笑っていない。
「な、なんだ?」
「私は怒ってるよ」
ぷん。と頬を膨らませた。
その姿は可愛らしくて、怒ってるように見えない。
「なんでかわかってるよね?」
「……まあ」
「大翔くんが、約束を破ったからだよ!
無理をしないって、約束したよね!」
「……した……か?」
「したの! なのにどうして、大翔くんは平気で約束を破るのかな?」
勇希のことが大切だからだ。
なんて……正直に言えるはずもない。
「九重さん、あまり怒らないであげてよ」
「でも……!」
「宮真くん、本当に必死だったから……必死に九重さんのことを助けようとしてたんだよ」
三枝が、怒られる俺をフォローしてくれる。
「……助けてくれたのは、素直に感謝だけど……それでも、大翔くんだけが無理をするのは納得できないの」
「それはあたしも思うけど……。
でも、あたしが宮真くんに言われるままに逃げちゃったのが悪いんだもん。
だから九重さん! 怒るなら逃げだしたあたしにも怒って!」
「え……? 三枝さんに?」
三枝にじっと見つめられ、勇希は助けを請うように俺を見た。
「……三枝を怒るなら、それは俺の役目だろ?
俺の最後の頼みを、三枝は無視して戻って来てしまうんだもんな」
三枝が俺の『命令』を無視したのは完全に予想外。
彼女は言われたままに行動する事しかできないと思っていた。
だから、俺を助けに戻って来たことが本当に意外だった。
「……ごめんね、宮真くん。
でもあたし、あの時だけは自分で考えて行動したんだ。
あたしはね、宮真くんを助けたかったの。
助けなくちゃいけないと思った。
だから後悔はしてないし、結果的に助けられたことが嬉しかったの。
あたしみたいなダメな子でもさ、誰かを助けられたら、生きてる価値があったのかなって……そう思えて、大嫌いな自分のこと、少しだけ好きになれた気がするよ」
控えめな笑みを見せる三枝。
でも、その表情はどこか満足そうだ。
他人の力になれたことが、自信に繋がったのだろうか?
どんな心境の変化があったのかはわからないが、俺に言えるのは一つだけだ。
「生きてる価値なんて、他人が勝手に決めていいもんじゃないだろ?
それを決めていいのは自分だけだ。
だから、自分が自分を認めてやれたんだとしたら、そいつの人生には間違いなく価値があるんじゃないか?」
少なくとも、三枝に助けられた俺は、彼女の人生に価値がなかったなどとは思えるはずもない。
俺もいつか……自分の人生に価値があると思える日はくるのだろうか?
三枝を見ていたら、そんなことを思った。
「……宮真くん……。……うん、ありがとう。
そう言ってもらえると、今までのあたしがなんだか救われた気分だよ」
「感謝するなら俺の方だ。命を救われてるんだからな。
助かったのは、お前のお陰だ。だから――ありがとな」
「……あたしの方こそ、約束、破ってごめんね。
恨んでいいって言ったけど、やっぱ恨まないでよ?」
「……ああ。その代わり、お前を助け続けるって約束もなしだからな」
「え!? それはやだ! これからも仲間でいさせてよぅ……!」
三枝は泣きそうな顔で俺を見る。
こいつは信用できる。
自分の命を懸けて、俺を助けようとしてくれた。
だから――
「嘘だよ。ちゃんと、お前の力になる。
困ったことがあったら助ける。約束する」
今日だけで、二度も助けれた。
だからその分の恩くらいは必ず返す。
俺は自分の心にそう誓った。
「……ほんと?」
「本当だ。これからもよろしく頼む」
「う、うん。え、えと……す、末永く、よろしくお願いします」
「三枝さん……それは何か違うと思うな」
耳まで赤くなる三枝に、俺と勇希は顔を見合わせ苦笑した。
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