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1階層――ボス討伐戦②

2017/1107 本日更新2回目です。

            ※




「はっ、はっ――」


 あたしは必死に走っていた。

 なんの為に?

 生きる為……?

 違う、そうじゃない。

 託されたからだ。

 あたしの恩人――宮真くんに、彼女――九重勇希さんを。

 でも、今も迷ってる。

 本当にいいのかって。

 あのままじゃ、宮真くんがモンスターに殺されちゃうかもしれない……。

 だけど、あたしの助けを宮真くんは望まなかった。

 そうだよね。

 あたしと違って、頭のいい宮真くんだもん。

 あたしが助けに入っても、無駄なことを知ってたんだ。

 ちょっと戦力が増えても、あの化物には勝てない。

 必死に自分に言い訳をする。

 あたしは悪くない。

 弱いから、仕方ない。

 逃げることが最善だ。

 助けに戻っても、きっと無駄なんだ。


「ごめん、ごめん、宮真くん!」


 どうしてか、視界が歪んだ。

 涙が溢れて止まらない。

 悔しい。

 どうしてあたしは、こんなにも弱いんだろう。

 昔からそうだ。

 あたしは心が弱かった。

 勇希なんて名前を貰っておいて、誰よりも勇気がない。

 子供の頃からイジメられて、泣いてばかりだった。

 どうした強くなれるんだろう? 

 泣くたびに、そんなことを思っていた。

 小学校、中学校、人が変わっても、あたしの立場は変わらなかった。

 みんながあたしをイジメの標的にした。

 理由を聞いたこともある。

 すると悪魔のように顔を歪めて、あんたをイジメることが面白いからと言われた。

 地獄だった。

 だから、誰もあたしを知らないところに行きたかった。

 やり直したかった。

 なんども失敗していたけど、今度こそと願った。

 そして選んだのが、この高校だった。

 興味もないのにない今時の女の子ぽっい格好をして、高校デビューをするつもりだった。

 今度こそ、変わりたかった。

 でも、異常事態に錯乱したクラスメイトが、最初に生贄に選んだのはあたしだった。

 原因は単純――小学校時代からのあたしのクラスメイトがいたんだ。

 イジメの主犯格。

 最悪だった。

 そいつが、あたしを生贄に選んだ。


 ――イヤだ! イヤだよ!!


 叫んでも、泣いても、無駄だった。

 罵声を浴びせられ、頬を叩かれ、髪を引っ張られた。

 無理矢理、教室を追い出された。

 そしたら直ぐに教室の扉が消えてしまって、わけもわからず、ダンジョンの中をさまよって、モンスターに襲われた。


 もうダメだ。

 きっと、ここで、一人寂しく死ぬんだ。

 そんなことを思っていたわたしを――宮真くんは助けてくれた。

 あたしにとって、生まれて初めて手を差し伸べてくれた人だ。

 暗く淀んだ世界に、光が生まれた。


(……いいの? 本当に、いいの?)


 宮真くんは、あたしを見捨てなかった。

 宮真くんは、ダンジョンの中で、あたしと一緒に行動してくれた。

 こんなダメなあたしを傍にいさせてくれた。

 対等に話をしてくれた。

 それだけで、あたしは不思議と救われた気がした。


 ――そうだ。


 彼はあたしを、救ってくれたんだ。

 なのに――


「……さえ……ぐさ、さん……」


 背中越しに、今にも消えてしまいそうな、か細い声が聞こえた。


「こ、九重さん!?」

「もどって……やま、と……くんを、たすけに……」

「だ、だけど……」

「おね……がい……」

「でも、でも……!

 あたしは九重さんを助けるように、宮真くんに言われて……約束してて……」

「やま……と、くんは、たた……かって、くれ、てる」

「だけど、あたしたちが戻っても、出来ることなんて……」

「ある、よ……きっと、ある……」

「ないよ、何もない! ないもん!」


 あたしは、自分に言い聞かせるように、叫んだ。

 無駄だ。

 あたしは何も出来ない。

 今までだってそうだった。

 だからきっと――今回だって。

 

「……まよって、るんじゃ、ないの……?」

「え?」

「たすけ、たいって……きこえた、から……」

「そんなこと……」

「かんが、え……よう……いっしょに……きっと、ほうほう、は……」


 え……?

 あれ……?


「九重さん? ねえ、九重さん!?」

「っ……」


 あ、大丈夫だ。

 ちゃんと生きてる。

 でも、早く治療しないと……宮真くんがいれば、回復魔法で……。


「もし、宮真くんを助けられたら……」


 さっきから宮真くんのことばかり、考えてしまう。

 やめろやめろやめろ! 無駄なことはするな!!

 あたしには、何も……。


『正直になって――』


 不意に、さっきの九重さんの言葉が耳を霞める。

 あたしは……本当は、あたしが本当に今したいことは――。


「あたしは、あたしは、宮真くんを――宮真くんを助けたい!」


 でも、助ける為の方法が思い浮かばない。

 今のまま戻れば、きっと無駄死になる。

 何か、何か方法があれば――。

 ステータスを確認する。

 何か、何かないの……!?

 魔法、スキル――その効果の詳細を再確認する。

 宮真くんに頼るだけじゃダメだ。

 あたし自身が、今のあたしに出来ることを必死に考えた。

 獲得した魔法もスキルも少ない。

 出来ることは限られてはいるけれど……。


(……そうだ!? これなら……!)


 鑑定スキルを使った時の、あのホブゴブリンのステータス詳細で、気になることがあった。

 あたしのしようとしている事は、無駄かもしれない。

 だけど……。

 だけど、あたしは――。


「ごめん、宮真くん、九重さん!!」


 心の底から謝った。

 これが最後かもしれないなら、あたしは――。




          ※




「はぁ……はぁ……なぁ、ゴブリンさんよぅ。

 この辺りで、逃がしちゃくれないか?」

「ウガアアアッ!!」

「ああ、そうかい」


 遊び足りないっていうなら、とことん付き合ってやる。


「くっ!?」


 ぶん! ぶん!

 鉄槌のような拳を、ホブゴブリンが俺に振り下ろす。

 体力は無尽蔵か……というくらい、こいつは疲れを知らない。

 対して俺の方は動き回りすぎて、心臓が張り裂けそうだ。

 もう十分時間を稼げたろうか?

 扇原の推測通り、モンスターの数には限りがあるのなら、勇希たちが助かる可能性は高いはず。

 後はなんとか、次の階層に繋がる通路を見つけて、このダンジョンを攻略することが出来れば……。


「――炎のファイアアロー!」


 俺は攻撃を避けつつ、距離を取り、魔法を放とうとした。が――発動しない。


(……魔力切れか)


 どうやら、ここまでのようだ

 もう戦う為の手段はない。

 マジックポーションを使って、魔力を回復することも考えたが……。


(……無理だ。飲んでる暇なんてない!)

 

 その間に殺される。

 後は……体力の続く限り逃げて、時間を……。


「――宮真くん!」


 幻聴だろうか?

 三枝の声が聞こえた。

 ありえない。

 気のせいだ。

 もしここに勇希と三枝がいるとしたら、それは幻覚に違いない。

 なのに、ホブゴブリンが声に対して振り向いた。


「……嘘だろ……!? なんで……ここにいるんだよ!」


 幻覚だ。

 ありえない。

 戻ってくるはずがない。


「だって、助けたかったんだもん!」


 馬鹿な回答が返ってきた。

 

「勇希と一緒に逃げろって言っただろ!」

「言われたよ。でも、聞けない」


 こいつは俺の命令に逆らうような奴じゃない。

 自分の意志も持つこともできない。

 心の弱い人間のはずだ。


「九重さんに素直になれって言われて、やっと気付いた。

 あたしは、逃げたくない!

 宮真くんを助けたいんだって!

 もしこれが最後なら、自分の想いに素直になりたい!」

「助けるって、どうやって! どうせ何も考えてないんだろうがっ!」

「考えなしじゃない。ちゃんと、方法はあるよ!

 あたし考えたんだから!」


 確かな意志。

 三枝の言葉には今までにないほど感情がこもっていた。

 だけど――想いだけでどうにかなるほど、現実は甘くない。


「いいから逃げろっ!

 こっちはもう魔力に余裕が――」

「いい加減な気持ちじゃない! 真面目に言ってるの!

 お願い宮真くん、信じて!

 あたしを信じて、この化物に魔法を撃って!」


 何回も撃ってる。

 だが、ダメージを与えても直ぐに回復されてしまう。

 俺の攻撃力じゃ、この化物の回復速度を上回れない。


「っ……」


 ゴブリンが俺を無視して、三枝たちに足を向ける。


「3人が助かる手段はあるよ!」

「だとしても、もう魔力切れだ!」

「あたしが時間を稼ぐから、マジックポーションを使って!

 そうしたら直ぐに魔法を使って! 約束だからね!」


 三枝は勇希を下ろして、ホブゴブリンに捨て身で突進していく。

 完全な自殺行為――そのはずなのに、三枝の表情は、諦めている人間の顔ではない。

 このたった数分の間に何があったのかはわからないが、今の彼女は――生きる為に戦おうとしている。


「くそっ! 信じるからな三枝っ!!」


 三枝が作ってくれた時間くらい――三枝の言う通りに使ってやる。

 俺はマジックポーションを取り出して、一気に飲み干した。

 同時に、ゴブリンの拳が三枝に迫る。


「ひいいいっ!?」


 だが、狙ってやったのか――いや、多分偶然だろう。

 ボフゴブリンの股を滑り込むようにして、拳を避けた。


「撃つからな! ――炎のファイアアロー!!」


 俺は魔力が回復した確認などせず、直ぐに魔法を口にした。

 瞬間――赤い焔がゴブリンにほとばしる。


「ありがとう、宮真くん! あたしを信じてくれて!

 ――属性付与エンチャント――ウォーター!!」


 その赤い一矢がゴブリンに直撃する直前、三枝が魔法を使った。

 それは対象に属性を付与する魔法。

 属性を付与する対象は俺の放った魔法――矢が纏う炎は水へと変化し、水属性の魔法としてゴブリンに直撃した。


「アガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 効果があったのか、ボフゴブリンが今までにないほどの絶叫を上げる。


「なんで……?」

「ボフゴブリンは土属性――だから、弱点は水」

「そうか!? だから今までよりも大きなダメ―ジを!?」


 矢で貫かれた傷も、回復速度が遅い。

 今なら――。

 俺の考えに気付いたのか、三枝は頷く。

 三枝が作ってくれた、たった一度きりのチャンス――生きることを諦めていた俺の心に、微かな希望が芽生えた。


「ありがとうな、三枝。でも、頼みを聞いてくれなかったことは、恨むからな」

「いいよ、恨んで。もしこれで死んだとしてもあたしは、それに九重さんも、きっと後悔なんてしないから!」


 勝手なことを――でも、


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 やってやる!

 俺は全力で走った。

 ボフゴブリンの身体に空いた大穴は、まだ塞がっていない。

 接近する俺を警戒するが、ダメージが大きいのか動きは遅い。


「ありったけだっ!」


 俺は攻撃を避けると、至近距離から傷口目掛けて炎の矢を連発した。

 馬鹿の一つ覚えみたいだな。

 でも、今の俺に出来ることは――これだけだ。


「うおおおおおおおおおおおおっ!」

「グアアアアアアアアアアッ!?」


 俺とボフゴブリンの絶叫が重なる。

 炎の矢のダメージが重なり、傷口が大きく開いた。

 俺はその開いた傷口に拳を叩き込み――


「ファイアアアアアア――アロオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 ホブゴブリンの体内に、炎を矢を叩き込んだ。

 ぶわああああああああああっ!!

 化物の全身に炎が回り――


「……」


 炎を纏った肉体から光の粒子が舞うと、ホブゴブリンの身体は消えていくのだった。


「……勝った……のか?」

「た、多分……?」


 俺も三枝も、まだ実感は湧かない。


「かった……んだよ」


 か細い声。

 それは、壁に項垂れる勇希の声だった。

 そして――。


『階層ボスが討伐されました』


 声が響いた。


『あなたのレベルは8に上がりました。

 また条件を達成した為、オリジナルスキルのレベルが1に上がりました』


 システム音。

 どうやら、間違いなく俺たちは、ホブゴブリンを倒したようだ。

 安堵したように、勇希の身体が地面に崩れ落ちた。

 俺と三枝は大慌てで駆け寄る。


「……だ、だいじょうぶ。

 すっごく、全身がいたい、けど……死ぬほどじゃ、なさそう」

「直ぐに回復してやるからな!」


 と言っておいて、今は治癒エイドを使ってやる魔力がなかった。


「あ~くそっ! こんな時に!」

「だい、じょうぶ……っていうのは、やせ我慢かも……」


 あの勇希の口から、そんな弱気な言葉漏れるのだから、よっぽど痛かったのだろう。

 俺は魔力が回復して直ぐに、勇希に治癒エイドを使った。




              ※

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