1階層――ボス討伐戦①
2017/1107 本日1回目の更新です。
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近付くに連れて悪寒が強くなる。
「もう直ぐだ……」
「みんな――戦闘準備」
扇原の声にそれぞれが身構える。
慎重に、慎重に進んで行く。
すると通路の先に開けた場所があるのが見えた。
だが、視界は薄暗くモンスターの存在は確かめられない。
しかし目に見えずとも、気配察知のスキルを持つ俺の背には戦慄が走った。
「……――――来るぞっ!!!」
俺が叫んだのと同時に――巨大な黒い影が動いた。
ダダダダダダダ――と地面が揺れる。
「全員――放て!」
扇原の号令と共に、
「「「――雷撃!!」」」
「炎の矢(ファイアアロー!)!!」
俺を含めた4人――扇原、遠峯、九条で攻撃魔法を放った。
魔法の光が周囲を照らすと、モンスターの姿が明確になった。
鬼――と見紛うほどの体躯と形相。
だが、それは鬼ではない。
「み、みんな、聞いて! 鑑定スキルの結果を伝えるね!
ボスモンスターはホブゴブリン! ゴブリンの強化種!
レベル3――属性は土で、弱点は水属性!」
三枝が敵の情報を解析した。
予め、敵を見つけたら鑑定スキルを使うように指示しておいたのだ。
「了解だよ!
水属性の魔法は獲得できてない以上は、今ある選択肢の中で戦うよ!
レベル3の相手なら――油断しなければきっと勝てる!」
仲間たちを鼓舞する扇原。
ボスモンスターを前にしても気丈な姿勢を崩さない。
恐怖を感じていないはずはないが、自分が弱気な姿を見せることが、周囲の士気に関わることを理解しているのだろう。
だが、今まで戦ったどんな魔物よりも、強敵であることに違いはない。
その巨体から信じられないほど、俊敏な動きで俺たちに迫って来る。
「第二撃! 放って!!」
続けて魔法を放つ。
雷光と紅蓮の矢は間違いなくホブゴブリンを捉えた――かと思えば、
(……嘘だろっ!?)
直撃の瞬間、持っていた巨木のような棍棒で魔法をかき消した。
「波崎くん、鳳くん、お願い!」
「任せろ!」
「OK~」
身体のでかい波崎はともかく、鳳まで臆せず前に出た。
武器を持っている二人が前衛となり、中衛から俺たちが魔法攻撃。
無難ではあるが妥当な作戦だ。
「ふっ!!」
「くらえ!」
斧技能と剣技能を獲得したというだけあって、二人の動きは熟練の戦士のようだった。
ガタイのいい波崎が攻撃を受けながら、隙を付いて鳳が切りかかる。
続けて、
「九重さん、三枝さん! 続いて!」
「わかってる!」
「う、うん!」
さらに勇希と三枝が、持っている武器――棍棒とホーンラビットの角で攻撃を加える。
技能持ちの男子二人に比べれば、微小なダメージではあるが、それでも現戦力を最大限に利用した戦いだ。
まさかの攻撃に、ホブゴブリンの視界が勇希たちを捉える。
「四人とも、一旦離れて!!」
四人が距離を取った瞬間――俺たちは魔法を放った。
雷撃が直撃し、ボフゴブリンの身体を駆け上がるように稲妻が迸る。
続けて火花を散らす紅蓮の矢が、ボフゴブリンの身体を射貫いた。
「グアアアアアアアアッツ!?」
一撃一撃、確実にダメージとなっている。
それは傷ついていくボフゴブリンの姿を見れば明らかだった。
油断はできないが、数の優位が顕著に現れる光景だ。
「勝てるよ、みんな!」
本当に勝てるかもしれない。
戦う前に感じた圧倒的恐怖が薄まっていく。
希望が芽生えた。
だが、
――シュウウウウウウウウウ。
「ちょ、冗談っしょ!?」
「馬鹿な!? 再生している!?」
前衛で戦っていた二人が、驚愕からか声を上げた。
冗談のような話だが、ボフゴブリンの傷が再生していく。
「みんな、回復する隙を与えないで!
魔法による一斉攻撃の後、前衛はもう一度仕掛け――」
こんな状況でも、冷静に扇原の指示が飛んだ。
相手が自己回復するとはいえ、勝算はまだ十分にあった。
『5組の生徒が、2階層に繋がる『扉』を発見しました。
よって5組は第1階層攻略完了となります』
どこからともなく、システム音が俺たちに届いた。
(……ボス討伐じゃ……なかったのか?)
確かに今、攻略完了と聞こえた。
無理に戦闘する必要はなかった。
だが、戦闘は今も続いている。
今はこのボスモンスターを倒さなければ――俺たちが助かる道はない。
『今から5組に所属する生徒を2階層に強制転移します』
その声が聞こえた瞬間――5組、扇原たちの姿が、この場から消えていた。
「ぇ……?」
残されたのは、俺、勇希、三枝――5組ではない3人。
何が起こったのか、一瞬理解できなかった。
だが、
(……ハメられたのか?)
嘘だろ。
この状況で、扇原たちがいなくなったら――!?
「勇希、三枝――後退しろ!!」
俺は叫んで指示を出した。
二人は意識を取り戻したようにはっとすると、直ぐに俺の指示に従ってくれた。
呆然としている暇はない。
後悔している余裕もない。
「――炎の矢!!」
まだホブゴブリンの傷は癒えきっていない。
一気に畳掛けることが出来れば理想――だが、
(……ダメか)
再生速度が攻撃のダメージを上回る。
傷の回復を待つまでもなく、ホブゴブリンは後退する二人を追って疾駆する。
その脚力は速く、二人はあっという間に追いつかれてしまう。
「やめ――」
そこからの光景はスローモーションのように、ゆっくりと流れた。
ボフゴブリンが薙ぐように振った棍棒が、勇希に迫っていく。
あんなもので、殴られれば、勇希は――。
「炎の矢!!」
間一髪のところで、赤い閃光が棍棒を弾き飛ばした。
だが、まだ助かったわけじゃない。
醜くも鋭い双眸が俺を見つめる。
直ぐそこに死が迫っていた。
「勇希、三枝、お前らは逃げろ!」
三枝も逃がすのは、あくまで勇希を一人にしない為だ。
「逃げろって――ダメだよ!
約束したじゃない! 今度は一人で無茶しないって!」
「無茶しなくちゃここで全員死ぬ! 無駄話してる余裕はない!」
「で、でも、あたしたちが逃げたら、み、宮真くんが……」
「だからそんなこと話してる暇は――!?」
巨大な影が俺を覆う。
ボフゴブリンが俺に飛び掛かって来ていたのだ。
「っ!?」
油断した。
避けられない。
攻撃を受けることを覚悟した――が、この化物の丸太のような腕で殴られれば、致命傷に至る可能性すらある。
だが――バン――と、予想外の方向から俺の身体が押された。
(……勇希……!?)
思わず尻餠を付いたが、お陰で致命傷を避けることが出来た。
でも、
「ガアアッ!!」
「っぅ――!?」
すかさず第二撃。
強靭な肉体から振るわれた一撃が、勇希を襲った。
ゴギッ――と鈍い音が聞こえ、勇希の身体が通路の石壁に叩きつけられた。
力なく、勇希の身体が項垂れる。
「勇希……!?」
「っ……くっ……」
死んではいない。
だが、ダメージが大きいの目に見えて明らかだ。
続いてホブゴブリンは三枝に顔を向けた。
「ひっ……こ、来ないで……」
「おい――クソゴブ野郎!!」
怒声と共に放たれた赤い閃光がホブゴブリンの巨躯を貫く。
だが、ダメージはそれほどないのか、怯みすらせずにゆっくりとこっちを見る。
「テメェ、さっきから調子にのりやがってっ!!」
頭にきた。
今すぐにでも、こいつをぶっ殺してやりたい。
だが、怒れば俺の隠された力が解放されるなんて、そんなことがあるわけがない。
それでも俺は、心を怒りで震わせる。
すると怒りが、恐怖を打ち消していく。
「三枝! 勇希を連れて逃げてくれ」
「で、でも……」
「一生の頼みだ!
もし聞いてくれたら、俺はこの先――ずっとお前の力になると約束する! 絶対にだ」
勇希を助けるには、俺の犠牲――そして、三枝の助けが必要だ。
それでも三枝はもたもたしている。
苛立ちが募る。
「言うことを聞かないなら、お前に向かって炎の矢を撃つ!」
「そ、そんな……無茶苦茶じゃん!」
「脅しじゃない。約束も嘘じゃない。だから行け!!」
「っ――絶対、絶対死んじゃダメだからね!!」
勇希をなんとか背負い、三枝は駆け出す。
(……頼んだぞ、三枝)
俺はもう一度、炎の矢を放った。
ボフゴブリンはダメージなど気にもせず、敢えてくらいならこちらに突き進んでくる。
俺は逃げず、相手の動きを観察して身をかわした。
動きは素早い――だが、単調だ。
「当たらねえよ!」
クソ……武器があればよかった。
でも、武器技能を獲得していない俺じゃ、与えられるダメ―ジも低いか。
ダメージを与えても再生する。
扇原たちと協力して与えたダメージは既に完全回復していた。
「……クソクソクソ! 全部クソだ!」
扇原たち5組の奴らも、勇希を傷付けたこのクソゴブも!
この世の全て、何もかも最悪だ。
でも、一番馬鹿でクソなのは俺だ。
なんで扇原たちと協力関係を結ぼうとした?
裏切られる可能性を考慮しながら、なぜ最悪のケースを想定しなかった。
俺がしっかりしていれば、勇希を危険な目に合わせずに済んだのに――。
「ぐっ――」
振られた拳が俺の頬を霞めた。
それだけで頬が切れ、血が流れる。
勝てない。
人間よりも、モンスターは強い。
だから数で――協力して戦う必要がある。
だが、協力者じゃダメだ。
必要なのは仲間……?
違う、それじゃ裏切られるかもしれない。
なら――必要なのは支配。
恐怖による統制。
いや――違う。
人に頼るんじゃない。
一人でも、全てをねじ伏せるだけの力が俺にあれば――。
(……大切なものを一つくらいは、守れたのかもしれないのにな)
でも、もういい。
死ぬ覚悟はもう済んでいる。
後は、時間を稼ぐだけだ。
(……勇希。きっと生き残ってくれよ)
聞き届けてもらえるだろうか?
信じてもいないのに、そんな願いを俺は、神様に願ったんだ。
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