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子猫の推測

2017 1106 本日2回目の更新となります。

「……扇原、俺の話を聞いてたよな?」

「聞いていたからこその頼みだよ。

 もしこの先にいるのがボスモンスターなら、討伐すればこの階層を攻略クリアできるかもしれない」

「……もっと慎重になってもいいんじゃないか?

 俺たちだけじゃなく、お前のクラスメイトも危険に晒すことになるぞ?」

「あーしらは既に納得済みだから。

 こんなとこで、もたもたしてる暇ないっつーの」

「そうそう、おれらさっさとこんなとこ出たいんだよね。

 のんびりやってたら、おっさんになっちまうかもしれないだろ?」


 このダンジョンから生きて元の世界に戻ること。

 少なくとも、この場にいる5組の生徒たちの方針は完全に固まっているようだ。


「……可能性の話ではあるが、仮に10年かけてこのダンジョンを攻略できたとして。

 そこからの社会復帰が可能だと思うか?」

「あ……そ、そうだよね。

 ここを攻略するって言っても、どれだけ時間がかかるかもわかんないんだ……」


 遠峯の言葉に、三枝が反応した。

 ここから生きて元の世界に帰ったとしても、既に何十年も経過しまったら社会復帰など絶望的だろう。

 そもそも、俺たちの帰る場所が残っているかすらわからない。

 元の世界に帰りたい生徒たちからすると、残されている時間は少ないのかもしれない。


「わたしたちは、どれだけ時間を掛けたとしても2年以内に元の世界に帰りたい。

 だから、ボスの討伐に協力してほしいの!」

「……扇原さんたちの気持ちはすごくわかるよ。

 でも、もう少し色々な可能性を検討してみてもいいんじゃないかな?」


 扇原と勇希の意見が交錯する。

 だが、俺も勇希の意見に賛成だ。

 死ぬリスクが高い方法を取るべきではない。


「仮にボスを倒すことが階層の攻略条件だとしても、勝てる保証は――」

「勝算はあるよ」

「なに……?」


 俺の言葉を遮り、扇原は勝算を口にした。


「今からその理由を話すね。

 宮真くんだけじゃなく、みんなも聞いて!

 ボスモンスターが強敵なのは間違いないと思う。

 でも、ここは100ある階層のうちの1階層目。

 もし担任の目的がダンジョンを攻略させることになるのなら、生徒が全滅するような強敵と戦わせるとわたしは思えないの」


 だとすると、戦わない方法で攻略できるか。

 もしくは……。


「担任は、俺たちを皆殺しにするつもりかもしれないぞ?」

「だったら、最初からそうしてるんじゃないかな?

 こんな面倒なことをする意味がない。

 わたしたちの担任を名乗るあの着ぐるみたちは、何か目的があるはずだよ」


 俺自身はなんとかボスとの戦闘を避けるよう誘導したい。

 だが、その通りだとも納得してしまう。

 根拠は担任の発言だ。

 あの着ぐるみは、今回の【ゲーム】は自分が勝ちたい。

 そう言っていたのだから。

 何か目的があるのは明白――そして、扇原もそれがわかっているのだろう。


「つまり、ボスモンスターにも勝てる手段は用意されている可能性が高い。

 それと、ここを探索して気付いたことがあるの。

 このダンジョンは、生徒のレベル上げを制限しているみたい」

「レベル上げの制限?」


 俺の質問に頷くと、扇原は話し出した。 


「こうして話している間も、全くモンスターは現れないでしょ?

 いくらダンジョンの中が広くても、探索の魔物がいればもっと遭遇していてもおかしくない。

 それって、ダンジョンの中にいるモンスターが少なくなってきてるってことにならないかな?」

「つまり、この階層にいるモンスターには限りがあると?」

「そう! だからこそ、どんなに頑張ってもレベル上げには上限がある」


 あり得るかもしれない。

 これがゲームならモンスターは無限に出現する。

 だが、現実であるならば、モンスターも生物である以上、突然生まれるということはないはずだ。


「限られた数のモンスターを取り合って、わたしたちはレベルを上げる。

 でも、それでも上げられるレベルは大したことないと思う。

 多分、5レベルも行けばいいほうじゃないかな?」


 レベルアップするほどに、次のレベルへの到達は時間がかかることは既にわかっている。

 それは、モンスターによって得られる経験値が存在しているからかもしれない。


「もしこのフロアで上げられる個人のレベルが最大で5だと仮定する。

 わたしたち5組――ここにいる5人は今、レベル3になったところなんだ」

「……5人が3レベル?」


 となると、結構な数のモンスターを討伐しているのか?


「……ごめん。一つ秘密にしていたことがあるの」

「扇原、話すのか?」

「うん。協力関係になったからね。

 いいかな、みんな?」

「子猫がいいなら、あーしは構わないけど?」

「おれもOKだぜ。隠すようなことでもないと思うしな」

「俺も構わない」

「……わかった。リーダーは君だからな」


 5組全員の賛同を得てから、扇原は口を開いた。


「わたしは、オリジナルスキルを持っているの」

「オリジナルスキル……?」

「それは、スキルとは違うの?」


 三枝と勇希が首を捻った。

 俺はオリジナルスキルの存在を知っていた。

 だが、まさか扇原もオリジナルスキルを持っていたなんて……。

 その点に関しては驚いた。

 俺は敢えて考え込む振りをした後。


「……扇原だけが持つ、固有のスキルってことか?」

「うん。多分、全5クラスの生徒の中で、わたしだけが持っているスキルだと思う。

 スキル名は――オールエクスぺリメンツ。

 効果は、クラスメイトがモンスターを討伐した際、全クラスメイトが経験値を等倍で獲得」

「だから、全員が同じレベルなわけか」

「黙っていてごめんね。でも、これで隠し事はなし」

「……全員が経験値を獲得、か。すごいスキルだな……」


 5組の生徒たちがやけに統制が取れている……というか、仲がいいのは扇原の人柄もあるが、彼女の持つのスキルも関係しているのかもな。

 誰かのリクスで自分にメリットが生まれるのなら、無理に生徒同士で争い合う必要はない。

 その努力を、クラスのリーダー自らが引き受けてくれるとなれば尚更だ。

 正にクラスメイトたちにとって、必要な人材リーダーといったところか。


「本当にモンスターがいるのかは半信半疑だったけど……実際に戦闘も体験しちゃったわけで……このオリジナルスキルのありがたさは実感してる。

 同時に経験値の存在も知れた。

 モンスターを倒して経験値を得ることで、わたしたちのレベルが上がる。

 でも、もし階層内にモンスターが無限に存在するのだとしたら、このスキルはあまりにも優位過ぎると思うんだ。

 それに、ここでレベルを上げすぎたら、次の階層の攻略が簡単になりすぎて競争が成立しなくなってしまうかもしれない」


 担任はこのダンジョン攻略を競争と言った。

 だが、もし無限にモンスターが生まれるのなら、扇原のいる5組はあまりにも優位すぎる。

 手分けしてモンスターを討伐していけば、経験値獲得効率は何十倍にも高まるのだから。

 このダンジョン攻略が、担任たちにとっての競争でもあるならば、一つのクラスだけを優位にするはずがない。

 優れた人材がたまたまたいた……ということなのかもしれないが……。


「モンスターが限られた数……と仮定するのはいい。

 だが、ボスに対する勝率とは全く関係ない話だろ?」

「関係はあるよ。

 決められた数のモンスターしかいないなら、上げられるレベルも決まってる。

 つまり――ボスモンスターはそのレベル内で討伐可能な敵ということになるんじゃないかな?」


 ボスの討伐が階層の攻略条件であるのなら、理屈の通った考えだ。


「それと、ちょっと話は変わるけど、食料の問題が気になったの」

「僕たち5組で話し合った時に出た議題の一つが食料問題だったんだ」

「後さ~、お風呂とかも今のままじゃないわけでしょ? マジで最悪」

「そうそう、しかもトイレもないわけじゃん?」

「現状では、俺たち人間がまともに生活を営む環境がないんだ」


 食料の事以外は些細な問題……と俺は思うが、確かに生きていく為の最低限の環境すらないのは事実か。


「でね、考えたのはポイントのこと。

 ダンジョンを攻略した順番で特別ポイントが貰える。

 このポイントはもしかしたら、食料や生活用品に関係してるんじゃないかな?」

「……なるほど。

 ここで生き抜く上で、ポイントを獲得することは重要になってくる……と」

「推測でしかないけど、わたしはそう考えてる」


 だからこそ、ボスの討伐を急ぎたい……というわけか。

 目の前にボスがいて、それがダンジョンの攻略条件であるのなら、今ならトップでクリアできる可能性が高いと。


「正直に言うとね。

 5組のみんなで協力してボスを討伐することが、一番理想的だとは思ってるよ

 でも、戦いたくない子たちに強制してもいい結果は生まないと思うんだ。

 それよりは、実際に戦った経験のある人たちで――協力した方がいい。

 ここにいる8人で協力すれば、倒せる可能性は高い。

 もし厳しそうなら……その時は――全力で逃げよう!」


 そのぶっちゃけた発言に、俺は思わずずっこけそうになった。

 賢い奴なのだと思ったが、そこは考えなしか。

 だが……もたもたしている余裕がないのも事実か……。

 モンスターが限られている可能性は高い。

 そうなると、モンスターから食料を得る事すら出来なくなるということだ。

 ポイントの使い道にしても――担任は色々な事が出来る。と言っていた。

 だとしたら、それで食料を得られるかもしれない。


(……扇原と協力関係を結べたのは、大きかったかもしれないな)


 多くの情報を得られたのは大きい。

 そう思ったのと同時に、俺の中で取るべき行動は決まった。


「勇希と三枝はどうだ?」

「ボスと戦うのは怖いけど……わたしは協力して、戦うべきだと思う。

 みんなを助ける為にも……!」


 みんなの為……か。

 自分の為に行動してほしいというのが正直なところではあるが……。

 それに、勇希のレベルは1である以上、無理はさせられない。

 出来るなら戦闘から外れて欲しいが、一人にするリスクも高い。

 なら、一緒に行動していくべきか。


「あ、あたしは、どうしたらいいかは、まだわかんないけど……。

 でも、宮真くんと一緒に行くよ」


 三枝は、自らの意志を示さない。

 あくまで俺に決定権を委ねるという決定をする。

 自ら選択することを怖がっているかのようだった。

 過去のイジメの経験が、今の臆病な彼女を形成しているのかもしれない。

 いつか彼女は、変わることが出来るのだろうか?


「……わかった。扇原――俺たちもボス討伐に協力する。

 ただし、危険だと判断したら直ぐに逃げる。

 それだけは約束してくれ」

「勿論! わたしも死にたがりじゃないから。

 ありがとう、みんな! それじゃあ――行こう!」


 そして俺たちは、ボスモンスターと推測される気配に向かい進んだ。

 いざとなれば――誰を犠牲にしても勇希だけでも逃がす。

 その覚悟だけを決めて。




            ※

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