協力関係
2017 1106 本日1回目の更新です。
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「そっかそっか~。宮真君が1組で、三枝さんが2組なんだね。
うちらはみんな、1年5組だよ」
出会った生徒たちと軽く自己紹介。
この明朗快活――という言葉が似あう少女は、扇原子猫というそうだ。
この愛想の良さは猫より犬という感じだ。
名は対を表すという言葉は嘘なのかもしれない。
「他のクラスの状況も知りたかった。
1組だけでなく、2組の生徒と会えたのは助かるな」
このクールで理知的な男は遠峯修吾。
眼鏡が似合っているイケメンだ。
どうやら、5組はこの二人がまとめているらしい。
容姿、性格ともに見るからにヒエラルキー上位層だ。
「でもさ~、なんでそんな少人数で行動してたんだよ?」
このちゃらいのは鳳瞬。
「明らかに危なそうだもんな。
リスク高すぎだろ」
見るからに難いが良く、スポーツでもやってそうな波崎功
「瞬って男なのに臆病だよね~。
ま、あ~しも一人じゃ絶対探索なんてしないけどね」
ギャルの女王みたいのは九条秋葉。
扇原たち5組の面々は、この5人パーティで行動していたようだ。
「九重さんが、ダンジョンに一人でいるのを見つけた時は、本当に驚いたぞ」
「あはは、私は一人で教室を出ちゃったから……」
「そうだね。ちょっと無謀過ぎるよ。
クラスメイトたちと協力すべきだったと思う」
理想論だ。
他人を助ける為に、自らを危険に晒せる者などいない。
実際、誰も九重を追いかけようとはしなかった。
そもそも会ったばかりのクラスメイトが、団結することなど不可能だと思うだが……。
「今の口振りだと、5組は団結できたってことか?」
「あ~えっと、正直に言うと、一致団結は出来なかったよ。
怖がっちゃってる生徒も多かったから、そういう子には無理強いさせられない。
でも、このまま教室に居ても、何も解決しないって考える生徒たちもいた。
流石に大人数で行動することはリスクもあるって思ったから、メンバー10人を、5人ずつで2つのパーティに分けて探索してみることにしたの」
扇原は平和主義。
且つ行動的な人物のようだ。
出会ったばかりで判断はできないが、理想的なリーダーと言えるかもしれない。
5組に所属された生徒はかなり恵まれたな。
どんな人物がクラスにいるかで、ダンジョンの探索にもかなり差が出そうだ。
1組、2組と比べ、5組が優勢なのは見るからに明らかだった。
「後は3組や4組とも情報交換できればいいんだがな」
「そうだね。他のクラスの無事も確かめられるといいんだけど……」
扇原が表情を暗くした。
もしかしたら、犠牲者が出ている可能性を考えているのかもしれない。
「ねぇ、三枝さん。2組はどんな感じなの? みんなちゃんと無事なのかな?」
「え、えと……2組は……」
三枝は言い辛そうだ。
自分が虐められて、クラスを追い出されたという話などしたくはないだろう。
「2組の生徒も無事のようだ。
だが三枝は、様子を見る為に教室を出た途端、罠に引っかかったらしい」
「そ、そうそう!
そした、あたし別のフロアにワープしちゃったみたいで……」
「罠だと? ダンジョンには罠が仕掛けられているのか?」
「ワープとかマジ? うわっ、こわ~!」
「ちょ、あ~しも怖いんだけど。子猫~、何か対策ってないの?」
「絶対とは言い切れないけど。
罠らしき物が目に見えているのなら、鑑定スキルで対策できるんじゃないかな?
トラップの解除はできなくても、それが罠なのかはわかると思うよ」
5組は魔法やスキルの存在、その使い方を明確に理解しているようだ。
「そっか、対策できるんなら安心じゃん。
さっすが子猫!」
「えへん!」
扇原はワザとらしく胸を張る。
ギャルの女王タイプである九条も、扇原のことは随分と信頼しているようだ。
「でも、罠があるっていうのは有益な情報だね。
ありがとう。宮真くん、三枝さん」
扇原は人懐っこい笑みで、俺たちに感謝した。
基本的に人嫌いな俺ですら、彼女にはなんとなく惹かれる感じがある。
こういうのをカリスマというのかもしれない。
「可能な限り情報は共有した方がいいだろうからな」
「うん、あたしもそう思うから」
「そう言ってくれると助かるよ。二人は他に聞きたいことってある?
わたしたちの、わかることで良ければ答えるよ?」
わかること……か。
どこまで包み隠さずに答えてくれるかはわからないが、気になることは沢山あった。
「これだけ広大なダンジョンの中で、迷ったりしなかった?」
「似たような通路ばっかりで、わかんなくなっちゃうよね。
だからわたしたちは……通った通路に、こうやって印を付けてきたの」
そういうと、持っていた赤いペンで壁に適当な印をしてみせた。
落書きの下には進行方向なのか矢印を書いている。
(……なるほど)
マッピングスキルは持ってないわけか。
やはり、人によって獲得できるスキルに差があるようだ。
しかし三枝のマッピングは、オリジナルスキル扱いではないはずだ。
マッピングスキルを獲得できる人材は限られた者のみ……ということだろうか?
「マップを作るのがベストではあるが。
これだけ通路が複雑だと、正確な地図を作るのには時間がかかりそうだ。
現状の対策案として採用している」
「だね。他にいい方法があれば、そっちに変えるつもり。
今、わたしたちが探索に出たのも様子見って感じだから」
「教室まで位置は把握できてるのか?」
「うん、大丈夫だよ。
教室を出てからは、基本的には真っ直ぐ。
行き止まりだったら右の通路に進んでるの、だから帰る場合は戻るだけ」
そこまで徹底しているのか。
余裕を持って探索してきた証拠だな。
「ここに来るまでに、モンスターと遭遇したか?」
「うん、襲われた。
わたしたちが戦ったのは、スライムとホーンラビット。
実はね、ここに来るまでに宝箱を2つ見つけたの。
それで敵と戦う前に武器が手に入ったから、なんとか倒すことが出来たよ」
単純な運の差だが、宝箱を見つけられたのは大きいな。
「……ちなみに手に入った武器は二つ。
遠峯くん、波崎くん、見せてあげて」
「了解した」
「ああ」
二人が武器を召喚する。
遠峯が片手剣で、波崎が両手斧だ。
「モンスターを倒した時にレベルアップしたから、装備に合わせて遠峯くんには剣技能を、波崎くんには斧技能を獲得してもらってる」
「スキルの効果はどうだ?」
「驚くべきものだった。
獲得した途端、剣士としての知識や技術が身に付いてしまった」
実際にスキルを獲得してみたことで、遠峯はその凄まじさを実感したようだった。
事実、俺も魔法やスキルの効果に助けられた。
いや……それがなければとっくに死んでいたはずだ。
「おれらって、マジで異世界? に来ちゃったのかね?」
「今も信じらんないけど、魔法なんて使えちゃう以上はね」
軽い感じで話しているが、鳳と九条も不安はあるのだろう。
二人の表情に影が落ちていた。
「勇希、1組はあれからどうなったんだ?」
「ごめん、わからない……。
私は教室に戻って大翔くんを追いかけちゃったから……。
その後、ダンジョンの中で迷っていたところで扇原さんたちと会ったんだ」
「あ、あのな……もう少し計画的に行動してくれよ」
「ちゃんと反省してるよ。
あの時は大翔くんを助けたくて、それしか考えられなくなっちゃったから……」
……そう言われると、こっちとしては強く言い返せない。
「モンスターとの戦闘はしたのか?」
「ううん。
モンスターと会ったのは、大翔くんが駆け付けて来てくれたあの時だけだよ」
危険がなかったのなら何よりだが、そうなると勇希のレベルは1のままか。
無理に戦闘はしてほしくはないが、敵に襲われた時が危険だ。
「……何か武器は持ってるか?」
「ごめん、アイテムも見つけられなかったよ……」
「それなら、これを受け取ってくれないか?
念の為の護身用だ」
俺は持っていた棍棒を渡そうとした。
「……でも、それを受け取っちゃったら大翔くんはどうするの?」
「俺は魔法で攻撃できるからな。それに他の武器もちゃんと持ってる」
「そうなの?」
「ああ」
三枝が『あれ?』という顔を俺に向けた。
俺が嘘を吐いたのがわかったらしい。
だが、こうでも言わなければ勇希は武器を受け取ってはくれないだろう。
「……わかった。
じゃあ、ありがたく借りさせてもらうね!
これでモンスターがきたら、やっつけちゃうから!」
「出来る限り、危険なことはしないでくれ」
あくまで護身用だ。
これ以上、勇希を危険な目に合わせるつもりはない。
こうして人数も揃った。
後は扇原たちと上手く協力関係を結べれば……
「扇原……頼みがある」
「何かな?」
「このダンジョンを……いや、この階層を攻略するまででもいい。
協力関係を結べないか?」
「それは……1組とって意味じゃなくて、宮真くん自身とってこと?」
察しが早い。
「そうだ。
正確には俺、勇希、それと三枝との協力関係だ」
言って俺は勇希と三枝を見た。
二人も俺を見て頷く。
協力関係を結ぶことに二人も賛成のようだ。
やはり扇原は頭がいい。
となれば、協力関係を結べ為に、何かしらのメリットを用意する必要があるだろうか
「わかった、協力しよう」
「え……マジか?」
即答だった。
「意外そうだね?
協力し合うメリットは大きいでしょ?」
「ああ……」
だが、協力することにはデメリットもある。
担任はこのダンジョン攻略を競争と言っていた。
そして成績順に特別ポイントなどのボーナスがあると。
扇原や遠峯に関してそれを忘れているということはないだろう。
まさか説明を受けていない?
「もしかして、着ぐるみが言ってた他のクラスとの競争って点を気にしてる?」
「……その通りだ」
「競争……って、なにそれ?」
三枝……お前、それも知らなかったのか。
「各クラスで、ダンジョン攻略の速さを競わせているらしい。
攻略した順番によって、報酬も用意されているそうだ」
「……ねぇ、宮真くん。
ダンジョンの攻略条件ってなんだと思う?」
真面目な顔で、扇原は聞いてきた。
彼女も気になっていたようだが、俺もダンジョン攻略の条件についてはいくつか考えていた。
「……競争ってことは、次の階層に進む道を見つけ出す……とかか?」
「わたしもその可能性が高いと思う。
でも、攻略条件が一つとは限らないとも思ってるんだ」
担任を名乗る着ぐるみからは、攻略条件の説明は何一つなかった。
だからこそ、複数の可能性を考えるのは当然だ。
そして――俺はもう一つ、ある攻略条件の存在を考えていた。
「……このダンジョンにはボスとなるモンスターがいるかもしれない」
「ボス……?」
あの時感じた悪寒を感じるほどの強烈な気配を思い出す。
「なるほど……。
宮真くんはそのボスを倒すことが、攻略条件である可能性を考えてるんだね」
「……あくまで、可能性の一つとしてだけどな」
「ダンジョンに、モンスター……となれば、ボスがいてもおかしくはない。
でも、宮真くんがそう思った根拠はあるの?」
俺は振り返り、通路の先を指し示す。
「この通路の先に……明らかに別格の魔物がいる」
「別格の魔物? それは実際に戦ったのか?」
「いや、戦ったわけじゃない。気配……で、そう感じた」
「……そっか、気配察知のスキルだね」
遠峯に質問されたが、俺が返事をするまでもなく、扇原が答えてくれた。
お陰で、俺は頷き肯定するだけですんだ。
「ボスの可能性がある敵が、この先にいるんだね……」
「ああ、だからこの先には進むべきじゃない」
「……そっか。
情報提供、ありがとね!
さっきの話だけど、協力関係は成立ってことでいいんだよね?」
扇原から念を押して聞かれた。
こちらの心を見透かすように。
俺は扇原たちのことを、完全に信用しているわけじゃない。
いくら人が良さそうでも、いざとなれば俺たちを切り捨てる可能性だってある。
そのリスクを想定した上で、俺は敢えて本心を伝えることにした。
「ああ。
生き残る為には、必ず協力者が必要だ」
俺の言葉に嘘はない。
望むのは『俺と勇希』が生き残る為の協力関係。
勿論、それを言葉にして伝えるつもりはないが 賢い扇原のことだ、互いに存在するメリットとデメリットは認識しているだろう。
「わかった。
協力の具体的な条件は後で決めるとして、わたしたち5組の目標は二つ。
一つ目は絶対に生き残ること。
二つ目は元の世界に絶対に帰ること。
これには賛同してもらえる?」
「もちろんだ。
勇希も、三枝も、問題ないか?」
「うん! みんなで頑張ろうね!」
「あ、あたしも、大丈夫!
「了解。じゃあ協力関係はこれで成立!」
扇原が手を差し出し、俺も迷わずその手を取った。
表面上は友好的な関係――ではあるが、彼女たちの動向は油断せずに確認していく必要があるだろう。
協力関係とはいっても、仮にこの場で人間同士で戦闘になれば、数が多い彼女たちが有利だしな。
まぁ、流石にこの状況で人間同士で争うほど、5組の連中は愚かではなさそうだが……。
「それでね。
早速で悪いんだけど、協力してほしいことがあるの。
結論は話を聞いてからで構わないから」
協力の約束をした直後に……か?
変に勘ぐってしまう。
「勿論、話は聞かせてもらう」
「ありがとう。
この先にいるモンスター――その討伐を手伝ってくれないかな?」
「は……?」
それは、あまりにも想定外の頼みだった。




