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安全圏を目指して

「覚えられる中で、魔力2で使える魔法はあるか?」

「……え~と……属性付与エンチャントっていうのがあるよ」

「エンチャント?」


 それも、現状では俺が獲得が出来ない魔法だった。


「火、水、風、土、闇、光の6つの属性を様々なものに付与できるって。

 それと、持続時間が短いって書いてあるよ」

「でも、消費魔力は2なんだよな?」

「そうみたい。

 獲得マジックポイントは10だって」


 10も使うのか。

 全ての魔法やスキルが5ポイントで獲得できるわけじゃないらしい。

 魔法、雷撃ライトニングボルトのように、5ポイントの魔法を二つ獲得するというのもありだと思うが……。


(……三枝の現在魔力は2なんだよな)


 1レベルアップで1しか増えていない。

 どこかでグッと伸びるかもしれないし、暫くは様子を見てもいいのか?

 でも、獲得する為のポイント量が多いという事は、強力な魔法という可能性もある。

 次にどんなモンスターと遭遇するかもわからない以上、現状を生き抜く……という意味では――。


「三枝がいいなら、獲得してみてくれ」

「OK。じゃあエンチャントを獲得するね!」


 三枝は迷いなく属性付与エンチャントを獲得してくれた。

 俺の言った通りになんでもやってくれるのはありがたいが……こいつの人任せな感じは、一緒にいて不安になるな。


「これで、魔法とスキルは取り終わったよ」

「了解。それじゃ先に進もう。

 マッピングの効果も確かめたいからな」

「そうだね。

 マップを表示できるらしいけど……あ、出たよ、宮真くん」


 宙に浮かぶタブレットのような四角い画面が、俺の視界にも映った。

 三枝がスキルを獲得したことで、その恩恵を俺も受けられるようだ。

 このマッピングのように、仲間の誰かが獲得することで周囲にも影響を与えるスキルがあるのだろうか?


「……白くなってることろが、俺たちが通った場所ってことなんだろうな」

「そうみたい。この黒い点二つは、あたしたちだよね」

「動いてみればわかるだろ」


 歩いてみると、それと連動して黒い点も動き出した。


「凄い! 宮真くん、これ超便利だね!」

「ああ……だが、少し気になるな……」


 表示されたマップには違和感がある。

 画面の黒い部分はまだ到達していないフロアなのに対して、白い部分は通路やフロアの形を作っている。

 つまり既に通ったフロアということなのだが。


「現在地がここなのに、なんでこんな離れた場所までマッピングされてるんだ?」

「……そういえば、そうだよね。

 まるでワープしちゃったみたいに……」

「ワープ?」

「ごめん。こんなこと言ったら、また馬鹿って言われちゃうよね」


 気にしてたのか。


「ワープっていうのは、ありえない話じゃないかもな」

「え……?」

「三枝は教室を出た時に扉が消えたって言ったろ?」

「うん」

「それって、三枝が教室を出て直ぐに、罠に引っかかったって可能性はないか?」

「え……? じゃあ、教室の扉が消えたって感じたのは、あたしが罠にかかってワープしちゃったからら?」

「そういう可能性もあるかもって話だけどな」


 このマップを見た感じだと、そんな風に感じる。

 罠の存在を考えていなかったが、それに気付けただけでも大きい成果だ。


(……三枝が罠にかかり転移ワープしたのだとしたら。

 この離れてマッピングされている位置に、2組の教室があるかもしれないのか)


 本人は気付いているのだろうか?

 伝えておくべきか?

 だが、そうなれば2組の教室を目指そうと言うかもしれない。

 俺は自分の教室に戻りたいが……このマップからでは、1組の教室がどこにあるのかはわからなかった。

 表示されているマップは、スキル所持者である三枝が通った場所のみしかマッピングされていないのだ。

 がむしゃらに進んでも、1組に戻れる保証はない。

 なら――。


「三枝。この離れてマッピングされている場所。

 多分ここには、お前の教室がある。

 だから、今から向かってみないか?」

「え……あ、あたしの、教室に……」


 なんだ?

 今まで通り、俺の意見に賛同するのかと思ったが、三枝は表情を暗くする。


「もしかして、戻りたくないのか?」

「……うん。あんなところ、戻りたくない」


 今まで俺の言葉に従ってきた三枝が、初めて自分の意志を見せた。


「何があった?」

「……あたし……追い出されたんだ。

 外の様子を見て来い。何かわかるまで戻ってくるなって、無理強いされて。

 勿論、イヤだって言ったよ。一人でなんて、怖かったもん。

 だけど、あたしの叫びなんてクラスの誰も聞いてくれなかった。

 それで教室を追い出されて……」


 三枝は重々しい表情で口を開く。

 つまり彼女は……イジメにあってしまったのだろう。

 入学式が終わったばかりの、人間関係が大して構築されていない状態で、そんなことになっているなんて……。

 いや、この緊急事態に他者を生贄にというのは、人間の生存本能からすると自然なものかもしれない。


「モンスターに襲われてたところを、宮真くんに助けられた」

「……それがお前が一人でダンジョンにいた理由か」

「うん。入学したばっかりの高校で、早速イジメにあっちゃうなんてね。

 そういう運命なのかな。高校デビューする為に、見た目とかも色々と気を遣ったんだけど無駄になっちゃった」


 高校デビューって……。


「もしかして、ちょっとギャルっぽいのはそのせいか?」

「……似合ってないよね。

 あはは……おかしいなぁ、わかってたんだけど」


 三枝は悲しそうに笑った。

 もしかしたら、過去にも色々あったのかもしれない。

 いや……ないわけがないか。

 俺たちはもう、15年も生きてるんだ。

 たった15年……そう思う奴もいるかもしれないけど、そいつなりの苦労なんて色々ある。

 俺だって同じだ……。


「似合ってるとかは、好みの問題もあるんだろうけどさ。

 三枝は、頑張ったんだな」

「っ……」

「変わろうとしたってことだろ?

 人が変わるって、大変なことだもんな。

 それでも行動した、一歩踏み出そうとした。

 だから、その努力を俺は笑うことは出来ない」


 それは――過去に変わろうとした俺自身を、否定することになるから。


「……宮真くん……あはは、なんだかごめんね。

 でも、ありがとう。

 よし! ――しめっぽい話はもう終わり!」

「そうだな。

 とりあえず、通路を進むか」

「――ごめん、やっぱりあたしのクラスを目指そう」

「いいのか?」

「あたしの我儘で、宮真くんにこれ以上は迷惑を掛けたくないもん。

 それに……助かる可能性が一番高いんだもんね」

「……ああ、今のところ生存率という意味では一番可能性が高いと思う」


 宛もなく進むというのは、体力だけでなく精神も疲弊させる。


「進んで行く上で、先に別のクラスの扉を見つけたらそこに入ろう。

 安全な状況で今後の対策を考えられるからな」

「わかった。ごめんね、宮真くん。気を遣わせちゃて。それとありがとう」


 感謝されるようなことじゃない。

 全部、自分の為の提案だ。

 俺は別に2組の教室に行きたいわけじゃない。

 安全圏に逃れられればそれでいい。

 できれば他の生徒とも、情報共有をしておきたい。

 俺たち以外に、今ダンジョンを探索している生徒はいるのだろうか?

 探索中に誰かと会えればいいのだが……。


「それじゃあ行くか」

「うん!」


 そして俺たちは、三枝のクラス――1年2組のある方角を目指し歩き出した。

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こちらが書籍版です。
『ダンジョン・スクールデスゲーム』
もしよろしければ、ご一読ください。
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