いじめられっ子とヒーローと、あの日にした約束と。
第1巻発売中です! 第2巻3月7日発売予定!
第2巻は7割書き下ろしでWEB版よりも遥かに面白くなったと自負しています!
もしお気に入りいただけましたら是非、ご一読ください。
幼稚園、小学校と、俺はいじめを受けていた。
身体も小さく、気も弱い。
そんな俺が、いじめの標的になるのは必然だったのだろう。
子供というのは正直で、それが恐ろしいくらいに残酷だ。
気に入らなければ直ぐに殴ってくるし、悪口だって当然のように連呼する。
抵抗すれば面白がられ、暴力が過熱する。
辛くて悲しくて、たまらなかった。
助けて……と救いを求め、手を伸ばす日々。
でも、縋れる希望はない。
俺のその手を取ってくれる人など、誰もいない。
気付けば、自分の世界が暗く、黒く、染まっていた。
そんな日々が続く中、
「や、やめなよ!」
突然、光が差し込んだ。
「は? なんだよおまえ?」
「おんなはあっちいってろよ!」
「い、いかないもん!」
女の子だった。
たった一人で、子供とは数人の男の子に立ち向かっている。
怖くないわけがない。
だって少女は震えていたのだから。
「おまえも、なぐられたいのかよ?」
「っ!?」
女の子が殴られる。
俺を助けようとしてくれたせいで、そんなことになるのはいやだった。
そんなのは許せなかった――だから、もう消えかかっていた勇気を、振り絞った。
「う、うあああああっ!」
「うあっ!?
な、なんだこいつ!」
そしてこの日は、俺ははじめて人を殴るという経験をした。
でも――初めての喧嘩の結果はボコボコにされて終わった。
「だ、だいじょうぶ?」
「……だいじょうぶじゃない」
泣きそうになるのを必死に堪えた。
この子の前で、涙を見せたくなかったのだ。
「……つよいんだね」
「ぼくは、つよくなんてない」
「でも、わたしをまもってくれたもん」
女の子が、俺に微笑んで、手を差し伸べてくれた。
「っ……」
その時、必死に堪えていたはずの涙が、ボロボロと流れて、止まらなくなってしまった。
「え? だ、だいじょうぶ?
たたかれたとこ、いたいの?」
「……いたいよ……でも、いたいから、ないてるんじゃない」
本当はありがとうって伝えたかった。
でも、涙で声が出なかった。
この時、俺がどれだけ救われたか。
手を差し伸べてくれたことが、どれだけ嬉しかったか。
伝えたいのに、伝えられなかった。
だけど、この日の事を俺は一生忘れない。
生まれて初めて俺に手を差し伸べてくれた――たった一人の友達との出会いだったのだから。
※
あの日から俺――宮真大翔と、彼女――九重勇希は友達になった。
「ヤマトちゃん、大丈夫?
なにかあったら、すぐにわたしをよんでね」
口にしたことはなかったけど、俺にとってこの小さな女の子はヒーローだった。
俺が困ってる時には、正義の味方のように、必ず助けに来てくれる。
勇希は決して強くはない。
でも、相手に立ち向かえる勇気があった。
俺にないものをいっぱい持っていて、憧れのような存在だった。
相変わらず虐められるし、辛いことも多いけど、勇希と友達になってからは楽しいと思える時間が出来たし、勇希と一緒なら、どんな困難も立ち向かえると思っていた。
だけど――友達との別れは、突然やってきた。
「……ぼくのうち、おひっこししないといけないんだって……」
親の離婚で俺は母方の実家に住むことになったのだ。
この土地や学校に思い入れなどなかった。
でも、勇希と会えなくなることだけは、心の底から寂しかった。
「ぐすっ……うううっ」
この時は虐められているわけでもないのに、泣いてしまった。
そんな俺に、
「ヤマトちゃん、泣かないで。
もしこまったことがあったら、いつでもわたしをよんで!
どこにいたって、すぐにかけつけるんだから!」
涙をいっぱい瞳に溜めながら、少女は言った。
泣きたいのを必死に堪えていた。
俺との別れを、悲しんでくれていた。
ああ、そうか。
ヒーローだからって、泣かないわけじゃない。
辛いときはあるし、悲しいときだってある。
そんな【当たり前】のことに、俺はようやく気付いたんだ。
勇希にだって、守ってあげられる誰かが必要なんだって。
だから、
「……ユウキちゃん、ごめん。
ぼく、もうなかないよ。
だいじょうぶだから」
俺の心の中に一つの決意が芽生えていた。
「ぼく、つよくなる。
いまは、まもってもらってばっかりだけど。
いつかユウキちゃんをまもってあげられるくらいつよくなるから!」
少女は俺にとって、間違いなくヒーローだったけど。
同時に、守ってあげたい一人の女の子になっていたんだ。
そして、勇希は零れ落ちる涙を拭って微笑んでくれた。
「――ヤマトちゃん、ありがとう。
じゃあ、やくそく、だね!」
「うん!」
俺たちは指切りを交わし誓い合った。
この日から、俺は泣くことはなくなり――ヒーローとお別れをしてから、数年の時が過ぎ去った。