ちゅーとりある
本編やけど短いです。
「どうなっとんやこれ…」
化け物のような大きさの貝と、宙に浮き人の言葉を話す魚。そして戸惑う半袖制服の高校生。そんな彼に
「大丈夫、こいつはまだキミを襲いはしない」
と声をかけたのは浮いてる魚。そして
「だから今のうちにこの状況を説明してあげようと思うのだけど、どうだい」
と少年に提案する。
「え…ん、お願いします…」
少年はうんと頷いた。頷くことしか出来ない状況であった。
「じゃあ説明しよう、一桝功太くん。ここはまずキミの元いた世界ではない。異世界だ」
「…?」
あまりの突拍子のなさに少年、一枡功太の頭は一瞬停止した。だがお構いなく魚は続ける。
「この世界は悪魔の跋扈する世界。悪魔たちは人間をさらい、喰らい、蹂躙し、村や町を破壊する。英雄を望む人々。その願いにこたえて、ボクがキミを世界を救う英雄として召喚したわけさ」
一枡はさらに困惑した。
「…な、なんで俺の名前を…悪魔?英雄?召喚?異世界?!だあーっ、もう訳わからん!」
頭を抱えてしゃがみこむ一枡。
「えーと、ひとつずつ整理してっていい?まずここは…日本じゃないんか?」
「うん」
「あ、わかった。夢やろこれ。ものごっついリアルで、頬つねっても…痛いタイプの夢やな」
「そんなことを言ったら、君の今までの人生が全て夢ではないと断言できるかい?」
「急に難しいこというなや!」
地面に突っ伏すようかのようにさらに一枡はしゃがみこんだ。
「まあ、それに関しては今は信じてもらえなくてもいい。信じる信じない関係なしに、この悪魔は君を殺すだろう」
魚の言葉に、一枡は、えっ、というような表情の顔をあげた。そしてそろそろと立ち上がりながら巨大アンモナイトからさらに距離をとる。
「こいつ…やっぱ動くの」
「ああ、動くよ。でもとろいし、馬鹿だから単体じゃ脅威でもなんでもない。その馬鹿さ加減といったら、君を食おうとしたところにボクが現れただけで処理が追い付かなくなってこんな風に停止してしまうぐらいさ」
「なんや、びびる必要ないんか。ほんだらとっとと逃げればええんや」
緊張で張っていた肩の筋の力が抜け、一枡はふう、と脱力し、踵を返して歩き出そうとした。その背中に
「でも逃げたら君は確実に死ぬだろうね」
と投げかけられた魚の言葉が、一枡を振り返らせる。
「…なんかあるんか」
「こいつには実は厄介な特性があってね。自分ひとりで捕まえられないとわかるや否や仲間を呼ぶんだ。その包囲陣形は素晴らしいものでね。絶対に逃げることはできない」
「えーとじゃあ、もし出くわしたら…」
「殺すか、諦めて自ら命を絶つか。逃げるという選択肢はあり得ないね」
一桝は巨大な貝の化け物に目をやった。人間の骨など一振りで簡単に砕いてしまいそうな太い触手。その下に隠れているであろう巨大な口。飲み込まれる自分を想像し、自然に冷や汗が流れる。
「…魚さん、生き残る手段はあるんやろ」
「もちろん」
「なら早よしてくれ。もう説明は後でええから」
すっと宙を飛んできた魚が一桝の前で停止する。
「右手を出して」
促されるまま、一桝は右手を魚に向かって突き出す。一桝の右手を前にして…魚はいきなりそれに噛み付いた。それからはあっという間の出来事だった。肘のあたりまで腕を飲み込んだその魚は自らの体を変化させる。ボディーは角ばった形状へと変形し、尻尾や尾びれはひとつの刃になった。変形したそれはまるで「チェーンソー」。そして変形と同時に、大きな顎に並んだ鋭い歯の刺さった皮膚から赤いウロコが生え始め、腕をどんどん覆っていく。それは首を這い上がり頰までに及んだ。
一連の「合体」と「変形」に要した時間。0.05秒。一桝はぽかんとして自分の右腕を見つめる。そんな彼に「チェーンソー」と化した魚は
「驚いているところ悪いけれど、現実を認識している余裕はキミにはない」
と、ぎょろ目で貝の悪魔を指し示す。一枡は目をそれに向けた。貝の悪魔はまさに、ぱたん、ぱたん、と地面を触手ではたきながら、地面を滑るようにゆっくりと一枡に近づき、喰らわんとしている。
右手、貝の悪魔。
「信じられん。展開も強引や…説明も少ないし、理不尽すぎる…やけど」
はあ、と一つ溜息をつき、左の頬をぱんぱんと叩く。そして、腹にふっと力を込め、足を開き、正面の「敵」を正面に捕らえる。
「やけど、生き残るためには全力尽くさせてもらうわ。これが夢であろうと手を抜く理由は無い!」
ぎゃいいいいん、と刃が回転をはじめた。
次回、美少女が登場すると思います。出るんじゃないですかね。出ないかも。