ぷろろーぐ
「な、なんやお前…」
少年の目の前に、魚がいた。うろこの色は赤、鮭ほどの大きさで、深海魚のようなグロイ見た目をしている。少年はどこかの森の中の少し開けた場所で、背の高い草の中に仰向けにぶっ倒れていて、目を覚まして上体を起こした時に、その魚と向かい合うことになったのだ。
その魚は空中に固定されたように浮かんで、ぎょろっとした目で少年を睨んでいる。少年は困った。そしてただ、
「ええ…なんや、なんやお前…」
と先ほどと同じようなセリフを言うので精一杯だった。それに対し魚は鋭い歯の生えた口をパカッと開いて、その中から
「後ろ」
と人間が喋っているように聞こえる音を発した。
「後ろぉ?」
少年は体を捻って後ろを振り返った。少年の後ろ、五メートルほど離れたところに直径二メートルの大きさの巻貝を持つ巨大アンモナイトが一体。少年を見ている。
「う、うわあ」
慌ててごろんと転がり、足がもつれてまた倒れて、それでもなんとか立ち上がり後ずさりをしてそれから離れる少年。はあ、と一息ついて、その場に留まっている魚と目が合い再び叫ぶ。
「うわあ、喋ったぁ!」
上の四百六十一字。これが全ての始まりであった。