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小さな誘拐

作者: 月の子守唄

誘拐は犯罪です。ので、この話はけして誘拐を肯定してるわけではありません。

どんなに甘い誘惑でもみなさんは気をつけてください。

「やばいっ、あたし痴呆かも」


叔母さんが急に言い出した。


「あー私もよく楓にこんにちはって言い出したら痴呆だからよろしくねって娘達に言ってるわ、ねっ楓。」


お母さんが私に返事を求めてきた。


「うん。でも、うちはお婆ちゃんにうちの顔見ながらあらお客さん?って聞かれる方が先だと思う」


私は家にいるお婆ちゃんの顔を思い出しながら言う。


「確かにそれは想像できる!」


そう言いながらお母さんはゲラゲラ笑っている。



私とお母さんはお母さんの妹である叔母さんの家に遊びに来ていた。

40過ぎの母と30後半の叔母さんは、私から見てとても仲のいい姉妹だと思う。よく連絡しあっているのを見るし、お互いの家に出入りしている。



「そういえばアンタ、小さい頃よく誘拐されてたのよね~」


笑い終わった母が私の方を向きながら急に驚くことを言い出した。


「えっ全然記憶にないんだけど。」


私がそう言ったら次は叔母さんがゲラゲラ笑いながら「確かにあった、あった!」と言った。



「なんかねー、川が近くにある公園で遊んでたアンタを、その近くに住んでる痴呆のお婆ちゃんが危ないから!って言って自分の家に連れてったんだよね~」


お母さんが語り出した話に叔母さんも頷く。


「そうそう、よく姉さんが引き取りに行ってたよね。」



「そうなのよ。引き取りに行ったらよくその家のおじいちゃんが、『また婆さん、ボケて!ほんとすみません』って言って謝ってくれたのよね。」


私は全然記憶にない話を聞きながら、へぇ~と相槌をかえした。


「そういば、そこの家のお孫さん川に溺れて死んでなかったっけ?」


叔母さんの問にお母さんは頷く。



「それを聞いたらいい話しっぽいけど、私からしたら迷惑きまわりないわよ。お爺さんがいない時取りに行ったら、あのお婆さん楓のこと自分の孫だって言い張るんだもの。」


その後母達は、親戚のお爺さんの介護の時のことを話し始めた。

しかし、私の頭の中はさっきの話でいっぱいだった。





その日の夜私は夢を見た。

小さい頃の私が公園で遊んでいる夢。

よく知らないおばあさんに、そこは危ないからと腕を引っ張られ家に連れてかれる夢。

夢の中で私はなんとなくだけどこの人についていかなくちゃと思った。おばあさんの顔はよく見ていないけど、声は多分焦っている声だと思った。

私はニコニコしながらついていった。

お婆さんに連れてかれた家でお婆さんは私に、よかったと呟いて頭をひと撫でしてくれた。その手はとても優しかった。




起き上がった私はこの夢のことを考える。間違いなくあの話を聞いたから見た夢だろうとということは、簡単に想像がついた。これは私の記憶なのかそれともただの願望か。多分後者だろう。最後までおばあさんの顔がわからなかったことが理由だ。

お婆さんはきっと孫が死んで相当悲しかったのだろう。それが相当トラウマになっているのだろう。

私のお母さんからしてみれば迷惑だったのだけれど。私自身はきっと嫌な思い出ではなかっただろうし、話を聞いた今となっては、ほんの数時間かもしれないし数分かもしれない。けれど少しでもあのお婆さんの孫になれたことで私を誘拐した痴呆のお婆さんに幸せな時間を作ってあげられたのなら、誘拐されて良かったのかもしれないと思う自分がいた。

なんとなく書いておきたいなと思って書きました。

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